生徒会長「君の名を呼びながら胸を揉むと、すごく気持ち良いんだ」庶務「はい?」

2019年01月07日
生徒会長「君の名を呼びながら胸を揉むと、すごく気持ち良いんだ」庶務「はい?」

1: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 21:16:12.29 ID:a6hnrGwy0
容姿端麗という表現がある。
意味は、顔や姿が整い、美しい様のこと。
要するに、綺麗だってことだ。

その四字熟語に該当する人物は極めて少ない。
もっとも、美しさや醜さなんてのは相対的なものだから、集団の中で比較すれば自ずと1人や2人は当て嵌まるだろうが、それはまやかしだ。

絶対的な本物を見れば、すぐにわかる。
その瞬間に、認識を改める必要性が生じる。
嘘じゃないさ。現に、俺がそうだった。

俺の通う高校には、そんな存在がいた。

「失礼します」

柄にもなく、畏まりながら入室。
別に職員室ではない。先生の姿も見えない。
そこには同じ学年の生徒が数人座っている。

部屋の扉には【生徒会室】と書かれていた。

「んじゃ、行って来ます」

机の上に置かれたプリントを持って、退室。
中に居た数名は顔も上げずに黙ったまま。
皆、それぞれのお仕事で忙しそうだ。

邪魔にならぬよう、俺は俺の仕事をこなす。


2: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 21:20:43.10 ID:a6hnrGwy0
「よしっと、コピー完了」

各クラスに配布するプリントをコピー。
紙束を持って、それぞれのクラスを回る。
教卓の上に人数分のプリントを置いておく。
これで明日の朝には手元に行き届く筈だ。

「お疲れ、庶務」
「疲れるのはこれからだっての」
「ははは! ま、頑張れや」

放課後の教室には何人か生徒が残っており。
見知った同級生に労われながら、次の仕事へ。
尻のポケットから軍手を取り出して、装着。
これから校庭の草むしりをするのだ。
無論、ボランティアではない。これも仕事だ。
先程呼ばれた役職の腕章が、肩に付いている。

俺は、生徒会役員の末席を担う、庶務だった。

「……まあ、ただの雑用だけどな」

自嘲しながら、独りごちる。
俺の仕事は雑用全般だ。それが庶務の役割。
そもそも、役員選挙で選ばれたわけではない。
何の因果か、生徒会長から直々に指名された。
我が校の庶務は、会長に任命権があった。
もちろん、断ることも出来たが、引き受けた。
えっ? それは何故かって? そんなの簡単だ。

「なにせうちの会長、すげー美人だもんなぁ」

我が校の生徒会長は、美しかった。
まさに、文字通り、容姿端麗だった。
だから、断れなかった。単純な話である。

それはある意味純粋で、ある意味不純な理由。
純粋に、あの人の力になりたかったし。
不純に、あの人の傍に居たかったから。
目の保養と言えば、それまでかも知れない。

それでも、男子高校生には充分過ぎる理由だ。

3: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 21:24:17.73 ID:a6hnrGwy0
「いつもすまないね」
「いえ、これも仕事ですから」

用務員のおじさんに愛想良く振る舞いながら。
俺はせっせと校庭の草むしりに励んだ。
事前に、制服から体操着に着替えている。
すぐに汗だくになったので判断は正しかった。
というか、これは果たして庶務の仕事なのか。
学校によっては、違うのかも知れないけれど。
それでも文句はなかった。気分は上々である。

鼻歌交じりに、ブチブチ草を引き抜いていく。
デスク仕事よりは身体を動かすほうが好みだ。
俺以外の役員は皆優秀で、足手まといになる。
だが、蛍光灯の交換や昇降口の掃き掃除等々。
俺にも出来る仕事は沢山ある。それをこなす。

それで少しでも会長の助けになれれば本望だ。

偽善かも知れないし、自己満足かも知れない。
けれど、それでも良かった。やり甲斐がある。
何故ならばちゃんと見返りを貰っているから。

何度でも言うが、俺はボランティアではない。
きちんと仕事に見合う報酬を受け取っている。
先程コピーしたプリントに添えられた、付箋。
そこには会長の字でコピーする枚数の指示と。

『いつもありがとう』

部下への労いの言葉が、綴られていた。

「我ながら、単純だよな」

思わず自分自身に呆れながらも、悪くない。
むしろ、単純で何が悪い。美徳だろうが。
そんな風に自己正当化出来る程、嬉しかった。

男子高校生なんてのは、そんなものだろう?

