面接官「苦労してない人間ってのはさ、顔見れば分かるんだよねぇ~」ニヤニヤ 男「ち、ちくしょう……!」

2019年01月15日
面接官「苦労してない人間ってのはさ、顔見れば分かるんだよねぇ~」ニヤニヤ 男「ち、ちくしょう……!」

1: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:12:52.338 ID:xLXilDkA0
男「……以上が、私の志望動機です」

面接官「ふ~ん」ニヤニヤ

男「?」

面接官「君ってさぁ、これまであまり苦労せず生きてきたでしょ?」

男「はい?」

面接官「顔つきが幼いし、頬がたるんでるし、目つきも真剣さ必死さが足りない」

面接官「苦労してない人間ってのはさ、顔見れば分かるんだよねぇ~」ニヤニヤ

面接官「そんな奴を採用するほど、うちは人手に困ってないんだよねぇ~」

面接官「ってわけで、退室して結構! キツイこといっておいて採用なんてオチはないから安心してね!」

5: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:14:36.834 ID:xLXilDkA0
男「ち、ちくしょう……!」

男「落とすだけならまだしも、あんなこといわれるなんて……!」


面接官『苦労してない人間ってのはさ、顔見れば分かるんだよねぇ~』ニヤニヤ


男(だけど、図星でもあるんだよな……)

男(親は俺に甘かったし、貧乏だったとかいじめられたとかそういう経験もないし……)

男(今の面接も落ちたけど、正直そこまで危機感は抱いてないし……)

男(どうせ何とかなるだろ、と思っちゃってるんだよなぁ……)

6: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:16:21.532 ID:xLXilDkA0
男「あーあ、苦労したいなぁ……」

黒マント「苦労したいか?」バサッ

男「は?」

男(なんだ、この不気味な男は……)

黒マント「苦労したいのか?」

男「ああ……したいね! このままじゃ仕事にありつけないし!」

黒マント「どんなにきつくてもか?」

男「もちろん! きつくなきゃ苦労じゃないだろ!」

黒マント「なら苦労させてやろう……私についてこい」スタスタ

男「よ、よし!」スタスタ

12: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:19:04.161 ID:xLXilDkA0
男(なんか殺風景な部屋に来ちまったぞ)キョロキョロ

男「ここは?」

黒マント「どこでもいいだろう」

黒マント「では、さっそく苦労させてやろう」

男(いったいどんな苦労を味わわされるんだ……!?)ワクワク

15: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:21:54.423 ID:xLXilDkA0
黒マント「まずは腕立て伏せだ」

男「腕立て伏せ?」

黒マント「腕立て伏せを……とりあえず百回! 始めっ!」

男「は、はいっ!」

男「くっ、くっ……!」グッグッ…

黒マント「インチキフォームをするな! ちゃんと腕を曲げろ!」

17: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:23:04.928 ID:xLXilDkA0
男「はぁ、はぁ、はぁ……」

黒マント「次は腹筋だ」

黒マント「腹は体の中心。腹を鍛えることは全身を鍛えることにつながる」

黒マント「始めっ!」

男「うんしょ、うんしょ!」グイッグイッ

黒マント「反動をつけるな! 腹の力だけで持ち上げろ!」

19: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:24:06.604 ID:xLXilDkA0
黒マント「次はスクワットだ」

黒マント「膝を曲げるというより、尻を落とすようなつもりでやるがよい」

男「は、はいっ!」

黒マント「始めっ!」

男「ふんっ、ふんっ!」グッグッ…

男(ふ、太ももが熱い……!)

22: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:25:19.437 ID:xLXilDkA0
黒マント「メシだ、食え」

ドッサリ…

男「多いですね……」

黒マント「苦労してたくさん食えば、そのエネルギーでより苦労できるということだ」

男「分かりました、食べます!」ガツガツムシャムシャ

黒マント「……」

26: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:27:39.372 ID:xLXilDkA0
しばらくして――

黒マント「だいぶ体が出来上がってきたな」

男「おかげさまで」

黒マント「では、いよいよ私との格闘術の訓練だ。かかってくるがいい」

男「いきます!」ダッ

黒マント「甘い!」シュッ

バシッ!

