男「歪の城」

2019年03月13日
男「歪の城」

1: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 22:22:34.15 ID:9mYBi4f3o
男(◯◯県の北側にある、ド田舎)

男(そこのド田舎にポツンとそびえ立つボロっちい一軒家)

友「おー、意外とでけえな」

男(地元の人間こそ近付かないが、俺達みたいな奴らからはよく知られている)

男「…歪の城」

男(何でただの一軒家がそんな大層な呼ばれ方をしているのかは分からん)

男(が、しかしそう呼ばれるにはそれ相応の理由があるんだろう)

友「行こうぜ、男」

男「…おう」



2: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 22:25:04.66 ID:9mYBi4f3o





友「なあ、最近俺たちマンネリ気味だよなあ」

男「何が?都市伝説とか色々調べたりしてんじゃん、口裂け女とか」

友「ばーか、何十年前の話だよそれ、しかも実際の真相はただのキチガイ女と来た」

男「人に聞いただけだろ、なんにも裏取れてねえじゃん」

友「そもそもそんな昔の奴、人に聞く以外にどうしろってんだよ」

男「昔の資料とか」

友「それも眉唾、偽モン、あー、つまんねえ」

男「…」

友「何か面白い怪奇現象とかねえかなあ」

3: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 22:28:24.22 ID:9mYBi4f3o
男(こいつの「面白そう」に付き合い始めてもう5年か…)

男(我ながら無駄な時間を過ごしてるなあ)

友「なあ、他になんかねーのかよ?」

男「…お前はいっつも俺頼りだな」

友「頼りにしてるからな」

男「ねーよ…そんな都合よくあるか」

友「都市伝説とか怪奇現象調べても裏取れなかったり嘘くせえのばっかだったり、単に見間違いだったり…」

友「あー!もう!何かねえのか!?俺の魂を震わせるような何かはよぉ!」

男「…だからそれを今探してるんだろ…」カチカチッ

友「たはー…つまんねえな、本当」

男「…」カチッ

4: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 22:36:04.61 ID:9mYBi4f3o
男「…このサイトは見たことないな…」カチッ

オカルト研究会へようこそ
ここでは我々にとって特に身近な、日本で起こった怪奇現象を中心に活動しています

男(ありがちな奴だな)

男(髪の毛の伸びる人形…のっぺらぼう…うげ、また口裂け女…)

男(腎臓泥棒…試着室…どれも見たことあるヤツばっかだな)

男「…ん?」

男「…?」

男(感想一覧…何だこのポエム…)

歪(いびつ)な干渉を受けた時、呪いの扉は姿を見せる
のこり僅かになった灯火に自らを注いでより一層火は大きくなる
城に残った魂は罪を決して忘れずに連れていく

男「…」

友「…なんだなんだ!?」

男「…いや…別に…何でもねぇ…」

男(…歪の城…?なんか気持ち悪い響きだな)

友「なんだこのポエム」

男「だよな」

5: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 22:39:47.60 ID:9mYBi4f3o
不正を暴くための十の方法

歪な愛

空間の歪みと時間の関係

男「…」

男(何かネタになりそうな本が無いか見に来てみれば…)

男(何思い浮かべてんだあほらしい…)

男(弱小サイトのコメント欄の縦読みが偶然そう見えたからって何だってんだ…)

男「…疲れてんのかな…俺」

男「…歪の城、ね…馬鹿らしい…」

6: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 22:44:36.84 ID:9mYBi4f3o
自宅

男(結局今日も収穫は無しか…)

男(数日面白そうな話がないだけでアイツ不機嫌になるからなー)

男(…)カタカタ

男「歪の城…っと」

男「…」

男「…え?」

男(…ヒットした…?嘘だろ?)

男(…いや、それ自体なら単なる偶然だろ…?)

男「…」カチッ

男「…いや、でも…これは…」

男「…」


歪の城

◯◯県の北に位置する何の変哲もない一軒家
しかしそこではよく怪奇現象が起こるという
具体的なものを挙げればキリがなく、それらを事細かに分類することにも意味は無い
ただそれらを経験したものは皆口を揃えて「悪魔を見た」と言う


男「…」

7: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 22:46:50.27 ID:9mYBi4f3o
男「…」

男「…」

男「…」プルルルル…

男「…」プルルルル…

『あっ!?何だよこんな夜遅くに!?』

男「…どうだ?面白そうなことは見つかったか?」

『はあ?見つかんねーよ、つーかそういうのはお前の役目だろ』

男(…こいつ…)

『俺は明日も全力で生きるためにもう寝るんだよ』

男「見つかったぞ」

『…は?』

男「面白そうなもん、見つかった!」

8: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 22:50:50.19 ID:9mYBi4f3o





男「…確かそんな感じだったな…」

友「何ブツブツ言ってんだよ、早く入ろうぜ」

男「…ん、あぁ…」

友「それにしてもしっかりあるじゃねーか」

男「え?」

友「あいつらだよ、聞き込みしても知らねえの一点張りだ」

男「…あぁ、地元の人ね…」

友「何か知ってんだろあれ」

男「さあな、ただ知らなくても自分の住むところが悪いイメージ持たれちまってたらまぁ…」

友「気持ちも分かるってか」

男「知らねー知らねー知りたくねーって奴な」

友「なるほど」

9: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 22:53:23.67 ID:9mYBi4f3o
男「結構有名らしいな」

友「そりゃ俺たち見てえなのからすればな」

男「俺達は知らなかったけどな」

友「だな、まだまだ修行が足りねえぜ」

男「何の修行だよ…」

友「うし、行くか!」

男「…」

ギギギ…

友「…この扉…重お…!!」

男「…ぐおっ…マジだ…!」

ギギギ…!!!

友「…おおお…!!」

男「…んぐ!!」

ドプッ…

男「…!?」

10: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 22:56:38.13 ID:9mYBi4f3o
男(…なんだこの…)

男(…生暖かい…いや、気持ち悪い…!)

男(…空気…!?いや、まるで粘ついた泥の中にいるような…!)

男(気持ち悪い…!!気持ち悪い…!!!)

ドサァァァッ!!!

男「…はぁっ…!はぁっ…!!」

友「…うげぇぇえ…!!気持ち悪い…!」

男「…」

男(…体が重い…プラシーボ効果ってやつか…?)

男「…」

友「…お、おい…」

友「おい!!男…!!!」

男「…ああ?」

男「うるせーな、なんだ…よ…」

11: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 23:02:10.51 ID:9mYBi4f3o
男(ほんと、こんな時に陳腐な表現しか出来ない俺が情けないんだけど)

男(言ってしまえば、東京ドームくらいの広さ)

男(眼前には、それ位でかい屋敷が広がっていた)

友「…有り得ねー…」

男「…」ハッ

男「…」クルッ

男「…!」

男「…嘘だろ」

男(後ろには、これまた有り得ないくらい長く高い塀)

男「退路は絶たれたってか…馬鹿らしい…!」

男「クソッ…扉もあかねえ…!このっ!このっ!」ガンガン!!

友「おい、やめとけって!」

12: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 23:08:12.34 ID:9mYBi4f3o
友「いいじゃねーか!元々何かあるまでいるつもりだったんだし!」

男「アホか!帰れる時に帰れんのと帰れないじゃ全くちげーよ!」ガンガン!!

ガンガン!!

ガンガン!!

ガン…ガン…

男「…クソッ…びくともしねぇ…」

友「…進むしか…無いってことか」

男「何ちょっとニヤニヤしてんだよ」

友「…え?」

男「サイコパスかお前…笑顔で人刺しそうだな」

友「んなことしねーよ!」

男「…」

友「…よし…行こうぜ…」

男「…ちっ…」

13: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 23:11:33.99 ID:9mYBi4f3o
友「…中は…普通…か?」

男「…いや、そうでもねーな…」

友「…どしてよ?」

男「…玄関に靴が無いから」

友「はあ?俺たち探検に来たんだぜ?むしろある方がおかしいだろ」

男「そうか?中はこんなに綺麗なのに?」

男「こんなに「つい最近まで誰かがいたように」綺麗なのにか?」

友「…」

男「…靴…脱いでいこう」

友「…」

男「…もし人が居るなら…面倒ごとは避けたいしな」

友「そもそも不法侵入の時点でやばいと思うんだが」

14: SS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 23:20:24.80 ID:9mYBi4f3o
男「…で、どうすんだよ?」

友「ん?」

男「俺の役目はここまでだろ、あとはお前がどうするか決めろ」

男「もちろん帰り方もな」

友「そうだな、とりあえず」

友「前進あるのみだ!」

男「糞が…要はノープランじゃねえか…」

男「だいたいお前はいつもそうなんだよ…何でも下調べは俺任せにして…」

男「学園記事も俺が作ったし生徒会の調査をかいくぐってんのも基本俺だし…」

男「こいつは…本当に…」

友「何してんだ?置いてくぞ」

男「おい待て!」

18: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:15:48.73 ID:mcgoMPLZo
男「…明かりはついてるけど、薄暗いな」

友「だな、つーか今どき蝋燭ってどうよ」

男「まぁ時代錯誤な気はするな」

友「先が見えねぇな…」

男「…」

友「…」

友「…取り敢えずこの馬鹿でかい廊下を渡ろうぜ」

男「あぁ…」

男(…ん?)

男「…何だこりゃ…」

友「…引っかき傷…?」

19: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:19:12.82 ID:mcgoMPLZo
男「…かな…?それか引きずった後か?」

友「どっちにせよこの雰囲気にゃピッタリだな」

パシッ

友「ん?」

男「蝋燭、手元が見えないのはしんどいだろ」

友「相変わらず気が回るなぁ、お前」

男「…そうでもねえよ、…ん?」

男(…扉…か)

男(塀とは違って、入れと言わんばかりだな)

友「よっと」ギギィ

友「…ここも重いなー、全体的に立て付けが悪いんかな」

男(…いや、あの門は外にあったし立て付け云々じゃねぇだろ…)

20: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:21:49.49 ID:mcgoMPLZo
男「…うえ…埃っぽい…」

友「…げほっ…!げほっ…!」

男「…玄関とは打って変わってだな」

友「…手入れされた様子もねぇ」

男「…何かあるか?」

友「…お」

男「…ん?」

友「…ダンボールの中から本が出てきた」

男「…本ってか日記帳っぽいな」

友「…」

男「…」

友「よいしょ」ピラッ

男「…だよなぁ」

21: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:25:57.79 ID:mcgoMPLZo
友「…◯◯年…って…六年前か」

男「…だな」

友「…そんな頃からここに住んでる奴がいるのか」

男「住人だったらいいけどな」

友「え?」

男「…出られなくなったやつかもしれない」

友「…」

ピラッ


今日は、いつも通りの1日だった
お母さんに言われてお使いに行った後で、お父さんと一緒に遊んだ
お父さんは笑顔で嬉しそうだった
とっても貧しい家だし、お腹が空く時もあるけど
私は幸せ


友「…どうでもいいな」

男「人の見といてその感想はどうだよ…」

22: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:30:10.42 ID:mcgoMPLZo
友「最初は飛ばして…と」

男「…おい、ここ」

友「…字が荒いな」

男「…」


お父さん、お母さん、食べられちゃった
変な目をしたお兄さんに食べられた
お父さん、お母さん、私を置いていかないで
どうすればいいの?私、一人じゃ生きていけないよ
一緒に遊ぼうよ、お父さん
どこにも行かないで、お母さん


男「…!」

友「…ガッタガタの字だな、それだけ切羽詰まってたってことか」

男「…食べられたって…」

友「…嘘くせえ…とは言えねえな…」

男「…だな、食べられた訳では無いにしても…何かあったんだろうな」

友「…」

23: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:32:31.36 ID:mcgoMPLZo
友「…どうするよ?」

男「…どうするって?」

友「もしかして、まだこの子がいるかもしれねぇぞ」

男「…いや…」

男「…知ったこっちゃねえよ、そんなもん」

男「何があったにせよ、こいつらの家族はここに近付いたんだろ」

男「だったら自業自得だ、俺は知らん」

友「…」

男「…」

男「…まぁ見つけちまったら仕方ないけどな」

友「…」

友「…ぷっ…」

男「吹き出してんじゃねえよ」

24: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:35:37.34 ID:mcgoMPLZo
友「取り敢えず持っていくか、これ」

男「んな気持ち悪いもん置いていけよ」

友「馬鹿野郎、ここから出た時の証拠になるだろうが」

男「…」

友「ついでにその変な目の男の写真でも取れたら最高だな」

男「最高じゃねえよ…」

友「うし、先に進むか」

男「…二つに分かれてるな」

友「T字の突き当たりにある部屋ってのも珍しい」

男「俺は左に行くわ、お前は右にいけ」

友「頭おかしいのかお前」

男「…嘘だよ…」

25: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:38:23.00 ID:mcgoMPLZo
友「とりあえず左だな」

男「…おし」

友「…って、ちょっと待て」

男「…あ?」

友「…何か…聞こえねぇか…?」

友「…引きずるような…音」

男「…」

友「…近付いてきてる…!」

男「…どうする…!?」

ズルズル…ズルズル…

…イヨォ…

イョォ…!

友「…!」

男「…っ」



「暗いよぉ」

26: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:42:52.70 ID:mcgoMPLZo
「暗いよぉ」

「見えないよぉ、誰か、明かりをつけて」

「暗いよぉ…暗いよぉ…」

男(…馬鹿でかい毛むくじゃらの化物…)

男(その背中から…女の…上半身が…生えてて…)

男(…目のないその女は…地面に爪を突き立てて…化物の動きを制止しようとしていた…)

男(…爪はとっくに剥がれ落ちて…)

男(辛うじて無事なのは…口だけ…)

「…暗いよおおお…!」

「…誰か…助けて…」

「…私を…連れていかないで…!」

男(…暗い…?…というかコイツ…俺達に気が付かないのか…?)

友「…うっ…!」

「…」グルン!!!

