試食のおばさん「この味……試してみる?」

2019年01月22日
試食のおばさん「この味……試してみる?」

1: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 21:45:31.531 ID:YYT1BgfV0
―スーパーマーケット―

おばさん「いらっしゃい、いらっしゃ~い!」

主婦「こんにちは~」

おばさん「あら、こんにちは~! お体の調子はどぉう?」

主婦「それが、最近お通じが来なくってねえ……」

主婦「若い日本人がすごいコンピュータを開発して、ノーベル賞取ったなんてニュースやってるけど」

主婦「どうせなら、すごい便秘薬でも開発して欲しいもんだわ」

おばさん「ふうん、便秘ねえ……」

おばさん「だったら、この味……試してみる?」

4: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 21:48:18.476 ID:YYT1BgfV0
おばさん「ほら、新しく出たヨーグルト」

主婦「ヨーグルト? いっとくけど、ヨーグルトならすでに食べてて……」

おばさん「まぁいいから、いいから」

主婦「それじゃ、一口」パクッ

主婦「!」ギュルルル…

主婦「き、きたわぁっ! 一週間ぶりのお通じがきたわぁぁぁぁぁっ!」

主婦「店内のおトイレ借りるわね!」タタタタタッ

おばさん「トイレから出たら、このヨーグルト買っていってね~」

7: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 21:51:27.538 ID:YYT1BgfV0
バイト娘「す、すごい……!」

バイト娘「何者ですか、あの人!?」

店長「君は入ってまもないから、彼女のことをまだ知らなかったか」

店長「彼女は人呼んで≪試食のおばさん≫……」

店長「お客に最適な試食をさせて、さまざまな悩みを解決する、パートのエキスパートさ」

バイト娘「パートのエキスパート……! 早口言葉みたい!」

店長「『私を試しに使ってみて』と彼女がこの店で働き始めてから、売上もだいぶ伸びたんだ」

バイト娘「へぇ~……」

9: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 21:54:24.237 ID:YYT1BgfV0
―会社―

課長「なんだ、この書類はぁっ!?」バサッ

部下「ひっ!」

課長「まぁったく、たるんどる!」


ヒソヒソ… ボソボソ…

「まぁ~た、怒ってるよ」 「ホント怖いよなぁ~」 「血圧上がるっての……」


課長(どいつもこいつも……!)

13: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 21:56:31.819 ID:YYT1BgfV0
―スーパーマーケット―

課長「……」イライラ

おばさん「ちょいと、そこのお客さん」

課長「私かね?」

おばさん「あなた、なかなか厳しそうな顔してるわね」

課長「……余計なお世話だ!」

課長「といいたいところだが、そうかもしれん」

課長「このところ、部下と全然うまくいってなくて……」

おばさん「でしたら、この味……試してみる?」

14: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 21:58:50.672 ID:YYT1BgfV0
課長「これは……玉子焼き?」

おばさん「おいしいですよ」

課長「こんなレトルトの玉子焼きがおいしいわけ……」パクッ

課長「……」

課長「あ、甘い……」ホワァ~

課長(玉子と砂糖の甘みが、私の荒んだ心を癒やしてくれる……)

15: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:00:26.874 ID:YYT1BgfV0
課長「そ、そうか、これだ!」

課長「私に足りなかったのは、これだったんだ! この“甘さ”だったんだ!」

おばさん「厳しいだけで、ついてきてくれる人はそういませんからねえ」

おばさん「部下の方々との接し方、色んな方法を試してみるべきですよ」

課長「うむ、あなたのおっしゃる通り!」

課長「明日からは……この玉子焼きを見習って、少し甘くなりたいと思う!」

課長「玉子焼き、買っていくよ!」

おばさん「ありがとうございます」

17: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:03:23.206 ID:YYT1BgfV0
男「今日なに食べる?」