男「……ぐっ!」

27: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:29:51.222 ID:xLXilDkA0
黒マント「だいぶ格闘術も身についてきたので、ナイフ術を教える」

男「ナイフ術……」

男「あの……」

黒マント「なんだ?」

男「なんかおかしくないですか?」

男「たしかに俺、苦労はさせられてますけど、なんか想像してた苦労と違うというか」

男「まるで、“戦闘”だとか“殺し”の訓練をさせられてるような……」

黒マント「やっと気づいたか」

男「え」

28: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:32:09.817 ID:xLXilDkA0
男「どういうことです?」

黒マント「ようやく気づくとは、さすが苦労してこなかっただけのことはある。勘が鈍い」

男「だからどういうことなんだよ!?」

黒マント「私はな、殺しを生業にしている人間だ」

男「な……!」

黒マント「しかし、このところ仕事がきつくなってきてな。適当な手駒が欲しかったんだ」

黒マント「そんな時、街中で苦労したいとぼやいているお前を見かけた、というわけだ」

男「俺はお前の道具にさせられるために、こんなとこまで連れてこられたってことか!」

29: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:34:21.110 ID:xLXilDkA0
男「ふざけんな! 俺をここから出せ!」

黒マント「そういわれて出すと思うか?」

男「だったら勝手に出る!」

黒マント「逃げようとするなら、死んでもらう」

男「……!」ゾクッ

黒マント「お前がここを生きて出る方法はただ一つ、私より強くなることだけだ!」

男「くっ……!」

男「いいだろう、やってやる!」

男「お前よりも強くなってやるよ! 絶対に!」

35: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:38:09.303 ID:xLXilDkA0
黒マント「今日は人体の急所について教えよう」

黒マント「急所と聞いて思いつくのは心臓だが、骨や筋肉で守られており狙いにくい」

黒マント「となると、狙うのはやはり首が望ましい。重要な神経や血管が集まっているからな」

男「なるほど……」



黒マント「今日は射撃訓練を行う」

黒マント「妙な真似をしたら、即座にこちらから撃ち抜くからそのつもりでな」

男「……分かってるよ!」

男(くそっ、まるでスキがない……)

37: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:39:51.637 ID:xLXilDkA0
黒マント「効率的に殺しをするには、体術や武器術だけでなく、あらゆる知識が必要だ」

黒マント「知識はあればあるほどいい」

黒マント「よって、今日からは勉強もさせるから覚悟するように!」

男「うえ~……マジかよ」



ドカッ! バキッ! ガッ!

黒マント「ふむ、だいぶよくなってきたぞ」

男「ホ、ホントか!」

黒マント「まだまだ私には及ばんがな」

39: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:41:49.525 ID:xLXilDkA0
そして――

黒マント「明日、最終試験を行う」

男「!」

男「もし、それをパスできれば……俺はここから出られるってことか?」

黒マント「そういうことだ」

黒マント「今までの苦労の成果……見せてみるがいい」

男「明日だな! よーし、今夜はぐっすり寝て、試験を絶対パスしてやる!」

黒マント「……」

41: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:44:21.828 ID:xLXilDkA0
AM0:00――

男「すぅ、すぅ……」





黒マント「……」ザッ

黒マント(もう……“明日”になったぞ)

43: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:46:13.765 ID:xLXilDkA0
黒マント(この襲撃をかわせなければ、それまでの男だったということ!)


シュバァッ! ガキンッ! ――ザクッ!


