出木杉「0点って良いなぁ。」【ドラえもんSS】
出木杉「0点って良いなぁ。」

2: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 20:49:47.06 ID:366y66TAO
気持ちは嬉しいけど
ごめんなさい
私・・・・・・
・・・・・・るの
【教室】
ざわざわざわ
教師「よぉし。じゃあ、先日の期末テストの答案を返却するぞ。名前を呼ばれた人から取りに来るようにね。」
ざわざわざわ
また憂鬱な時間が始まった。
生きている価値の度合いを、僅か三桁の数字で判断される。
そんな至極当たり前のシステムを残酷だなどと感じるようになったのは、一体いつからだろう。
3: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 20:51:01.92 ID:366y66TAO
教師「相澤くん。」
「はい。」
教師「青山くん。」
「はい。」
教師「天尾くん。」
「はい。」
教師「宇野さん。」
「はい。」
教師「江田くん。」
「はい。」
教師「榎本さん。」
「はい。」
教師「大山さん。」
「はい。」
生徒の名を呼ぶ教師の声が、死へのカウントダウンのように響く。
このクラスはア行、カ行から始まる姓が多い。
本来、真ん中辺りで呼ばれるハズの僕の姓も、このクラスではやや後方に位置している。
「はい。」
教師「青山くん。」
「はい。」
教師「天尾くん。」
「はい。」
教師「宇野さん。」
「はい。」
教師「江田くん。」
「はい。」
教師「榎本さん。」
「はい。」
教師「大山さん。」
「はい。」
生徒の名を呼ぶ教師の声が、死へのカウントダウンのように響く。
このクラスはア行、カ行から始まる姓が多い。
本来、真ん中辺りで呼ばれるハズの僕の姓も、このクラスではやや後方に位置している。
4: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 20:51:58.37 ID:366y66TAO
必然的に、名簿順で返却される答案が僕の手元に渡るまでに、少々の時間を要する。
殺すならさっさと殺してくれれば良いのに。
つくづく残酷だ。
教師「曽和さん。」
「はい。」
サ行最後の一人、曽和優華さんが席を立つ。
次はタ行。
僕の姓だ。
教師「田中くん。」
「はい。」
教師「津田さん。」
「はい。」
来る。
教師「出木杉くん。」
出木杉「・・・・・・はい。」
僕は力なく返事をした。
殺すならさっさと殺してくれれば良いのに。
つくづく残酷だ。
教師「曽和さん。」
「はい。」
サ行最後の一人、曽和優華さんが席を立つ。
次はタ行。
僕の姓だ。
教師「田中くん。」
「はい。」
教師「津田さん。」
「はい。」
来る。
教師「出木杉くん。」
出木杉「・・・・・・はい。」
僕は力なく返事をした。
5: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 20:52:42.42 ID:366y66TAO
【努力】
“努力に勝る天才なし”
誰の言葉かは知らない。
というか、もはや知る必要もないぐらい使い古され、手垢にまみれた言葉だ。
だが僕はその言葉が嫌いではなかった。
天は学力という物を無償で貸し与えてくれるほどお人好しではない。
自ら努力し、勝ち取る事でしか手に入らない。
両親は僕を学問漬けの英才教育で育てたワケではなかった。
ただ、努力する事の大切さを説き、努力の果てに一定の成果を挙げた暁には、盛大に誉めてくれた。
それが嬉しかった。
もっと誉めて欲しい。
その一心で勉強に励んだ。
“努力に勝る天才なし”
誰の言葉かは知らない。
というか、もはや知る必要もないぐらい使い古され、手垢にまみれた言葉だ。
だが僕はその言葉が嫌いではなかった。
天は学力という物を無償で貸し与えてくれるほどお人好しではない。
自ら努力し、勝ち取る事でしか手に入らない。
両親は僕を学問漬けの英才教育で育てたワケではなかった。
ただ、努力する事の大切さを説き、努力の果てに一定の成果を挙げた暁には、盛大に誉めてくれた。
それが嬉しかった。
もっと誉めて欲しい。
その一心で勉強に励んだ。
6: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 20:53:30.29 ID:366y66TAO
そう、両親は僕を“努力のできる人間”に育ててくれたのだ。
と、思っていた。
中学生の頃までは。
出木杉「・・・はぁ。」
オマエ何点ダッタ?
思ッテタヨリ良カッタヨ。
完全ニやまガ外レチャッタァ。
凹ムワァ。
マァ、コンナもんダロ。
教室には悲喜こもごもの声が渦を巻いている。
各自の顔に浮かぶ表情も十人十色だ。
が、詰まるところ、その点数に満足している人とそうでない人の二種類でしかない。
かく言う僕は
男子「出木杉ぃ。何点だった?」
出木杉「・・・・・・71点・・・だよ。」
後者だった。
と、思っていた。
中学生の頃までは。
出木杉「・・・はぁ。」
オマエ何点ダッタ?
思ッテタヨリ良カッタヨ。
完全ニやまガ外レチャッタァ。
凹ムワァ。
マァ、コンナもんダロ。
教室には悲喜こもごもの声が渦を巻いている。
各自の顔に浮かぶ表情も十人十色だ。
が、詰まるところ、その点数に満足している人とそうでない人の二種類でしかない。
かく言う僕は
男子「出木杉ぃ。何点だった?」
出木杉「・・・・・・71点・・・だよ。」
後者だった。
7: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 20:54:49.32 ID:366y66TAO
【71点】
公立の高校においては、極めて平均的で、箸にも棒にもかからない点数である。
しかし、いま僕が通っているこの関東最難関の私立高校では、そういうワケにはいかない。
稀代の天才、〇〇の生んだ神童、未来のエジソン
ボジョレー・ヌーボーのキャッチコピーの如く胡散臭い通り名で持て囃された少年少女が一同に会するこの場所は、さながらガリ勉のサマーソニックだ。
テストで80点代を取れば肩を落とし、90点代前半でようやく胸を張り、かと思えば90点代後半では「満点を取り逃した。」と落胆する。
公立の高校においては、極めて平均的で、箸にも棒にもかからない点数である。
しかし、いま僕が通っているこの関東最難関の私立高校では、そういうワケにはいかない。
稀代の天才、〇〇の生んだ神童、未来のエジソン
ボジョレー・ヌーボーのキャッチコピーの如く胡散臭い通り名で持て囃された少年少女が一同に会するこの場所は、さながらガリ勉のサマーソニックだ。
テストで80点代を取れば肩を落とし、90点代前半でようやく胸を張り、かと思えば90点代後半では「満点を取り逃した。」と落胆する。
8: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 20:56:13.05 ID:366y66TAO
そんな彼らにしてみれば、70点代などもはや0点と大差ない。
彼らは80~100までの20点満点(まぁ、厳密には21点満点か)の世界で生きている。
僕がかつて身を置いていた世界だ。
彼らは80~100までの20点満点(まぁ、厳密には21点満点か)の世界で生きている。
僕がかつて身を置いていた世界だ。
9: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 20:57:13.73 ID:366y66TAO
【努力の高み】
小・中学生の頃の僕は勉強の虫だった。
