男「空き巣に入ったら虐待されてる幼女とか孤独死しそうなジジイとかに出会った」

男（ようし、この家に空き巣に入ってやる！）

男（カギがかかってない……ラッキー！）

ｶﾞﾁｬｯ…

ｺｿｺｿ…　ｺｿｺｿ…

男（家の中も静かなもんだ……間違いなく留守だな）

男（お、あの部屋に金目のもんがありそうだ！　ドアを開けて――）

ｶﾞﾁｬｯ

幼女「んーっ！　んーっ！」

父「ぐへへへ……大人しくしろ。父ちゃんが気持ちよくしてやるよ。なァに、すぐ終わる……」





男（ええええええええええ！！？）

男「なにやってんだ！」

父「わわっ、あんた誰！？」

男「空き巣だ！」

父「空き巣！？」

男「えーと……自分の子供を虐待するなんてのは、悪いことなんだぞ！」

父「なんだとォ！？」

男「空き巣パンチ！」

バキィッ！

父「ぐへえっ……！」ﾄﾞｻｯ

男「ハァ、ハァ、ハァ……倒しちゃった」

男「君、大丈夫か！？」

幼女「……ありがとう」

男「ひどい傷だ……あいつにやられたの？」

幼女「うん……いつもは殴るだけだけど、今日はスカートまで脱がそうとして……」

男「親が実の子に……まったく世も末だ」

幼女「ところでお兄さん、あなた空き巣なんだよね？」

男「え、いや、まぁ……」

幼女「お願い、仲間に入れて！　あたしも空き巣を手伝わせて！」

男「え！？　それはちょっと……」

幼女「でないと、通報しちゃおっかな～……顔も覚えたし」

男「うぐっ……わ、分かったよ！　仲間にしてあげるよ！」

幼女「やったーっ！」

幼女「そうと決まれば、どこかに空き巣に入ろう！」

男「ノリノリだなぁ」

幼女「鉛筆転がして、どこにするか決めよっか！」

男「いやいや、こういうことは慎重に決めないと……」

男「さっきみたいに、家にいる人とはち合わせたら大変だ」

幼女「そしたら、このナイフで脅すなり、刺すなりしちゃえばいーよ」ｷﾞﾗｯ

男「なんでそんなもん持ってるの！」

幼女「今日という今日はお父さんの頸動脈かっ切っちゃおうと思って、準備してたの」

男（俺はこの子を救ったんじゃなく、あの父親を救ったのかもしれないな）

次の家――

男「この家は誰もいなさそうだ……ここにしよう」

幼女「うん！」

男（カギはかかってない……）ｺｿｯ…

幼女「おじゃましまーす！」

男「わっ、声出しちゃダメ！」

男（金目の物がありそうな部屋といえば……あっちかな）ｺｿｺｿ…

老人「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ！」

老人「ううっ……ワシはこのまま一人寂しく死ぬのか……」





男（またかよ！！！）

幼女「今にもくたばりそうだね。トドメ刺しちゃう？」

男「いやいやいや、ダメだって！　助けなきゃ！」

男「大丈夫ですか！？」ﾕｻﾕｻ

男「うーん、全然ダメだ……」

幼女「あれしかないんじゃない？　マウス・トゥー・マウス」

男「それしかないか……ええい、ままよ！」

男「ふんっ！」ﾌﾞﾁｭｯ

老人「！？」



男「お”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”！！！」

老人「お”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”！！！」

老人「いきなり何すんじゃ！」

老人「おかげで、止まりかけてた呼吸と心臓がすっかり元通りじゃ！」

男「すみません……」

老人「お前たち、何者じゃ？　地域のボランティアか何かか？」

男「いえ、空き巣でして」

老人「空き巣！？」

男「だけど、ここはお留守じゃなかったんで、すぐ出ますから！」

幼女「おじいちゃん、じゃあねー！」

老人「待てい」

男「え」