4: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 21:29:32.15 ID:a6hnrGwy0
「よっと」

ドサッと、むしった雑草を手押し車に載せる。
そのまま、うーんと伸びをして、固まった腰と背中をほぐしていると、突如、衝撃が走った。

「おらっ! サボってんじゃねぇっ!!」
「ぐあっ……い、痛いですよ、議長っ!?」

バシンッ! と、背中をぶっ叩いたのは、議長。
生徒会役員の一員で、見ての通り、乱暴者。
滅多に生徒会室には顔を出さない、風来坊。
振る舞いと同じく、性格は粗暴で、傲岸不遜。

「うるせー。オレ様のことは議長閣下と呼べ」
「……お疲れ様です、議長閣下」
「おう」

偉そうに腕組みをしながら、見下された。
だが、これでも同い年。無論、学年も一緒だ。
文句のひとつも言いたくなるが、やめておく。

「あん? なんか言いたいことでもあんのか?」
「いえ、滅相もありません! 議長閣下!」

ギラリと、眇めた相貌は、肉食獣の如し。
真っ黒な黒目と、青白い白目。おっかない。
その、黒と白のコントラストに、震え上がる。
もちろん、腕っぷしも折り紙つきであり。

「うらぁっ!」
「ひっ!」

空を切る平手打ち。いきなり殴ってきた。

「い、いきなり何をするんですかっ!?」
「ハチだよ、ハチ。刺されるとこだったぞ」
「えっ?」

見やると、地面には打ち落とされた、ハチが。
このように、とんでもない人物であるものの。
一概に悪い人間とは判断出来ない議長だった。

5: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 21:33:56.69 ID:a6hnrGwy0
「草むしりなんてだりー」
「それなら、無理して手伝わなくても……」
「ああん? なんか文句あんのか?」
「いえ! ありません!」

雑草を引き抜きながら、文句を言われた。
しかし、何だかんだ手伝ってくれる議長閣下。
それは今日に限った話ではなく、ほぼ毎日。
雑用をしている俺を見つけると、寄ってくる。
おかげで助かっているが、正直、怖すぎる。

「あの、議長閣下」
「あん? 閣下なんて堅苦しい呼び方はやめろ」

あんたが呼べって言ったんだろうが!
なんて、口答えは出来る筈も無く。
気を取り直して、俺は議長に質問してみる。

「どうして生徒会室に行かないんですか?」
「議長だから」

解答は簡潔すぎて、意味がよくわからない。

「意味がわからないのですが……」
「チッ! アホかお前は!!」
「ご、ごめんなさいっ!!」

罵声を受け反射的に謝ると、議長は嘆息して。

「あのな、議長は公平であるべきだろ?」
「まあ、そうですね」
「だから、生徒会役員とは馴れ合わねぇ」

なるほど。意外とまともな理由だ。しかし。

「俺も一応、生徒会役員なんですけど……」
「うっせ。庶務の癖に偉そうに役員名乗んな」

どうやら俺は役員と認められていないらしい。

6: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 21:35:54.19 ID:a6hnrGwy0
「おい」
「えっ?」
「ちょっと、デコ見せろ」

しばらく互いに無言で草をむしっていると。
いきなり、おでこを見せろと、要求された。
言うが早いか、前髪を掴まれデコ丸出しに。

「も、もう平気ですって」
「でも、痕が残ってんじゃねーか」
「俺の不注意ですから、気にしないで下さい」

もう何度目とも知れないやり取り。
俺のおでこにはちょっとした傷があった。
それについて、議長は責任を感じてる様子。

あれは、まだ高校に入学して間もない頃。

掃除当番で、教室のゴミを捨てに行く道中。
俺は生まれて初めて、カツアゲを目撃した。
気弱そうな男子と、怖そうなヤンキー集団。
ギョッとして固まっていると、怒号が飛ぶ。

「おいっ! てめーら、何やってんだ!!」

それはヤンキーの怒鳴り声、ではなく。
のちの議長の怒声だった。これが出会い。
この人は、悪役に見えて正義の味方だった。

7: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 21:40:14.27 ID:a6hnrGwy0
「失せろ、雑魚共!」
「クソッ! 調子に乗んな1年がぁ!!」

瞬く間にヤンキー集団を壊滅に追いやり。
往生際の悪い不良のリーダーがナイフを出す。
それはまるで、漫画のような展開だった。
ちなみに、被害者はとっくに逃げ出している。

睨み合う両者。互いに間合いを測る。

あとから思うに、心配は無用だった。
議長は空手、合気道、柔術の有段者。
凶器を持った相手でも無力化は容易い。

しかし、当時の俺はそんなことはつゆ知らず。

「危ないっ!」

不良の踏み込みと同時に、飛び出した。
間に割って入ろうと思ったの、だが。
足がもつれて、足元にヘッドスライディング。

「うわっ! なんだこいつ!?」
「隙だらけだぜ、馬鹿が」
「なっ!? ぐあっ!?」

ドジな俺が起き上がる前に、勝負はついた。
俺の奇妙な珍プレーに気を取られた隙に。
不良の腕を捻り上げて、ナイフを奪い。
そのまま首を絞め、気絶させた議長。
白目を剥いた不良のリーダーが、倒れ伏した。

「おい、お前……立てるか?」
「あ、はい。なんとか……」

立ち上がると、ボタボタ何やら垂れてきた。
真っ赤なその液体は、どうやら血のようで。
こうして、俺はおでこに傷を負ったのだった。

8: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 21:45:43.80 ID:a6hnrGwy0
「たく、弱えー癖に無茶しやがって」
「すみません……」

あまりに情けない回想を終えて、現在。
あの日からずっと、俺は呆れられている。
我ながら、酷い失態だった。格好悪い。
とはいえ、誰だってあんなもんだろう。
なにせ、喧嘩の経験などなかった。
盛大にびびって、おしっこが漏れそうだった。
だからまあ、漏らさなかっただけ、マシだ。