正確には努力の虫。
両親に努力を認められるのが嬉しくて、一番分かり易い形で結果が表れる勉強というジャンルに没頭した。
その甲斐あって、僕は学校内はもとより、通っていた学習塾の中でもナンバー1の成績を修めていた。
正直、有頂天だった事は否めない。
そんな有頂天の僕は、更なる努力の高みを求めた。
その結果、現在の私立高校の受験を選んだ。
それが間違いだったんだ。
小・中学生の頃の僕は勉強の虫だった。
正確には努力の虫。
両親に努力を認められるのが嬉しくて、一番分かり易い形で結果が表れる勉強というジャンルに没頭した。
その甲斐あって、僕は学校内はもとより、通っていた学習塾の中でもナンバー1の成績を修めていた。
正直、有頂天だった事は否めない。
そんな有頂天の僕は、更なる努力の高みを求めた。
その結果、現在の私立高校の受験を選んだ。
それが間違いだったんだ。
10: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 20:57:50.49 ID:366y66TAO
天は学力を無償で貸し与えてくれるほどお人好しではない。
さっき言った僕の持論。
これは今でも間違ってないと思っている。
実際、僕もクラスメート達も、世間の同年代の子達が遊んだり恋愛したり盗んだバイクで走り出したり、いわゆる青春という物に割いている時間を、全て予習・復習に充てている。
やはり、努力しない者に学力は備わらない。
しかし、努力と学力が必ずしもイコールで結ぶ事の出来る関係かと言えば、そうでもない。
この高校に入って3ヶ月も経った頃、僕は少しずつ授業の内容についていけなくなり始めた。
さっき言った僕の持論。
これは今でも間違ってないと思っている。
実際、僕もクラスメート達も、世間の同年代の子達が遊んだり恋愛したり盗んだバイクで走り出したり、いわゆる青春という物に割いている時間を、全て予習・復習に充てている。
やはり、努力しない者に学力は備わらない。
しかし、努力と学力が必ずしもイコールで結ぶ事の出来る関係かと言えば、そうでもない。
この高校に入って3ヶ月も経った頃、僕は少しずつ授業の内容についていけなくなり始めた。
11: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 20:58:35.21 ID:366y66TAO
もちろん、ついていくべく更なる努力を重ねた。
それまで通っていた塾に加えて、家庭教師もつけてもらった。
自主学習に使う参考書も7冊から10冊に増やした。
それでも足りなくて11冊に。
12冊。
13冊。
14冊。
現在では20冊に。
睡眠時間を減らして解いている。
手は尽くした。
しかし、ダメだった。
いくら走れど足掻けど、授業と僕の距離はどんどん離れてしまう。
そして、距離が離れれば離れるほど、僕のような人間には一生無縁だと思っていた“ある言葉”が重くのしかかってきた。
“上には上がいる”。
天才だ秀才だと持て囃されて良い気になり、自分のレベルに合った高校はここぐらいしかないとタカをくくって受験し、合格。
そこまでは良かった。
しかし、ここは関東全土から天才児が集う場所。
“上には上がいる”
僕は練馬区という井戸の中で、両親の賛辞を雨乞いする蛙でしかなかった。
それまで通っていた塾に加えて、家庭教師もつけてもらった。
自主学習に使う参考書も7冊から10冊に増やした。
それでも足りなくて11冊に。
12冊。
13冊。
14冊。
現在では20冊に。
睡眠時間を減らして解いている。
手は尽くした。
しかし、ダメだった。
いくら走れど足掻けど、授業と僕の距離はどんどん離れてしまう。
そして、距離が離れれば離れるほど、僕のような人間には一生無縁だと思っていた“ある言葉”が重くのしかかってきた。
“上には上がいる”。
天才だ秀才だと持て囃されて良い気になり、自分のレベルに合った高校はここぐらいしかないとタカをくくって受験し、合格。
そこまでは良かった。
しかし、ここは関東全土から天才児が集う場所。
“上には上がいる”
僕は練馬区という井戸の中で、両親の賛辞を雨乞いする蛙でしかなかった。
14: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 21:07:34.84 ID:366y66TAO
【帰路】
電車から降り、きらびやかな商店がひしめく駅前通りを歩いて家路をたどる。
いつも通りの学校からの帰り道。
この1年間、足取りが軽かった記憶は一度もない。
駅前通りから裏道へ一本入り、200メートルも進むと住宅街が現れる。
その中の、これと言って何か特徴があるワケでもない平凡な一軒家。
僕の自宅だ。
ガチャ
出木杉「ただいま。」ボソッ
母「あっ、ヒデ。おかえり。」
出木杉「・・・・・・。」
電車から降り、きらびやかな商店がひしめく駅前通りを歩いて家路をたどる。
いつも通りの学校からの帰り道。
この1年間、足取りが軽かった記憶は一度もない。
駅前通りから裏道へ一本入り、200メートルも進むと住宅街が現れる。
その中の、これと言って何か特徴があるワケでもない平凡な一軒家。
僕の自宅だ。
ガチャ
出木杉「ただいま。」ボソッ
母「あっ、ヒデ。おかえり。」
出木杉「・・・・・・。」
15: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 21:08:02.52 ID:366y66TAO
無言でスニーカーを脱ぐ。
元々は靴ひもを一回一回ほどいて脱いでいた。
だが、今はそれが億劫で、わざと弛く結んで脱ぎやすくしている。
早く部屋に籠りたい。
今日は塾も家庭教師もない代わりに、自主勉強が待っている。
本音を言えば何もかも投げ出して、ベッドに沈みたかった。
だが、それは許されない。
僕には憩いを求める資格などない。
早く、努力の海に飛び込まねば。
母「ヒデ。学校、どうだった?」
出木杉「・・・・・・。」ズカズカズカ
母「ヒデ・・・。」
元々は靴ひもを一回一回ほどいて脱いでいた。
だが、今はそれが億劫で、わざと弛く結んで脱ぎやすくしている。
早く部屋に籠りたい。
今日は塾も家庭教師もない代わりに、自主勉強が待っている。
本音を言えば何もかも投げ出して、ベッドに沈みたかった。
だが、それは許されない。
僕には憩いを求める資格などない。
早く、努力の海に飛び込まねば。
母「ヒデ。学校、どうだった?」
出木杉「・・・・・・。」ズカズカズカ
母「ヒデ・・・。」
16: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 21:09:01.00 ID:366y66TAO
どうもこうもないよ母さん。
いや、違うな。
どうもこうもありまくりだよ。
でも、それを率直に言えって?
調子に乗って自分の力量を見誤って、身の丈に合わない授業内容に伸び悩んで、期末テストが終わっても息つく暇なく靴ひもをほどく手間すら惜しんで机にかじりついて、今日はこのまま朝まで勉強コースだよって?
母「ねぇ、ヒデ。」
僕は努力をする為に生まれてきたんだ。
努力は結果を伴って初めて努力と成る。
結果が伴ってない今の僕は、努力ができていないんだ。
そんな人間は出木杉家にいちゃいけない。
いや、違うな。
どうもこうもありまくりだよ。
でも、それを率直に言えって?
調子に乗って自分の力量を見誤って、身の丈に合わない授業内容に伸び悩んで、期末テストが終わっても息つく暇なく靴ひもをほどく手間すら惜しんで机にかじりついて、今日はこのまま朝まで勉強コースだよって?