男「っ!!」

友「…っ!」

27: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:46:28.10 ID:mcgoMPLZo
男「…」

友「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…暗いよぉ…」

「…誰かいないの…?」

「…居るんでしょ…?」

「…居るんでしょ…?」

「「「聞こえたんだからぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」

男(…ぐっ…ぅ…)

男(…ひでえ匂い…それに…次から次に顔が生えて…)

友「…」

男「…」

「…」

「…次は、逃がさない」

ズルズル…ズルズル…

ズルズル…ズルズル…

男「…」

友「…」

28: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:50:06.26 ID:mcgoMPLZo
男「…っは…!」

友「はぁ…っ!…はぁ…!」

男「…やべえ…!何だよあれ…!」

友「…化物だ…完全に化物だった…!」

男「…よく、気が付いたな…」

友「…あぁ…俺のうめき声に反応してたからな…」

男「…引っかき傷は…あいつか…」

友「…やべえよ…あんな奴が…居るのか…!居るのかよ…!?」

男「…居たな」

友「…すげぇ…居るんだな…!俺らの理解の範疇を超えたやつってのが…!」

男「…」

男(たった今やばい目にあったのに…こいつ本当サイコパスだろ…)

男「…お前な…!」

29: SS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 23:55:59.56 ID:mcgoMPLZo
男「俺たちやばかったんだぞ…!下手すりゃ…!」

友「…なぁ、あっちには何があるんだろうな?」

男「こいつは…!」

友「気をつけりゃ何も心配ねーって!」

男「お前の都合ばかり押し付けんなっての…!」

友「…行かねーのか?」

男「行くよ!行くけどもうちっと…」

友「分かってる、気を付けるって」

友「とりあえずあいつにもう1回出会ったら息を潜める、な」

男「…」

男「…はぁ…」

男(いつでも俺を振り回しやがって)

男(…面白そう…面白そうか)

男「…」

男(面白いだけで…こんなになるのか…?)

友「なぁ、早く行こうぜ」

男「…ちっ…」

男(…まぁ…こいつに付き合ってる俺も俺か…)

30: SS速報VIPがお送りします 2017/02/24(金) 00:02:16.45 ID:2pC8YsTso
友「あいつ、あっちから来たよな?」

男「…だな、俺達が進もうとしてた方に消えてった」

友「もうちょっとあいつ見てみたいんだけど…」

男「…」ジロッ

友「おー怖い怖い…んじゃあ右だな」

男「当たり前だ」

友「…うへ、さらに薄暗いな」

男「…」

友「引っかき傷も辿るにゃちょっと難しいな」

男(まぁ爪剥がれてたしな…そう跡はつかんだろうな…)

友「取り敢えずまっすぐ進んでいって部屋があったら入る、でいいだろ」

男「…あぁ、良いよ」

友「おし、行こうぜ」

男「…おう」

32: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 12:50:14.13 ID:g7lIumMbo
男「…」

友「…」

男(…薄暗い)

男(先に進むほどにどんどん暗くなっていく)

男(もう、蝋燭持つ意味もないかもな…)

男「…」

友「…うお」

男「…ん?」

男「…どうした?」

友「…いや、俺の蝋燭で日記照らしながら進んでたんだけどよ」

友「…これ、見てくれよ」

男「…」

男「…」ペラッ

男(…残りは白紙…最後のページか)

33: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 12:54:08.64 ID:g7lIumMbo
男「…うっ」

男(…なんて書いてあるかも分からない…)

男(…夥しいほどの…赤、赤、赤…!)

友「…誰の…って、分かりきってるか…」

男「…このページだけ…異様だな」

友「だな、ほかのページは若干滲む程度で綺麗なもんだ」

男(…これを書いてる時に…?それとも…書き終わった時に…?)

男「…考えても分からん」

友「考える意味もないしな」

男「…どうする?」

友「何だ?今更ビビってんのか?」

男「…」

34: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 12:56:27.37 ID:g7lIumMbo
男「…あの化物は「変な目をしたお兄さん」じゃねえ」

友「…だな」

男「ここには少なくとも、あと一つ、何か居る」

友「…」

男「…俺ら、無事じゃいられねえぞ」

友「…」

男「…探索を続けよう、ただし、ここから出る方法を探すんだ」

友「…でもよ」

男「でもじゃねえ!」

男「死んじまったらそれこそ終わりだぞ…!」

男「…もう、これから先、こういうこと出来ねえぞ…!」

35: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 13:00:21.86 ID:g7lIumMbo
友「…」

男「…」

友「…分かったよ…」

男(…本当に分かってんのか…こいつは…)

男「…ともかく進もう…もしかしたらまだ誰かいるかもしれん」

男「そいつらに協力を仰ぐか…もしくは…」

友「…おい…あれ…」

男「…ん?」

男「…普通の部屋じゃねえか…?」

友「違う…あれ…明かりが…」

男「…!」

男「…明かりが漏れてる…」

友「…行ってみようぜ」

男「…」ゴクッ

36: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 13:03:09.14 ID:g7lIumMbo
男「…」

友「…」

男(…喋んなよ…)シーッ

友「…」コクコク

男「…」カチャッ

男「…!」

男(…空いてる…!)

友「…っ!」

「入っていいよ」

男「…っ!!!」

友「…!!」

「…」

「…というか、入らなくてもいいから…早く扉を閉めて」

「…あいつらに気付かれる…」

男「…!」

友「…」ギィィ

37: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 13:06:26.81 ID:g7lIumMbo
男(…声で分かる)

男(薄暗いっちゃあ薄暗いけど、廊下よりは遥かに明るい…)

男(…こいつ、女か…)

女「…何しに来たの?また、オカルト好きの馬鹿たち?」

友「…」

男「…まぁ、そんな所だ」

女「…居るのよねー…あんた達みたいな迷惑なヤツら」

女「人の生活を掻き乱して楽しい?」

男「…お前、ここに住んでんのか?」

女「訳あって…ね」

友「…」

男「…ここは、何なんだ?どうやったらここから出られる…!?」

女「…」

38: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 13:08:44.81 ID:g7lIumMbo
女「…私がここに連れてこられた時、ここは「歪の城」って呼ばれてたけど…」

女「それは今も変わってないのかしら?」

男「…」

男(…そうか、「ひずみ」か…)

男「あぁ、変わってない」

女「そ」

女「それで、その慌てよう、あれを見たの?」

友「…あれ?」

女「…見てないの?徘徊する化物」

男「…」

男「あぁ、見た」

女「…ふぅん」

39: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 13:10:54.43 ID:g7lIumMbo
女「随分タフなのね、ここに来たヤツらの殆どは悲鳴を上げて食べられちゃうっていうのに」

男「…俺はびびって声が出なかっただけだ」

友「俺はそういうの割と平気だしな」

女「…」

女「…で、何だっけ?ここから出たいんだっけ?」

男「…あぁ」

女「出られるわよ、簡単よ」

女「塀をよじ登れば良いの」

男「…はぁ?」

友「…おいおい」

40: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 13:12:51.08 ID:g7lIumMbo
女「何よ?無理?」

男「無理に決まってんだろ…あんなもんどうやって…」

友「…」

女「ま、そうね、あの高さなら登れないわよね」

男「…」イラッ

女「そんじゃ、どうする?諦めて化物の餌になる?」

男「…なぁ、俺たちそんな無駄話してる余裕ないんだよ」

男「出られる方法があるなら教えてくれ…分からないなら…そう言ってくれ」

女「…」

42: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 23:15:19.28 ID:hTHUjsDmo
女「…分からないわ」

男「…分かんねえのかよ」

女「そもそもそんなこと考えたことも…」

女「…あなた…それ…」

友「ん?」

友「…あぁ、これか?お前の?」

女「…いいえ」

友「そっか」

女「…でも、きっとここのどこかにいる子のものでしょうね」

女「…彼女達が人間で居た確かな最後の証」

女「…お礼、言わせて貰える?」

男「…あ?」

43: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 23:18:02.18 ID:hTHUjsDmo
女「…あの子達の代わりに」

友「…」

男「…」

女「…ありがとう」

女「それはきっと…」

女「…彼女達にとって、大切なものよ」ニコッ

友「…」

男「…」

女「…で、ここから出る方法だったかしら」

男「…はぁ?知ってんのか?」

女「…鈍いわね、手伝ってあげるって言ってるの」

友「…」

男「なんで急に…」

女「別に、単なる暇つぶしよ」

44: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 23:21:49.35 ID:hTHUjsDmo
女「…ここから出られる方法は今の所ないわ」

女「…けれど、ここから出ようと試みた人たちは沢山いた」

女「結局願い叶わずその生を終えてしまったけれど、もしかしたらヒントがあるかもしれない」

男「…知ってるのか?その場所」

女「…」

女「…ええ、とても良く知ってるわ」

女「…」

男「…じゃ、行ってみるか」

女「でも一つだけ約束して」

男「何だ?」

女「あなた達が優先すべきことは、ここから出ること」

女「何を犠牲にしてもここから出ることを約束できる?」

男「死んじまったら意味がねーだろ?」

女「隣の人が、死んでも?」

男「…?」

45: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 23:25:01.18 ID:hTHUjsDmo
女「…あの子たちは、食べた人間を取り込むわ」

女「取り込まれた人間は、声も顔も最初の内は同じだし、全く同じ口調で…」

女「…まるで天気の話をするように話しかけてくる」

女「…でも、取り込まれた人間はもう、人じゃない」

女「生の記憶をなぞって機械のように喋る、ただの化物よ」

男「…」

女「私でも、貴方達でも、誰かが取り込まれても絶対に立ち止まらないで」

女「それはもう、その人じゃない」

女「それだけ、約束して」

男「…分かったよ」

友「…」

女「ならいいわ、行きましょう」

46: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 23:27:26.23 ID:hTHUjsDmo
ツカツカ

男「…」

友「なぁ、あんた何でそんなに詳しいんだよ?」

女「もう何年も住んでるのよ、そのくらい嫌でも知ることになるわ」

女「貴方達のようなバカも、割と後を絶たないしね」

男「…どうして、ここに住んでんだ?」

男「…出ようとは、思わないのか?」

女「…」

女「…さぁね、自分でもどうしたいのか分からない」

女「ここに居ること自体自殺のようなものなのに、死肉を漁ってでも、明日を生きようとしてる」

男「…死肉?」

47: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 23:30:11.99 ID:hTHUjsDmo
女「食べ物がないのよ、ここ」

男「…!」ゾッ

女「…ふふ、引いた?」

友「…あんた、それって…!」

女「幸いあの子達は目も鼻も良くない、隙をつくのは簡単よ」

女「…」

男「…」

女「…別に、貴方達を食べようってわけじゃないわ」

女「私が食べるのは主に、寿命を終えたあの子達だけだもの」

男「…寿命?」

女「…」

48: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 23:33:15.23 ID:hTHUjsDmo
女「どういう訳かあの子達は一定の数を保ってる」

女「それだけ生み出されてるのは分からないけれど」

女「…でもまぁ、だいたい分かるでしょ?」

女「あんな歪な存在が、長らく生きられる訳ないじゃない」

女「精精持って1ヶ月」

女「あの子達の体の大きさを考えれば十分よ」

男「…保存は?保存はどうしてる?」

女「何?ここに住みたいわけ?」

男「な訳ねーだろ」

女「…」

女「…もう少し進めば冷蔵庫がある」

男「…」

男「…」

男「…え?」

49: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 23:36:41.26 ID:hTHUjsDmo
女「あら、今では冷蔵庫なんて使わないのかしら?」

男「…いや、何というか…余りにも場違いすぎて…」

女「電気は通ってるのよ、ここ」

女「電灯を付ける必要が無いんでしょ、きっと」

男「…」

女「…まぁ、あれが使えなくなっても、別に対して困らないわ」

女「…そうしたら、あの子達をその都度殺せばいいだけだもの」

男(…)

男(…こんな所に、住んでるからまともじゃないとは思ってたけれど)

男(…こいつ、ネジ飛んでやがる)

男(確実にぶっ飛んでる)

女「…」

女「…無駄話はおしまい、着いたわ」

男「…」

友「…やっぱ、気味が悪いな」

50: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 23:40:30.55 ID:hTHUjsDmo
男「…」ギィィ

男「…確かに…」

男(最初の部屋と違って、まだ人が生活してた痕跡がある)

男(埃被ってるとはいえ、あそこまではない)

男「…うっ…」

女「…哀れよね」

男「…これ…!」

女「死にたくないなら、食べなさいって言っても、彼は口にしようとしなかった」

女「挙句私を化物呼ばわりした」

女「「お前も奴らと同じだ!」ってね…」

女「馬鹿よね、餓死って1番辛い死に方らしいじゃない?」

男「…」

男(…だめだ…)

男(…今さらになって後悔してきた…何だよここ…なんだよこれ…!)

男(…こいつ、どうしてここまで平気な顔してられるんだ…?)

男(…人が…死んでるのに…!)