「でもまあ、なんつーか、あの時……」
「えっ? なんですか?」
「ちょっとは、その、嬉しかったというか……」

何やらゴニョゴニョと口ごもる議長。
声が小さ過ぎて、よく聞こえない。
嬉しかったと聞こえたが、何故だろう。
俺の転ぶ姿に喜びを感じたのか。何それ怖い。

「あの、嬉しかったと言うのは……?」
「だ、だからっ! ……チッ。どうやら時間だ」

気になって尋ねると下校のチャイムが鳴った。
やむなく、片付けに入る。雑草を捨てにいく。
すると議長が、俺から手押し車を奪い取って。

「あとはやっとくから、お前は帰れ」
「いや、でも……」
「さっきからお姫様がお待ちかねらしいぜ?」

顎で生徒会室を示す議長。
まさかと思い、校舎を見上げるも。
窓から見えたのは会長の後ろ姿だけだった。

「揶揄わないでくださいよ」
「嘘じゃねーよ。さっき睨まれたし」
「会長が睨んだ? またまたご冗談を」
「うるせぇ! いいからさっさと帰れっ!!」

ヘラヘラしてたら、怒られた。
相変わらず、キレるポイントがわからない。
悪い人ではないのだけど、気難しい人だ。
こうなったら聞く耳を持たないので仕方なく。
後片付けを任せて、その場から立ち去った。

9: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 21:54:42.25 ID:a6hnrGwy0
「ただいま戻りました」
「おっ! お疲れ」
「庶務くん、お疲れさま~」

生徒会室を開けると、そこには美男美女が。

「ねぇ、早く帰ろ?」
「おう。それじゃあ、また明日な」
「バイバーイ、庶務くん」
「はい、お疲れ様でした」

連れ立って帰っていく、お似合いのカップル。
彼らが副会長と書記だ。2人は付き合っている。
イケメンと、美少女。誰もが認める憧れの的。
副会長は背が高く、書記は巨乳。理想的だ。
しかし、どちらも容姿端麗とまではいかない。

本物は、もっとずっと、絶対的に美しかった。

「それじゃあ、俺たちも帰りましょう」
「ん」

部屋に残る役員は、俺を除いてひとりきり。
カタカタとキーボードを打ちながら、生返事。
その眼は真剣そのもので、吸い込まれそうだ。
艶やかな黒髪はセミロングで、ストレート。
書記と比べると些か起伏に欠けた身体つき。

「今、何か失礼なことを考えなかったか?」
「き、気のせいですよ、きっと」

勘の鋭さ示すような、鋭い視線で射抜かれた。
呼吸が出来ない。否、呼吸を忘れてしまう。
容姿端麗とはまさにこのこと。本当に美しい。

この麗人こそが、俺が仕える生徒会長だった。

10: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 22:01:33.64 ID:a6hnrGwy0
「時に庶務」
「なんですか?」
「少し雑談に付き合ってくれ」

再びパソコンに視線を戻して。
カタカタとキーボードを打ち続けながら。
会長は顎をしゃくり、座るように促す。
指示通りに、俺は自分の席に着いた。

「君は随分、議長と親しいようじゃないか」

ガダガダとキーボードを打ちつけながら。
会長は、あらぬ疑いを投げかけてきた。
俺が議長と? いやいや、勘違いにも程がある。

「仕事を手伝って貰っていただけですよ」
「ほー? ふーん? 仕事を、ねぇ」
「な、何か問題でも?」
「いや? 別に? しかし、よもや議長が……」

何やら腑に落ちない様子の会長は話題を変更。

「君はあれか? 女にスタイルを求めるのか?」
「はい?」

会長はとても頭が良い人だ。
故に、会話が飛んだり跳ねたりする。
恐らく、脳みその演算速度が速すぎるのだ。
だから、俺にはちょっとついていけない。

「もう少し噛み砕いて貰えませんか?」
「議長や書記は、スタイルがいいだろう?」
「ええ、それがどうしましたか?」
「だから、大きなお胸が好みなのかと思って」
「いえ、あまり意識したことはないです」
「意識不明なのか?」

何故か意識不明の疑いをかけられてしまった。

11: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 22:05:59.23 ID:a6hnrGwy0
とりあえず、疑惑をひとつずつ潰していく。

「だいたい、書記さんは彼氏持ちですし」
「議長はフリーだぞ?」
「彼女はそもそも色恋には興味ないのでは?」
「いや! 油断は禁物だ! 気をつけろ!」
「は、はい。気をつけます」

どうも、会長は議長が気になる様子。
たしかに、議長は美人でスタイルがいい。
書記には敵わないが、それでも充分だ。
それに比べて、会長はこじんまりとしていて。

「おい、庶務。今、失礼な表現をしたよな?」
「いえ! 俺は別に何も!」
「やれやれ、これだから世の男どもは……」

会長は少々、気に病んでいるらしい。
たしかに、平均よりは下回っている。
それでも俺は、全然気にしない。何故ならば。

「大丈夫! 会長はふとももが魅力的です!」
「ふにゃっ!?」

やっべ。つい、思うがまま口走った。
聞いたことのない悲鳴をあげた、会長。
この人は潔癖だから、不埒な言動は許さない。

たぶん、怒られるだろうなと、思っていた。

12: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 22:09:47.60 ID:a6hnrGwy0
「き、君は、私のふとももが好きなのか……?」