母「ねぇ、ヒデ。」
僕は努力をする為に生まれてきたんだ。
努力は結果を伴って初めて努力と成る。
結果が伴ってない今の僕は、努力ができていないんだ。
そんな人間は出木杉家にいちゃいけない。
17: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 21:10:28.88 ID:366y66TAO
母「ヒデ・・・・・・ちょっと。」
僕は絶対負けない。
次こそは必ず結果を出して見せる。
そうだ、今日は徹夜で勉強しよう。
だいたい、努力のできてない人間が明け方に寝るなんて贅沢しちゃいけない。
これからは1日おきに徹夜で勉強しよう。
それから・・・
母「英才!!!!!!」
出木杉「!!」ビクッ
母「返事ぐらいしなさい!!」
出木杉「えっ・・・あ・・・・・・」
18: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 21:11:30.35 ID:366y66TAO
我に返った途端、猛烈な反省の嵐に見舞われた。
いくら疲れて苛立ってるとは言え、親に対してあの態度はあり得ない。
怒って当然だ。
出木杉「ご、ごめん母さん。ちょっと疲れt」
母「ちょっとリビングに来なさい。」
出木杉「いや、今から勉k」
母「良いから来なさい!」
「ピシャンッ」という擬音がしっくりくる、有無を言わせぬ物言い。
やってしまった。
最悪だ。
最悪な気分の時に、最悪なミスを侵してしまった。
19: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 21:12:02.03 ID:366y66TAO
【リビング】
コトッ
母「はい。どうぞ。」
出木杉「???」
リビングのソファに座る僕の目の前に、突如として予想外の物が現れた。
スポンジで生クリームをサンドし、その上を更に生クリームでコーティング。
そして頂点には巨大なイチゴ。
出木杉「・・・・・・えっ?」
母「駅前の『シャングリラ』っていうケーキ屋さん。むかし好きだったでしょ。覚えてない?」
もちろん覚えている。
僕が毎日利用する駅の西口。
その反対側の東口を出て左へ少し進んだ場所に昔からある、小さなケーキ屋だ。
コトッ
母「はい。どうぞ。」
出木杉「???」
リビングのソファに座る僕の目の前に、突如として予想外の物が現れた。
スポンジで生クリームをサンドし、その上を更に生クリームでコーティング。
そして頂点には巨大なイチゴ。
出木杉「・・・・・・えっ?」
母「駅前の『シャングリラ』っていうケーキ屋さん。むかし好きだったでしょ。覚えてない?」
もちろん覚えている。
僕が毎日利用する駅の西口。
その反対側の東口を出て左へ少し進んだ場所に昔からある、小さなケーキ屋だ。
20: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 21:12:38.68 ID:366y66TAO
僕はこの店のショートケーキが大好きだった。
誕生日、入学式、卒業式、テストで100点を取った時。
お祝いの時には、必ずこのショートケーキが食卓に並んだ。
僕にとってこのケーキは単に美味しいというだけでなく、トロフィーや金メダルと同じぐらい重みのある物だった。
だけど・・・・・・
出木杉「なんで?」
母「ヒデ、勉強上手くいってないんでしょ?」
出木杉「・・・・・・うん。」
母「あのね、ヒd」
出木杉「で、でもね、母さん! 大丈夫だよ! もっともっと勉強して、絶対に来学期こそは良い点を取ってみせるから!」
母「・・・・・・。」
出木杉「参考書の量ももっと増やすんだ! まだ17歳だし、ちょっとぐらい寝なくても平気だよ! あと、それかr」
母「無理しなくて良いよ。」
出木杉「っ・・・・・・。」
誕生日、入学式、卒業式、テストで100点を取った時。
お祝いの時には、必ずこのショートケーキが食卓に並んだ。
僕にとってこのケーキは単に美味しいというだけでなく、トロフィーや金メダルと同じぐらい重みのある物だった。
だけど・・・・・・
出木杉「なんで?」
母「ヒデ、勉強上手くいってないんでしょ?」
出木杉「・・・・・・うん。」
母「あのね、ヒd」
出木杉「で、でもね、母さん! 大丈夫だよ! もっともっと勉強して、絶対に来学期こそは良い点を取ってみせるから!」
母「・・・・・・。」
出木杉「参考書の量ももっと増やすんだ! まだ17歳だし、ちょっとぐらい寝なくても平気だよ! あと、それかr」
母「無理しなくて良いよ。」
出木杉「っ・・・・・・。」
21: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 21:13:23.52 ID:366y66TAO
母さんが静かに呟いた一言。
僕はその言葉の前に、何も言えなくなってしまった。
頭の中にはまだまだたくさん言葉が駆け巡っている。
だけど、それらはまるで喉の奥に南京錠でもかけられたかのように、外へ出てこようとしない。
母「お母さんもお父さんも、アナタに努力のできる子になって欲しくて、そう育てた。そして、アナタは実際に努力を惜しまない立派な男の子に育ってくれた。私たちはその事がすごく嬉しいの。」
出木杉「・・・・・・うん。」
22: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 21:14:11.80 ID:366y66TAO
母「でもね、だからってお母さんもお父さんも『結果が出ないと努力と認めない』なんて言う気は更々ないんだよ。」
分かってる。
父さんも母さんも、結果で全てを判断するような冷たい人間じゃない。
母「そりゃあ、結果が出るに越した事はないよ。でも世の中、どれだけ頑張っても結果が出せない時だってあるじゃない。そんな状況が続く事だってね。」
分かってる。
人生は上手くいかない事の方が多い。
母「それを『悔しい』って思うガッツは素晴らしいけどね、焦りすぎてヒデが体壊しちゃったり、勉強にしか興味のない寂しい人になっちゃう方が、お母さんずっと嫌だなぁ。」
分かってる。
父さんも母さんも、結果で全てを判断するような冷たい人間じゃない。
母「そりゃあ、結果が出るに越した事はないよ。でも世の中、どれだけ頑張っても結果が出せない時だってあるじゃない。そんな状況が続く事だってね。」
分かってる。
人生は上手くいかない事の方が多い。
母「それを『悔しい』って思うガッツは素晴らしいけどね、焦りすぎてヒデが体壊しちゃったり、勉強にしか興味のない寂しい人になっちゃう方が、お母さんずっと嫌だなぁ。」
23: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 21:14:47.63 ID:366y66TAO
分かってる。
もし僕の体と学業とを天秤にかけたなら、両親は迷わず僕の体を選んでくれる。
母「『ヒデの学力じゃそれが限界だから諦めなさい』って意味じゃないよ。そうじゃなくて・・・何て言えば良いんだろ・・・」
分かってる。
母「とにかくね、徹夜で勉強するなんて無茶はしないで。」
分かってる。
母「もしどうしてもダメだったら、休学でも転校でも、何だってしてみれば良いじゃない。」
分かってる。
母「もっとさ、自分に逃げ道を作って、優しくしてあげてよ。」
24: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 21:17:03.89 ID:366y66TAO
分かってる。
分かってるんだ。
母さんの言い分も、両親の優しさも、世の中は勉強が全てじゃないって事も。
分かってる。
全て分かってる。
分かってる。
分かってる。
分かってる。
だから僕は
ショートケーキを壁に投げ付けた。
27: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:30:34.59 ID:366y66TAO
【家出】
町外れのコンビニで少年誌を手に取る。
読むでもなく読まないでもなく、何となくページをめくってみる。
そしてすぐ、ラックに戻す。
混乱した頭では何を読んでも理解できない。
そうでなくとも、中学生になった辺りからいよいよ本格的に勉強にのめり込み始め、それと同時にマンガに対しての興味も薄れ出した。
さっきの少年誌の中にも、知っているマンガはあまりなかった。
ここでもまた、弾かれてしまった。
何であんな事したんだろ。
28: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:32:16.47 ID:366y66TAO
激しい後悔。
さっきの映像が何度も脳裏をよぎる。
壁にこびりついた生クリーム。
砕けた皿の上に横たわる、潰れたスポンジ。
そして、呆然と僕を見詰める母さん。
決して母さんに腹を立てたワケじゃない。
ただ、優しい言葉をかけて欲しくなかった。
心の底では優しい言葉を渇望していたけど、実際にそれを与えられたら終わりだという強迫観念があった。
結果だけで判断しない優しい両親。
それに甘えてはいけないと思って、何とか結果を出そうとした。
でも、それも叶わず、ついには『シャングリラ』のケーキまで出して慰められる始末。
29: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:32:49.79 ID:366y66TAO
これじゃ甘えてるのと変わらない。
しかも、その慰められてる事柄は、よりによって僕が幼少時代から最も自信を持っていた勉強だ。
情けない。
情けなくて申し訳なくて悲しくて、そしてその苛立ちを母さんにぶつけてしまった。
輪をかけて情けない。
30: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:33:53.90 ID:366y66TAO
【目撃】
とりあえず、コンビニを出よう。
財布もケータイも持たずに出てきてしまった。
いつまでもここにいても仕方ない。
あと1時間か2時間かほど、どこかで頭を冷やした方が良さそうだ。
気持ちが落ち着いたら帰ろう。
帰って、母さんにちゃんと謝るんだ。
店員「いらっしゃいませ。」
?「そしたらね~」
?「ホントぉ?」
出木杉「?」
制服姿の男女二人組。
あれは確か、地元の公立高校の制服だ。
もしかしたら中学の同級生?