51: SS速報VIPがお送りします 2017/02/25(土) 23:53:27.03 ID:hTHUjsDmo
女「…」

女「…早速見つけたわ…馬鹿とは言ってもやっぱり大人ね」

女「きちんとメモをつけてる」

友「…何何」

4日目
彼女の言葉を無視して今日も俺はこの部屋に篭っている
俺には死肉を漁ることなんて出来ない
だが、俺には出来ないだけで、少しだけ彼女の気持ちは理解出来た
きっと、彼女は何が何でも生きたいだけなのだろう
死肉を漁って、殺して、そうまでして生きたいだけなのだろう
悪いが俺にそんなに勇気はない
実際口にしてみたものの、すぐに吐き出してしまった
俺はきっとここで死ぬ

女「…ふん」

女「的外れもいいところだわ…」

女「…」

男「…次もあるぞ」

友「…」

52: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:02:38.60 ID:sAFwc+yqo
7日目
もう呻き声を上げることさえできない
死んでいるか生きているかも分からないのに、今日も彼女は部屋をノックする
答えるほどの気力もない、俺に出来ることはこれを書き記すことだけだ

15日目
奇妙なものを見た
赤く縁取られたペンダントは、俺にとって一番大切なものだった
死んだ女房の形見であるそれを握りしめた時、浮かび上がった
死の間際に神が見せてくれたのだろうか
だとしたらこれほど幸福なものは無い
死んだ女房と最期のときを過ごせるのなら、悔いは無い


25日目
あえるじかんがながくなってきた
もうすぐほんとうにあえる
きっとことばもかわせるようになる
ふれあうことができるようになる
もうめをとじよう
まっくらでもさいあいのひとのすがたはみえるから

男「…」

女「…」

友「…」

男「…何なんだよ」

女「…」

男「…ふざけんな、どこにこいつが死ぬ理由があったんだよ…」

男「…胸糞悪い…ふざけんな…ふざけんな…!」

女「…自業自得よ」

男「…そんな言葉で納得できるかよ…!」

男「…なぁ!と…!」

友「…」ゾクゾク

男「…!」

53: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:06:06.47 ID:sAFwc+yqo
男「…おい…」

男「…お前…何笑ってんだ…?」

友「…え?」

友「…笑ってなんかいねーよ」

友「…うん、確かに残酷だ」

男「…」

女「…ともかく、これは保管して他に探しましょ」

女「…まだ何かあるかも」

男「…」チラッ

友「…」

男(…何だ?)

男(…お前、何考えてんだ?)

男(…俺に黙って、何考えてんだよ?)

54: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:08:36.07 ID:sAFwc+yqo




女「…結局らしいものは見つからなかったわね」

友「…」

男「…とりあえず、どうすりゃいい?」

女「…どうもこうも、探索を続けるしかないでしょ」

男「…そうか」

女「…あら?」

女「…山積みの木箱の下に…なにか引っかかりがある」

男「…?」

女「…んっ…んっ…」

男「…」

友「…」

女「…ちょっと、手伝ったらどうなの…?こんな姿でも一応は女なのよ?」

男「…あ、あぁ、すまん」

55: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:12:02.92 ID:sAFwc+yqo
男「…ん、しょっと…!」

ズズズズ…

男「こりゃあ…」

女「…扉…みたいなものかしら」

女「…もしかしたら、抜け道に繋がってるかもしれない…」

男「…おい、友」

友「行ってみようぜ」

女「…」

友「中に入って、確かめてみよう、何があるのか」

男「…おう」

ガコッ

男「…」

男(…真っ暗、まぁ、当然だよな)

男(…階段…降りるしかねぇか)

56: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:16:34.30 ID:sAFwc+yqo
女「ストップ」

女「行き止まりね」

男「…」ホッ

友「…」ガチャガチャ

友「いや、違うな、これ扉だ」

友「…押したら音がする…どっかに引く場所があるはずだ」

男「…」

友「…あった…!」

ギィィ

男「…」

男「…」

男(…ここに入って感じた粘り)

男(…それが一層強くなった気がする…!)

男「…」

女「蝋燭を貸して」

女「…うっ…」

男「…っ!」

男(…分かった…これ、死の臭いだ)

男(…やべえ…!やべぇ…!ここに居たら絶対まずい…!!!)

男「…おいっ!!!お前ら!!!」

シュッ

男「…!!」

女「…火が…!!」

57: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:19:03.70 ID:sAFwc+yqo
男「お前ら!居るか!?」

男「友!!!!女!!!」

男「おいっ!!!返事しろよ!」

女「…居るわよ…!!ここに…!!」

男「友!!友!! 」

友「…」

友「…居るぜ、ここに」

男「…!」

男「…馬鹿野郎…心配したじゃ…」

友「…あは、あははは…!」

男「…おい…?友…?」

友「悪い、男…俺、ここから出る必要、無くなった」

男「…あぁ!?こんな時にふざけてんじゃ…!」

友「ふざけてねぇよ!!!」

58: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:23:48.03 ID:sAFwc+yqo
友「長かった…長かったな…」

友「でも、やっと確信がもてた」

友「…なあ、男」

男「…あぁ!?」

友「…お前もきっと、「この人」に触れれば分かる」

友「オカルトだ、この世には、絶対に説明出来ない何かが存在する」

男「ふざけんな!!早く…!!」

「よう言った」

男「っ!?」

「久しく人間には触れていなかったな」

「だが、こうも見事に狂うのは珍しい」

「いや、お前…元々狂っていたのか」

友「はは、ははは!!!」

友「早く!!早くっ!!!」

「急くな、直ぐにでも…」

男「おいっ!!てめぇ誰だ!?俺の友達に何しやがった!?」

「誰、とはまた愚問だな」

「今は便利なものが沢山あるだろう?ここの名前も出ていたはずだが…」

女「…歪…!」

「…」

歪「いかにも、歪の城の、歪だ」パチンッ

59: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:26:16.12 ID:sAFwc+yqo




(…あれ?)

(…なんで俺…こんな所に…?)

(…おい、待ってくれ、俺を置いていくなよ)

(また、いつもの様に、遊ぼうぜ)

(不謹慎とか、悪ガキとか、何言われても)

(俺達は、楽しい事を、変なことをするのが大好きだろ?)

(だから、行くなよ)

(俺を置いて、行くなよ)






男「…っはぁっ…!!!はぁっ…!!」

女「…」

男「…んぐ…!あぁ…!!」

女「…起きたのね」

男「…お前…!」

60: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:28:32.63 ID:sAFwc+yqo
男「…友は?友はどこだよ!?」

女「…記憶は確か?」

男「…!!」

男「…くそっ!!!くそぉっ!!!」

男「…何なんだよ…!!あいつ、誰だよ!?友はどこに連れていかれた!?」

女「…」

女「…歪」

女「この屋敷の主よ」

男「…!!」

女「…と言っても、私も初めて見たわ」

女「…いえ、実際は見てないんだけど」

61: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:32:38.94 ID:sAFwc+yqo
男「何でてめぇはそんなこと知ってる!?お前俺たちをはめたのかよ!?」

女「…ったいわね…!離して…!!」

男「…あ」

女「…」

女「…あいつは歪」

女「この世で絶対唯一の超能力者よ」

男「…あぁ?」

女「…私も、ここで偶然聞いたのよ」

女「…彼女達に、話を聞いてね」

男「…彼女達?」

女「…えぇ」

男「…会話が…出来るのか…!?」

女「…誰も彼もが出来るわけじゃない…ただ、長く生きて、新たに自我を構築した希な個体だけ…」

男「…」

62: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:38:10.83 ID:sAFwc+yqo
女「…もうその子は死んじゃったけどね…」

女「…彼女達は合成生物…」

女「生きた人間と動物数種を組み合わせてできた歪な生き物」

女「…確信はない、けれどこんなことが出来るのはあいつしかいない」

女「…」

男「超能力者…!?」

男「そんな訳ねぇだろ!そんなオカルトが…!」

女「じゃあ貴方達が今まで見てきたものは何!?」

女「高くそびえる塀も、だだっ広いこの屋敷も、彼女達も!」

女「全て科学で説明できる偶然の産物だっていうの!?」

男「…っ!」

女「…私だって、信じたくない…今までも信じては来なかった」

女「…でも…」

男「…」

女「…歪は存在した…!あの子が言っていたことは本当だった…!」

男「…怒鳴って…悪かった」

女「…」

63: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:44:39.65 ID:sAFwc+yqo
男「…でも、じゃあ…どうすりゃいいんだよ…」

男「…友は…あいつは…」

女「…残念だけど、あの人のことは諦めて」

男「…!」

女「…無理よ、あなたも目の前にして分かったでしょ?」

女「暗闇だっていうのに、歪の動きが手に取るように分かった…」

女「…あれほどの歪んだ存在感を持つ、化物以上の化物に…どう立ち向かうの?」

女「…これは、ゲームでも勝負でもない」

女「あいつからいかに見つからずに逃げ切れるか、そういう単純な話なの」

男「諦めるわけねぇだろ…!!」

女「…」

女「…あの子が言ってた、歪には魔の道に引きずり込む不思議な魅力があるって」

女「…でも、あなたと私はこうしてまともに生きている」

女「…彼のこと、何でもいいから話して…」

女「彼が「狂ってしまっていた」ことに、心当たりはないの?」

男「狂っていたなんて…!」

女「話して…!彼を取り戻したいなら…!」

男「…」

64: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:46:33.81 ID:sAFwc+yqo
男「変な奴だった」

男「誰より明るく振る舞うくせに、いつも一人で泣いていた」

男「初めにそれに気がついたのが俺だった」




友「…」

友「…」

男「…どうして、泣いてるの?」

友「…泣いてなんか、居ない」

男「嘘だ、友君いっつも1人で泣いてるよ」

友「うるさい、あっちに行け」

男「…」

65: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:48:52.27 ID:sAFwc+yqo
男「ずっと泣いてたあいつがなんとなく見てられなくて」

男「だから俺は、あいつに遊びを持ちかけた」

男「ガキなら誰でも一度はやったことがある、肝試しってやつさ」



友「…」

男「ほら…!あそこの墓に出るんだって…!」

友「…」

男「…青白い…!あ、ほらっ!!」

友「…あれは、蛍だよ」

男「違うよ!」

66: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:51:53.67 ID:sAFwc+yqo
男「多分何回も誘って、初めて遊んだのが、それだった」

男「俺は得意げになって、色んなところを駆けずり回った」

男「廃墟、人気のない墓地、寺、色んなところだ」



友「…わっ!見つかった!」

男「…逃げろーー!!」




男「嬉しかったんだろ、あいつが初めて心から笑ってくれたから」

男「…」

男「…そんで、俺達はいつの間にか、そういう風になってた」



友「なあ、次はどこに行く?」

男「だから、お前も何か考えろよ!」

友「いいじゃんいいじゃん、いっつもお前が考えててくれただろ」

男「…ったく」



男「…」

女「…」

67: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:55:38.35 ID:sAFwc+yqo
男「…ふふ、あはは」

女「…何?」

男「…いんや、俺結局、あいつが泣いてた理由知らねえなって」

男「…何が友達だよ…」

男「…聞いちまったらこのまま楽しく遊べないって思ってた」

男「もう終わりになっちまうって、どこかでそう思ってた」

男「だから、聞けなかった」

男「何が友達だ、何が…!」

男「俺はあいつのこと、何一つ知らねえじゃねえか!!」

女「…」

女「…目」

男「笑わせるよ…結局俺が友達だと思ってたあいつは、俺のことなんてこれっぽっちも、なんとも思ってなかったんだ…」

男「俺は…あいつにとって、涙の理由を言う程の存在じゃ無かったんだ…!!!」

女「…」

男「…意味が分からねぇよ…」

男「…悪い夢なら、覚めてくれ…」

68: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 00:59:04.31 ID:sAFwc+yqo
男「…うぅ…!!ひっく…!」

女「…」

女「…」ハラッ

男「…何してんだ、お前…」

女「…何発情してんの?…ちゃんと見て」

男「…!」

女「…両親よ…私の親」

女「私は親が大嫌い、反吐が出るほどに」

女「きっとあの人たちもそうだった、私が嫌いだったから消えない傷を私に刻んだ」

女「…分かり合おうと思わなくても、分かる」

女「あの人たちの私に対する気持ちが、手に取るように」

男「…」

69: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 01:01:27.19 ID:sAFwc+yqo
女「ねぇ、あなたは今でも、彼を信じてる?」

女「彼のことが、好き?」

男「…」

男「…好きだよ…」

男「…あいつは、俺にとって大切な親友だ…」

女「…」

女「…だったらきっと大丈夫」

女「…あなたが彼を好きなら、彼もきっとあなたの事を友達だと思ってる」

女「…そういうもんでしょ」

男「…」

女「…」

男(…リストカット…そっか…こいつも…)

男(…狂いたくて、狂ったわけじゃないんだ)

70: SS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 01:07:09.35 ID:sAFwc+yqo
女「メソメソするのはおしまい」

女「まずは歪の居場所を探し出しましょ」

男「…どうやって?」

女「あいつが超常現象そのものだとしたら、あいつは直ぐにでも私たちを殺せる」

女「でもそうしないのはきっと何かの理由がある」

男「理由?」

女「…神とも呼べる力じゃない?…そんな簡単に私たち人間に扱えるものかしら?」

女「…例えば…長い時間休憩しないといけないとか…?」

男「…」

女「…あの子達に聞きましょう、1人くらいなら話を聞いてくれる子もいるはずだから」

男「ダメなヤツだったら…?」

女「話のわかる子に当たるまで聞きまくる」

女「泣いてる暇も、立ち止まってる暇もないよ」

男「…」

男「…あぁ…分かった」

男「…よし、行くか…!」

女「そうそう、その意気」

74: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 19:14:36.42 ID:LjP4kDFCo
女「ちなみにあなた、一度あったことがあるって言ってたわね」

女「どうだった?」

男「…」

男「…いや、とてもじゃねぇけど…話ができるようなやつじゃなかった」

女「…へえ」

女「…それって…女の子?」

男「…あれを女の子って言っていいのかわからねぇけど…」

男「…そうだな、幼い感じは…した」

女「運がいいのね」

男「…?」

女「あなた、あの子達のことを見た目で決めつけてるようだけど」

女「本来あの子達は人をそうそう襲ったりしないわ」

男「…んな…!俺達は現に…!」

75: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 19:21:30.81 ID:LjP4kDFCo
女「…普通の動物と余り変わらないわ」

