【ぼく勉】理珠 「テレビの取材ですか?」

2019年02月06日
【ぼく勉】理珠 「テレビの取材ですか?」

理珠 「テレビの取材ですか?」

元ネタ:ぼくたちは勉強ができない
423: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:34:45 ID:N3EY2ei2
………………緒方家

親父さん 「そうなんだよ、リズたま」

親父さん 「地元ローカルのテレビ番組から電話があってよ。うちを取材したいって」

親父さん 「なんでも、『私たちの街の美味しいお店』って特集を組んでるらしい」

理珠 「美味しいお店、ですか。そう言われてしまえば、引き下がるわけにはいきませんね」

理珠 「受けて立とうじゃありませんか、お父さん」

親父さん 「おう、リズたまならそう言ってくれると思ってたぜ!」

親父さん 「……それでだな。実はリズたまに2つばかり頼みたいことがあるんだが」

理珠 「なんですか? うどんの美味しさを広めるため、私にできることならなんでもしますよ」 フンスフンス

親父さん 「さすが俺の愛娘だ。ありがてえ」

親父さん 「うちのうどんは、テメェで言うのもなんだが絶品だ」

親父さん 「でもな、ただのうどんじゃちっとばかしインパクトに欠けるとも思うんだ」

親父さん 「だから、リズたまには、いま流行の『いんすたばえ』とやらを意識した新メニューを考えてもらいてぇんだ」

理珠 「……『いんすたばえ』……?』」

424: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:35:21 ID:N3EY2ei2
理珠 (……なんということでしょう。お父さんの言っていることが一ミリメートルも理解できません)

理珠 (『いんすたばえ』とは、一体なんでしょうか……)

親父さん 「リズたま? どうかしたかい?」

理珠 「い、いえ。なんでもありません。そのくらいであればお安い御用です」

理珠 「早速明日、新メニューの開発に取りかかろうと思います」

親父さん 「おう! 家の台所は好きに使ってくれて構わねぇから、思う存分やってくれ」

親父さん 「リズたまみたいな頼もしい娘がいて、俺は幸せモンだなぁ……」

理珠 (……引き受けてしまった以上、やるしかありません)

理珠 (新メニュー……なら、)


―――― 『なぁ緒方』

―――― 『ニーズを広げるためにも トッピング類のバリエーションを増やしてみるのはどうだ?』


理珠 (や、やっぱり……文化祭のときのように…… “あの人” に……)

425: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:35:58 ID:N3EY2ei2
………………翌日 緒方家

親父さん 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「あー、えっと……どうも、こんにちは、親父さん」

親父さん 「……おう、センセイ。今日は一体、どういった御用向きで?」

理珠 「何を威圧しているのですか、お父さん。邪魔です」

理珠 「お父さんが新メニューの開発をお願いしたのでしょう?」

理珠 「成幸さんにはそのお手伝いをお願いしたんです」

親父さん 「こ、こいつがうちのうどんの新メニュー作りの手伝い……!?」

理珠 「むっ……」

理珠 「成幸さんはすごいんですよ。文化祭のときだって、すごい思いつきで……」


―――― 『恋人…… 恋人だ!!!』


理珠 「ふぁっ……///」 (な、なぜ私は、あのときのことを思い出して……っ)

成幸 「?」

426: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:36:58 ID:N3EY2ei2
親父さん 「ぐぅ……っ」

親父さん 「……まぁ、いい。ただ、覚えとけよ、センセイ」

親父さん 「ハンパなモンを出してきたら、俺はそれを新メニューとして認めたりしないからな」

成幸 「も、もちろんです。仮にもお店の経営に関わることですから」

成幸 「俺だって、全力で手伝いますよ!」

理珠 「……と、いうことで、お父さんは早くお仕事に戻ってください」

理珠 「必ず、お父さんが満足するような新メニューを考えてみせますから」

427: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:37:43 ID:N3EY2ei2
……………………