良かった。まだ猶予がある。慎重に返答する。

「はい、会長のふとももは最高です!」
「そうか……最高か」
「はい! 噛みつきたくなります!」
「そ、それはダメッ!! まだ早いっ!!」

おっと。このあたりが限界か。引き下がろう。

「そのくらい、魅力的なんです!」
「ほんと?」
「はい! 自信を持ってください!」
「私が1番可愛い?」
「はい! もちろんです!」
「私のふとももが1番?」
「はい! 会長のふとももは宇宙一です!」
「じゃあ、私のお胸は何番?」

ぐっ!? 答えに詰まる。詰まって、しまった。

「庶務、質問に答えて」
「あ、あはは……質問、変えませんか?」
「変えない」
「しかし、みすみす傷つけたくないですし……」
「なんだそれは!? どういう意味だ!?」

やばいやばいやばい。完全にレッドゾーンだ。

「そう言えば、会長!」
「なんだ、藪から棒に」
「胸は揉むと大きくなるらしいですよ!」

ちょっとした冗談のつもりだったの、だが。

「うん、知ってる」
「あ、そうすか」
「毎日自分で揉んでるもん!」
「えっ?」

流石に聞き流せない『揉んだい発言』だった。

13: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 22:14:52.99 ID:a6hnrGwy0
「ま、毎日、ですか……?」
「はっ!」

尋ね返すと、ようやく失言に気づいたらしく。

「ち、違う! 今のは、その……言葉の綾で!」

顔を真っ赤にして、必死に弁明する会長。
ここまで取り乱した姿は、初めて見た。
唖然としていると、特大の墓穴が出現した。

「だって胸を揉むと気持ちいいし!」

もう目的がすり替わってると気づいたようで。

「い、いいじゃないか、たまには!」
「いや、さっき、毎日って……」
「うるさいっ! いけないのか!?」
「いえ、大変健康的でよろしいかと」

開き直った会長に思わず指摘すると。
言い訳をすることなく、お認めになられた。
会長のような人も毎日そんなことをするのか。
ついつい、あられもない姿を妄想してしまう。
すると、拍車をかけるように、燃料が追加。

「これは最近発覚したことなのだが、君の名を呼びながら胸を揉むと、捗ることに気づいた」
「えっ?」
「か、勘違いするなよ! たまたま偶然そうだったというだけで、特別な意味はないからな!」

この人は、胸を触りながら、何をしてるのか。

「えっと、捗るというのは……?」
「君の名を呼びながら胸を揉むと、すごく気持ち良いんだ」
「はい?」
「この間なんて、思わずおしっこが漏れたぞ」

思わず耳を疑う。おしっこを漏らした、だと?

「あっ! いや、浴室だったから平気だし!!」

いやいやいや、そういう問題じゃありません。

14: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 22:20:36.56 ID:a6hnrGwy0
「湯船に浸かりながら漏らしたんですか?」
「湯船ではしていない! 頼む、信じてくれ!」

若干涙目で懇願する会長は、弱々しくて。
いつもの凛々しさや、強さは見当たらなくて。
なんとなく、嗜虐心を煽られた気がして。

ついつい、意地悪をしてみたくなった。

「うーん……俄かには信じられないですね」
「なっ!? 私を信じられないのか!?」
「そもそも本当におしっこが出たんですか?」
「本当だとも! 盛大に漏らしたとも!」
「それなら、実験してみましょう」
「へっ?」

真偽を確かめるべく、実験内容を伝える。

「ちょっとふとももを齧らせてください」
「ふ、ふとももを!?」
「それで反応を見させて貰います」

俺は調子に乗っていた。それはもう有頂天だ。
何を口にしても許されると、そう思っていた。
しかし、ここに来て会長は冷静さを取り戻し。

「ただ私のふとももを齧りたいだけだろう?」

ズバリ、こちらの目論見を看破されて、狼狽。

「いや、俺は別に、そんなつもりは……」
「変態」
「か、会長にだけは言われたくないです!」

変態呼ばわりにむっとして言い返す。
会長は侮蔑の眼差し。ゾクゾクした。
しばらく睨み合うと、不意に会長が笑って。

「君は本当に、わかりやすいなぁ」
「口答えをして、ごめんなさい」
「ふふっ。まあ、いいさ。許可しよう」
「はい?」
「私のふとももを齧りたいんだろう?」
「いや、でも……」
「いいから、こっちにおいで」

素直に謝ったら、許してくれた。
おいでと言われたので、ほいほい向かう。
我ながらチョロいけれど、不満はなかった。

15: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 22:26:08.40 ID:a6hnrGwy0
「ぜ、絶対に下着は見るなよ」
「大丈夫です。見えませんので」

そんなこんなで俺は現在、すごい場所に居る。
お言葉に甘えて、執務机の下に潜り込んだ。
目の前には、会長の下半身。絶景だった。
もちろん、スカートの裾は閉ざされている。
それでも魅惑のふとももに左右から挟まれて。
もう思い残すことはないとさえ、思えた。