だとしたら、会いたくない。
今のこんな僕を、知り合いに見られるのは嫌だ。
慌てて顔を伏せる。
だが一瞬、無意識に動かした眼球が、その二人の顔を捉えてしまった。
出木杉「!!!!!!!!」
31: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:36:04.03 ID:366y66TAO
のび太くん。
そして、しずかちゃん。
今までに経験した事がない勢いで、血の気が引いてゆくのを感じた。
(「気持ちは嬉しいけど」)
中学を卒業後、他の多くの生徒と同じく、地元の公立高校へと進学した二人。
(「ごめんなさい。」)
幼馴染みで、同級生で、ご近所さん。
たまたま帰りが一緒だった可能性だってある・・・・・・。
“普通”なら。
(「私・・・・・・」)
だが、違う。
今の彼らの状態は普通ではない。
万年勉強漬けの僕にも一目でそれと分かる。
二人は
手を
つ
な
い
で
い
た
。
(「好きな人がいるの。」)
32: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:37:26.17 ID:366y66TAO
【歩く】
すっかり暗くなってしまった町中を歩く。
どこをどう歩いて来たのか、あまり覚えてない。
というか、いま自分がどこを歩いているのかも、よく分からない。
ただ、歩く。
立ち止まったら、身体中を駆け巡る黒い感情が叫びとなって外へ飛び出してしまいそうだ。
そうならないよう、その感情を運動エネルギーへと変換しなくてはならない。
だから、
歩く。
歩く。
歩く。
出木杉「クソ・・・クソ・・・・・・」ブツブツ
あれは間違いなくのび太くんとしずかちゃんだった。
中学を卒業して以来会ってなかったが、その期間はせいぜい一年半ほどだ。
34: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:38:33.78 ID:366y66TAO
いくら成長期とは言え、わずか一年半で劇的に外見が変わるなんてありえない。
故に、見間違いという線は排除される。
二人は雑誌コーナーに立ちすくむ僕には気付かず、まっすぐスイーツの冷蔵対面ケースへと足を進めていった。
僕はその隙にコンビニを飛び出し、今ここにいる。
なぜ。
なぜなんだ、しずかちゃん。
中学の卒業式のあの日、僕は君を体育館の裏に呼び出した。
普段は剛田くんをはじめとする不良グループの喫煙場所だが、さすがに卒業式の直後とあっては誰もいなかった。
卒業式の日に、体育館裏で、告白。
まるでコントのようなベタベタの演出だが、僕にはあれが精一杯だった。
38: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:48:50.47 ID:366y66TAO
精一杯の演出の下、精一杯の言葉を振り絞った。
だが、
『気持ちは嬉しいけど・・・・・・ごめんなさい。私・・・・・・好きな人がいるの。』
なぜそれがのび太くんなんだ。
よりにもよって。
確かに彼は心の優しい人物だ。
おおらかで、友達想いで、捨てられている動物を見ると放っておけない。
優しさというその一点においては、おそらく彼の右に出る者はそうそういないだろう。
だけど、彼は努力をしない。
いつだってドラえもんの道具に頼り、他力本願で結果だけを掠め取っていく。
39: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:49:37.68 ID:366y66TAO
そんな彼と、いつだって努力で彼より高い結果を出してきた僕。
人間として尊いのはどっちだ?
美しいのはどっちだ?
一目瞭然じゃないか。
なのにしずかちゃん。
君は・・・・・・
君は・・・・・・
出木杉「こんな事が・・・・・・あってたまるk」
通行人「おい、君!!!! 危ないぞ!!!!」
出木杉「えっ?」
ブバアァァァァァァ
出木杉「!!!?」ビクッ
けたたましい轟音に驚き、伏せていた顔を上げた。
目の前には、巨大なタンクローリー。
クラクションを響かせて、僕の方へと迫ってくる。
40: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:50:43.22 ID:366y66TAO
ひきつった顔で何かを叫ぶ運転手と目が合った。
出木杉「!!!!!!!!」
いつの間にこんな広い道に出ていたんだろう?
というか、ずっと道の端を歩いていたつもりだったのに、知らない間に車道の真ん中に躍り出ていたらしい。
全ての動きがスローモーションと化す。
僕は・・・死ぬのか?
何一つ結果を残せていない。
母さんにも謝ってない。
しずかちゃんの手も・・・・・・握ってない。
なのに、死ぬ?
運転手「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
41: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:52:57.89 ID:366y66TAO
巨大な鉄の塊は、もうその全体が視界に収まりきらない程の至近距離へと迫っていた。
相変わらず動きはスローモーションだが、体が動かない。
バンパーのエンブレムがハッキリ見て取れる距離まで迫る。
ダメだ。
助からない。
死ぬ。
直感でそう思った。
だけど・・・・・・
・・・・・・嫌だ。
絶対嫌だ!
死にたくない!!
助けて!!!
助けて!!!!
誰か!!!!!
出木杉「死にたくn」
次の瞬間、僕の体は宙を舞った。
43: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/26(月) 23:58:05.54 ID:366y66TAO
【空中浮遊】
タンクローリーは僕が立っていた場所を通過し、急停止した。
僕はそれを、タンクローリーよりも高い位置から見下ろしている。
撥ね飛ばされ、放物線を描きながら。
体中の感覚が麻痺しているのか、痛みは全く感じない。
不幸中の幸いだな。
苦しんで死ぬのはごめんだ。
やがて落下し、アスファルトに叩き付けられるのも時間の問題か。
またスローモーションで長く感じるんだろうな。
死にたく・・・なかったな。
・・・・・・ん?
47: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:04:59.89 ID:VaMQTp0AO
おかしい。
もういい加減、叩き付けられても良い頃合いなのに。
さっきから一向に落下する感覚がない。
かと言って、上昇しているワケでもない。
空中に・・・・・・静止している?