女「んー、パンがいい」

男「えー、俺はご飯がいいんだけどなぁ」

女「やだー、ご飯って重たいし、絶対パンがいいー!」

男「いいや、ご飯だ! パンってスカスカしてて、食った気がしないし!」

女「スカスカってなによ!」

男「重たいってなんだよ!」

おばさん「まあまあ、お二人さん。こんなところでケンカしたらみっともないわよ」

18: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:04:19.411 ID:YYT1BgfV0
おばさん「ご飯もパンも、どっちもおいしいじゃないの」

男「だけど、今日だけはご飯な気分なんですよ!」

女「あたしはパンの気分!」

おばさん「じゃあ、この味……試してみる?」

男「食パンと……」

女「おにぎり……」

20: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:06:24.140 ID:YYT1BgfV0
モグッ…

男「う、うまい! 全然スカスカじゃない! なんて濃厚な食パンなんだ!」

女「このご飯……ふんわりしてて、とってもおいしい! 全然重くない!」

男「……」

女「……」

男「おにぎりと食パン……両方買おうか」

女「そうしよ」

おばさん「ありがとうねぇ~」



バイト娘(パンとご飯、両方買わせた……うまい!)

21: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:09:44.424 ID:YYT1BgfV0
おばさん「いらっしゃいませ~!」

黒髪女「……」ギロッ

おばさん「あら、どうしたの?」

黒髪女「あなたは元気でいいわねえ……」

黒髪女「私なんか、毎日毎日死にたくてたまらないってのに……」

おばさん「あなた、死にたいの?」

黒髪女「ええ、死にたいわ!」

黒髪女「毎日のように自殺未遂して、ほら手首も傷だらけ!」サッ

おばさん「ふうん、そうなの」

22: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:11:09.866 ID:YYT1BgfV0
おばさん「なら、この味……試してみる?」

黒髪女「なにこれ?」

おばさん「死にたいんだったら、なんでも飲めるはずでしょ?」

黒髪女「そ、そうね。飲んでやるわよ!」ゴクッ

黒髪女「……!」

黒髪女「ぐえええええええ……っ!!?」

26: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:14:02.932 ID:YYT1BgfV0
黒髪女(なにこれ、猛毒……!?)

黒髪女(く、苦しい……! 死ぬ……!)

黒髪女「じにだくない! じにだくない! た、助けて……っ!」

黒髪女「だぁずげでぇぇぇぇぇ……!!!」

おばさん「安心なさい」

黒髪女「え」

おばさん「今飲ませたのは、ただの青汁だから」

黒髪女「!」

おばさん「これでもう、死にたいなんて気分、吹っ飛んじゃったでしょ?」

黒髪女「……はい」

31: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:17:16.894 ID:YYT1BgfV0
バイト娘「うーむ、いくら青汁とはいえ、あんなに苦しむものなんですかね?」

店長「あれは“死食”だ」

バイト娘「死食……!?」

店長「試食のおばさんほどになると、試食で“死の恐怖”を味わわせることもできる」

店長「いってみれば、死を試させることができる」

店長「彼女はああやって、何人もの自殺志願者を救ってきたんだよ」

バイト娘「今回の女性も、まるで憑き物が落ちたような表情になってますね」

34: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:21:13.755 ID:YYT1BgfV0
ズイッ

美食家「君が噂の試食のおばさんかね」

おばさん「いらっしゃいませー!」

美食家「私は美食というものを極めに極めた者なのだが……」

おばさん「まぁ、すごい!」

美食家「君の考える“最高の美食”というものをぜひとも食させて頂きたい」

おばさん「かしこまりました~!」



店長「あの美食家、よくグルメ番組に出てる本物の食通だ……」

バイト娘(一体どうするんだろ……!?)ゴクッ

35: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:23:00.216 ID:QAB++oY/0
海原っぽい奴来てんじゃねーよ

38: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:24:16.283 ID:YYT1BgfV0
おばさん「どうぞ。この味……試してみて」サッ