男「…」

女「…だから、あなたが見たのはあの子達の中でもさらに異質」

女「自我の構築も出来ずに、壊れた記憶をなぞる」

女「…無意味な、化け物」

男「…お前、ほんとになんでそんなに詳しいんだよ」

男「…お前にゃ、感謝はしてる」

男「…こうして協力もしてくれてる」

女「…」

男「…でも、お前は信じられない」

女「…そ」

男「…お前は、口ではあいつらに同情してやってるが」

男「…実際…その、殺してるんだろ?」

男「…殺して、食って…」

ギギギギギギギ

男「…っ!?」

女「…チッ」

76: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 19:47:26.13 ID:LjP4kDFCo
女「タイミングが良いんだか…悪いんだか…」

男「…お、おい!どこ行くんだよ!」

女「…!!」

女「…もう…!」

男(…横たわる…化け物)

男(いや、本当に目を引くのはそんな所じゃなくて)

女「体が腐り落ちて、動かなくなってもなお動き続ける心臓」

女「あの子は、これが私たちの死だと言っていたわ」

女「腐り落ちても、朽ち果てても、苦しみは続く」

男「…」

女「…分かりやすいでしょ?この不快な金属みたいな音はは、この子達にとっての死の音なの」

男「…」

女「…」スッ

「…」

77: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 19:51:34.02 ID:LjP4kDFCo
女「意識があるだけ…感覚があるだけ、この子はもう、死んでる」

男「…」

女「…痛かったね」

女「…分かるよ」

男(…分かる…)

女「…私だけ、生きて、ごめんね」

女「…」

「…」

女「…」スッ

男「…お前、それ…」

女「だから、これは私のエゴなの」

女「この心臓の動きを止めることが、この子達の救いになってると勝手に思う、そういうエゴ」

女「…」ドスッ

「…」

ドクドク

女「…」

男「…」

78: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 19:56:22.01 ID:LjP4kDFCo
女「…」

男「…なんで、あんな言い方するんだよ?」

女「…?」

男「…お前の言い方だと、まるっきりお前が悪人じゃねぇか、狂人じゃねぇか…!」

男「…なんで…!」

女「それでも、私はこの子達を食べてるからよ」

男「…!」

女「食べられて嬉しい生き物なんか、居ないから」

女「腐肉を食らって、生きながらえているからよ」

男「…」

ドクン…ドクン…

女「…」

男「…貸せ」

女「…は?」

ドスッ

女「…あ、あなた…!」

男「…」

79: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 20:00:26.63 ID:LjP4kDFCo
女「なんて事を…!」

男「…嫌な感覚だ…最悪の…!」

女「だったら…!」

男「…それでも、それがこいつらの救いになるんなら、お前がそう思ってるなら…」

男「もう、そんな顔すんじゃねえよ」

男「…俺は、そんな顔見てるのも嫌だ」

女「…」

女「…馬鹿じゃないの?」

女「綺麗事ばかり…それでなんでも思い通りになる訳じゃ…!」

男「…」

女「…!」

女「…分かったわよ」

女(…人付き合いが無かったから気が付かなかったけど…)

女(…苦手だわ、この人…!)

80: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 20:10:44.82 ID:LjP4kDFCo
男「…それで…?」

女「は、はぁ?」

男「運がいいってのは、どういう意味だよ」

女「…あぁ」

女「…簡単な話よ」

女「あれ程のに出会ってたら、覚悟はできるでしょ?」

女「…あれが、今から私たちがやろうとする事の最悪の場合よ」

男「…なるほどね」

女「…さぁ、今度こそ行くわよ」

男「…おう」

81: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 20:17:28.05 ID:LjP4kDFCo





友「…」

友「…」

友「…」

友「…」

歪「どうした?魂が抜けたようではないか」

友「…」

友「…ん、あぁ、そうだな」

歪「無理もないか、普通の人間ならまともに喋ることすら困難だ」

歪「むしろ丈夫な部類といったところか」

友「…」

歪「いい香だろう?」

友「…何も、考えたくねぇ」

歪「ふ、ふふ、今はそれでいい」

歪「いずれ慣れる」

友「…こりゃ…」

歪「麻薬だ、最初の頃効いてたものも今や全く意味をなさんからな」

歪「燻して焚いて部屋に充満させている」

友「…」

歪「…」

友(…見えねぇ)

82: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 20:22:29.08 ID:LjP4kDFCo
友(…見えねぇ、見えねぇ、見えねぇ)

友(どうやっても見えねぇ)

友(…)

友(…待てよ)

友(…きっと、近くにいるんだ)

友(届くはずなんだよ…)

友(…待てよ、待て、待て)

友(待てよ!!!)





男「次は、どこに行こうか」






友「…っぷ…!」

友「…うぇええええええ…!!!」ビチャビチャ

友「…あっ…はぁ…!げぼっ…!ごほっ…!!!」

歪「…少し強すぎたか」

友「…はぁっ…!はぁっ…!!」

83: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:32:43.23 ID:LjP4kDFCo
友「うぅっ…!ぐうっ!」

友「消えろ…!消えろ!消えろ!」

友「俺は…!!俺も…!!」

友「…お前じゃない!俺は…!!」

歪「…」

歪(記憶の混乱、まぁ当然といえば当然)

歪(非常に興味深い対象ではある)

歪(いじくり回すのも躊躇うほどに)

歪(それほどまでに、私の干渉を受けずともここまで狂えたのなら)

歪「…あと1歩じゃあないか?少年」

歪「存分に狂うといい」

歪「生と死の境さえわからぬほどに、歪に歪むがいい」

歪「お前の望んだ景色はそこにある」

友「ぐぅぅぅ…!!!うぇえええええっ!!!」ビチャビチャ

84: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:39:33.97 ID:LjP4kDFCo





男「…」

女「…」

男「…あいつ」

女「…そうね、あなたの出会ったあの子よ」

男「…」ゾクッ

男「…どうすんだよ?」

女「…この子達は音に敏感なの、音を立てないで」

女「…このままやり過ごすわ…」

ヒタヒタ

ズルズル

ズルズル

男「…っ」

男(…相変わらず…ひでぇ匂いだ…)

男(…他のやつなんか…比にもならないくらい…!)

女「…」

「…」

「…どこ?」

「…聞こえる…聞こえる」

男「…!」

女(…馬鹿…!)

男(…分かってる…!)

「…」

「…」

「…寒い…寒いよぉ…」ズルズル

ズルズル

男「…」

女「…」

85: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:45:05.35 ID:LjP4kDFCo
男「…」

男(確かに…あいつは異質だ…)

男(…こいつの言うことが本当なら、他の奴が俺たちに敵意を持っていないとしたら尚更…)

男(…明確な敵意…)

男(…会話なんてもん、望むことが間違ってる)

男(あいつとは、何も無いままやり過ごすのが一番だ)

「行ったわよ」

男「…そうか」

「どうするつもり?」

男「…どうするつもりって…会話するんだろ?」

「…」

男「…他のやつを探そう…」

男「…」

男「…おい」

男「何して…」

「みーつけた」

男「っ!!!!」

86: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:49:00.12 ID:LjP4kDFCo
「行ったわよ」

「冷蔵庫はここにあるのよ、餓死したわ」

「助けたいと思うのなら、殺して、食べる…」

「…」

男「…あっ…あぁ…!」

「クスクス」

「クスクス」

男(見つかった…!)

「…」ギョロッ

男(無数の目が…こっちを…!)

男(…いや、違うそうじゃない…)

男(…いつの間に、お前は…食われてたんだ…)

男「…ひっ…!」

「…」

87: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:54:59.92 ID:LjP4kDFCo
「…逃がさないんだからぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

男「…うあああああっ!!!」

男(…走れっ!走れっ!!!)

男(追いつかれたら…!殺される…!)

男(…死にたくない…!死にたくない…!!!!)

男(…追ってきてる…!真っ直ぐ…!)

男(…クソッ…!せめてどっかに…隠れないと…!)

男(…クソっクソっ!!逃げろっ!!どこでもいいから!)

男(…逃げっ…!!)

ズダァン!!

男「…っつ…!」

男「…んだ…!これっ…!」

「ふふ、あははぁ!!!」

「マママァ…!!パーパァ…!!見つけたァ!!!」

男「…ひっ…!!」

「…」

「…見つけた、パパ、ママ」

「置いていかないでって、言ったじゃない」

「また、一緒に、過ごそう?」

「ね?」

ギュゥゥゥゥッ!!!

男「…ぐっ…!うっ…!」

88: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 23:08:46.34 ID:LjP4kDFCo
男(…い、きが…!)

「一緒だよ、ずっと一緒」

男「…!」

「…」

男(…女は…目を閉じてる…!やっぱり本体は…この腐り落ちた顔の部分…!)

男「…ごれっ…!お前だろ!…ごのっ…日記帳…!!」

「…」

男「…お前の父ちゃんと…!母ちゃんは…!」

男「…っ」

「壊れた記憶をなぞる化け物」

男(…異質)

男(…もう、自分がなんなのかさえ覚えてない、化け物)

男(記憶をなぞる…人間の成れの、果て…!)

「…ママ、パパ…」

男(じゃないっ!!)

男「…よく聞け…!糞ガキ…!!」

男「お前が…食ったのは…お前と同じっ…!」

男「…可哀想な…!奴だっ…!」

男「…ぐっ…!うぐぅ…!!」

89: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 23:17:11.50 ID:LjP4kDFCo
男「…日記帳に、書いでだ…!!」

男「…辛かったんだろ…!!怖かったんだろ!!」

男「…お前っ…!!他のヤツを同じ目に遭わせて…いいのかよ…!?」

「…」

男「…目ェ覚ませ…!!」

男「…お前は…!!…同じことをしてんだよっ…!!!」

「…」

男「…も、だ……め…」

男(…息が……)

「…」スッ

男「…っ!」

男「はぁっ!…はぁっ…!!…ん…はぁ…!!」

男「…はぁっ…はぁっ…」

ズルズル

「あ、あ、あ」

「ああああ…あああ…」

「…えっ…うっ…ええええぇええ…!!」ドシャッ

男「…女…!!」

「げほっ…げほっ…」

「「「…変な人」」」

「「「「…いいなぁ」」」」

ズルズル

ズルズル

ズルズル

90: SS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 23:22:09.61 ID:LjP4kDFCo
男「…」

男(…助かった…のか…)

男「…っ!おいっ!!女!女!!」ピシピシ

女「…ん」

男「…おい!起きろ!おい!」

女「…ん、あぁ…」

女「…」

女「…」

女「…何…?」

男「…生きてるか…!?記憶はあるのか!?」

女「…ちょっと、頭がクラクラする…」

女「…」

女「…?」

女「なんで泣いてるの?」

男「…え?あ、うわっ…!」

男「なんだこれ…意味わからん…!」

女「…」

女「…ふふ、ふふふ」

女「変な感じ…」

女「…ふふ、あはは…!」

男「笑ってんじゃねぇよ…!この…クソ女…!」

92: SS速報VIPがお送りします 2017/03/14(火) 22:27:07.69 ID:xAC1vY8to




男(…結局、その日は体を休めることにした)

男(…ことの顛末を話すと女は、少しだけ悲しそうな顔をしたあと、礼を言ってきた)

男(…一刻も探しに行きたいのはやまやまだが…)

男(…正直今日はもう疲れた)

女「…ねぇ」

男「なんだよ」

女「…まだ怒ってるの?」

男「怒ってねぇよ、なんだよ、寝ろよ」

女「…あの子の中で、夢を見たの」

女「…多分、あの子の記憶なんだと思う」

男「…」

男(…記憶の共有ってか…?ふざけてる…)

男「…そんなもん、有り得ねぇ」

女「…」

男「…ことも、ないのか」

93: SS速報VIPがお送りします 2017/03/14(火) 22:31:05.08 ID:xAC1vY8to
女「…」

女「…その人は、私のお母さんとは全然顔が違ったけれど」

女「…それでも、お母さんなんだなって、そう思った」

男「…」

女「…顔も知らない男の人に、頭を撫でられて、肩車をされて」

女「…とっても、心地よかった」

男「…」

女「…お母さんって、お父さんって」

女「…ああいうものなんだね」

男「…」

女「…私、自分の親は嫌いだけど…」

女「…あんなもの要らないって思ってたけどね…」

女「…でも、やっぱり、羨ましいよ…」

男(…)

94: SS速報VIPがお送りします 2017/03/14(火) 22:36:18.57 ID:xAC1vY8to
男(…)

男(こんな化物が居着く屋敷で、平然と生活してるイカれた女)

男(…頭がおかしい上に、ネジも数本飛んでる)

男(…他人が死んでもどうとも思わないような、狂った女)

男「…」

女「…グスッ…」

男「…」

男(…いいや、狂ってなんかいない)

男(…確かに歪で、歪んでるかもしれないけど)

男(…狂ってなんかいない)

男(…誰だって、そういうことはあるんだよな)

男(…友)

男(…次会ったら、俺はお前に聞くよ)

女「…」

男「…おやすみ」

女「…うん、おやすみ」

95: SS速報VIPがお送りします 2017/03/14(火) 22:42:18.44 ID:xAC1vY8to




男「…」

男(…日光の射さないこの屋敷は相変わらず暗いままだ)

女「…準備は出来た?」

男「…あぁ」

女「…そりゃそうよね、あんだけぐっすり寝られればね」

男「んだよ」

女「私は気が気じゃないわ、あんな所で寝るなんて」

男「目のクマひどいもんな」

女「…私が知らないだけで、今は女の子の顔に文句つけても何も言われないの?」

男「だったら女らしくしろっての」

女「…」ガンッ!