うん、そうだ。
確かに静止している。
これは・・・・・・あ、そうか。
撥ね飛ばされたんじゃなくて、体から魂が抜けたのか。
そりゃそうだ、マンガじゃあるまいし。
真正面から追突されたなら、体は上空ではなく真後ろに吹っ飛ぶか、もしくは車体の下に潜り込んで引きずられる。
僕の体は・・・・・・見当たらない。
48: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:06:24.54 ID:VaMQTp0AO
という事は車体の下か。
きっとグシャグシャだろうな。
僕は魂だけの状態、いわゆる霊体となって、自分の事故現場を見下ろしているんだ。
魂とか幽体離脱とか、そういう非科学的な物はあまり信じてなかったけど、実在するんだな。
となれば、そのうちあの世からの使いがお迎えn
?「ふぅ~。良かった。間に合ったぁ。」
出木杉「!?」
ふいに背後から聞き覚えのある声がした。
キーが低いようで高い、独特のハスキー声。
僕はゆっくり後ろを振り返った。
?「危なかったねぇ。」
50: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:07:00.71 ID:VaMQTp0AO
青く、丸い顔。
大きな目。
赤い鼻。
頭の頂点には、小型のラバーカップにプロペラを付けたような物体。
22世紀からやって来たネコ型ロボット。
出木杉「・・・・・・ドラえもん。」
ドラえもん「出木杉くん、怪我はない?」
僕は撥ね飛ばされたワケでも、幽体離脱をしたワケでもなかった。
タケコプターを着けたドラえもんに後ろから抱きかかえられ、宙に浮いていたのだ。
52: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:16:14.85 ID:VaMQTp0AO
【謝罪】
地上に降りた僕は、タンクローリーの運転手にこっぴどく叱られた。
当然だ。
危うく何の罪もないこの人を前科者にしてしまうトコロだったんだから。
幸い、後続の車両はなかった為、追突事故や渋滞は起きずに済んだ。
僕は何度も頭を下げた。
ドラえもんも、一緒になって頭を下げてくれた。
何でだよ。
君は何も悪くないじゃないか。
やめろよ。
運転手「ったくよぉ。気ぃつけやがれ馬鹿たれ!!」
出木杉「はい。本当にすみませんでした。」
ドラえもん「すみませんでした。」
53: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:18:57.15 ID:VaMQTp0AO
30分近く怒鳴り散らし、運転手はタンクローリーへと戻って行った。
今日1日、何をやってるんだろう、僕は。
つくづく情けない。
運転手「おぅ、ボウズ!!」
出木杉「は、はい!」
運転手「・・・・・・。」ジロォ
出木杉「えっ? な・・・何ですk」
運転手「良いツレ持ったな。」
出木杉「えっ? あ、その・・・・・・。」
運転手「そいつや、お前の父ちゃん・母ちゃんを悲しませない為にも、命は大事にしろや。若ぇクセに世捨て人みたいな目ぇしてんじゃねぇよ。じゃあな。」
底無しに、情けない。
54: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:20:31.94 ID:VaMQTp0AO
【疑念】
太いエンジン音を響かせて、タンクローリーは走り去って行った。
ドラえもん「良い人だったね。」
出木杉「・・・うん。」
確かにそうだ。
もしも暴力的な人だったり、法外な賠償金を請求される人だったらと考えると、ゾッとする。
運が良かった。
あ、そうだ。
運が良かったと言えば・・・・・・
出木杉「ドラえもん、どうしてここにいるの?」
ドラえもん「うん、今日はミーちゃんとデートだったんだけど、月が綺麗だったからね。タケコプターでのんびり帰ろうと思ったんだ。」
56: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:23:14.47 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「そしたら、君が轢かれそうになってるのを目撃してね。慌てて急降下したんだよ。」
デート。
その言葉を聞いて、嫌な記憶が蘇った。
ほんのついさっき、別の男と手を繋いでいた、初恋の人。
出木杉「そうか・・・・・・ありがとう。助けてくれて。」
ドラえもん「良いよ良いよ。無事で何よりさ。ところで出木杉くん、こんな時間にどうしたの?」
出木杉「えっ?」
ドラえもん「今もう夜の9時だよ。こんな時間に一人で出歩くなんて、君らしくないなと思って。」
出木杉「それは・・・・・・」
57: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:24:03.97 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「カバンでも持ってれば塾の帰りかなって思うトコロだけど、手ぶらだし。」
出木杉「その・・・・・・」
ドラえもん「もしかして、家出?」
出木杉「・・・・・・。」
ドラえもん「なんてね。のび太くんじゃあるまいしね。はははっ。」
出木杉「・・・・・・。」
ドラえもん「はは・・・・・・」
出木杉「・・・・・・。」
ドラえもん「・・・・・・。」
出木杉「・・・・・・。」
ドラえもん「・・・・・・出木杉くん?」
58: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:25:25.05 ID:VaMQTp0AO
ふと、僕の中でドス黒い疑念が湧き起こった。
なぜのび太くんがしずかちゃんと付き合うに至ったのか。
なぜしずかちゃんはのび太くんを受け入れたのか。
世の中には異性の心を意のままに誘導できる、いわゆる恋愛の達人と呼ばれる人々がいる。
だが、それはごく一部だ。
極めてマイノリティであるが故に、達人と呼ばれるのだ。
じゃあ、のび太くんはどうだ?
小・中学校を共に過ごしてきたが、彼の浮いた話なんて、ついぞ聞いた事がない。
59: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:26:08.02 ID:VaMQTp0AO
そもそも、達人と呼ばれる人々は、往々にして恋愛に対して努力を積み重ねてきたが故にそれだけの手腕を持ち得るんだ。
何の努力も無しに意中の相手を振り向かせられれば世話はない。
それを可能とする道具が存在するなら、誰もが欲するところだろう。
だが、未来の世界になら存在する。
そして、いま僕の目の前にいるこのロボットは・・・・・・
60: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:28:02.74 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「もしかして、ホントに家出したの?」
出木杉「・・・・・・うん。」
ドラえもん「何かあったの? 僕で良かったら相談に乗るよ?」
僕は是が非でも、事の真相を問いただしてみたくなった。
というか、問いたださずにはいられない衝動に駆られた。
出木杉「聞いてもらえるかい?」
ドラえもん「うん、もちろん。僕なんかが君の力になれるか分からないけどね。」
出木杉「ありがとう。じゃあ、場所を変えよう。」
ドラえもん「分かった。」
そう言うとドラえもんは、四次元ポケットからどこでもドアを取り出した。
61: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:32:59.36 ID:VaMQTp0AO
【口論】
どこでもドアの行き先として、僕は小学校の裏山を指定した。
財布を持たずに出てきてしまった以上、カフェはマクドナルドには入れない。
それに、あまり人のいる場所では話をしたくなかった。
静かで、落ち着けて、人のいない場所。
僕の狭い行動範囲の中で、思い付くのはここしかなかった。
ドラえもん「久しぶりだなぁ。裏山、もう何年も来てなかったんだよ。この一本杉も変わらないなぁ。」
ドラえもんは一本杉の幹を撫でながら言った。
きっと、のび太くんとの思い出を振り返っているんだろう。
62: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:33:45.36 ID:VaMQTp0AO
この場所は確か、のび太くんのお気に入りだったと聞く。
今から話す話題にはうってつけの場所かも知れない。
ドラえもん「それで、何があったの? 何でも聞くよ。」
出木杉「ありがとう。実は・・・・・・」
僕は全て話した。
学業の事。
母さんに当たってしまった事。
のび太くんとしずかちゃんの事。
そして、今の僕の心境。
ドラえもんは母さんの件まではただただ驚いた様子で、相槌変わりに驚嘆の声を挟みながら聞いていた。
だが、話があの二人に及んだ辺りから表情が暗くなり、次第に相槌のトーンも低くなり出した。
63: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:35:23.90 ID:VaMQTp0AO
泣きそうな顔で僕を見つめる。
彼の感情がそういった表情を作るのか、それとも高度な人工知能の為せる技なのか。
それは分からない。
ドラえもん「・・・・・・。」
出木杉「・・・・・・。」
全てを語り終えた。
ドラえもんは泣きそうな表情を崩さず、ただ黙って僕を見つめる続ける。
時おり足下に落とす視線は、僕にかけるべき適切な言葉を探しているのだろう。
数秒の沈黙の後、ドラえもんは口を開きかけた。
ドラえもん「出木杉くn」
出木杉「使ったんだろ?」
64: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:36:14.83 ID:VaMQTp0AO