「会長、なんだか良い匂いがします」
「ど、どこを嗅いでるんだ!?」

またしても思ったことを口にしてしまった。
怒らせるのは得策ではない。自重せねば。
会長はほっぺを膨らませながら、厳重注意。

「いいか? 不埒な真似は許さんからな」
「はい、肝に銘じておきます」
「ならば、さっさと齧れ」

促されるまま、齧ろうとして、ふと思う。
本当にこのまま、齧って良いのだろうか。
今更怖気付いてしまった。俺の悪い癖だ。

基本的にチキンなので、後先を考えてしまう。
この先、俺と会長は、どうなってしまうのか。
現状に不満がないからこそ、変化が怖かった。
積み上げてきた関係性が、壊れてしまうかも。

そう考えると、今の自分が愚かに思えた。
何がふとももを齧りたいだ。馬鹿か俺は。
きっと会長も内心では呆れているだろう。
軽蔑された可能性が高い。嫌われたかも。

やばい。ちょっと泣きそうになってきた。

「会長」
「ん? どうかしたのか?」
「お願いですから……嫌わないで、ください」
「はあ?」

泣きながら、俺は会長の足に縋り付いた。

16: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 22:30:07.95 ID:a6hnrGwy0
「ど、どうしたんだ、庶務!」
「なんか、急に怖くなりまして」
「大丈夫だ。私はお前を嫌ったりしない」

泣きじゃくる俺を見て、慌てて宥める会長。
頭を撫でられて、だんだん落ち着いてきた。
冷静になり、やはり間違っていたと実感する。
こんな馬鹿なことはやめよう。そうしよう。

とりあえず、誠心誠意、会長に謝罪しておく。

「おかしなお願いをして、すみませんでした」
「えっ?」
「やっぱり、こんなことはやめておきます」
「えっ? えっ?」
「失礼しました。すぐに退きますから……」
「お、おい! ちょっと待てっ!?」

会長の足元から退こうとすると。
何故かふとももで顔面を拘束された。
柔らかな感触で理性が飛びかけるも、堪える。
なけなしの自制心を掻き集めて、叫んだ。

「な、何をするんですか!?」
「今更やっぱりなしなんてあんまりだ!」
「でも、俺は会長の為を思って……!」
「余計なお世話だ! いいから早く齧れっ!!」

なんだろう、この人は。
こっちは苦渋の決断をしたというのに。
あまりにも身勝手。あまりにも理不尽。
容姿端麗ならばこんな横暴が許されるのか?
もしかしたら、そうかもしれない。綺麗だし。
いや、しかしそれは、会長の為にはならない。
そうだ、全ては会長の為。教育しなくては。

思えば、今日の会長はちょっとおかしい。
毎日胸を揉んでるなんて、会長らしくない。
大方、副会長と書記に毒されたのだろう。
2人が乳繰り合ってるのを見て、乱心したのだ。
うん。きっとそうに違いない。間違いない。
まったく、本当にあのカップルは困りものだ。
会長の情操教育に悪影響を及ぼしている。

ならば、俺がしっかりせねば。再教育せねば。

「もうどうなっても、知りませんからね」

これも庶務の役目と割り切り、俺は齧った。

17: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 22:39:59.36 ID:a6hnrGwy0
「あむっ!」
「ふぁっ!?」

齧った瞬間、会長がびくんと跳ねた。
ちょっと強く噛みすぎたかも知れない。
でも、もう遅い。もう誰にも、止められない。

「がじがじ」
「んんっ……ぁんっ……もう、だめっ!」

時間にして、10秒足らず。それが限界だった。
敏感な会長は、一際大きく痙攣をして。
キュッと内股になった、次の瞬間。

しょわしょわしょわしょわしょわしょわぁ~。

涼やかな擬音と共に、おしっこを漏らした。

「フハッ!」

なんだ、今の笑い声は? いや、それよりも。

椅子から滴る雫。
ガクガク震える膝小僧。
ふとももに浮かび上がる鳥肌。

何より完全に朱に染まった、会長の照れ顔。

「うぅっ……庶務の、バカ」

子供みたいに口を尖らせて、文句を言われた。
それがまたなんとも可愛く、なんとも愛しい。
ていうか、マジで漏らしたよこの人。嘘だろ。
あの容姿端麗な会長が、おしっこを漏らした。
それを誘発したのは、この俺。庶務の、俺だ。
前代未聞の下克上を果たし、愉悦が溢れ出る。

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

哄笑しながら、俺は悦に浸った。浸りきった。
もう何も考えられない。全てがどうでもいい。
この先どうなろうが知ったことか。今が全て。
時空の連続から孤立したかのような、感覚だ。
視界は暗転して、意識が遠のき、虚空を漂う。

「やあ、待っていたよ、助手くん」

その先で、何故か俺は、天才少女と邂逅した。

18: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 22:48:35.84 ID:a6hnrGwy0
「おーい、助手くん? 聞こえてるかい?」
「……あれっ? どうして教授がここに?」

気がつくと、そこは見知った自分の部屋。
おかしい。さっきまで生徒会室に居たのに。
それに、なんで俺の部屋に、教授が居るんだ?