男「…いっ…!…お前…!」

女「ほら、行くわよ」

男「…このっ…!」

96: SS速報VIPがお送りします 2017/03/14(火) 22:48:17.83 ID:xAC1vY8to
女「起きて考えてみたんだけど、やっぱり私の知ってる中で、この屋敷で歪に繋がりそうなものはないわ」

男「…じゃあやっぱり会話するしかないのか」

女「そうね、それもいい手だけれど…」

男「…?」

女「流れ込んできたあの子の記憶の中に、気になることがあった」

男「…なんだよ?」

女「あの子が生まれた時の記憶」

男「はあ?」

女「…あぁ、違う違う、あの子が化物にされた記憶ね」

男「…」

女「…」

男「…どうだったんだよ」

97: SS速報VIPがお送りします 2017/03/14(火) 22:55:26.05 ID:xAC1vY8to
女「ま、正確には声だけで何もわからなかったんだけど」

男「なんだよそれ、なんの手がかりにもならねぇじゃねえか」

女「…昨日の話覚えてる?」

男「…?」

女「…顔も知らない男の人に…って話」

男「…あぁ」

女「…つまり彼女の記憶には、映像が残ってる」

男「…それなのに、声だけってことは…」

女「…痛い、痛いって声が枯れるほど叫んでた、その音声だけの記憶は…」

女「実際は映像がついてたのかもしれない」

男「…真っ暗闇…!」

女「どの部屋にも、どこの場所にも気休め程度のロウソクがある」

女「…でも、一つだけ暗闇の部屋があったわね」

98: SS速報VIPがお送りします 2017/03/14(火) 23:00:49.63 ID:xAC1vY8to
男「…」

女「…あなたのお友達がさらわれた部屋よ」

男「…友」

女「正直もうあそこには行きたくない、けれどそこに行けばなにか手がかりがあるかもしれない」

男「…でも、またあいつが出てきたら…!」

女「その時はその時よ」

女「私たちに手が出せるなら、今こうしている間にも出してくるはず」

女「さぁ、行くの?行かないの?」

男「…行くに決まってんだろ」

女「そうよね」

女「…」

女「…だったら…」

男「…あ?」

女「…ううん、何でもない」

男「…?」

女(あんなに死にたいって言っといて、偽悪的な態度をとっておいて)

女(…あの時の食べられた恐怖に身が竦む)

女(言えるわけがないよね、助けてなんて)

女「…行くわよ」

男「…おう」

101: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 20:09:05.01 ID:4hyCQymdo
ギィィ

男(…うっ)

男(…やっぱりだ…この部屋だけ、明らかに異質)

男(…直接的な臭いはしない…でも…空気が淀んでる)

女「蝋燭は…無いか…持ってきてよかったわね」

男「…」

女「…」ボォッ

男(…少しずつ、明るくなっていく)

男(女が持ってきた蝋燭を…っ…!)

男「…これ…」

女「…血…?いや…」

男「…何だこれ…!」

男(…ドス黒い赤で描かれた…意味不明の記号…)

男(…魔法陣って…やつか?)

女「…いよいよ、信じざるを得なくなってきたわね」

男「…何のために…こんな…?」

102: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 20:16:02.70 ID:4hyCQymdo
女「…さぁ…でも、だいたい予想はつくわ」

女「…あいつは、あの子達をここで作っていた」

男「…でも、あんなでかい奴をどうやって外に…」

女「今更そんなこと考える必要も無いわ、あいつは超能力者なんだから」

男「…超能力者…」

女「…なにか手がかりがあるかもしれない…探しましょう」

男「…」

男「…?」

男「…おい、これ…」

女「…?」

男「…これ、何だ?」

女「…小さい祭壇、かしら…いえ、お墓?」

男「…墓…?」

男(…何のために?…誰のために?)

スッ

女「ちょっ…!」

103: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 20:20:48.87 ID:4hyCQymdo
ザザザザザ

「…は、…でござ…す」

「…それ…けが……の願…」

「…あぁ…でも…ど…か…歪に生き…いで…」

「真っ直ぐに…の…らを…無…に、振り回…せんよう…」

ザザザザザ

男「…っつあ…!!」

女「馬鹿っ!!!何してるの!?」

男「…っ…」

男「…声が…した…」

女「はあ!?」

男「…誰かの…誰かに向けた…」

男(…いいや、きっとこれは…)

男(…歪に向けた、声だ)

104: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 20:33:02.06 ID:4hyCQymdo
女「…」

男「…」ガコッ

女「ちょっと…!勝手に…!」

男「…もう触っても大丈夫だ…何も聞こえない…」

女「そういう事じゃなくて…」

男「…今更だろ…」

男(…箱の中には…骨…?)

男(…誰かの骨…?…これが、もし声の主だとしたら…)

男(…だとしたら…)

男「…はは…幽霊まで…居るのかよ…?」

女「…」

男「…」

男(…ここへ来て、オカルトだ)

男(…俺らが追いかけて、見つからなくて、それでも諦めなくて)

男(…冗談半分、真面目半分で求めてたもんが…ここにある)

男「…はは…ははは」

男「…」

男(…だとしたら、何て下らねぇものなんだよ)

男(…こんなもん…なければ良かったんだ…)

友「何笑ってんだ?」

男「っ!?」

女「っ!!!」

105: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 20:41:06.42 ID:4hyCQymdo
友「おいおいどうした?そんなに怖い顔して」

友「いやぁ、それにしてもこの屋敷ってすげぇよな、色んなもんがあるぜ、男」

友「懐かしいよな、昔よく廃病院に行って補導されたっけか」

友「お前あの時なんて言ったか知ってるか?警察に向かって幽霊だ!って叫んで走って逃げたんだぞ?」

友「取り残された俺は、迷って変な道に行っちまってさぁ」

友「結局お前、俺を探しに戻ってきたっけ」

友「警察官と一緒にさ」

友「そういう事があってお前の親は、次の日俺ん家に謝りに来たっけな」

友「謝りに来た時のあの時のお前の顔は今でも忘れられねぇわ、くくく」

友「で、謝りに来たはずのお前の親が、俺が家に1人ってことに気がついて飯に連れていってくれたな」

友「いやぁ、今でも思い出すよ、家族団欒ってこんな感じなんだなぁって」

友「すげぇあったかいって思ったし、それから夜さみしい時はそれを思い出しながら耐えてたんだよなぁ」

友「だから尚更思ったよ、俺って惨めだったなぁって」

106: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 20:48:10.62 ID:4hyCQymdo
友「あぁいやすまん、なんか湿っぽくなったな」

友「ほら、あれ覚えてるか?いつも俺達がビビっちまう側だからさぁ」

友「たまにはっつって学校の先生の家の近くに忍び込んで脅かしてやったやつ」

友「その時まで培った知識を総動員させてな、ありゃ凄かった」

友「郷田のやついつもの偉そうな態度はどっかに行っちまってひたすらしゃがみこんでたな」

友「まぁ、それも結局笑い声が耐えられなくてバレちまってさ」

友「俺とお前でひっそりやってたオカルト研究会が無くなっちまう危機に陥ったよな」

友「まぁそれも郷田の写真チラつかせたら有耶無耶になったけどな」

友「大人って何でもかんでも自分の勉強になることしか認めないけどさ、あの時は確実に役立ってたよな」

友「大人達の言う無駄な知識ってやつが、俺達の役にさ」

友「そっからだっけ?俺達がちょっと悪ぶっちまって不真面目になったのは」

107: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 20:53:33.03 ID:4hyCQymdo
友「お前すげぇ親に怒られてたよな、オカルト研究なんてやめろって」

友「しまいにゃ学校にまで来ちまってさ、ここの学校はどういう教育をしてるんだ!って」

友「俺ちょっと先生がかわいそうだったよ、だって完全に俺達のせいだもんな」

友「ま、そういう事があってからそっからはきちんと授業にも出て、その活動自体も部活動の範囲に収まったって感じか」

友「にしてもあの時お前が誘ってくれなかったら俺ってどういう青春送ってたのかなぁって時々思うんだよ」

友「多分、つまんねぇ人生だったんだろうなって、大げさかもしれないけども」

友「でも、それだけお前との出会いが俺にとっちゃ劇的だったし、クソつまんねぇ日々を楽しく過ごすために、必要なもんだった」

友「お前が居なきゃ、俺はきっとダメになってた」

友「お前はどうだ?お前は今でも、俺の友達でいてくれてるか?」

友「だったら、自殺してくれ」

友「俺と同じ感覚をお前が持ってるなら、俺に殺されるのはきっと、辛いことだと思うから」チャキッ

男「…」

女「…」

友「…」

110: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 20:59:34.29 ID:4hyCQymdo
男「…何、言ってんだよ?」

女「…っ」

女(…何も無いところから…いきなり…!これが、歪…!!!)

男「何言ってんだよ!!お前ええええええっ!!!」

女「男っ!!!」

ガシャァァン!!

友「…っ」

男「…お前っ…!!俺がどんな気持ちで…!!どんな気持ちで…!!」

友「…いってぇな…」

友「…そんなに俺に殺されたいのか、お前」

男「…っ!」

女(…だめだ…!予想外のことが起きすぎてる…!)

女「…男っ!落ち着いて!!」

友「これでも最大の譲歩だったんだ、あの人に頼らず、俺がお前を殺す」

友「だけどあの人はいちいち殺し方に文句をつけない、だから自殺を選ばせてやろうと思ったのに…」

友「分かったよ、そんなに死にてぇなら…」

友「死ね」

ドスッ

男「…ぁ…」

女「男ぉぉーーーっ!!」

111: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 21:04:33.94 ID:4hyCQymdo
友「これで、お前の人生はおしまいだ」

友「いやぁ、なかなか楽しいもんだったぜ、お前とのお遊びは」

友「…でも、ここからは違う」

友「…お前との、遊びなんかじゃなくて…」

友「本物だ、本当のオカルトだ…!」

友「ふふ、あはは…あーはっはっはははははははは!!!!!」

男「…」

男「…それが、お前の、願いかよ?」

友「…」

男「…なぁ、友」

友「…っかしーな、…確かに刺した…はずだけど」

男「…刺さったよ…、でも、浅い」

男「…俺が避けたんじゃねぇ」

男「…お前が、躊躇ったんだろ?」

友「ああああぁ…!?」

女(…正気じゃない…!下手な挑発は…!!)

112: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 21:32:55.74 ID:4hyCQymdo
友「うるせぇ!うるせぇえ!うるせぇえええんだよ!!」

友「誰なんだよてめぇはぁ…!!ごちゃごちゃうるせぇんだよ…!!」

友「もうてめぇなんかどうでもいいんだよ…!俺は…俺はなぁ…!」

友「…ぐっ…ぅうう…!!」

友「殺す、殺す殺す殺す…!!」

友「殺して、俺は…あの人に…」

友「…あの人に…教えてもらう…!!だから」

友「どけよぉぉぉぉっ!!!!」ダッ

男「…」

男「…」

男「…お前、誰に…」

友「…っ!!」ビタッ

男「…」

男「…誰を、求めてんだ…?」

友「…黙れ!」

113: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 21:42:55.05 ID:4hyCQymdo
男(…オカルト…怪奇現象)

男(…化物、超常現象、超能力者)

男(…幽霊…)

男「…」

まっくらでもさいあいのひとのすがたはみえるから

男「…既に、死んじまった、やつ」

男(…なんでずっと泣いてた…?決まってる、悲しかったからだ)

男(…なんで、悲しかった?…なんで、何にも興味を示さなかったくせに…)

男(オカルトだけは、あんなに…?)

この世には、絶対に説明出来ない何かが存在する

男(それが、存在するなら…)

男(オカルトが、存在するのなら…)

男「…」

男(…死んじまった奴にも、会える…?)

男(その可能性が、ある?)

男「…お前…!まさか…!」

友「…」

友「そうだよ」

友「…あの人の存在そのものが」

友「…証明になる」

114: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 21:49:12.69 ID:4hyCQymdo
友「…死んだやつに会いたいって、そんなに悪いことか?」

友「…だって悲しいじゃねぇか…」

友「…あれだけ生きた…必死に生きた人が、たった一度、不運を被っただけで」

友「…それだけの事で、居なくなっちまうなんて、おかしいじゃねぇか」

友「…死んじまうって、どういう事なんだよ?」

友「もう…何も感じることなく、自分を意識することも出来ずに、無になっちまうってことなのか…?」

友「…この世には、魂なんて、死後の世界なんてないのか?」

男「…」

友「いいや、俺は認めねぇ」

友「この世に、魂は存在する」

友「死後の世界は存在する、オカルトは存在する、幽霊は存在する」

友「俺はもう一度っ!!母さんに会えるっ!!!!!!」

男「…うだったのか…」

男「…何で、言ってくんないんだよ…」

115: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 21:55:09.62 ID:4hyCQymdo
友「言ってどうにかなんのかよ!お前が母さんに合わせてくれんのか!?」

友「無理だろ!?だから俺はせめて自分で探す事にした!」

友「幽霊にさえ会えれば!いいや、幽霊じゃなくたっていい!絶対に有り得ない何かを見つければそれはそのまま証明になる!」

友「何かを見つければ、幽霊を否定出来ない!母さんに、また会える!!」

男「…」

女「…」

女(…ただ、ただただ母親に会いたかっただけ)

女(たったそれだけの願いが、どうしてここまで歪んでしまうの?)

女(…男…気をしっかり持って…!あなた、言ってたじゃない)

女(絶対に、連れ戻してみせるんでしょう!?)

男「…」

男「…し」

女「…」

男「知らねぇよ」

116: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 21:59:41.61 ID:4hyCQymdo
友「…あ?」

男「くっだらねぇ、何言ってんだお前」

男「母さんにもう一度会いたいだとか、幽霊は存在するだとか、何女々しい事言ってんだよ」

男「そんなもん俺が知るか、聞いて損した、言い当てて損した」

男「そんなしょうもないことのために、俺は振り回されてたのかよ」

友「黙れっ!!お前に何がわかんだよ!!」

友「何も知らねぇくせに、達観してんじゃねぇ!!」

男「知らねぇよ、じゃあ逆にお前は何を知ってんだよ?」

男「幽霊?オカルト?くだらねぇ、そんなもんはこの世には一つもありゃしねぇ」

男「あったとしても、俺たちごときじゃ絶対に見つけらんねぇ」

男「歪にしたってそうだ、あんな奴がいるからこそ、幽霊がいる絶対の証明?」

男「何言ってやがる」

女(…傷が…!!)