男「ハァ、ハァ、ハァ……」

黒マント「ぐふっ……見事だ……」ニヤッ

ドサッ…

男「お、おいっ! しっかりしろ!」

45: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:48:19.082 ID:xLXilDkA0
男「これが最終試験だったのか……!?」

男「血が止まらねえ! なんでこんなことに……!」

黒マント「気にするな……どのみち私は長くなかった……」

男「え!?」

黒マント「病気と……長年の無理がたたってな……」

黒マント「そして、自分の死期を悟った私は……」

黒マント「誰かに……私の持ってるものを伝えたくなった……」

男「そうか、それで……!」

黒マント「ああ……苦労したがっていたお前を選んだ、というわけだ……」

47: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:50:14.704 ID:xLXilDkA0
黒マント「お前は……見事に私を超えた……」

黒マント「だが、殺し屋になる、必要はない……自由に生きろ……」

黒マント「ここで苦労して、体を鍛え、知識を蓄えた、お前なら……」

黒マント「どんな仕事でも……やっていける……」

黒マント「とんだワガママに付き合わせちまって……すまない……」

男「しっかりしろ!」

黒マント「……」ガクッ

男「うわああああああああああああああああああああっ!!!」

49: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:52:15.524 ID:xLXilDkA0
男「ふざけんなよ……」グスッ

男「人を散々苦労させといて、最期に自由に生きろ、だと?」

男「だったら俺は自由に生きてやるさ」

男「俺はあんたの黒マントを受け継ぐ……」バサァッ

男「あんたを超える殺し屋になってやる!」



…………

……

52: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:55:04.713 ID:xLXilDkA0
……



仲介人「まさか、あの黒マントの後をあんたみたいな若者が継ぐとはね」

男「なにか問題があるのか?」

仲介人「いや……」

仲介人(この殺気、この風格、この威圧、なにもかも黒マント以上だ……!)

仲介人「じゃあ、依頼人を紹介するよ」

依頼人「こ、こんにちは」

男「さっそく仕事の話に入ろう。誰を始末すればいいんだ?」

53: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:57:12.996 ID:xLXilDkA0
依頼人「始末して欲しいのは、ある面接官です」

男「理由は?」

依頼人「ヤツは圧迫面接が大好きで、これまで何十万人もの人間を廃人に追い込んできました」

依頼人「そして、私の娘も……今は精神病院に……。回復は絶望的だとか……」

依頼人「お願いします! あの鬼畜をあの世に送って下さい! 娘の仇を討って下さい!」

男「分かった……引き受けよう」

依頼人「あ、ありがとうございます!」

男(面接官、か……)

55: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 03:59:28.909 ID:xLXilDkA0
面接官「ククク……今日もいっぱい廃人に追い込んだぞ」

面接官「廃人になった奴の履歴書を、こうしてコレクションするのが私の趣味なんだよなぁ~」

面接官「個人情報保護法なんて知ったことか!」





男「やはり、お前だったか……」バサッ

57: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 04:03:12.681 ID:xLXilDkA0
面接官「な……泥棒!?」

男「泥棒ではない……殺し屋だ」

男「お前に圧迫された後、散々苦労して……ここに帰ってきたよ」

面接官「な、なにをいってる? 私はお前なんか知らないぞ!」

面接官「お前ほど苦労してそうな人間を見たことがない! なんなんだ、その異常な目つきは!」

男「……仕事をさせてもらう」

ザシュッ!

面接官「ぐおおぉっ……!」

男「即死する急所は外したが、絶対に助からない傷をつけた……」

男「大勢の求職者を苦労させた分、せめて死ぬ時ぐらいは苦労して死んでいけ……」

62: VIPがお送りします 2018/05/31(木) 04:06:07.854 ID:xLXilDkA0
面接官「い、痛い……ぐ、ぐるじい……!」

面接官「お、お前は……な、何者、だ……!?」

男「……」バサッ

男「俺は闇夜に羽ばたく黒き鴉……狩りの玄人――殺し屋“クロウ”だ」







―END―

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