「よーし。とりあえず、成功したようだね」
「成功ってなんのことですか?」
「助手くんの深層心理にハッキングしたのさ」

にやにやと、危険な笑みを浮かべる教授。
まるでマッドサイエンティストみたいな人だ。
しかし、見た目はまだ幼さが残る女の子。
スーパーロングヘアが、床に散らばっている。
特筆すべき点は、素足であること。裸足だ。
教授は生徒会役員の一員で、役職は会計。
彼女は俺を助手くんと呼び、俺は教授と呼ぶ。
いつからそう呼んでいたかは、わからない。

教授は昼休みに会計の仕事をこなしている。
故に放課後は、生徒会室に現れることはない。
しかし俺は授業中などにたびたび会っていた。
基本的に教授は、保健室から俺を呼び出す。
校内放送で呼ばれて向かうといつも寝ている。
起こすと決まって、おんぶをせがまれるのだ。

「いや~いつも悪いね、助手くん」

そのまま、何度か家まで送ったこともある。
しかし、どんな家だったかは、記憶にない。
あっち、そっちと、指示された通りに進む。
すると、現在位置がわからなくなる。迷子だ。
黄昏時の、マジックアワーで、幻想的な風景。
教授は裸足にクロックスを履いていたのだが。
道中、何度かポロポロ落として俺に拾わせた。

クロックスのカラーは、ショッキングピンク。

「良い色だろう?」

ショッキングピンクが、目に焼き付いている。

19: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 22:56:14.40 ID:a6hnrGwy0
「たしか俺は、教授を家まで送って……」
「助手くんはボクを自宅に連れ込んだのさ」

そんな、馬鹿な。いや、そうかも知れない。

「身の程知らずで、申し訳ありません」
「いいよ。気に病むことはない」

寛大な教授は、俺の無礼を許してくれた。
そこで気づく。俺は何故か、正座をしていた。
教授は目の前で椅子に座って足を組んでいる。
組み替えるたびに、スカートが、チラついた。
奥にクロックスと同じ、ショッキングピンク。

「良い色だろう?」

極めて平坦な口調で、同意を求められた。
俺は黙って頷くことしか出来ない。目が痛い。
覗いたことを叱責されたような感覚に陥る。
慌てて目線を下げ、素足のつま先を見つめた。

「なにか、ボクに懺悔することはあるかい?」

いきなり懺悔と言われても、困ってしまう。

「素直に話せばいいだけさ。ありのままをね」

色素の薄い瞳で全てを見透かされた気がした。

「実は、生徒会室で、会長と……」

俺は、先程の会長との出来事を、打ち明けた。

20: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 23:03:11.98 ID:a6hnrGwy0
「……と、言うわけでして」
「へぇ~なるほど。それで懺悔しに来たと」

にやにやしながら、相槌を打つ教授。
改めて、おかしな状況だと思う。
さっきまで生徒会室に居たのに、なんで?
その疑問に対する答えを、教授は示した。

「ボクはね、助手くんの良心なのさ」
「良心?」
「そう。良心の呵責を覚えるとボクが現れる」
「ちょっと意味がわかりません」
「まあ、白昼夢だと思ってくれたまえ」

どうやらこれは、夢らしい。
しかし、妙にリアルな夢だ。
本当に夢なのかと疑っていると。

「どれ、ほっぺをつねってあげよう」
「えっ? 痛い痛い痛いっ!?」
「あははっ! 素晴らしい! 良い反応だ!」

夢なのに、すげー痛かった。なんでだ?

「それはボクが天才だからさ」

その答えを俺は知っていた。
教授は天才少女で、孤高の会計。
たぶん、同じ年齢ではないだろう。幼すぎる。
飛び級して高校に通っていると思われる。
そうした制度が本当にあるかどうかは不明だ。
だが、その制度の稀有な実例が、教授だった。

そんな天才少女はいつも独りで、保健室通い。
優れた頭脳と引き換えに、孤立していた。
誰も彼女を理解することは出来ない。
それはもちろん、俺とて例外ではない。
この幼い少女の考えなど、読めやしない。

「ボクが愉しければ、それでいいのだよ」

どうやら俺は、教授のオモチャらしかった。

21: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 23:05:25.26 ID:a6hnrGwy0
「さて、会長が漏らした件についてだけど」

教授はいきなり本題について意見を述べた。

「客観的に見て、異常だよ」

冷笑と共に、教授は俺の罪を咎める。

「人のお漏らしで愉悦を感じてはいけないよ」

静かな口調で諭されると、泣きそうになった。

「助手くんは頭がおかしい。変態だ」

やっぱり、そうだったのか。俺は変態だった。

「良い顔だね」
「……そうですか?」
「ああ、今にも首を吊りそうな目をしている」

にやにやと、愉しげに嗤う教授は、不意に。

「しかし、そう悲観しなくてもいい」

救いの糸を、目の前に垂らしてくれた。

「教授が、俺を助けてくれるんですか?」
「ボクじゃなくて、助手くんの主観がね」
「俺の、主観……?」
「そう、客観ではなく、主観が肝心だ」

そう言って、ぐいっと、教授は身を乗り出す。
鼻先が触れそうな距離に、顔を近づけてきた。
色素の薄い瞳に、俺の間抜け面が映っている。

22: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 23:09:22.91 ID:a6hnrGwy0
「客観的なモラルなんてものは、くだらない」
「でも、モラルは大切ですよ?」
「真に大切なのは、主観的なモラルの方さ」