僕はドラえもんの言葉を遮った。
人工知能で紡いだ危なげない慰めなんて欲しくない。
何より、僕が最も訊きたいのは今から言う内容だ。
ドラえもん「・・・・・・道具を?」
出木杉「そうさ。君ならできるだろ? その未来の技術を使って、人の心を自在に操る事ぐらいさ。」
ドラえもん「それは・・・できるけど・・・・・・」
出木杉「のび太くんがそんな便利な道具を使わないワケがないよな? 言えよ、ドラえもん! 君は道具を使ってしずかちゃんの心を操って、のび太くんとくっ付けたんだろ!?」
65: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:37:18.13 ID:VaMQTp0AO
自分でも無意識のうちの声が激しさを帯びてくる。
頭皮がジワジワと嫌な熱を帯びてくるのを感じながら、僕は続けた。
出木杉「勉強でもスポーツでも、ズルをして満足できるなら勝手にすれば良いさ!! 所詮、君や彼のプライドはその程度のレベルなんだろうからね!! 」
出木杉「だけど、超えちゃいけない一線ってあるだろ!! なぜ君の人工知能でそれが分からない!? 他人の感情を、恋愛の自由を奪って意のままに操るなんて!! 何様だよお前ら!!」
ドラえもん「・・・・・・。」
66: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:37:57.92 ID:VaMQTp0AO
出木杉「なんでお前らなんかにしずかちゃんを奪われなきゃいけないんだよ!! ふざけるなよ!!」
ドラえもん「出木杉くん、違うよ・・・・・・」
出木杉「お前ら、僕がしずかちゃんにフラれたのを道具でこっそり盗み見て笑ってたんだろ!!」
ドラえもん「違う・・・・・・」
出木杉「人の心を踏みにじったり操ったり、良いご身分だな!! 楽しかったか!?」
ドラえもん「違うったら・・・・・・」
出木杉「僕はずっとしずかちゃんが好きだったんだ!! ずっと、ずっとずっと!!」
ドラえもん「聞いてよ・・・・・・」
67: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:39:36.35 ID:VaMQTp0AO
出木杉「何が未来を変えるだよ!! 自分の身かわいさに他人の未来も希望も奪い取って、お前r」
ドラえもん「いい加減にしてよ!!!!!!!!」
出木杉「!?」ビクッ
鼓膜を突き破るかのような突然の叫び。
僕はたじろぎ、次に投げ付けようと構えていた言葉を取り落とした。
ドラえもんは僕の瞳を真っ直ぐ睨み付けている。
その大きな目に涙を湛えて。
ドラえもん「勝手な事ばかり・・・言わないでよ・・・・・・のび太くんの事、何も知らないで・・・」グスッ
出木杉「・・・・・・か、勝手な事って何だよ!?」
68: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:40:17.49 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「何も知らないクセに、勝手に被害者ぶらないでって事だよ!!」
出木杉「何言ってるんだよ!! お前は道具を使ってしずかc」
ドラえもん「使ってない!!!!」
出木杉「ウソを・・・」
ドラえもん「ウソじゃない!!!! 僕はのび太くんが中学に入って以来、彼に一度たりとも道具を貸した事はない!!!!!!!!」
出木杉「!?」
69: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:45:07.92 ID:VaMQTp0AO
【真相】
出木杉「えっ?」
ドラえもん「僕は元々、のび太くんに道具を貸すのは小学生までと決めてたんだ。中学に入ったら勉強もスポーツも、全部自力で取り組むよう努力させる。それは僕がこの時代に来る前から、セワシくんと話し合って決めていたんだよ。」
出木杉「そんな・・・・・・のび太くんがそんな話を大人しく聞き入れるワケが・・・」
ドラえもん「もちろん、最初は大変だったよ。『嫌だ嫌だ』って散々駄々をコネられてね。もうホント、何回ケンカした事か。」
出木杉「・・・・・・。」
70: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:45:56.62 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「だけど、何があろうと僕は心を鬼にして、頑として道具は出さなかったんだ。」
ドラえもんは険しい表情で語った。
当時の鬼の心境を思い出しているのだろうか。
持たざる者は持つ者に逆らえない。
この世の摂理だ。
ドラえもんが本気で道具を貸さなくなったのなら、のび太くんもそれには従わざるを得ないだろう。
だが、そうなると一つ疑問が残る。
のび太くんは道具なしでどうやって地元の公立高校に受かったんだ?
71: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:46:37.57 ID:VaMQTp0AO
あの高校の普通科は決して難関とは呼べないが、それでも中の上程度の学力は求められる。
のび太くんは一体どうやってそれを?
ドラえもん「『のび太くんはどうやって今の高校に受かったのか?』でしょ?」
出木杉「!」
僕の疑問を見透かしているかのようにドラえもんは言った。
ドラえもん「ふふふ。そう思うのも無理ないよ。出木杉くんは中学の三年間ずっと違うクラスだったから、小学生までののび太くんしか知らないんだもんね。」
出木杉「う、うん。」
72: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:47:59.21 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「さっきも言った通り、僕はのび太くんが泣こうが喚こうが僕の事を罵ろうが、一切道具を貸さなかった。その結果のび太くんは根負けして、しぶしぶ自分から勉強をし始めたんだ。」
出木杉「自分から・・・」
ドラえもん「うん。そこで引きこもったり非行に走ったりできるほどの度胸、彼にはないからね。まぁ、そもそもそんな歪んだ度胸が身に付くほど性根が曲がってないって言う方が正解かな。そこは本当に立派だなぁって思ったよ。って、我ながら親馬鹿・・・いや、ロボ馬鹿だね。あはは。」
出木杉「・・・。」
73: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:49:54.36 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「もちろん、小学生時代に散々道具を貸し与えて甘やかした責任が僕にはあるからね。僕はその責任を果たす為に、未来の世界で家庭教師のプログラムをインストールして、彼の勉強には目一杯付き合ったよ。テスト前に徹夜で勉強するって言い出した時には、僕も徹夜で教えた。言わば僕はお世話ロボットから家庭教師ロボットへと立ち位置を変えたんだ。」
出木杉「・・・。」
ドラえもん「そしてね、忘れもしない一年生の中間テストの時だよ。のび太くんは数学で71点を取ったんだ。」
74: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:51:05.22 ID:VaMQTp0AO
71点。
今日返却された僕のテストと同じ点数だ。
ドラえもん「嬉しそうな顔で帰ってきてね。あの顔は一生忘れないなぁ。僕もすっごく嬉しかったんだ。点数自体はそんな大したモノじゃないけど、それでも、のび太くんが初めて自分の努力で勝ち取った点数だったからね。パパもママもすごい喜んでたよ。」
努力で・・・・・・勝ち取った。
それはさぞ嬉しい事だろう。
よく分かる。
なぜなら、僕は今までその喜びを糧に生きてきたのだから。
75: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:52:56.68 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「その日以来、のび太くんは道具には頼らず、何でも自分で頑張るようになったんだ。そのおかげで成績も少しずつ伸びていって、どうにか今の高校にも入れたんだよ。それと・・・・・・」
ドラえもんはそう言って言葉を切った。
沈黙が漂う。
彼なりの優しさだ。
そこから先の言葉を続けてしまったら、僕の事を怠惰であると非難する形にもなりかねないと思ったのだろう。
だが、実際その通りだ。
僕が勉強にばかりかまけている間に、のび太くんは勉強と、“その事”の両方に努力を割いていたのだから。
76: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:54:43.40 ID:VaMQTp0AO
ドラえもんが飲み込んだ言葉の続きは、僕が引き継いだ。
出木杉「・・・・・・『しずかちゃんにも、自力でアプローチをかけた』?」
しばしの沈黙の後、ドラえもんは小さく「うん。」と頷いた。
出木杉「そうか・・・・・・。」
ドラえもん「到底女の子の趣味とは思えないドンパチものの映画に誘ったり、バレンタインのチョコももらってないのにホワイトデーにアクセサリーを渡したり、電話で延々と自分の事ばっかり話したり・・・・・・見てるこっちが恥ずかしくなるぐらい不器用だったけど、彼なりに頑張ったんだよ。」
77: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 00:55:59.77 ID:VaMQTp0AO
返す言葉がなかった。
何だよそれ。
それを努力と言わずして何と言うんだ。
彼がそんな努力を積んでいる一方で、僕は何をしていた?