老人「ワシも連れてってくれ」

男「いや、だけど、俺たち空き巣ですよ？」

老人「家に一人でいてもつまらんからのう」

老人「それに、ワシを孤独死寸前にまで追い込んだ今の世の中に、復讐してやりたいんじゃ！」

男「……分かりました、いいですよ」

幼女「やったーっ！　空き巣トリオ結成！」

幼女「じゃあ、次はどこを狙うー？」

男「うーん……また家に人がいるってのは勘弁だから、今度こそ慎重に……」

老人「面倒じゃのう。いっそ空き巣はやめて、強盗にしたらどうじゃ？」

老人「これでも柔道五段の腕前じゃぞ？」

幼女「あたしもそっちの方がいいー！　ナイフ使いたいー！」

男「絶対ダメ！」

幼女「じゃあお兄さん、空き巣空き巣いうけど、今までどのぐらいの数こなしたの？」

老人「10？　それとも20ぐらいかの？」

男「……ゼロ」

幼女「え？」

男「ゼロだよ！　悪いかよ！」

幼女「なーんだ、性知識は豊富だけど、本番こなしたことない状態だったんだ！」

男「嫌なたとえ方すんな！」

幼女「あたしなんか、この年で実の親から本番させられそうになったのに」

男「重すぎるジョークやめろ！」

老人「しかし、お前さんはなぜ空き巣になろうと思ったんじゃ？」

男「俺は散々貢いだ彼女に捨てられ、友達に騙されて借金を背負わされ」

男「勤めてた会社は給料未払いで倒産、親兄弟にも厄介払いで絶縁され……」

男「借金のカタでなにもかも持っていかれ、家の中も、心も、文字通り空っぽになってしまった」

幼女「踏んだり蹴ったりだねぇ～」

老人「さらに投げられたり叩きつけられたりって感じじゃな」

男「こんな空っぽ尽くしの俺に相応しいのは空き巣だな、と思って空き巣を始めたんだよ」

老人「なるほどのう。志望動機としては上々じゃ」

男「だから、空き巣以外のことはしたくないんだッ！」

幼女「そんな力強くいうことじゃないけど、分かったよ。協力する！」

老人「ワシもじゃ！　絶対空き巣を成功させようぞ！」

男「二人とも、ありがとう！」

男「よし、決めた！」

男「次の家はあそこにしよう」

幼女「かなり大きいし、お金いっぱいありそうだね」

老人「家の中に誰かがいる様子もないしのう。こりゃ穴場かもしれんぞ」

男（三度目の正直……今度こそ成功させてみせる！）

家の中――

男「うわっ……！　埃だらけだ……」

幼女「いやぁぁぁっ！　蜘蛛の巣！　やだ、取って取って～！」ﾈﾊﾞｰ…

老人「こりゃ……留守の家どころか廃墟じゃな」

男「廃墟を家探しするのは、空き巣とはちょっと違うなぁ」

男「二人とも、ここはもう出よ――」

「誰ですか～？」

三人「！？」ﾋﾞｸｯ

老人「人がおったのかぁぁぁっ！？　まずい、目撃されてしまったぞ！」

幼女「通報されちゃう！　早く刺して！　刺してぇぇぇっ！」

男「…………！」

「あ、私を殺したいんですか？　ご心配なく……」

男「へ？」

「私、もう死んでますから」

男「ってことは、あなた……」

幽霊「はい、幽霊なんです」

幼女「なーんだ」

老人「んもう、ビックリさせおって……」

男「俺たちは空き巣トリオなんですけど……あなたは何者ですか？」

幽霊「私、この家の主です」

幽霊「ずっと引きこもっていたら、引きこもってるうちに死んじゃいまして」

幽霊「成仏もできず、ずっとこの家をさまよってたんです」

男「そうだったんですか……」

幽霊「私にあなたたちに何かできる力はありませんし、このまま出ていってもらって結構ですよ」

幼女「うん、そうしよ！」

老人「こんな辛気臭いところに用はないわい」

男「…………」

男「あの、よかったら……この家、掃除しますよ」

幽霊「え、しかしそれは……」

幼女「なにいってんの！　もう帰ろうよ！」

老人「そうじゃ！　入った家を掃除する空き巣なんて聞いたことないわい！」