理珠 「……では、改めて、今日はよろしくお願いします。成幸さん」

成幸 「ああ。ただ、俺は料理とかはからっきしだからな」

成幸 「手伝いって言っても、正直どこまで役に立てるかわからないぞ」

理珠 「心配いりません。成幸さんは新メニューを考えて、試食してくださるだけで大丈夫です」

理珠 「調理はすべて私がやりますから」

成幸 「ああ、それならなんとかなるかな……?」

理珠 「なります。私、成幸さんと一緒なら、きっと良いメニューができると思います」

理珠 「成幸さんと一緒なら、きっと。いいえ、絶対」

成幸 「お、おう。そうか」

成幸 (なんかしらんが、めちゃくちゃ信頼されてる……!)

成幸 (これはヘタなメニューは考えられないぞ! 本気で臨まなくては……!)

成幸 「よし、やるぞ、緒方。まずは――」

理珠 「――はい。まずはこれをどうぞ」

428: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:38:33 ID:N3EY2ei2
成幸 「……!? もうできてるのか!?」

理珠 「はい。以前成幸さんが考えてくれたメニューを作ってみました」

成幸 「以前俺が考えたメニュー……?」

コトッ

理珠 「とろけるチーズとケチャップのピザ風うどんと、」

コトッ

理珠 「たまごで包んだオムうどんです」

成幸 「あっ……」


―――― 『とろけるチーズとケチャップでピザ風……』

―――― 『たまごで包んでオムうどん……』


成幸 「これ、文化祭のとき俺が言った……」

理珠 「はい。実際に作ってみました。食べてみてください」

429: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:39:04 ID:N3EY2ei2
成幸 「ん。じゃあ、まずはピザ風うどんから。いただきます」

成幸 「これは、チーズのまろやかさとケチャップの酸味がうどんに絡まって……」

成幸 「……うん。うまい」

ズルズルズル……

成幸 「ごちそうさま。美味しかったけど、想像がつく味かな」

成幸 「あと、見た目的にインスタ映えとは程遠いと思う」

理珠 「ふむふむ……。なるほど。参考になります」 メモメモ

理珠 (さすがは成幸さんです。『いんすたばえ』 とやらも理解しているのですね)

430: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:39:45 ID:N3EY2ei2
成幸 「次はオムうどんだな。いただきます」

成幸 「薄い味付けのオムレツからバターが香るな。食欲をそそる匂いだ」

成幸 「……うん。薄味のスープにバターが溶けて、うどんにもバターの濃厚さが移ってるな」


成幸 「これも美味しいぞ」

ズルズルズル……

成幸 「ごちそうさま。これも美味しいとは思う」

成幸 「オムレツがふんわり仕上がれば、インスタ映えもするかもな」

成幸 「ただ、作る手間を考えると、一回一回オムレツを作るのはかなり手間だな」

成幸 「親父さんひとりだと厳しいような気がするぞ」

理珠 「ふむ……。たしかに、お父さんひとりでは難しいかもしれないですね」 メモメモ

431: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:40:26 ID:N3EY2ei2
理珠 「ありがとうございます。成幸さんの意見のおかげで、作ってみたものが客観的に見られます」

理珠 「さぁ、どんどんアイディアを出してみてください。私が全部実現しますから!」

成幸 「おう……」

成幸 (正直、うどんを二杯食べてもうおなかいっぱいだが……)

成幸 (こんなにがんばってる理珠の意志を無下にはできない!)

成幸 「よし! がんばって新メニュー開発を成功させるぞ! 緒方!」

理珠 「はい、よろしくお願いします、成幸さん!」

432: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:41:06 ID:N3EY2ei2
………………数時間後

理珠 「………………」 ゼェゼェゼェ……

成幸 「………………」 ゲフッ……

成幸 (……あれから、一体何杯の創作うどんを食べたことだろう)

成幸 (ほぼすべて俺が考案したものとはいえ。間違いなく食べすぎだ……)

成幸 (もうダメだ。これ以上は絶対に入らない。お腹いっぱいとかそういう次元じゃない)

成幸 (それに、緒方ももう限界だ。疲れ果てている……)