美食家「一本の爪楊枝に、冷凍食品の天ぷらソーセージエビチリが刺さっている……」

美食家「いただこう」モグッ

美食家「こ、これは……!?」

美食家「一本の爪楊枝に……和洋中のエッセンスが全て込められている!」

美食家「まさしく、これぞ……最高の美食の一種といっても過言ではあるまい!」



店長「なるほど、天ぷらソーセージエビチリは和洋中の代表料理……」

店長「それをまとめて味わえば、和洋中の真髄を同時に感じることができるというわけか!」

バイト娘(天ぷらソーセージエビチリって、和洋中の代表だったんだ……)

41: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:27:16.158 ID:YYT1BgfV0
バイト娘「すごいですねえ……」

バイト娘「試食のおばさんの手にかかれば、どんなお客さんも満足させちゃいますね!」

店長「いや、そうでもないんだ」

店長「一人だけ……このスーパーには、彼女でも敵わない常連客がいるんだ」

バイト娘「え!?」



ケチ「クックック……」ザッ

43: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:29:21.786 ID:YYT1BgfV0
ケチ「よう、おばさん」

おばさん「あら、いらっしゃい」

ケチ「試食させてもらおうか……ただし!」

ケチ「試食しても、絶対買わないがな!」

ドンッ!



バイト娘「あんな堂々と宣言するなんて……!」

バイト娘(なるほど、この人が……試食のおばさんの天敵なのね!)

45: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:33:26.609 ID:YYT1BgfV0
おばさん「熱々の焼き肉の味……試してみる?」

ケチ「肉なんか買わないが食ってやる!」モグッ

ケチ「あつっ! あつっ!」ハフハフッ

ケチ「うおっ、汗出てきた!」ダラダラ

ケチ「アイス買ってこ! ――3000円分ぐらい買わなきゃ!」

おばさん「ありがとうございました~!」



バイト娘「えええええ!?」

バイト娘(試食させて他の物を買わせるなんて、なんて高等テクニック!)

46: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:34:50.228 ID:wRisJ8Iir
買いすぎw

47: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:35:56.112 ID:YYT1BgfV0
バイト娘「さすが、試食のおばさん!」

バイト娘「天敵もあっさりとやり過ごしましたね!」

店長「天敵?」

バイト娘「はい、たった今ケチなお客にアイス買わせたじゃないですか。あんな大量に」

店長「彼はおばさんの天敵なんかじゃないよ。どっちかというとお得意様」

バイト娘「え?」

店長「噂をすれば、来たぞ……!」

48: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:39:19.140 ID:YYT1BgfV0
おじさん「やぁ」

おばさん「この味……試してみる?」

おじさん「試さない」

おじさん「買うよ」

おばさん「あ……そう」



バイト娘「おばさんの試食を断るだなんて……! 試さないなんて……!」 

店長「あのおじさんこそ、おばさんと張り合える天敵。人呼んで――」

49: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:41:19.262 ID:YYT1BgfV0
店長「≪ぶっつけ本番おじさん≫だ」

バイト娘「ぶっつけ本番おじさん……!」

店長「絶対“事前に試してみる”という行為をせず、いつもぶっつけ本番なんだ」

店長「しかし、それで人生うまくいってるようだから、大したものだよ」

バイト娘「へぇ~……」

バイト娘(≪試食のおばさん≫と≪ぶっつけ本番おじさん≫……たしかに相性最悪かも)

強盗「――おい」

バイト娘「いらっしゃいま……きゃーっ!」

51: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:43:05.946 ID:YYT1BgfV0
強盗「コイツで刺されたくなきゃ、金出しな……」