話しながら、至近距離で見つめ合う。
なんだか自問自答しているような感覚だ。
しかし、いい加減離れるべきだろう。
このままではうっかり接触してしまいそうだ。

そう思ったら、両手で顔をぎゅっと挟まれた。

「ボクから逃げられるとでも?」
「そ、そんなつもりは……」
「じゃあ、このまま話そう」

おでこをくっつけながら、教授が続きを話す。

「要するに、価値観の置き場所の問題なんだ」
「価値観の置き場所?」
「うん。それを自分の主観で定めればいい」

さっぱりわからん。ちんぷんかんぷんだ。

「そう言われても、よくわかりません」
「人の価値観に合わせる必要はないってこと」

ああ、なるほど。ようやくわかった。しかし。

「でも、周囲から逸脱してしまいますよ?」
「怖いのかい?」
「ええ、まあ、人並みには……」
「人並みに合わせる必要が、どこにある?」

なんとも教授らしい理屈だ。だが、俺は違う。

「孤立することは、怖いです」

人と違う価値観を持つことは、許さない。
他人に理解されなければ、孤立する。
だって人間は、本能的に群れる生き物だから。

23: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 23:11:30.68 ID:a6hnrGwy0
「良い反応だ。いかにも助手くんらしいね」
「俺らしいって、なんですか?」
「平凡で、退屈で、つまらないということだ」
「お気に召さないようで、悪かったですね」
「違うよ。だからこそ、気に入っているのさ」

サンプルとして非常に優秀だと教授は褒めた。

「そんな人間こそ、弄りがいがあるのさ」

ペロリと赤い舌を出して教授は唇を湿らせる。
ちょっと鼻息も荒くて、興奮気味なご様子。
身の危険を感じていると、鼻で嗤われた。

「別に取って食ったりしないよ」

そう言いつつも、邪悪に口角を吊り上げて。

「ちょっとばかし、改造を施すだけさ」

やべーよ、この人。マジで危ない人だよ。

「か、勘弁してくれませんかね……?」
「やだ」
「せめて、お手柔らかに……」
「んー考えとく」

一見無邪気なにっこりスマイルが、怖かった。

24: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 23:15:45.10 ID:MwMFmLtgO
「さあ、助手くん。結論を出そう」

にやにや嗤いながら、教授は俺に質問する。

「会長のお漏らしを見て、どう思った?」
「えっと、可愛かったです」
「なら、それでいいんじゃない?」

どうでも良さそうに、教授はそう結論付けた。

「いいんですかね? キモくないですか?」
「えっ? そりゃあ、キモいよ」
「そ、そうですか……ですよね」

グサッときた。思わず打ちひしがれていると。

「でもさ、別にいいじゃん」

またもやどうでも良さそうに、教授は続ける。

「結局は自分の主観が正義なんだよ」
「他人にとっては悪でも?」
「所詮、絶対的な正義なんて存在しないのさ」

それについては、なんとなくわかる。
子供じゃあるまいし、俺はもう高校生だ。
正義とは相対的なもので、絶対的ではない。
無論、悪も同じく、絶対的なものではない。
その拠り所は結局、自分の主観にある。
他人にとっては悪でも、自分にとっては正義。
それが当たり前で、そうでなくては不自然だ。

だけど、それでも。

「……会長は絶対的に、容姿端麗ですけどね」

あの人だけは、絶対的な存在だと信じていた。

26: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 23:22:49.51 ID:a6hnrGwy0
「それもまた、助手くんの主観に過ぎない」

そうなのだろうか。だとしても、別に良いさ。

「俺は自分の価値観を信じるだけです」
「ちぇっ……妬けちゃうなぁ」

何故か教授はヤキモチを焼きながら、愚痴る。

「だいたい、深層心理も付箋だらけだし……」

見ると、部屋中会長直筆の付箋だらけだった。

「ベタベタあちこち貼り付いて取れやしない」

不貞腐れた様子の教授は、また顔を近づけて。

「結論が出たなら、さっさと行きたまえ」
「行くって、どこへ?」
「現実世界に決まってるだろう?」

目の前で、パンッ! と、手を打ち鳴らす教授。

「ほら、夢の時間は終わりだよ」
「教授、ありがとうございました」
「ふんっ。ボクは敵に塩を送っただけさ」

意識が遠のいて、暗転する間際、鼻が当たる。

「だからこれは、会長への当てつけさ」

唇に、柔らかなものが触れたような気がした。

27: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 23:27:57.99 ID:a6hnrGwy0
「うぅっ……ぐすんっ」
「あれ? 会長、どうして泣いてるんですか?」

夢から覚めて、現実に帰還。
時間はさほど経っていないようだ。
随分長い夢だった気がするが、記憶が曖昧だ。
それでも不思議と憑き物が落ちたような感覚。
悩みから解放されて、清々しい気分だった。
とはいえ、浮かれている場合じゃない。