理珠 「……うぅ」

成幸 「……? 緒方?」

理珠 「悔しいです。せっかく成幸さんに手伝ってもらっているというのに」

理珠 「ピンとくるうどんが作れません。『いんすたばえ』とやらが何を求めているのか、まったくわかりません」

成幸 「まぁ、それは分からなくもないが……」

成幸 (見た目ばっかり意識して、味が悪くなってしまっては本末転倒だからな……)

433: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:41:56 ID:N3EY2ei2
理珠 「成幸さんにも申し訳ないです。せっかく手伝ってもらったのに……」

成幸 「俺のことは気にするなよ。俺のアイディアが不甲斐ないのが一番悪いんだし」

理珠 「ち、違います! 私がうまく成幸さんのアイディアをカタチにできないのが悪いんです……」

成幸 「! 何を言ってるんだ! 緒方の作るうどんはどれもめちゃくちゃ美味しいぞ」

成幸 「俺がこんなにたくさんうどんを食べられるのは、緒方が作るうどんだからだ」

成幸 「だから、そんなこと言うなよ……」

理珠 「成幸さん……」

成幸 「それにさ、緒方の作る美味いうどんがたくさん食べられるんだから、役得って感じだよ」

理珠 「ふぁっ……、そ、そんなこと、ないですよ。お父さんの作るうどんに比べれば、私なんてまだまだ……」

成幸 「そんなことないぞ? そうでなきゃ、文化祭で1000食完売なんて無理だっただろ」

成幸 「お前の作るうどんは美味しいよ。なんだったら毎日食べたいくらいだ」

理珠 「へっ……?」

成幸 「……ん?」

成幸 「!?」

434: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:42:56 ID:N3EY2ei2
成幸 (一体俺は何を口走ってるんだー!?)

成幸 (これじゃまるで、毎日うどん作ってくれって、ぷ、ぷぷぷ、プロポーズしたみたいに……)

成幸 (ち、違う! 俺はただ、落ち込んでる緒方を元気づけようとしただけで……)

成幸 (勢い余って、アホみたいなことを言ってしまっただけで!)

成幸 (決して、変な意図は……――)

理珠 「――成幸さん」

成幸 「お、おう、なんだ、緒方……」

理珠 「………………」

成幸 (お、怒ってる? 軽蔑されてる? わからん……)

理珠 「……嬉しい、です」

成幸 「……へ?」

理珠 「そんな風に、成幸さんに言ってもらえるのは、すごく、嬉しいです」

理珠 「わ、私も……。成幸さんに、毎日、私の作るうどんを、食べてもらいたい、です……」

成幸 「あっ……え、えっと……」

ドキドキドキドキ……

435: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:43:47 ID:N3EY2ei2
理珠 「………………」

成幸 「………………」

成幸 (まさかのプロポーズ返し!? って違う!)

成幸 (緒方にそんな意図はない! 文化祭のときだって……)


―――― 『私達が2人でお店を出したら』

―――― 『繁盛するかもしれませんね』


成幸 (そう。そうだ。あのときだって、緒方はまるっきりその意味を理解してなかったじゃないか)

成幸 「………………」

カァアアア……

成幸 (バカなのか俺は!? 今そんなこと思い出して一体どうするっていうんだ!?)

理珠 「……成幸さんは、文化祭のときのことを覚えていますか?」

成幸 「へ……!? そりゃ、もちろん覚えてるけど……」

成幸 (っていうか今まさにそれを思い出してしまって心中穏やかじゃないんだけど!)