毎日ひたすら勉強、勉強、勉強。
たまにしずかちゃんの教室に顔を出して他愛もない会話をするだけ。
何の印象も残らない。
これがもし映画だったら、エンドロールでクレジットされる僕の役名は間違いなく同級生Aだ。
そんな何のアクションも起こさない脇役が、ヒロインと結ばれようなんて虫が良すぎる。
なのにその事に気付かず、あまつさえ主人公に嫉妬して罵詈雑言を並べ立てる始末。
本当に、どうしようもなく情けない。
78: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 01:01:00.98 ID:VaMQTp0AO
【深相】
ドラえもん「ねぇ、出木杉くん。」
出木杉「ん?」
ドラえもん「僕がこんなこと言っても、何のフォローにもならないかも知れないけど・・・・・・」
出木杉「?」
ドラえもん「あんまり自分を責めないでね。」
出木杉「えっ?」
ドラえもん「ほら、さっき高校で勉強が上手くいってないのは自分の努力が足りないせいだって言ってたでしょ? そんな責任感が強くて真面目な出木杉くんだから、きっと今の話を聞いて『なんでもっとしずかちゃんにアタックしなかったんだ』『のび太くんを悪者扱いするなんて最低だ』って、自己嫌悪になってるんじゃないかなぁと思って。」
出木杉「うっ!」ギクッ
79: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 01:01:41.51 ID:VaMQTp0AO
またしても心を見透かされてしまった。
厄介な相手だ。
だけどドラえもん。
そこまで頭が回るのなら、自己嫌悪に陥ってる事を指摘されては、更なる自己嫌悪に苛まれるという心理にも理解を示して欲しいものだね。
ドラえもん「ごめんね。 自己嫌悪に陥ってる事を指摘されたりしたら、余計に嫌な気持ちになっちゃうよね。」
・・・・・・本当に厄介な相手だ。
80: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 01:02:33.56 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「ただ僕はね、そうやって『人生が上手くいかないのは全部自分のせいだ』って抱え込んで、出木杉くんが壊れてしまったら悲しいなって思うんだ。 人生に挫折や失敗は付き物だし、何かを諦めたり妥協したりしなきゃいけない場面だってたくさんある。 でも、そこから何かを得る事だってあるじゃない。 だからさ、何もかも『自分が悪い。自分が悪い。』って、抱え込まないで欲しいな。」
(『焦りすぎてヒデが体壊しちゃったり、勉強にしか興味のない寂しい人になっちゃう方が、お母さんずっと嫌だなぁ。』)
(『もっとさ、自分に逃げ道を作って、優しくしてあげてよ。』)
81: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 01:05:35.30 ID:VaMQTp0AO
出木杉「・・・・・・なんで・・・なんで、そんな優しい事言うんだよ。 僕は・・・・・・のび太くんに嫉妬して、君達にあらぬ疑いをかけた最低な人間なのに・・・」
ドラえもん「最低なんかじゃないよ。 だって、出木杉くんはそれだけしずかちゃんを愛してるって事じゃないか。 一人の人間をこんなに深く愛せるのは、綺麗な心を持ってる証拠だよ。君も、そしてのび太くんもね。」
ドラえもん「あと、君はお母さんに八つ当たりしてしまった事に対しても、すっごく後悔してるじゃないか。母親想いじゃなきゃ、そんな後悔なんてまず感じたりはしないよ。」
出木杉「ドラえもん・・・・・・」
ドラえもん「それにね、君はのび太くんの目標なんだよ。」
出木杉「えっ?」
82: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 01:06:57.59 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「さっき言った、のび太くんが数学で71点を取った日。のび太くんは学校から帰って来て、こう言ったんだ。」
『ドラえもん。 僕、今回は死ぬほど頑張って71点だった。 でも、出木杉は僕なんかよりずっと高い点を取ってるに違いない。 こうやって自分で努力してみて分かったよ。 出木杉はやっぱりすごいや。 僕もアイツみたいになれるよう頑張るよ。』
ドラえもん「ってね。」
出木杉「そう・・・なんだ。」
83: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 01:07:34.49 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「うん。 のび太くんは君という目標ができて、変わる事ができたんだ。 僕はそれが本当に嬉しくて、君にもすっごく感謝してるんだよ。 まぁ、自分の知らないところで勝手に感謝されたって、迷惑なだけだろうけどね。」
出木杉「いや・・・別にそんな・・・・・・」
ドラえもん「だからね、僕は君にも幸せになって欲しいって心から思ってるんだ。 出木杉くん。 どうか自分を責めたりして、悲しい目をしないでくれないかな?」
84: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 01:08:11.05 ID:VaMQTp0AO
頬に水滴が伝うのを感じた。
熱い水滴だ。
後から後から湧いてくる。
のび太くんの目標が僕?
って事は、僕は知らず知らずのうちにライバルを育て、そのライバルと想い人の取り合いをした結果、敗北したという事だ。
そして、その事を勝手に恨み、醜い疑念を募らせた。
だけど、ドラえもんはそれさえも許してくれた。
なんて事はない。
ただ、僕が一人で悲劇の主人公を気取っていただけ。
そして、周囲の人々は僕の空回りも全て内包してくれるぐらい、優しかっただけ。
言い訳のしょうもない。
僕の完全なる敗北だ。
85: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 01:09:17.86 ID:VaMQTp0AO
悔しくないと言えば嘘になるが、不思議と今は悔しさよりも爽快感が勝っている。
その爽快感が涙を引き出していた。
成績も、しずかちゃんの事も、ずっと諦めきれなかった。
「まだ終わりじゃない」と、言い聞かせ続けてきた。
だがいつしかそれは僕をがんじがらめにし、窒息寸前にまで追い込んでいた。
“諦めない”という呪縛。
その呪縛から今、僕は解放された。
本当はずっと、これを望んでいたのかも知れない。
清々しい。
今の僕は完全なる0。
0点だ。
だけど、0点は無なんかじゃない。
86: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 01:10:17.47 ID:VaMQTp0AO
ここからまた100点、120点・・・・・・いや、無限の最高得点を目指す道が始まるんだ。
だけど、その前にまず、やらなきゃいけない事がある。
それは、
出木杉「ドラえもん。」
ドラえもん「なに?」
出木杉「・・・・・・ありがとう。」
帰って母さんに謝る事だ。
おしまい。
87: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 01:10:57.65 ID:VaMQTp0AO
以上です。
クソ下らない駄文にお付き合いいただき、
どうもありがとうございました。
クソ下らない駄文にお付き合いいただき、
どうもありがとうございました。
100: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 01:59:53.70 ID:VaMQTp0AO
では、ここからバッドエンドを投下します。
と言っても、本当に短いので悪しからず。
と言っても、本当に短いので悪しからず。
101: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 02:01:04.69 ID:VaMQTp0AO
今の僕は完全なる0。
0点だ。
だけど、0点は無なんかじゃない。
ここからまた100点、120点・・・・・・いや、無限の最高得点を目指す道が始まるんだ。
だけど、その前にまず、やらなきゃいけない事がある。
それは、
出木杉「ドラえもん。」
ドラえもん「なに?」
僕は足下に転がるサッカーボールサイズの石を拾い上げた。
ドラえもん「!?」
出木杉「・・・・・・ありがとう。」
ドラえもん「で、出木s」
ゴシャッ
102: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 02:02:16.81 ID:VaMQTp0AO
ドラえもん「ギャッ!!!!!!!?」
殴った。
何度も、何度も。
ドラえもんの青い装甲が裂け、内部の基板や回路が剥き出しになる。
そこへ目がけ、更に石を振り下ろす。
殴る。
叩きのめす。
ブチ殺す。
破壊。
殺戮。
無限への第一歩。
出木杉「はぁ・・・はぁ・・・」
やがて石は度重なる殴打の衝撃に耐えきれず、大小様々な破片へと姿を変えた。
息を切らせて両膝をつく僕の足下には砕けた石と、かつて22世紀の猫型ロボットを形作っていた鉄屑たち。
僕は無限への第一歩を踏み出した。
もう止まらない。
止まる必要すらない。
さぁ、第二歩目は・・・・・・
103: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 02:03:14.54 ID:VaMQTp0AO
【無限】
キャスター「きのう午後11時過ぎ。練馬区のとある住宅に、刃物を持った少年が押し入り、この家に住む高校生とその家族を殺害しました。」
キャスター「殺害されたのは少年の友人である野比のび太さん、父親ののび助さん、母親のたま子さんの三人です。三人はいずれも胸や首など十数ヶ所を刺されており、病院に搬送されましたが、間もなく死亡が確認されました。」
キャスター「逮捕された少年は警察の取り調べに対し『僕は0点だ。』『無限の道を歩む。』などと意味不明な供述を繰り返しており、警察では精神鑑定も視野に入れ、慎重に調べを進める方針です。」
おしまい
104: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/27(火) 02:06:52.24 ID:VaMQTp0AO
以上です。
本当に短くてすいません。
本当に短くてすいません。
108: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 20:40:41.02 ID:cyEVCj7AO
こんばんは。
和解シーンをお持ちいたしました。
和解シーンをお持ちいたしました。
109: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 20:41:39.72 ID:cyEVCj7AO
【帰宅】
ドラえもんと別れ、僕は自宅の前まで戻って来た。
ドラえもんはどこでもドアを出そうとしてくれたが、僕の方から断った。
何となく歩いて帰りたかったんだ。
そして、その選択は正解だった。
この一年ばかりずっと憂鬱だった駅前通りが、何だか違って見えた。
その理由は決して、今のこの時間帯が僕の普段出歩かない午後11時半だという事ばかりではないだろう。
0から始まる僕の新しい風景だ。
出木杉「さて・・・どうしたもんか・・・・・・」
110: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 20:42:38.87 ID:cyEVCj7AO
僕はかれこれ30分ほど、ずっと自宅の門の前に佇んでいた。
理由は簡単。
気まずいんだ。
家に入るのが。
きっと怒られるだろうけど、それは別に構わない。
まぁ、もちろん怒られるのが怖いのも事実だけど。
ただ、それよりも、自分の狭量さを当てこすって傷付けてしまった母さんに会わせる顔がないというのが正解だ。
0だの無限だのと言ってはみたものの、どうしても門のかんぬきに手を伸ばす勇気が湧いてこない。
せめてもの救いは、父さんが九州に出張中で明日まで帰って来ない事か。
さて、どうしよう。
111: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 20:44:16.23 ID:cyEVCj7AO
もう少し近所をぶらぶら歩いてみようかな?