夢から覚めると、目の前で会長が泣いていた。

「目にゴミでも入ったんですか?」
「そ、そんなわけあるかっ!」
「じゃあ、どうしたんですか?」
「き、君に……嫌われたかと、思って」

ああ、なるほど。ようやく状況がわかった。
あれだけ盛大に漏らしたのだから、当然だ。
どうやら会長も、俺と同じく不安だったのだ。
他人と価値観を共有出来ないのは辛いことだ。
思わず涙が出てしまう気持ちも、よくわかる。

俺は会長の涙と共に、その不安を拭った。

「大丈夫ですよ。何も心配はいりません」
「き、嫌わない、のか……?」
「ええ、もちろん。嫌いになんてなりません」
「ほ、本当か……?」
「はい。とっても可愛かったですし」

心配は杞憂だと微笑むと、会長は頬を染めて。

「か、可愛いとか、言うなっ!」
「今日の会長はまるで子供みたいですね」
「うるさいっ! 笑うな!!」

ぷいっと、顔を逸らすその仕草がおかしくて。
思わず腹を抱えて笑うと、怒られた。
今日は会長の色々な一面が見れて、幸せだ。

28: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 23:34:07.59 ID:a6hnrGwy0
「もう平気ですか?」
「うん、ありがと」
「では、少々お待ちください」

会長が落ち着くのを待ち、後片付けを開始。
素早く廊下で体操着を脱いで制服に着替えた。
そして脱いだハーフパンツを、会長に手渡す。

「とりあえず、俺の体操着を貸しますね」

脱ぎたてだが、この際我慢して貰おう。

「ん。すまん、恩に着る」
「いえ、お気になさらずに」
「ちゃんと洗って返すから、安心してくれ」
「いえ、そのままで結構ですから」
「必ず! 洗って! 返すからなっ!!」

漏らした会長は直にハーフパンツを穿く。
無論、ノーパンで。洗って欲しくなかった。
とはいえ、それを議論している暇はない。
部屋の隅で着替える会長をよそに、床を拭く。

「絶対にこっちを見るなよ?」

念を押すくらいなら俺を追い出せばいいのに。

「いいからさっさと着替えてください」
「なんだその態度は!? 興味ないのか!?」
「なんですか、覗かれたいんですか?」
「バカ! エッチ! スケベ! 変態!」

どうしろってんだよ。嘆息しながら床を拭く。
煩悩を捨て去り、無心でおしっこを拭き取る。
人の尿なのに全然嫌じゃないのが、不思議だ。

29: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 23:37:37.41 ID:a6hnrGwy0
「着替えた」
「よくお似合いですよ」
「そ、そうかな……えへへ」

世辞を言うと、テレテレ。かわいい。
とはいえ、正直言って変な格好だ。
上は制服で、下はハーパン。かなりダサい。
それでも会長は変わることなく、美しかった。

絶対的な存在は服装に左右されないのである。

「こっちも掃除が終わりました」
「ん。ご苦労」

部屋の掃除は完璧だ。痕跡は全て消した。

「それじゃあ、今度こそ帰りましょう」
「ああ、その前に」

帰宅を促すと、 待ったをかけられた。

「時に庶務」
「はい、なんですか?」
「付箋が体操着のポケットに入っていたぞ」

やば。後生大事に仕舞った付箋が見つかった。

「よもや、持って帰るつもりだったのか?」
「まあ、捨てるのも忍びなくて……」
「おかしな奴だな」

くすくす笑われて、顔から火が出そうだ。

30: SS速報VIPがお送りします 2018/08/24(金) 23:49:05.37 ID:a6hnrGwy0
「そもそも付箋のメッセージは君の芸だろう」

ひらひら付箋を振りながら、昔話をする会長。

「あれは1年の頃だったか?」
「……気づいていたんですか?」
「当たり前だ。君はわかりやすいからな」

まさか、気づかれていたとは。

1年の時、俺は会長と同じクラスだった。
会長はまだ生徒会長ではなく、学級委員長。
面倒な仕事を押し付けられて、気の毒だった。
何か手助けをしたくて、こっそり手伝った。
その際、一度だけ付箋にメッセージを添えた。

「内容は『いつもありがとう』、だったか?」

それは奇しくも、同じ内容。絶対狙ってる。

「こちらこそ、ありがとう。嬉しかったよ」
「……左様でございますか」
「ああ。だからこそ、君を庶務に抜擢した」

なるほどな。道理でおかしいと思ったよ。

「手伝わせてくれて、ありがとうございます」
「こちらこそ、手伝ってくれて、ありがとう」

精一杯の虚勢を張った俺に対して。
会長は満面の笑みでそう答えた。ずるい。
口頭で感謝をされると、気恥ずかしい。
やはり、会長には敵わないなと思いつつも。
同時に、ちょっとだけ親近感が湧いた。
この人も俺と似たようなことをしている。
意外と子供っぽくて、わがままな一面もある。

存外、高嶺の花では、ないのかも知れない。

今はまだ、恥ずかしくて顔も見れないけれど。
いつか、面と向かって直接、想いを告げよう。
俺は貴女のことが好きだと真っ直ぐ伝えよう。
いや、そんな度胸はないから、付箋を使おう。
たぶん、この人ならば、呆れつつも、きっと。

笑って、受け取ってくれる、そんな気がした。


【会長から庶務宛ての付箋の伏線】


FIN

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