436: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:44:19 ID:N3EY2ei2
理珠 「私、あのとき、本当に嬉しかったんです」

理珠 「文化祭でうどん1000食完売しなくちゃいけないことになって、」

理珠 「私はどうしたらいいか分からなくなってしまって……」


―――― 『よし! とにかく……「できない」と思わないことから始めよう!』

―――― 『俺も手伝うからさ』


理珠 「あのとき、もう無理だとあきらめそうになった私に、成幸さんが声をかけてくれたから」

理珠 「本当に、たくさんたくさん、手伝ってくれたから……」

理珠 「……私達の作るうどんを、たくさんの人に美味しいと言って食べてもらえた」

理珠 「私は、それが本当に嬉しかったんです」

理珠 「だから、私……もしも、私がうちのお店を継いだら、」

理珠 「毎日、成幸さんにサポートしてもらえたら、って……」

理珠 「す、すみません。変なこと言ってますね。忘れてください」

437: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:45:06 ID:N3EY2ei2
成幸 「緒方……」

理珠 「成幸さん……」


  「……えらく楽しそうじゃねぇか、ええ? センセイ?」


成幸 「ひっ……!? お、親父さん!?」

親父さん 「……それで?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

親父さん 「肝心の新メニューの方はどうなったのかねぇ、センセイ?」

成幸 「あっ、いや、それは……」

成幸 「まだ……」

親父 「まだぁ……!?」

理珠 「お父さん、違います。成幸さんは色々と考えてくれました」

理珠 「私が、成幸さんのアイディアをうまくカタチにできないから……」

理珠 「文化祭のときだって、成幸さんのアイディアでうまくいったのに」

成幸 「緒方……」

438: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:46:06 ID:N3EY2ei2
親父さん 「………………」

親父さん 「文化祭のときの話はリズたまから聞いたよ」

親父さん 「何でも、リズたまのために方々を駆け回って宣伝し、」

親父さん 「最後の最後までうどんの完売のために尽力してくれたって話じゃねぇか」

成幸 「いや、そんな……。娘さんとクラスメイトのみんなががんばったからであって、俺は別に……」

親父さん 「リズたまが今日お前さんを連れてきたとき、お前さんならもしかしたら、とも思ったんだ」

親父さん 「普段は悔しいから言わねぇが、これでも俺はおめえのこと信頼してんだぜ?」

成幸 「親父さん……」

親父さん 「手間ぁ取らせて悪かったな、センセイ。あとはこっちでやらせてもらうことにするぜ……」

親父さん 「せめて、『いんすたばえ』とやらの意味がわかればなぁ……」

成幸 「……えっ」

成幸 (……ま、まさか、この父娘)

成幸 (インスタ映えの意味がわかってない!?)

439: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:46:49 ID:N3EY2ei2
成幸 「……緒方、念のため確認するが、インスタ映えの意味って分かるか?」

緒方 「それが分かっていたら苦労はしていません……」

成幸 「なるほど」

ガクッ

成幸 「……なるほどなぁ」

緒方 「ど、どうしたんですか、成幸さん」

成幸 「……なぁ、緒方。文化祭の最後で作った、あのうどんを作ってもらってもいいか?」

緒方 「えっ、それって……あの、もみじおろしと大葉を使ったうどんですか?」

緒方 「でも、あんなの、ただのうどんに具を乗せただけで……」

成幸 「いいから、ちょっと作ってみてくれ」

440: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:47:23 ID:N3EY2ei2
………………

緒方 「できました」

親父さん 「ほーぅ。これが文化祭の最後に作ったってぇうどんか……」

成幸 「今からおふたりにインスタ映えというものについて説明します」

成幸 「とはいえ、言葉だけでは伝わりにくいと思いますから、見ていてください」

パシャッ

成幸 (……って言っても、俺もインスタやってるわけじゃないし、)

成幸 (何より、機械もあんまり得意じゃないから、うまくできるか分からないけど……)

成幸 「……撮った写真を、こんな風に加工して」

成幸 「こんな感じかな……。えっと、これをSNSにアップするんです」

理珠 「!? もみじおろしのハートマークが綺麗な色になってます!」

親父さん 「ほう……」

成幸 「フォトジェニックな写真を撮ってSNSにアップすると、たくさんの人に見てもらえます」

成幸 「それが、たぶん、インスタ映え、という奴なんだと思います」

理珠 「なるほど……。『いんすたばえ』 とは奥が深いものなのですね」

441: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:48:09 ID:N3EY2ei2
成幸 (そうかなぁ……)

