ココイチ店長「ご注文は？」女「10辛」おっさん「納豆カレー」地味娘「福神漬け」会社員「ほうれん草カレー」客「ココイチたけぇぇぇ！」

2019年01月26日

店長（この店に来る客の中には、特に印象に残る客が五人いる……）

店長（なんとなく、今日はその五人が勢ぞろいするような気がする）

ｳｲｰﾝ…

店長（来た）

店長「いらっしゃいませ」

一人目――

店長「いらっしゃいませ。カウンター席へどうぞ」

女「……」ｽｯ

店長「ご注文は？」

女「ポークカレーの10辛、量は普通で」

店長「かしこまりました」

店長（この女性客はいつも10辛を頼む）

二人目――

おっさん「ふぅ～、あんな未熟者と結婚？　バカげたことを……！」

店長「あの～」

おっさん「冗談じゃない。絶対許すもんか。ったく……」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ…

店長「ご注文は？」

おっさん「おお、すまなかった」

おっさん「納豆カレー！」ﾋﾞｼｯ

店長（このおっさんはいつも納豆カレーを頼む）

三人目――

店長「お待たせいたしました、チキン煮込みカレーです」ｺﾄｯ

地味娘「ありがとうございます」

地味娘「じゃあ福神漬けを……」ｻｻｯ

ﾄﾞﾊﾞｯ　ﾄﾞﾊﾞｯ　ﾄﾞﾊﾞｯ

ﾄﾞﾊﾞｧｧｧｧｧ

店長（この地味な女の子は、いつも福神漬けを大量にかける）

四人目――

会社員「あーあ、まーた課長に怒られちゃった……。オレの有能さを分かってねえ……」

店長「ご注文は？」

会社員「ほうれん草カレー！」

店長「量と辛さは普通でよろしいですか？」

会社員「うん！」

店長（この若いサラリーマンは、必ずほうれん草カレーを頼む。鉄分を取りたいのだろうか？）

五人目――

店長「ご注文は？」

客「チキンカツカレー！」

客「ココイチたけぇ！」

客「ココイチたっけぇ！」

客「ココイチたっけぇぇぇぇぇ！！！」

店長（このお客さんはこれが口癖である）

店長（最初はカレーぶっかけて叩き出してやろうと思ったが、もう慣れた。店内BGMみたいなものだ）

店長（この人目当てに来店するファンも多い）

女「……」ﾊﾟｸﾊﾟｸ

おっさん「うん、うまい」ﾈﾊﾞｰ…

地味娘「……」ﾎﾟﾘﾎﾟﾘﾓｸﾞﾓｸﾞ

会社員「いただきまーす！」

客「ココイチたっけぇぇぇぇぇ！！！」ﾑｼｬﾑｼｬ

店長（この五人はそれぞれ完食し――）

女「ごちそうさま」

おっさん「ごっそさん！」

地味娘「ごちそうさまでした……」

会社員「お会計お願いしまーす！」

客「ココイチたっけぇぇぇぇぇ！！！」

店長（――金を払って帰っていく）

店長（今度……ひとりひとりと会話（トッピング）してみるかな）

一人目――

店長「ご注文は？」

女「ポークカレー、10辛、量は普通で」

店長「……」

女「？　早く作りなさいよ」

店長「調理前に一つ、よろしいでしょうか？」

女「どうぞ」

店長「前から一度うかがいたかったんですが、なぜいつも10辛を？」

女「そんなの決まってるでしょ」

店長（辛党だからだろうな）

女「現実のが何十倍も辛（から）いからよ」

女「それに比べれば、たかがカレーの辛さなんてどうってことないわ」

店長「……なるほど」

店長（きっとこの人は想像を絶するような辛い人生を送ってきたのだろう）

店長（インド出身なのかもしれないな）

店長「たしかに現実は、とても辛いです。スパイスが効きすぎている」

店長「ならば、たまにはこんなカレーはどうでしょう？」ｼｭﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