男「…げほっ…」

男「そんなもんはねぇんだよ、幽霊なんて、いねぇ」

男「お前の母さんは、死んだんだ」

友「うるせえええええ!!!」

117: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 22:03:54.47 ID:4hyCQymdo
男「既にいなくなっちまったもんをいつまでも引きずってんじゃねぇよ、馬鹿かお前」

男「そんな下らねぇことに縋ってんじゃねぇ」

友「母さんに、会いてぇんだよ!」

男「会えねぇんだよ!!!」

友「っ…!!」

男「もう一度言う、幽霊なんていねぇ」

男「お前の母さんは死んだんだ」

友「…」

男「…」

友「…なんだよ…何なんだよ…」

友「…じゃあ、もう…俺は…」

友「…俺はなんのために…」

バキッ!!!

ガシャァァン!!

女「…っ」

118: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 22:07:20.04 ID:4hyCQymdo
友「げほっ…!!」

男「…何にもなかったか?」

友「…!」

男「本当に、何にもなかったか?」

男「…俺とお前の、あの日々は、何にもなかったのか?」

男「…」

男「少なくとも俺は」

男「すっげぇ、楽しかったぜ」

友「…」

友「…」

友「…居ねぇんだな」

友「…もう、母さんは…どこにも…」

友「…もう、居ないんだな…!?」

男「…」

男「…ああ、でも、俺が居る」

友「…」

友「…」ドサッ

男「…」

男「…はぁっ…」ズルッ

119: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 22:12:48.75 ID:4hyCQymdo
男「世話かけさせやがって、バカが…」

女「…」

女「…あっ…!そうだ…!傷…!」

男「…あぁ…すまん、ちょっと横になるわ…」

女「バカ言わないで…!見せなさい!」

男「…んだよ…よ、欲情すんじゃねぇぞ…」

女「…減らず口が叩けるなら…大丈夫そうね」ビリッ

男「…」

女「…良かった…本当に浅かったのね…傷…」

男(…馬鹿だよなぁ)

男(…もう少し、早く気がついてやりゃよかった)

男(…そうしたら、お前はこんなに思い詰めることもなかったのかもな)

120: SS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 22:43:29.60 ID:4hyCQymdo
女(…浅い傷)

女(…いいえ、浅くなんてない)

女(…きっと、この人達は今日のことを悔やみ続ける)

女(気がついてあげられなかったことに、手を挙げてしまったことに)

女(その原因全てが歪にあるとしても、彼らはきっと今のままでは…)

友「…」スー

男「…」スー

女(…)

女(もう、悲観的になるのはよそう)

女(男は、絶対に無理だと思っていたことを成し遂げた)

女(友は、歪の支配から逃れた)

女(2人とも、私にはない力を持ってる)

女(1歩、踏み出して歩み寄る、羨ましい力を…持ってる)

女(だから、きっと大丈夫だよね)

123: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 22:05:48.64 ID:9YOt60mYo



男「…う…」

男(薄暗い部屋…まだ、目が…)ズキッ

男(…っつ)

女「安静にしてなさい、浅いって言っても刺されたのに違いはないんだから」

男「…そうだ…!友…!」

友「…」

女「…まずは落ち着いて、彼も、大丈夫だから…」

男「…」

女「…今でこそ静かだけれど、彼はうなされていたわ」

男「…」

女「そして…何度も吐いていたわ」

男「…」

女「…あなたは確かに彼を取り返した」

女「…でも、それでやっと振り出しに戻っただけなの、未だここから出る術は無い」

女「…それどころか…こっちは満身創痍、どう足掻いても前より後退してる」

男「…」

女「…どうするの?」

女「…どう、したい?」

124: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 22:08:07.66 ID:9YOt60mYo
男「…」

男「…ここから、出たいな」

女「…っ」

男「…ここから出て、またこいつと一緒に馬鹿をしてぇ」

男「馬鹿をして、誰かに迷惑かけて、怒られて…」

男「少し前の俺たちに、戻りたい」

女「…っ…」ズキッ

女「…そうよね」

男「…」

女「…」

男「…?」

男「…どうした?」

女「…何でも、無いわよ」

125: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 22:14:46.53 ID:9YOt60mYo
女「…」

女(…私、最低だ)

女(…ここに、居てほしいって思ってしまった)

女(歪が手を出してこない保証なんてどこにもないのに)

女(…我が身可愛さで、そんなことを思ってしまった)

男「…どうしたんだよ?…顔色悪いぞ、おい」

女(…人の事を、考えられる)

女(当たり前のことよね、でもそれが、私には出来ない)

女(自分さえ良ければ…例え…)

女(…例えこんな素敵な人達の寿命が縮もうとも、構わないんだ)

女「…」

女「…」

女「…あ…」

男「あ?」

女(…どうしても)

女(言えない)

126: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 22:29:36.77 ID:9YOt60mYo
女「…」

男「そうと決まったら…」

女「…いい、あなたはそこに居て」

男「…?」

女「今日は、私一人で探してくる」

男「…そんなもん…」

女「…いいから…」

女「…足でまとい2人が居るより、私一人の方が動きやすいわ」

男「…なら、頼む」

女「…」

男「…けど、絶対に帰ってこいよ」

女「…」

女「…」クスクス

女「…じゃ、行ってくるわ」

127: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 22:34:31.11 ID:9YOt60mYo
女「…」ツカツカ

女「…変な事、考えちゃったわね」

女「…とっととあの2人を追い出して、この屋敷を静かにしないとね」

女「…」

女「…」

女「…寂しいよ、お父さん…お母さん…」

女「…」

女(…?)

女(…いやいや…有り得ない)

女(…あんな親のいる所なんて、絶対に…帰りたくない)

女(…きっと、あの子の記憶のせいね)

見つけた、パパ、ママ

女(…)

女(…パパ…?)

女(…ママ…?)

128: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 22:39:00.20 ID:9YOt60mYo
女「…」

女(…何かの手がかりになると思って持ってきた…この、日記帳)

女「…」


今日は、いつも通りの1日だった
お母さんに言われてお使いに行った後で、お父さんと一緒に遊んだ
お父さんは笑顔で嬉しそうだった
とっても貧しい家だし、お腹が空く時もあるけど
私は幸せ


女(…男が言ってた、これ、あの子の日記帳だって)

女(…だとしたら…)

女(…いえ、小さい子供よ、呼び方くらいで…)

女(…)

女「…あれ…?」

女「…私の親って、どこにいるんだっけ…」

129: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 22:42:00.53 ID:9YOt60mYo
ザザザザザ

「「お使い」ね」

「…お父さんと、「遊ぼう」か」

ザザザザザ

「嫌だっ…!やめて…!殺さないで…!!」

「やめろ!やめろ!私が悪かった…!!!」

ザザザザザ

ザザザザザ

ザザザザザ

ザザザザザ

ザザザザザ






「これで、自由だあ」

ザザザザザ

女(…っ…!!!!)

女「…っげええええええええぇぇっ…!!!!!!」ビシャビシャビシャビシャッ

130: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 22:55:42.13 ID:9YOt60mYo
女(…何っ…!!これっ…!!!)

女(馬鹿じゃないのっ…!?馬鹿…!!)

女(…惑わされるな…!!こんなの嘘だ…!!)

女(歪の、幻覚だっ!!!!!!)

ザザザザザ

「そうだ、書き留めておかなくちゃ」

「私が、私になった大切な日だもの」

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

「変な目をした、お兄さんがやって来た」

「そして、お父さんとお母さんを縛り付けて、こう言いました」

「「やられた事を、やればいい」って」

「ふふ、あははは、ははは、は、ははは、はははははは!!!」

ザザザザザ

女「…じゃあ…これ…」

女「…この、日記帳っ…て…?」

女(…この、血で開かない…ページ…)

女「…嫌だっ!!もう、知りたくないっ!!!」

女(…何で、今更…!?知らないままでもよかったじゃない!!)

女(…どうして!?どうしてこうまでして目に見えるように…手に取るように…!!)

女「…彼らとの差が、分かってしまうの…?」

ザザザザザ

「…消さなきゃ、消さなきゃ」

「…この日記は、嘘だから…!消さなきゃ…!」

ザシュッ

ボタボタボタボタボタボタ…

ザザザザザ

女「嘘だァァァぁぁぁぁあああああーっ!!!!」

歪「 本 当 だ 」

131: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 23:02:33.33 ID:9YOt60mYo
歪「哀れな女だ、私が手を出さない?」

歪「出す必要などないのだ、お前は誰よりも」

歪「誰よりも狂っていたのだから」

女「…あ、あ…」

歪「人間とは、本当に面白い」

歪「自らの記憶に蓋をして、自らの精神の安寧を望む」

歪「こんな所に6年、生きながらえていて、まともなはずがあるまいよ」

歪「本当に、面白い」

歪「彼奴らを殺し、食い、無様に生きる貴様を観察したいと思うのは、当然だろう」

歪「記憶の蓋が空いた原因は?心当たりはあるか?」

女「…だ、まれ…」

歪「そうか、奴らか」

歪「そうだろうな、貴様とは」

歪「貴様とは似ても似つかぬ程遠い人間達だからなぁ」

女(…)

女(…黒い瞳…白い瞳孔…見たことがある)

女(…私、見たことあったんだ)

女(…私、もう、狂っていたんだ)

歪「歪に歪んだお前が欲しかった」

歪「あいつらはもう、必要ない」

歪「殺してしまおうじゃないか」

132: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 23:06:53.79 ID:9YOt60mYo




男「…」

友「…」

男「…起きたか、ボケ」

友「…」

友「…何かさ、スゲー変な夢、見たよ」

男「…」

友「…母さんが、笑ってたんだ」

友「…笑って、俺の手を取ってくれてさ、抱き締めてくれた」

友「…なんて言ったかは、聞こえなかった、でも…」

友「…ありがとうって、言ったんじゃねぇかなあ」

男「…大層なことで…」

男「会えたじゃねえかよ」

友「…迷惑、掛けたな」

男「ほんとにな、何度見捨てようと思ったことか」

友「…マジで、ありがとうな」

男「…」

133: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 23:10:45.52 ID:9YOt60mYo
男「…俺だけじゃねえよ」

友「…?」

男「…あいつだって、お前のために頑張ってたよ」

友「…俺の知らねー間に、随分仲良くなってんじゃねぇか」

男「…」

男「…そろそろ、行くか」

友「…だな」

男「…心配だ」

友「…女は、今どこに?」

男「…一人で探しに行った、もう結構経つな…」

友「…」

男「…なぁ、お前さ、歪ってやつに操られてたんだろ?」

友「…操られちゃ、いねぇよ」

男「…?」

134: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 23:14:30.70 ID:9YOt60mYo
友「…あいつに触れるとな…善悪の区別がつかなくなる」

友「…あいつは、人間の歪んだ望みを強調させる」

男「…」

友「…何をしてでも、それをしたくなっちまうし、誰を殺してでも手に入れたくなっちまう」

友「…俺みたいに、望みがあったやつはまだいいよ」

友「…でももし、望みなんか本当はなくって…」

友「…自分がなんで生きているかもわからない奴だったらきっと…」

友「…マジで言いなりになっちまうんだろうな」

男「…」

友「…」

男「…探しに行こう…」

友「…」

友「…仕方ねぇなぁ、お前に振り回されるのは俺の役目だもんな」

男「…こっちのセリフだっての、馬鹿が」

135: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 23:23:13.79 ID:9YOt60mYo




女「いっ…あ、あ、あ、あ!!!」

女「あああああ!!ぎゃあああああっ!!!」

歪「痛いか?もう時期慣れる」

歪「…私の一部を移植しても、問題なしか」

歪「素晴らしいじゃないか、やはり今までで1番の適正だ」

女「…あっ、がががが…!!ぎぎぎ…!!…うぇええええっ!!!」ビシャビシャビシャビシャ

女(…指一つ…すげ替えただけで…っ…この、痛み…)

女「がががが…!あ…!!!あっあああああああ!!!!」バタンバタンバタン!!!

女「じぬっ…!!やべてぇ…!!!いだいっ!!!いだいいいいい!!!!」

女(痛い…なんてもんじゃない…!!痛すぎて…気絶すら…)

歪「次に足、次に腕、少しずつ増やしていくぞ」

女「あっ、あっ…あああああ!!!いやぁいああああっ!!!」ガチャガチャ!!!

女(外さないと!!!死ぬっ!!!やめてっ!!!)

女「…あ、があああ…!!」

歪「…」ピクッ

136: SS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 23:39:47.74 ID:9YOt60mYo
「ここが、お前が連れ去られた場所だ」

「…へー、照らしてみるとマジで不気味な部屋だな」

歪「…鼠共が…」

歪「…」

女「…」ガクガクガク

歪「…まぁ、いい」

歪「どうだ?辛いだろう?痛いだろう?」

女「…」

歪「お前は今何がしたい?何がしたくて、そこにいるんだ?」

歪「お前の希望を言ってみろ、それに見合う力を与えてやろう」

女「…」

女「…ペッ」

歪「…」

女「…ごめん…だよ」

女「…この、歪野郎…!」

歪「…」パチンッ

グチャッ

歪「まだまだだな、真に絶望するのは」

歪「…」

歪「…そうだ、面白いことを、考えた」

グチャッ グシャッ グチャッ グシャッ グシャッ…

138: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 12:53:13.66 ID:QJDkzl85o
男「…これに触れた時、変な声が聞こえた」

友「…声?」

男「…なんて言ってたのかは、正直分からん…でも、あれは歪に向けた声だったと思う」

友「…」

男「…もう1回」スッ

バシャッ

友「…?」

男「…?」

友「…何か、聞こえたか?」

男「…いや…つーか…なんだ今の音…?」

友「…!…おい…男…!」

男「…っ!」

女「…はぁっ…はぁっ…!はぁっ…!」

男「…また、何も無いところから…」

女「…お、とこ…?」

男「…どうなってやがる…?また、歪が…?」

女「…ぐぅっ…!」

友「…つーか素っ裸じゃねぇか!男、布!布!」

男「…お、おう…」

139: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 12:57:25.79 ID:QJDkzl85o
女「…はぁ…はぁ…」

男「…大丈夫か…?」

友「…」

女(…意識が…朦朧としてる…)

女(…私、歪に…)

女(…っ)

女「…潰された」

男「…は?」

女(…潰された…!そうだ…潰されて…影も形もないくらいに潰されて…!)