いや、やっぱり新しいスタートなんだし、ここは堂々t
ガチャ
出木杉「!?」
母「ヒデ、さっきから何やってんの?」
出木杉「えっ?」
母「なんか外に人の気配がするからインターホンのモニター見てみたら、アンタ20分も30分もずっとモゾモゾしながら立ちっぱなしでさぁ。」
出木杉「うっ!!」
見られていたとは。
母「ハッキリ言ってかなり挙動不審だよ? 警察呼ばれる前にさっさと入りなさい。」
出木杉「・・・・・・はい。」
ついさっきまで感じていた葛藤だとか気まずさ等は全てフッ飛んでしまった。
そんな事よりも、ただただ恥ずかしい。
僕は半ば引っ立てられるような形で家に入った。
112: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 20:45:30.40 ID:cyEVCj7AO
【ダイニング】
母「こんな時間までどこにいたの? ケータイ、持って行かなかったでしょ。」
出木杉「あ、うん・・・・・・ドラえもんと久しぶりに会って・・・」
母「ドラえもん? あぁ、のび太くんのトコの?」
出木杉「うん。」
母「そうなんだ。 まぁ、変な人に絡まれたりしてなくて良かった。 じゃあ、ご飯もドラえもんくんと一緒に食べてきたの?」
出木杉「いや、食べてないよ。 ずっと二人で喋ってただけ。」
113: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 20:48:32.56 ID:cyEVCj7AO
母「そう。 じゃあ今から用意するね。 グラタンだからちょっと焼くのに時間かかるよ。 その間にお風呂入っちゃいなさい。」
何も変わらない、いつも通りの会話。
だけど、何か違う。
口では上手く言えないが、何とはなしに変な空気が漂っている。
例えるなら、友人と電車に乗った時、シルバシートに寝そべる泥酔者を視界の端に捉えていながら、敢えてそれには触れず明るい話題を話そうとする時のような、空虚な陽気。
114: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 20:49:37.81 ID:cyEVCj7AO
このまま母さんの薦めに従ってお風呂に入ってしまうのが一番楽な方法だろう。
だけど、それじゃあいけない。
それはただの現実逃避。
課題の先送り。
そんなんじゃダメなんだ。
今すべき事は・・・・・・
出木杉「ごめん・・・」
母「・・・・・・。」
出木杉「本当にひどい事をして、母さんを傷付けてしまった。 ごめん。 ごめんなさい。」
母「・・・・・・良いよ。別に・・・」
「別に」の語尾が僅かに震えていた。
肩も微かに震えていたのかも知れない。
115: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 20:50:45.87 ID:cyEVCj7AO
まな板に向かい、僕の方には背を向けている為、表情は分からないが、きっと母さんは泣いているんだろう。
僕の事をこんなにも大切に想ってくれているこの人を、僕は自分勝手に傷付けて、泣かせたんだ。
そう痛感すると、何だか僕も泣きたくなってきた。
泣きたい気持ちと逃げ出したい気持ちがない交ぜとなり、後に接ぐ言葉を見失う。
だけど、視線は落とさない。
真っ直ぐ母さんの背中を見詰める。
これは0点からの第一歩。
目を逸らしてなるものか。
116: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 20:54:19.34 ID:cyEVCj7AO
【ケジメ】
沈黙が落ちてから、どれぐらいの時間が経っただろうか。
いや、現実にはそんな大して経ってないだろうな。
せいぜい、1分か2分ぐらいだと思う。
だけど、もう1時間ぐらいこうしてるような気分だ。
何か話さないと。
でも、何を?
ありったけの想いを最小限の文字数に詰め込んで伝えた。
これ以上何かを付け足したんじゃ、かえって白々しくなってしまいそうな気がした。
だけど、そうしてる間にも、どんどんとこの白く重い沈黙は積み重なってゆく。
苦しい。
でもそれも、僕の蒔いた種。
僕のケジメだ。
苦しさ、気まずさ、罪悪感、この場に漂う空気の全てを僕は受け入れてみせる。
117: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 20:58:06.42 ID:cyEVCj7AO
【無限】
沈黙を破ったのは、母さんの方だった。
母「・・・・・・毎日明け方まで勉強とか、禁止だからね。」
出木杉「・・・分かってる。」
母「どうするの? 学校。」
出木杉「分からない。でも、もう少しだけ続けてみようかと思う。」
母「大丈夫なの?」
118: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 20:59:14.00 ID:cyEVCj7AO
出木杉「うん。 もう上位に立とうとか、トップじゃなきゃいけないとか、そんな強迫観念で勉強するのはやめるよ。 自分のペースで、自分のやりたいように勉強する。 そりゃあ、きっと成績も今より下がっちゃうだろうけど、留年さえしなきゃこっちのもんだ。 自分のペースでのんびりやりながら、何か自分に合った道を探すよ。」
母「そっか。」
出木杉「うん。 もう、大丈夫だから。」
母「分かった。 じゃあ、お母さんはもう何も言わない。」
出木杉「うん。ありがとう。」
父さんもきっと、母さんと同じ事を言ってくれるだろうな。
帰ってきたら、ゆっくり話そう。
119: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 21:00:11.03 ID:cyEVCj7AO
母「シャングリラのケーキ、また買ってこないとね。」
出木杉「いや、今度は僕が買ってくるよ。」
母「良いよ、そんなの。」
出木杉「いや、譲れない。 今度は僕が買う。」
母「・・・・・・。」
出木杉「・・・・・・。」
母「・・・・・・。」
出木杉「・・・・・・。」
母「・・・・・・。」
出木杉「・・・・・・。」
母「・・・・・・。」
出木杉「・・・・・・。」
クルッ
母「・・・・・・母さんがあの店で一番好きなのは、キング・モンブランだからね。」
120: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 21:01:31.74 ID:cyEVCj7AO
振り返ると同時に、母さんは唐突に言い放った。
出木杉「えっ?」
母「普通のモンブランとキング・モンブランの二種類あるの。 で、お母さんが好きなのは“キング”の方。 普通のより大きくて、上等なブランデーに栗を漬け込んでるから香りが全然違うの。 分かった? 覚えといてよ。 キングだからね、キング。」
出木杉「ははっ。 分かったよ。 ちゃんと間違えずに買ってくるから。」
僕は笑った。
母さんも笑ってた。
こんなに自然な笑顔で会話をするのなんて、本当に久しぶりだ。
もう大丈夫。
心からそう思えた。
121: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 21:02:27.14 ID:cyEVCj7AO
母「ほら。 ちゃっちゃとお風呂入ってきなさい。」
出木杉「はい。」
僕はお風呂へ向かうべく、踵を返す。
背後からグラタンの芳ばしい香りが僕を追いかけてきた。
身も心も安らぐような、暖かい香りだった。
おしまい
123: ◆iXEsAAsDhw 2012/11/28(水) 21:03:07.74 ID:cyEVCj7AO
以上です。
ありがとうございました。
ありがとうございました。