バイト娘「ひいいっ……!」

店長「わわ、ま、待ちなさい! その包丁を下ろしなさい!」

強盗「待てねえ! もう甘く刺しちゃう!」

バイト娘「きゃーっ!」



おばさん「やあねえ。もうすぐ閉店って時に、強盗が現れるなんて……!」

おじさん「あの無計画っぷりには親近感を覚えるが、強盗は感心せんな」

おばさん「行くわよ!」ダッ

おじさん「ああ」ダッ

52: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:45:36.497 ID:YYT1BgfV0
おばさん「この鋭さ……試してみる?」

おばさん「爪楊枝投げ!」ヒュババババッ

グササササッ

強盗「ぐああっ……!」

おばさん「今よ、逃げて!」

バイト娘「ありがとうございます!」ササッ

強盗「くっ、ふざけやがって……!」

おじさん「おっと、君の相手はこの僕がしよう」

強盗「あぁん!? おっさん、ケンカできるのかよ!?」

おじさん「昨日、たまたま柔道の本を読んだんだ。覚えた技をぶっつけ本番で使ってみたい」

強盗「ナメてんじゃねえぞ、てめえ!」

55: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:47:39.121 ID:YYT1BgfV0
おじさん「ぶっつけ本番背負い投げ!」ガシッ

おじさん「ふんっ!」ブオンッ

強盗「あら?」グルンッ


ドズゥンッ!


強盗「ぐええ……っ!」

強盗「ぶっつけ本番で、この威力か……」ガクッ

57: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:50:06.668 ID:YYT1BgfV0
おばさん「イェーイ!」

おじさん「イェイ」

パシーンッ



バイト娘「すごい……息ピッタリ!」

店長「そりゃそうさ。なにしろ、あの二人は――」

58: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:52:23.525 ID:YYT1BgfV0
店長「れっきとした夫婦だからね」

バイト娘「ご夫婦だったんですか! どうりで……」

バイト娘「お子さんはいらっしゃるんですか?」

店長「たしか息子さんが一人いたはずだよ」

店長「もう結構大きくて、すでに家は出てるはずだけど」

バイト娘「へぇ~」

59: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:52:48.751 ID:ZreAJ+aRr
夫婦か

60: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:54:53.465 ID:YYT1BgfV0
おばさん「店長、今日はこれで失礼します」

店長「お疲れ様、旦那さんと一緒に帰って下さい」



おばさん「今度あの子、帰省するらしいから、いっぱい料理作ってあげなくちゃ!」

おばさん「もちろん、いっぱい味見しないとね!」

おじさん「味見なんかしなくていいよ。ぶっつけ本番の料理こそ一番おいしいんだ」

おばさん「そんなことないわよぉ~」

ペチャクチャペチャクチャ…

63: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 22:57:52.659 ID:YYT1BgfV0
バイト娘「……バラバラの二人でしたね」

店長「だけどあれで仲がいいし、夫婦円満の秘訣ってのは案外磁石のN極とS極のように」

店長「二人が正反対であることかもしれないな」

バイト娘「そんな二人に挟まれる息子さんは大変だったでしょうけどねぇ」

店長「まったくだ」

バイト娘(息子さんがどんな人か気になるなぁ……)

店長「さあて、我々も事務所でテレビでも見て一息ついてから、帰るとしようか」

バイト娘「はい!」

64: VIPがお送りします 2018/07/23(月) 23:00:17.017 ID:YYT1BgfV0
店長「おや、若い青年がテレビに出てるね」

バイト娘「あ、この人、たしかノーベル賞を取った人ですよ!」


記者『このたびは、これまでにない精度でシミュレーションを行えるコンピュータを開発し』

記者『ノーベル賞を受賞されましたが……作ろう、と思ったきっかけは何でしょう?』

青年『僕の両親は非常に両極端でしてね』

青年『父は何でもぶっつけ本番で挑ませる人、母は何でも試させる人、だったんです』

青年『なので、完璧なシミュレーションをこなせるコンピュータを作れば』

青年『ぶっつけ本番や、闇雲に何でも試す、というのを避けられると思いまして……』







おわり

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