親父さん 「ふむ……。しかしなぁ、そうなると難しいな」

親父さん 「見た目のために味を犠牲にするなんて、俺は絶対にしたくねぇし……」

成幸 「まぁ、そりゃそうですよね……」

親父さん 「ただ、どうせ多くの人にうちの店を知ってもらうなら、見栄えも良くした方がいいのも確かだ……」

親父さん 「……っと、せっかくリズたまが作ったうどんだ。伸びるともったいねぇ」

親父さん 「俺がもらうぜ」

理珠 「あ、どうぞ。食べちゃってください」

親父さん 「ふむ……」 ズズズズズ……

親父さん 「……ん?」

ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾ……

親父さん 「………………」

理珠 「お父さん? どうかしましたか……? ゆで加減が変でしたか?」

親父さん 「……いや、うめぇな、これ」

442: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:49:54 ID:N3EY2ei2
理珠 「へ……?」

親父さん 「あ、いや、昔から店の手伝いをしてくれてるリズたまの作るうどんが美味いのは当たり前なんだが、」

親父さん 「このもみじおろしの辛みと甘みが絶妙にうどんにマッチして……」

親父さん 「これはこれでアリだな。すげぇモンを考えたもんだ、リズたまは」

理珠 「い、いや、ですからそれを考えたのは成幸さ――」

成幸 「――でしょう!? すごく美味しいんですよ、そのうどん」

成幸 「学園祭でも大好評だったんです。さすがは緒方うどんの娘ですね」

理珠 「な、成幸さん……?」

親父さん 「そうだろう、そうだろう。リズたまは勉強もうどん作りもすげぇからな」

成幸 「せっかくです。娘さんが考えたそのうどんを新メニューにしてはどうですか?」

親父さん 「む……?」

成幸 「さっき見せたとおり、インスタ映えするでしょうし、味も悪くない。父親想いの娘が考えたメニューとなればドラマ性もある」

成幸 「テレビでこのうどんをうまく使えれば、きっとたくさんのお客さんが店に来てくれますよ」

親父さん 「……悪くねぇな」

443: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:51:01 ID:N3EY2ei2
親父さん 「リズたまは、店でこのうどんを提供しても構わねぇか?」

理珠 「そ、それはもちろん、私は構いませんが……」

理珠 (そのうどんを考えたのは、成幸さんで……)


―――― 『恋人…… 恋人だ!!!』


理珠 (っ……)

親父さん 「そうと決まれば、このうどんを俺なりにアレンジして新メニューにしてやるぜ」

親父さん 「大葉は天ぷらにして、もみじおろしの配分も考えて……」

親父さん 「……っし。明日中には仕上げてやるぜ」

親父さん 「センセイも、今日は手伝ってくれてありがとな!」

成幸 「いや、俺は何もしてないですよ」

成幸 「そのうどんを考えたのは娘さんですから。さすが、親父さんの娘ですね」

親父さん 「いやー、ほんとだぜ。リズたまがいてくれなかったらどうなっていたか……」

親父さん 「ありがとう、リズたま。リズたまは最高の娘だぜ」

444: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:51:59 ID:N3EY2ei2
理珠 「………………」

理珠 (……なんでしょう。何か、釈然としないというか、なんというか、)

理珠 (ムカつきます)

理珠 (あのうどんを考えたのは成幸さんなのに)

理珠 (お父さんは私にではなく成幸さんに感謝するべきなのに)

理珠 (どうして私を褒め称えるのですか)

理珠 (成幸さんも成幸さんです)

理珠 (なぜ自分で考えたうどんを、私が考えたかのように言うのですか)

理珠 (それではまるで、私が成幸さんの功績を盗んでしまったようではないですか)

理珠 (成幸さんは一体何を考えているのでしょう)

成幸 「……? 緒方、どうかしたか? なんか不機嫌そうだけど……」

理珠 「……別になんでもありません」

プイッ

成幸 (あー、これは絶対何か怒ってるやつだ)