男「だけど、この人は幽霊だから自分じゃ掃除できないだろうし」

男「ずっとこんな汚いところで暮らすのは死ぬより辛いだろうから……」

幼女「あ～もう！　しょうがないな！」

老人「リーダーのいうことじゃ。手伝ってやるわい！」

男「二人とも、ありがとう！」

男「ハタキを……」ﾊﾟﾀﾊﾟﾀ

男「うえっ！　すっげえホコリ！」ｹﾞﾎｹﾞﾎｯ


幼女「雑巾がけーっ！」ﾄﾞﾀﾀﾀﾀﾀｯ

老人「うおおおおおっ！」ﾄﾞﾀﾀﾀﾀﾀｯ

幼女「あたしはウサイン・ボルトーッ！」ﾄﾞﾀﾀﾀﾀﾀｯ

老人「ワシはカール・ルイスじゃーッ！」ﾄﾞﾀﾀﾀﾀﾀｯ


男「二人とも、もう少し静かに掃除しろ！　てか爺さん、元気すぎだろ！」


幽霊「皆さん……」ｳﾙｯ…

ｷﾗｷﾗｷﾗｷﾗｷﾗ…


男「やっと終わった……！」

幼女「キレイになったーっ！」

老人「ワシの頭よりも磨かれておるわい」

幽霊「空き巣トリオの皆さん、本当にありがとうございます！」

男「なんのこれしき、これでだいぶ過ごしやすくなったでしょ？」

幽霊「いえ……私がもうここで過ごすことはありません」

男「え？」

幽霊「この家がキレイになったことで、この世への未練は消えました。私は成仏します」

幽霊「そして――」

幽霊「実は私、生前に遺書を残していたんです」

幽霊「『死後、誰であれ、私の家を掃除してくれた者にこの家と遺産を託す』と……」

幽霊「正式な遺書ですので、おそらく効力はあるはず」

幽霊「どうかお三方で、私の財産をお受け取り下さい」

老人「おお、やったわい！」

幼女「情けは人のためならずってホントだねー！」

ｷｬｯｷｬｯ…

男「…………」

男「あの……幽霊さん」

幽霊「はい？」

男「よかったらまだ成仏せず、俺たちと一緒に暮らしませんか？」

幽霊「しかし、生きてるあなたがたの中に私なんかがいたら……」

幼女「そうだよ！　せっかくキレイになったんだから、大勢で住まないともったいないよ！」

老人「ワシももうすぐ死ぬ身として、死んだらどんな感じか先輩に話を聞きたいしのう」

幽霊「……では、お言葉に甘えさせていただきます」ｸﾞｽｯ…

………………

…………

……

男（あれから、やたら面倒な手続きを経て、この家と莫大な遺産は俺たちのものになり――）

男（幼女ちゃんは俺が引き取れることになり、爺さんもますます元気になった）

男（幽霊も成仏せず、俺たちと仲良く暮らしている）



男「新しい学校はどうだ？」

幼女「うん、とても楽しい！　今日もワルガキどもをボコボコにしちゃった！」

男「クラスメイトをあまり虐待するなよ」

男「爺さんは？」

老人「ゲートボールで300ヤードかっ飛ばしたわい！」

男「ボールの行方がすごく気になる」

男「幽霊さんは？」

幽霊「家の中をゆったり漂いながら、この世にいる喜びを噛み締めてますよ」

男「あなたが一番まともだ……！　成仏させなくてよかった……！」

老人「そういうお前さんは？」

幼女「働く必要なんてないのに、律義に就職活動なんてしちゃってさ」

男「俺は家に一人でいる人を世話したり、話し相手になってあげたりする仕事についたよ」

老人「とても元空き巣とは思えん職業じゃのう」

幼女「だけど向いてるー！　絶対天職じゃん！」

幽霊「きっと大勢の孤独な人達を救うことになるでしょうね」

男「そううまくいくか分からないけど、頑張るよ」

男「じゃ、夕ご飯にしようか。幽霊さんにはお供え物を。いただきます！」

三人「いただきまーす！」

男（かくして、空っぽだったはずの俺の家と心は、こんなに賑やかになってしまった）

男（もう二度と、俺が空き巣をすることはないだろう）

男（だって俺には、こんな素晴らしい仲間達がいるんだから……！）







おわり