男「とある平日、春の夜に」

2019年03月07日
男「とある平日、春の夜に」

1: SS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 18:14:11.71 ID:SziaXQKR0
男「……やっちゃったなぁ」

男(今日は午後が開いたからって、昼寝をするんじゃなかった)

男(特にやる事もないし……どうしよう)

男(……うん、どうせしばらくは眠れないんだ)

男(よし)

男「散歩にでも行こうかな」



2: SS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 18:26:21.06 ID:SziaXQKR0
男(もうすっかり春だなぁ)テクテク

男(冬が終わって、緩やかに包み込んでくる、春の夜の空気だ)

男(そう言えば、夜に散歩するなんて初めてだな)

男(お、駐車場に猫が)

男「……おお、もう一匹」

男(なんだなんだ? 次々と遭遇するじゃないか)

男(夜は猫の時間って訳か……目が光ってて怖い)

男(……そう言えば、こんなに静かな道も珍しいな)

男(僕の足音だけが響く、真っ暗な世界)

男(まるで僕だけがそこに存在しているようだ)

グウゥウウゥ……

男「……」

男(……とりあえず、何か食べたい)

3: SS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 18:48:09.24 ID:SziaXQKR0
アリガトウゴザイマシターッ

男(さて、どこで食べようかな)

男(……お、丁度良い公園がある。ベンチに座らせてもらおう)

男(通報されたら困るけど)ヨイショッ

男「いただきます」パン

男「うまっ……焼き鳥うまっ……」

男(ふう、おでんも美味しい……ちくわがあって良かった)

男(身体の芯に沁みるねえ)

男「へえ、ドーナツも思ったよりちゃんとしてる」モサモサ

男(最近のコンビニは、こんなものも置いてるんだなぁ)

男(……あれは北斗七星? よくわかんないけど)

男(……昔は、友人達と夏の夜、旅行先で星空を眺めたりしたなぁ)

男(彼らは今、どうしているんだろう)

男(……また会いたいな)

男「……ごちそうさま。さて、行くか」スッ

4: SS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 19:08:25.67 ID:SziaXQKR0
たん たん たん たん

男(春の朧月がほのかに照らす夜、一人僕の足が奏でる音)

男(辺りには誰も居ないけれど、それが何だか妙に居心地が良い)

男(「他者」に介入されない、僕の夜)

男(たまには、そんな夜があっても良いんじゃないか)

男(ああ、でも桜がもう散りそうだな)

男(緑が大分混ざってきてる。葉桜に世代交代はもうすぐだろうな)

男「……ん」

男(普通に通り過ぎる所だった。こんな所に……!?)

男「――おぉ……」

男(それは小さな公園だった)

男(遊具はブランコと埋まったタイヤだけ、後は小さなベンチが一つ)

男(しかし、そこには見事な桜が咲き誇っていた)

男「夜桜、か……」

男(ぼろぼろの灯りが、その夜桜をより幻想的なものにしていて)

男「……良いなぁ」

男(きっと、この公園はあまり使われていないだろう)

男(今じゃなければ、誰にも見向きもされないかもしれない)

男(その「今」に巡り合えた事に感謝しなくては)

男(さて、そろそろ出ようかな)

男「バイバイ、また来るよ」

5: SS速報VIPがお送りします 2016/04/13(水) 22:35:58.06 ID:rBGFuxEt0
男(静かだなぁ)テクテク

男(……お、木に植物の蔓がびっしり絡まってる。すごい生命力だなぁ)

男(ッ……ああ、この音は猫除けの機械か。この超音波みたいなの)キーッキーッ

男(ん、あれは?)

男(あ……池だ)

男「おお、これは良い……」

男(静かな池に、ぷかりと浮かぶ大きな満月)

男(水面に映る風景というのは、どうしてこんなにも心に響くのだろう)

男(今この緩やかな月を見れているのは、僕だけだ。何だか申し訳ない)

男「……静かだなあ……落ち着く……」

男(良い所を見つけてしまった。また暇な時は来てみよう)

男「……満足だ。さて、次はあっちへ行こうかな」

6: SS速報VIPがお送りします 2016/04/13(水) 22:40:46.45 ID:rBGFuxEt0
たん たん たん たん

男(散歩は好きだ)

男(普段は見えない部分が、のんびりと歩いていると突如見えてくる)

男(僕らが忙しさに追われ、見えていない部分。それが浮き彫りになるから不思議なものだ)

男(それが夜だと、一層景色が違って見える)

男(いつからだろう? 夜が平気になったのは)

男(子供の頃は、真っ暗な景色が、ひどく怖かった)

男(見知った道でさえ、未知の世界のように感じていた)

男(友人と行った知らない場所。夕方になり、陽が暮れかけるだけで、不安に心を掻き毟られていた)

男(家にたどり着き、家族の顔を見るだけで、ほっとしたものだ)

男(あの時から、どれだけの時が経ったんだろう)

男(勿体ないな、あの学生時代。やる気が起きなくて、ただぼんやりと日々を過ごしていた)

男(何をするにも自由だったあの時代。あの時に、何か大切な事を忘れてきてしまった気がする)

男(子供から大人になるその隙間。僕らは、その隙間に何かを置いてきてしまうのではないか)

男(……だけど、きっと、それでいいんだろう)

男(そうして失ったものを、僕らは時折懐かしむ)

男(それが出来ているうちは、僕らの心には余裕があるはずだ)

男「……さて、そろそろ戻るか」

男(静かな世界。春の夜の暖かさに包まれながら、僕は一人、歩き出した)

7: SS速報VIPがお送りします 2016/04/13(水) 22:43:20.80 ID:rBGFuxEt0
相変わらず短いですが、終わりです。ありがとうございました。

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