成幸 (俺が考えたメニューを、自分で考えたことにされたのが、納得いかないんだろうなぁ……)

445: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:53:17 ID:N3EY2ei2
………………夜 緒方家

理珠 「………………」

ムカムカムカムカ……

理珠 (……あれから何時間も経ったのに、未だにイライラします)

理珠 (一体なぜ成幸さんはあんなことを言ったのでしょう。理解に苦しみます)

理珠 (おかげで、勉強も全然捗りません)

……コンコン

理珠 「……? はい、どうぞ」

親父さん 「リズたま~。勉強中にごめんね」

理珠 「いえ、大丈夫です。何か用ですか?」

親父さん 「ひとつ言っておかなくちゃならないことを忘れててね」

親父さん 「リズたま、週末のテレビ取材なんだけど、リポーターの対応をお願いしてもいいかな?」

理珠 「え……? 私がテレビに出るということですか?」

親父さん 「うん。ほら、パパは厨房だし、ママは恥ずかしがって出たくないって言うし……」

親父さん 「アルティマキュートなリズたまが看板娘として出てくれれば、宣伝にもなると思うし……」

446: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:53:55 ID:N3EY2ei2
理珠 「いや、私はそういうのは……」

ハッ

理珠 (……いいことを思いつきました)

理珠 (お父さんも成幸さんも私の話を聞いてくれない。なら……)

理珠 「……分かりました。リポーターの応対をすればいいのですね」

理珠 「それくらいであれば、簡単です。私に任せてください」

親父さん 「本当かい!? ありがとうリズたま! 感謝のハグを――」

理珠 「――では、おやすみなさい、お父さん」

バタン

理珠 「ふふふふ……」

理珠 「……お父さんも成幸さんも話を聞いてくれないなら、」

ニヤリ

理珠 「言ってあげればいいんですよ。テレビで」

理珠 「ふふふ……。当日が楽しみです」

447: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:54:35 ID:N3EY2ei2
………………テレビ取材当日 唯我家

成幸 「今日、緒方の家のテレビ取材だよな……」

成幸 (見るのが怖いような、見ない方が怖いような……)

成幸 (まぁ、やきもきしてても仕方ない。見るか……)

パチッ

リポーター 『皆さーん、こんにちはー。「私たちの街の美味しいお店」のコーナーです』

リポーター 『今日は、うどんの名店、緒方うどんさんにお邪魔しています!』

リポーター 『では、早速お話を伺ってまいりましょう、このお店の看板娘、理珠さんです』

理珠 『……どうも。こんにちは。緒方うどんの娘、理珠と申します。今日はよろしくお願いします』

成幸 (お、おお。さすがは “機械仕掛けの親指姫”。いつもと全く変わらない様子だな)

リポーター 『きゃー、本当に可愛らしい娘さんですね。中学生さんですか?』

理珠 『っ……こ、高校3年生です』

成幸 (あ、そこもいつも通り少しイラッとしてる)

448: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:55:21 ID:N3EY2ei2
………………数分後

成幸 (ハラハラしながら見ていたが、リポートはつつがなく進んだ)

成幸 (緒方は持ち前の冷静さで終始上手に受け答えしているように見える)

成幸 (心配するまでもなかったか。しっかりとやってるじゃないか)

リポーター 『それでは、今日から店に置くことになった新メニューをいただきましょう』

理珠 『どうぞ。新メニューのもみじおろしうどんです』

成幸 (おお。なんか自分が考えたうどんがテレビに映ってるのは、少し気分がいいな)

リポーター 『まぁ、これは可愛らしいうどんですね』

リポーター 『もみじおろしと大葉でハートマークが描かれています』

リポーター 『なんでも、これは理珠さんが自分で考えられたとか』

理珠 『……そのことですが、それは、父の勘違いです』

リポーター 『え……?』

成幸 「……お、おいおい。緒方さん? 一体何を……」

理珠 『そのうどんは、私の友人が考えてくれたものです』

理珠 『……それだけは、訂正しておきたくて、言いました。すみません』

449: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:56:11 ID:N3EY2ei2
成幸 (台本とかもあるだろうに、またとんでもないことをしたな、緒方……)