女(…じゃあ、なんで生きてるの…?なんで私は…?)チラッ

友「…おい、何だよその…指…」

女「…?」

ウゾウゾ

男(…指だけが、女の意志とは別に、動いてるように見えた)

男(…虫のようなそれは、キチキチと不気味な音をあげて…)

ゾブッ

女「…が、ほ…」

男(…女の胸を貫いた)

友「…うっ…!!」

男「…女っ!!?」

140: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 13:00:29.84 ID:QJDkzl85o
ボタボタボタボタボタボタ

男「…この量…!冗談じゃねぇ…!死んじまう!」

男「…友…!そっち持て!おい!!」

友「…おい…男…」

男「…あぁ!?」

ジュルジュル

女「…あ…」

男「…傷が…治って…」

友「…何だよこれ」

女「あ、あ、あ、あ」

女「…ああああぁ…」

女(…貫かれた胸の穴が、まるで逆再生のように塞がっていく)

女「あああああ…!」

女(化物にされた、化物にされた、私は…化物にされた…!)

男「おい、女!しっかり…!」

女「嫌ぁぁぁぁーーっ!!!」

142: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 19:47:55.49 ID:bX8bRgE2o
女「嫌だあっ!!!離して…!!!離せえ!!!」

男「おいっ…!!落ち着けって…!!」

女「離せ!!!離してえ!!!!離…!!」ゾブッ

女「…あ、あ…」

ゾブッゾブッゾブッ

女「あ、あ、あ、あっ…!」

女「げぼっ…!」

男「…おい!!!女!!」

女「ああ、ああああ…!!!ぁぁあああ…」

ドサッ

男「…」

友「…」

ジュルジュル…ジュルジュル…

男「…こんな…事って…」

友「…何だよ、これ…」

143: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 19:52:03.10 ID:bX8bRgE2o
男「…」

友「…女は?」

男「…まぁ…今は寝てる」

友「…あれ、何なんだろうな」

男「…お前でも、分かんねぇのか?」

友「…俺なんて、歪にあてられただけだろ」

友「…何があったか予想はつかねぇけど…間違いなく、俺より酷いことされてるぜ」

男「…」

男「…」カタカタ

友「…男?」

男「…俺、もう歪ってやつの事がわかんねぇ」

男「…何で俺を殺させようとしたのかも…なんで自分から直接手を出してこないのかも…」

男「…何でこいつがこんな目に遭わなくちゃいけないのかも…分かんねぇ…」

友「…」

144: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 19:58:32.63 ID:bX8bRgE2o
男「…あいつの目的はなんなんだよ…あいつは一体、何がしたいんだ?」

男「…女をこんな目に遭わせてまで、あいつはどんな事がしたいんだ?」

友「…」

友「…あんな奴に、目的があるとは思えねぇな」

友「…ああいう奴は、面白いからやってんだろ、楽しいからやってんのさ」

友「…誰に迷惑がかかっても、自分さえ楽しければ良い」

友「…俺達だって、そうだったろ?」

男「…」

友「…とにかく、俺達だけでも女を助ける方法を探そう」

友「…もう、無関係のやつじゃないんだろ?」

男「…ああ」

145: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 20:06:22.31 ID:bX8bRgE2o
男「…」

友「…」

男(…薄暗い…相変わらず腐臭が漂ったままだ)

男(…俺達、本当に出られるんだろうか…)

男(…ここで、命尽きるまで、さ迷い続けるんだろうか…)

男「…あ」

友「…ん?なんか見つけたか?」

男「…そういや…あの時の声…」

友「…あぁ、言ってたな」

男「…あの声、何だったんだろうな」

友「歪に向けた声ってやつか」

男「…」

男(…ただの幻聴?…いや、それにしてはあまりにリアル過ぎた)

友「もう一回言ってみるか?」

男「…けど…」

友「…歪が来たらもうそれまでだろ、行こうぜ」

男「…」

146: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 20:11:55.08 ID:bX8bRgE2o
ギィィ

男「…」

男「…蝋燭、貸してくれ」

友「ほいよっと」

男「投げて寄越すな、危ないだろうが」

男「…」

男(…見たところ…やっぱり、墓に見える)

男(…というより、骨があったし、やっぱり墓なんだろうな)

男「…じゃあ、誰の?」

友「…」

男(ここは一体、誰の墓だ?)

男(こんな風に墓を立ててやるほどの、奴なのか?)

男(歪は一体、何のためにこの墓を…?)

友「…」

友「なぁ、男」

男「ん?」

147: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 20:15:16.06 ID:bX8bRgE2o
友「…俺、何で狂っちまったんだっけ?」

男「…自分から黒歴史訪ねてくるスタイル、キモイな」

男「…母さんに、会いたかったからだろ」

友「…だよな」

男「それがどうしたんだよ」

友「…」

友「…」

友「…もしかして、これそんなに難しい事じゃないんじゃないのか?」

男「…は?」

友「…唯一絶対の超能力者…誰かの墓…もうこの時点で割と答えは出てるだろ」

男「…いや、出てねぇよ」

友「…俺達は…死んだ誰かのために、狂っちまえるんだ」

友「…狂ってしまえるんだ」

男「…」

148: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 20:22:15.42 ID:bX8bRgE2o
友「…きっと、なんにも難しい事なんてねぇ」

友「…何で、あんな不気味な人体実験紛いのことを歪はしてたんだ?」

友「何で、最初から俺達を殺そうともしなかったんだ?」

友「…俺達は、あいつにとって、人間じゃなくて…」

男「…!」

男(…そうだ、そもそもおかしいんだ)

男(どうして歪は俺達を殺そうとしなかった?)

男(殺すこともしないで、こんな所に閉じ込めるような真似をしたんだ?)

男(…餓死した男は、何で「餓死した」?)

男「…お前は、ただの「手駒」で」

友「…お前は、「不要」」

男(…あの化物の声は女性…)

友「…俺達は…いいや…」

友「この屋敷に足を踏み入れた女達は…」

男「…全部歪の実験体」

149: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 20:27:07.65 ID:bX8bRgE2o
男「あいつらは、歪の失敗作で…」

友「俺達は、弄る価値もないただの人間」

友「…」

友「なぁ、男」

男「…」

友「お前が聞いた声って、どっちだったんだ?」

男「…」

男(…どっちって…どういう…)

男(…いや、質問の意味は…分かってる…だから、つまり…!)

男「…女性の声だった…」

男「…あの声は、女性のもんだった…!」

友「…」

男「…」

友「…この墓は…」

友「歪がどうしても生き返らせたい奴の墓…!」

150: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 20:31:22.73 ID:bX8bRgE2o
男「…」

友「…分かっちまったら…なんて事はねぇ…」

友「馬鹿馬鹿しいが、その辺の理由よりゃよっぽど納得できる…」

友「…あいつは、死者を蘇らせようとしてるんだ」

男「…」

男(…そんな、それこそ有り得ない)

男(幽霊、化物、オカルト、そんなレベルじゃねぇ)

男(…そんなことは、無理に決まってる…)

男「……!じゃあ、女は!?」

友「…化物になってねぇ…つまり…」

友「成功、なんじゃねぇのか…?」

男「…っ!」

151: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 20:37:33.10 ID:bX8bRgE2o
男「…目を離すべきじゃなかった…!」

友「おい!男!」

男「…クソッ…!何だよ…!開かねぇ!!」

歪「諦めろ」

男「…っ…また…!!」

男「…何度も何度も…!バカの一つ覚えみたいに…!!」

歪「…」

歪「正直言って、お前達人間には何も期待しておらん」

歪「自分の生まれた理由すらも分からず、ただのうのうと毎日を生きるお前達には」

歪「だが、少しだけ感心した」

歪「馬鹿で、無能で、クソの役にも立たんお前達でも真実を見抜くことは出来るのだな」

男「…どけよっ…!!!」

152: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 20:41:55.58 ID:bX8bRgE2o
歪「いかにも、私の目的は死者蘇生である」

歪「誰より強大な力を持っていようが、それを無闇に振り回しいたずらに命を奪うことはせん」

歪「犠牲になった者達は、気の毒ではあるが、瑣末な問題」

歪「私はこいつと共に悠久の時を生きる、その為ならば」

歪「どんな業でも背負って見せよう」

ドガァァァァァ!!!

男「…ぐ、ふっ…!」

歪「手を出さぬ、と言ったか?」

歪「手は出さぬよ、ただ念動力で吹き飛ばすだけよ」

友「やめろ!てめぇええ!!」

歪「ふん」

153: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 20:47:29.53 ID:bX8bRgE2o
歪「私の似た願いを持ちながら、その役目を果たす前に満足してしまった半端者が」

歪「お前はもうダメだ、折れてしまっては何の使い道もない」

歪「母親に会いたいと言っていたな?」

ズズズズ

友「っ…!!母さ…!」

歪「こんな感じか?」

友「…このっ…!!」

グシャッ

歪「母親に会えて満足だというのなら、どうも思うまい」

歪「似た肉人形をお前の心が折れるまで潰してくれよう」

友「…めろ…やめろ…やめろっ!!!!」

歪「それともその時の記憶と全く同じ死に方の方がいいか?」

ズズズズ

友「やめろぉぉおおおおーっ!!!」

154: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 20:56:35.23 ID:bX8bRgE2o
男「…この、クズがっ…!!」

歪「口を慎め、ゴミが」

歪「…」

歪「なぜ折れぬ?」

歪「最早脱出など不可能だということが分かっておらぬのか?」

歪「いや、分かっている目だ、なら、何故?」

歪「なぜお前は折れぬ?一体何がお前を支えている?」

歪「何が…」

男「…離、せよ…!この、クズ…」

歪「…」

歪「まぁいい、さあ、主役の登場だ」パチンッ

女「…」

女「…」

女「…」

男「…女」

155: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 21:02:22.41 ID:bX8bRgE2o
男「おいっ!!俺が分かるか!?女!!」

女「…」

女(…誰だっけ)

女(…何か言ってる…誰だっけこの人…)

歪「くくく、無様だな」

女(この人は、誰だっけ)

女(…私は、誰だっけ)

歪「前と同じように「縛り付けて」やったぞ、女」

女「…あ」

歪「お前は私が渡した刃物を上手に上手に、大事に大事に、使っていたな?」

歪「それもそうだろうな、この屋敷に刃物なんて存在しないのだから」

歪「だがもう、それすら必要あるまい」

歪「命を奪うのに、刃物なぞ最早必要あるまいよ」

女(…変な目をした、お兄さん…縛り付けられてる、人)

女(そうだ、私、殺さなきゃ)

女「お使いも、遊びも、無い世界に行かないと」

女「私が私であるために」

ウゾウゾ

歪(十分に馴染んでいる…最早時間の問題…)

156: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 21:11:01.81 ID:bX8bRgE2o
女「私は私が私であるために私以外の人間をすべて殺さないと」

女「私は私が私であるために私以外の人間をすべて殺さないと」

女「私は私が私であるために私以外の人間をすべて殺さないと」

歪「いい壊れ具合だ…」

女「お父さん、お母さん」

女「…ごめんね…」

ゾブッ

男「…っ」

男「…お前…」

女「…」

女「…でもね」

女「…本当は少しだけ、後悔してる」

女「…出会わなければよかった、そしたら、気付くこともなかったのに」

女「でも、出会えてよかった、嫌な人間だけじゃないって知ることが出来たから」

女「…私という人間が、どういうものかは、まだ分からないけれど」

女「彼が彼であるために」

女「…お前を殺す、歪…!」

157: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 21:15:17.55 ID:bX8bRgE2o
歪「…」ツー

歪「…何、故…?」

女「…」

女「…さあ、罪滅ぼしなのかもしれない」

女「…お父さんとお母さんを殺した私は、誰かに許されたくて、あなたを殺そうとしたのかもしれない」

歪「…」

女「…まぁ、どうでもいいの」

女「あなたは、死者を蘇らせることなんて出来なかったけれど…」

女「…」

ズルズル

ズルズル

女「…」

男「…おいっ!!」

男「…女っ!!おいっ!」

女「…」ニコッ

158: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 21:18:29.39 ID:bX8bRgE2o
女「…ねぇ、聞いて」

女「…私、自分の親を殺してた」

女「…殺して、その記憶も全部失って、被害者のように生きてた」

女「…私って、生きてちゃダメなんだ」

男「…知らねぇよ…!!女!!こっちみろ!!おいっ!!」

ズルズル

ズルズル…

ガシャァァァン!

「…」

女「…聞こえる?」

「ママ、パパ…どこ?」

女「うん、ここだよ、私がママだよ」

「えへへ、えへへへへ、えへ」

女「…私のお願い、聞いてくれるかな?」

「…えへへ、えへえへへへ」

159: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 21:25:43.32 ID:bX8bRgE2o
女「…二人を連れて、ここから出て」

「…うん、分かった、ママ」

ズルッ!!