女（いったいなにを作ってるというの……！？）

店長「どうぞ」ｻｯ

女「いただきます」ﾓｸﾞｯ

女「こ、これは……！？」

女「甘いっ……！」

店長「そう、地上最甘“5甘”のカレーです」

店長「現実、辛いことばかりじゃありませんよ。甘いことだってあります」

店長「もっと気楽に生きて下さい」

女「……そうね。ありがとう。あたし、こんなに優しくされたの初めて……」

女「ところで、このカレーの代金は？」

店長「払って下さい」

女「ふふっ、そこは甘くないのね」ｷｭﾝｯ

二人目――

おっさん「納豆カレーね」ﾑｽｯ

店長「かしこまりました」

店長「ところで、最近機嫌が悪いことが多いですね」

おっさん「そうなんだよ、聞いてくれる？」

おっさん「実は娘がさ、結婚したい人がいるって、男を紹介してきたんだけど」

おっさん「そいつがどうにも頼りにならなそうな奴で、とても認めるわけにいかんのだよ」

おっさん「だけど、私のいうことを聞いてくれなくてねえ。困ったもんだ」

店長「……」

店長「お客さんはなぜ、納豆カレーを好むんです？」

おっさん「え、なんで急に？」

店長「いえ、前から気になってたもので」

おっさん「そうだねえ……私は納豆カレーなんてゲテモノだ、と昔は思ってたんだが」

おっさん「いざ試しに食べてみたら、これが案外うまくてねえ」

おっさん「こういう意外な組み合わせもあるのか、と驚いたからだよ」

店長「……それですよ」

おっさん「は？」

店長「納豆とカレーのように、お嬢さんと相手の男性も相性ピッタリかもしれない」

店長「“意外な組み合わせ”かもしれないじゃないですか」

店長「むやみやたらに結婚を反対するより、もっと対話してみてはいかが？」

おっさん「むむ……たしかに」

おっさん「私も頑固すぎたかもしれん。もう一度……話し合ってみるか」

店長「納豆らしく……のびのびとね」

三人目――

店長「なすカレーです」

地味娘「ありがとうございます」

地味娘「……」ﾄﾞﾊﾞｯﾄﾞﾊﾞｯ

ﾄﾞﾊﾞｧｧｧｧｧｯ

地味娘「いただきます」

店長（相変わらず、福神漬けを山盛りにしてる……）

地味娘「……」ﾊﾟﾘﾎﾟﾘﾊﾟﾘﾎﾟﾘ

地味娘「はぁ～……」

店長「なにかお悩みでも？」

地味娘「ほら、私ってこの通り、地味じゃないですか？」

地味娘「だから、それがいつもコンプレックスで……私はしょせん脇役なのかなぁ、と」

店長「……」

店長「いいじゃないですか、脇役でも」

地味娘「！？」

店長「あなたがよく食べている福神漬け……決して主役ではないですが」

店長「カレーの味を何十倍、何百倍、何千倍にも引き立てるポテンシャルを秘めています」

店長「あなたも福神漬けのような脇役を目指せばいいのです！」

地味娘「そうか……！」ﾊﾟｧｧｧｧ

店長「そうして己を磨いていけば、いずれ主役にだってなれますよ」

地味娘「はいっ！」

地味娘「よぉ～し、福神漬けいっぱい食べよ！」

ﾊﾟﾘﾊﾟﾘﾎﾟﾘﾎﾟﾘﾊﾟﾘﾎﾟﾘﾊﾟﾘﾎﾟﾘﾎﾟﾘ…

店長「ちょっ！」

四人目――

会社員「……」

店長「どうぞ、いつものカレーです」ｺﾄｯ

会社員「……」ｽﾞｰﾝ

店長「？　どうしました、お客さん。食べないんですか？」

会社員「……うぐぐ……」

店長（まさか……トイレか！？）

会社員「うわぁ～～～～～～～ん！！！」

店長「ど、どうしました！？」

会社員「オレ……オレ、今日社会人失格だって課長に怒られちゃいまして」

店長「ほう……」

会社員「なぜです！？　契約だってちゃんと取ってるし！　なぜ怒られなきゃならないんだ！」

会社員「オレは一人で動いてちゃんとやってるっていうのに！」

店長「！！！」ﾋﾞﾋﾞﾋﾞｯ

店長「お客さん、答えは……カレーにあると思いますよ」

会社員「オレのカレーに！？」ﾊﾞｯ

会社員「こ、これは……ッ！」

≪ほうれん草≫

ジャキーンッ！！！

会社員「そうか……オレは手柄を焦るあまり、社会人基本中の基本“報・連・相”を怠っていた……！」

会社員「なんという初歩的ミスっ……！」

店長「なまじ仕事ができる分、独走して報告や連絡、相談ができてなかったんでしょう」

会社員「まさか、こんなミスをしてたなんて……！」

店長「でも大丈夫」

店長「これからはしっかり“報・連・相”すればよいのですから。ここ一番という時にね」

会社員「はいっ！」

五人目――

客「たけぇぇぇ！」

客「たけぇぇぇぇぇ！」

客「ココイチたけぇぇぇぇぇぇぇ！！！」

店長（今日もよく吼えてるな……いい声してるよ。美しいバリトンボイスだ）

店長「お客さん」

客「ん？」

店長「ウチのカレーライスは高いですか？」

客「たけえよ！」

客「ちょっとトッピングしたら、すぐ1000円超えちまうじゃねーか！」

客「強気な値段設定ってレベルじゃねーぞ！！！」

店長「では、なぜそれなのにウチでいつも食べて下さってるんです？」

客「この店……あったけえから」ﾎﾞｿｯ

店長「！！！」ｷｭﾝｯ

店長「どうやら、今まで私はあなたを誤解していたようです」

客「え……」

店長「褒めていただいたお礼に、おまけにフライドチキンもトッピングしましょう」ｻｯ

客「マジで！？」

店長「もちろん料金は追加しますが」

客「せけぇ！」

店長（こうして私は一人ずつと会話（トッピング）し――）

店長（みんな、笑顔で帰っていった……）

店長（果たして、次来た時にはどうなってることやら）

――――

――

―

女「人生って時に甘くて、時に辛いものなのね。あたしは辛党だけど」

おっさん「いやぁ～、娘と結婚したいといってた男が、なかなか粘り強いいい男でね……」

地味娘「私、みんなから福神漬けみたいだって慕われるようになったんです！」

会社員「しっかり“報・連・相”して、若手ナンバー1と呼ばれるようになりました！」

客「ココイチにくびったけぇぇぇぇぇっ！！！！！」

店長（……トッピング、大成功！）

人生はほんの少しのトッピングで、より豊かになるのです――

―　終　―

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