成幸 (……でも、緒方の性格じゃ、俺が考えたメニューを自分が考えたことにされたら嫌だろうな)

成幸 (親父さんに新メニューとして認めてもらうために、軽率な嘘をついてしまったが……)

成幸 (反省だな。緒方に悪いことをしてしまった)

リポーター 『そうだったんですか。そのご友人というのは学校のお友達ですか?』

理珠 『え? は、はい。まぁ、そうですね……』

理珠 『学園祭でうどんの売上が伸び悩んで、困っているときに、このメニューを考えて助けてくれたんです』

リポーター 『ほうほう。発想力が豊かな方なんですね』

理珠 『そうなんです。成幸さんはすごいんです。勉強を教えるのも上手だし、何より努力家です!』

成幸 (……緒方。俺のことをそんなにすごい奴だと思ってくれてたのか……) ジーン

リポーター 『では、そんなご友人が考えたメニューをいただきましょう。いただきます』

リポーター 『……ん。これは、スープに溶けたもみじおろしがうどんにからまって、』

リポーター 『辛さと甘みがちょうどいいですね。とても美味しいです』

リポーター 『見た目が可愛らしいだけでなく、味は本格的です。おだしもきいていてとても美味しいです』

450: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:57:04 ID:N3EY2ei2
理珠 『……あ、ありがとうございます。父の作るうどんは絶品です』

理珠 『成ゆ――友人が考えてくれたもみじおろしのトッピングも、見た目がきれいでとても美味しいんです』

理珠 『ぜひ、食べに来てください!』

リポーター 『……ちなみに、つかぬことを伺いますが』

理珠 『はい?』

リポーター 『“成幸さん” というのが、そのお友達のお名前ですか?』

理珠 『わ、私、名前を言っていましたか?』 カァアア…… 『す、すみません、勢い余って……』

リポーター 『……あー、なるほど』 クスッ 『ハートマークのうどんを考えるなんて、ロマンチックな彼氏さんですね』

理珠 『……!? か、彼氏!? ち、違いますよ! 私と成幸さんは、そんな……――』

リポーター 『と、いうことで、本格的なうどんが楽しめて、可愛らしい看板娘がいる緒方うどん、』

理珠 『私の話聞いてますか!? ち、違いますからね!? 本当に違いますから!』

リポーター 『ぜひ一度来てみてください。以上、「私たちの街の美味しいお店」でしたー』

成幸 「………………」

カァアアア……

成幸 「な、なんていらんことを言うリポーターだよ、まったく……」

451: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:58:03 ID:N3EY2ei2
成幸 (緒方も緒方だよ。俺のことなんか話さなきゃいいのに……)

成幸 (まぁ、仕方ないか。恥ずかしい思いをしたのはあいつだし、ちょっと可哀想だな……)

成幸 (明日、うどんでも食いがてら、様子を見に行ってやろうかな……)

prrrrr……

成幸 「ん、電話……?」

ガチャッ


『覚えてろよ、センセイ……!』


ガチャッ……ツーツーツー……

成幸 「………………」

成幸 「……あー、俺、当分緒方ん家には近寄れなそうだなぁ」



おわり

452: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/10(水) 19:58:38 ID:N3EY2ei2
………………幕間 「あたしん家にも」

うるか 「今日はリズりん家がテレビに出る日だよね~」

ピッ

うるか 「おお、本当に出てる! っていうか、改めて見ると、リズりんほんと美少女、って感じだよね」

うるか 「………………」

うるか 「……ん?」

うるか 「……彼氏……?」

うるか 「……テレビの取材にかこつければ、成幸のことを彼氏と思ってもらえる……?」

うるか 「………………」

うるか 「ねー! おかーさーん! うちにもテレビの取材来ないかなー?」

うるか母 「なにいきなりバカなこと言ってんのあんたは。来るわけないでしょ」



おわり

ぼくたちは勉強ができないSS ▶

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