女「…感謝しなさいよー…?あなた、あんだけ嫌ってた化物に助けられるんだからね?」

女「ねぇねぇ、ここから出たらあなた達、何するの?」

女「まだ、オカルト研究なんて、馬鹿なことするの?」

女「…ふふ、してもいいけれど、程々にね」

女「程々になら、いいと思う」

女「きっと、心配してる人達もいるんでしょう?余計な心配かけさせないであげてね」

女「旅行に行ってた、なんてどうかしら、馬鹿だと思われるけれど、それ以上聞かれないと思うわよ?」

女「…ま、精精楽しんでちょうだい…あなたの人生なんだもの…好きにすればいいわ」

男「…女…女…」ボロボロ

女「やあね、何で泣くの?」

女「…さ、お願いね」

「うん」

男「女ぁぁぁーーーー!!!」

女「…」

女「さよなら…」

160: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 21:28:35.07 ID:bX8bRgE2o
ガシャァァァン!

バサッバサッバサッ!!!

女「…」

女「…」

女「…ふふ」

「変な女だ」

ジュルジュル

「…」

歪「っと…」

女「…」

歪「逃がすか殺すかなど、もはや関係の無い話」

歪「まぁ見逃してやったが、それでお前がどうなる事もない」

歪「結局お前は何がしたかったのだ?狂って、立ち直って、あいつらを逃がして」

歪「ひたすら理解に苦しむ」

女「…」


161: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 21:31:01.25 ID:bX8bRgE2o
女「…あんたには一生わからないでしょうね」

女「いいえ、分かるつもりすらないんでしょ?」

歪「そうだな、羽虫の言葉など私には届かぬ」

女「そうね、忘れてしまったのね」

女「大切な人と、一緒に生きたい」

女「そんな純粋な願いさえ、歪に歪んでしまったあんたには、もう二度と分かるはずもない」

ウゾウゾ

歪「また殺すか?不意打ちなどもう喰らわぬぞ」

女「あんたはまだ気がついちゃいない、その願いの根底がどこにあるのかを」

歪「…?」

162: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 21:36:21.49 ID:bX8bRgE2o
女「あんたは一体いつの人間?」

歪「…どういう意味だ?」

女「分からないの?」

歪「…」

歪「…私は…」

ザザザザザ

「…」

「…私は、あなたと一緒に生きたかっただけで御座います」

ザザザザザ

歪「…」

女「もう顔すらも覚えていないのでしょう?」

歪「…」

女「馬鹿馬鹿しいったらありゃしない」

女「あんた、何100年ここに留まるつもり?」

歪「…お前もなかなか化物だな、私の記憶に潜り込んだか」

女「悠久のときを生きる化物は、あんた1人、その人を生き返らせたところで永遠に一緒にはいられない」

女「それがわかっていて尚、歪んだ願いに身を委ねて」

女「逆に聞きたいわね、あんた、何がしたかったの?」

163: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 21:40:40.78 ID:bX8bRgE2o
歪「…」

女「…」

歪「…」

女「…なんてことは無い、一番狂って、歪んでいたのは他でもないあんただったってことよ」

歪「…で?」

歪「それがどうかしたのか?」

歪「私が狂っていようが、関係ない」

歪「あいつを蘇らせても死ぬのなら、その度に作り続ければいいではないか」

歪「その可能性も、今日やっと見つけることが出来た」

女「…」

女「…」

女「…一つわかったことがある」

歪「何?」

女「あんたのその凄まじいまでの執念は、絶対におかしい」

歪「同じ枠組みで語るな、人間」

女「…」

164: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 21:43:31.32 ID:bX8bRgE2o
女「歪み続けたその願いを支えた執念の元は、絶対にある」

女「例えば、このお墓」

歪「…!」

女「これみよがしに置いてあるこれ、大切なものなら自分の近くに置いておけばいいものを」

女「目のつくところに置いておかないと、執念が枯れ果ててしまう?」

女「今風に言うと、モチベーションが下がる?」

歪「…何を…!」

女「…だから…」

女「…結局、どれだけ強かろうが、大きな力を持っていようが」

女「あんたも人間だって、そういう事なのよ」

ガシャァァァン!

165: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 21:56:15.55 ID:bX8bRgE2o
歪「…ぐぅっ…!」ドクン!

女「…諦めなさい、歪」

女「…人間を馬鹿にし続けたあんたは、人間のような理由で死ぬのよ」

歪「…」ドクン!ドクン!

歪「…」

女「…」

歪「ふふ、あはははは!だからどうした!」

歪「お前こそ、どうするつもりだ!?」

歪「私のような化物にもなり切れず、人間も捨てさせられて」

歪「まさにお前こそが、歪じゃないか!歪んでいるじゃないか!!」

歪「半端な歪(ひずみ)に居場所などあるまいよ!!ふふ、愉快だ!!あは、あはははは!!」

歪「愉快でならない!地獄で待ってるぞ…!!化物…!!!」

ドサァッ

女「…」

ゴゴゴゴゴ

女「…歪の支配が、解ける」

女「…元に、戻る…」

女「…」

ズルズル…ズルズル…

女「…あら」

女「…他の子達…」

「痛い、痛い」

「助けて…」

「…死んじゃうの…?私、死んじゃうの…?」

女「…」

女「ええ、一緒に死にましょう?」ギュッ

ガラガラガラガラ

女(これで良かったんだ)

女(幸せではなかったけれど、私は私らしく生きることが出来た)

女(もうそれで、充分)

女(何にも、要らない)

166: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 22:00:56.12 ID:bX8bRgE2o






男「…」

男(…あれから1ヶ月)

男(…連絡も無しに3日ほど消息を絶った俺達は怒られた)

男(そりゃもう滅茶苦茶に、しこたま怒られた)

男(それでもこれだけ時間が経てばあんだけの体験もただの過去になって)

男(何も変わることなく、全ては過ぎていく)

友「おい、何ほうけてんだよ、男」

男(いや、何も変わっていないわけじゃないか)

友「早くダンボールに詰めろよ、先生うるせーぞ」

167: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 22:04:23.06 ID:bX8bRgE2o
男(明らかに部活動の範疇を超えた、3日間のお泊まり企画により)

男(…オカルト研究部は廃部を余儀なくされた)

男「…当たり前っちゃ当たり前か」

男「…」

友「まぁまぁ部屋が無くなるだけで活動をやめるわけでもねぇだろ?」

男「…そだな」

友「…」

男「…まぁ、いい頃合なのかもな、馬鹿やるにも、少しだけ疲れてたところだ」

男「…休憩って意味でも…って、お前何パソコンいじってんだよ」

友「いやぁ、次の内容を決めようと思ってな」

男「…」

男「…はぁ」

168: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 22:07:46.78 ID:bX8bRgE2o
男「そういやあいつ、どうなったんだろうな」

友「あいつ?」

男「ほら、俺達を連れてきてくれた化物ちゃん」

友「あぁ、俺その時気絶してたし」

男「…あー…そうだったな」

友「…」

友「…」カタカタ

男「ちょ、俺も悪かったから、お前もパソコンいじんのやめろ」

男「何を調べて…」

友「だから、次の内容だって言っただろ?」

男「…!」

169: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 22:15:02.80 ID:bX8bRgE2o
友「…」タンッ

友「…〇〇県、少女虐待事件」

友「六年前、〇〇県に住む一人暮らしのばあちゃんが叫び声を聞いた」

友「その声を聞いたばあちゃんが声のところまで行くと、顔を真っ赤に腫らした当時11歳の女の子が玄関の前で座り込んでいたらしい」

友「その日の夜、気になったばあちゃんがまたその家まで行くと、今度は男の声と、女の子の泣き叫ぶ声が聞こえたらしい」

友「お使いと遊び、2人は隠語を使って虐待を隠してたらしいな」

男「…」

友「ちなみにそれが隠語って分かったのはその子の友達の証言から」

友「どっちも小さい子がよく使う言葉だろ?それを聞いた女の子が吐いちまって、友達に問い詰められてポロっちまったらしい」

友「よくある…かは分かんねぇけど、まぁ普通の虐待事件だな」

友「ま、推測するにお使いは閉め出し、遊びは性的虐待って所だろ」

友「ここまで質問は?」

男「…無い」

170: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 22:27:51.57 ID:bX8bRgE2o
友「んじゃあ次、そのことを知った警察がある日の夜その家に訪ねに行った」

友「しかしあら不思議、その家は既にもぬけの殻」

友「それどころか、その家族はそれから1度も帰ってきてない」

友「虐待がバレちまうとまずいと思った逃げたのか、はたまた旅行中に不運に巻き込まれちまったのか」

友「どちらにせよ真実は闇の中…」

友「…もしかしたら、闇じゃなくて、薄暗い屋敷の中」

男「…」

友「…何年友達やってると思ってんだ」

友「忘れられないんだろ?」

男「…」

友「最後を締めくくるには相応しいとは思わねーか?」

友「俺たちオカルト研究部の最後は、オカルトじゃねーんだぜ」

男「…」

友「行くか?」

男「…おう…!」

171: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 22:33:39.83 ID:bX8bRgE2o




「…」

「…」

「…」

女「…あなたは、長かったね」

女「…そりゃあ…そうか…一番強かったもんね」

「…おやすみ」

「…お姉ちゃん」

女「…うん、ゆっくりおやすみ」

女(…これで、本当に1人だ)

女(…寒い、寒い…寂しい…)

女(一人は寂しい、苦しい、辛い)

女(…)

172: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 22:38:39.39 ID:bX8bRgE2o
女(…もし、あの時私が、連れて行ってって、言ったら…どうなってたかな)

女(…いや、そんなこと有り得ないんだけど)

男「…勘弁してくれ!」

女(こうかな?)

男「ああ!来いよ!」

女(それとも、こうかな)

女(あぁ、どっちにしても、無駄だな)

女(考えるだけ、無駄…無駄だ…)

女(…一人は、辛い)

女(けれど、慣れてる事じゃない…いつだって私は1人だった…1人きりで、一人ぼっちで、1人だけで…)

女(…どちらにも慣れない歪じゃ、一緒になんて言えないよ)

173: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 22:47:34.14 ID:bX8bRgE2o
ドンドンドン!!

ドンドンドン!!

女「…!」

「居るんだろ!!女!!開けろ!」

「…あの塀が無くなってる…どうなってんだ?」

女(…何、してるの?)

女(馬鹿じゃないの?)

女「…」グッ

女「帰って…!」

「…女!」

女「帰って!帰って!!帰ってよ!!あなた達には何の用もない!来られたって迷惑なの!帰って!!」

174: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 22:50:14.36 ID:bX8bRgE2o
ギィィ!!

女「…あ」

男「…」

女「…帰って…!」ドンッ

男「…」

女「帰れ帰れ帰れ帰れ!!帰って!!」

女「私は死ななくちゃいけない!人を殺したから!あの子達を利用したから!狂っているから!」

女「帰れ!!帰れ帰れ帰れ!!」ドンッドンッ

男「…嫌だね」

女「…!」

男「誰が帰ってやるもんかよ、俺はまだ、何もしちゃいねぇ」

男「お前が親を殺したとか、そんなもん知らねぇよ」

男「…」

女「ぅ、あ…」

175: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 22:52:08.70 ID:bX8bRgE2o
女「…帰ってよ…」

女(助けて)

女「…もう、二度と私に関わらないで…」

女(助けて!)

女「…私は、歪(いびつ)なの…!…こんな体じゃあ…生きてなんていけないの…!」

女(助けて!!助けてよ!!)

女「だから、帰ってよ!!!」

男「うるせぇんだよ!!!!!」

女「…っ」ビクッ

男「黙って聞いてりゃ、ごちゃごちゃ言いやがって」

176: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 22:58:39.62 ID:bX8bRgE2o
男「お前が人を殺したとか、歪だとか、そんなもんが俺に関係あるのか?」

男「今まで迷惑かけてきた俺達が今更他人のことなんか考えると思うのか?」

男「何言ってんだお前、俺はまだ何も言っちゃいねぇんだよ」

友「…」

男「お前の罪だとか、そんなもん「どうでもいい」から」

男「だから、早くしろよ」

女「…」

女「…ぅうぅううう…」

男「早くしねぇと」

男「次のオカルトが決められねぇだろうが」

女「…ぅああああああああああ…!」

女(…助けてって、言ってないのに…1歩なんて、踏み出すことも出来ないのに…)

女(それなのに…どうして…)

女「…連れて…行ってくれるの…?」

男「…連れてってやる」

男「…まだお前が見たことないものを、見せてやる」

男「もっともっと楽しいことがあるってことを、教えてやる」

男「だから、早くこの薄汚ぇ家から、出てきやがれ!!!」

女「…ぅぅうううう…うわぁぁあああああ…!!」





177: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 23:07:03.10 ID:bX8bRgE2o





「今度のやつも、ただの見間違いだったな」

「もういい加減慣れろよな、いちいち肩落としてちゃキリねーよ」

「そうだな、さ、次はどんなのだ?決まってんだろ?」

「…そうだな…次はこれだ」

「…外国?」

「おう、ここに行けばもっともっと面白いもんが見れるかもしれねぇ」

「…ねぇ、そこに行くのはいいんだけれど…誰がその手段を確保するの?」

「「お前」」

「…バカ2人…ホント嫌になるわ」

「…」クスクス

「馬鹿でいいよ、俺達のオカルトはまだ終わんねぇ」

「な、そうだろ?男」

「…」

「そうだな、俺たちオカルト研究会は」

「…もっともっと、楽しいことを見つける」

「立ち止まってる暇なんて、無いぞ」

「探しに行こう、お前らとならどこへでも行けるから」

178: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 23:07:36.80 ID:bX8bRgE2o









「おう」「うんっ」



179: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 23:12:22.77 ID:bX8bRgE2o




(次はどんなことをして、遊ぼうか)

(時間がいくらあっても足りやしない)

(危険なことも、沢山ある)

(まぁ、だけれど多分)

(月並みなセリフだけれど)

(俺は、幸せだ)

180: SS速報VIPがお送りします 2017/03/18(土) 23:13:50.43 ID:bX8bRgE2o
友「二か月前くらいの夜に正体不明の飛行物体が空飛んでたんだってよ!」
男「それ俺らじゃね?」






おしまい
お憑かれさまでした
このSSを読んだ皆に不気味な体験がありますように

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