【ぼく勉】 あすみ 「そういやあの日、まふゆセンセと何してたんだ?」

2019年03月06日
【ぼく勉】 あすみ 「そういやあの日、まふゆセンセと何してたんだ?」

あすみ 「そういやあの日、まふゆセンセと何してたんだ?」

元ネタ:ぼくたちは勉強ができない
399: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:13:59 ID:Co5zvoAw
………………ファミレス

成幸 「へ……?」

成幸 「いや、あの、“あの日” って、一体……」

あすみ 「いつだか、まふゆセンセが制服着てた日のことだよ」

成幸 「う゛ぇっ……」


―――― 『誤解! 絶対君は何か勘違いをしているわ唯我君! この格好には深いわけが……』

―――― 『え…… 俺はてっきり……』

―――― 『溜め込んだ洗濯物つい全部洗っちゃって着れる服がそれしかないのかと……』


成幸 (あの日のことかぁああああああああ!!)


―――― 『……古橋さんの目に…… さっきの私達はどう映ったのかしら』

―――― 『制服だからやはり恋人同士に見えたのかしらね……』


成幸 (あっ……/// あの日のことか……////)

400: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:14:42 ID:Co5zvoAw
あすみ 「……あん?」

あすみ (なんだ、後輩のヤロウ、急に顔を真っ赤にしやがって……)

あすみ (興味本位で聞いたつもりだったが、まさか、こいつ……)

あすみ (桐須先生と、マジで制服デートしてたわけじゃねーだろうなぁ)

ジトッ

あすみ 「……おい、後輩?」

成幸 「へっ!? あ、いや、全然、その大したことじゃないですよ?」

成幸 「ただ、ちょっと先生が……」

ハッ

成幸 (い、言えるかーーーーーーーーー!! この愉快的な先輩に!!)


―――― 成幸 『桐須先生が服を全部洗ってしまって制服以外着る服がなかっただけですよ?』

―――― 成幸 『ほんと、そそっかしい先生ですよね。あはははは』


成幸 (なんて言えるかぁあああああああああああああああああ!!)

成幸 (最悪そんなこと言ったのがバレたら桐須先生にコロされるわ!!!)

401: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:15:17 ID:Co5zvoAw
あすみ 「後輩、お前さっきから百面相だぞ? どうした?」

ジーーーッ

成幸 「い、いえ、何も……」

成幸 (まずい。先輩が疑うような目をしている……)

あすみ (こいつ……アタシという恋人がいながら、まさか教師とイケない関係なんてこたぁねーだろうな……)

あすみ 「………………」

あすみ (……いや、まぁ、もちろん、アタシとこいつの関係は、ただの “フリ” ではあるわけだが)

成幸 「ほ、ほんと、大したことじゃないんですよ。ただちょっと……」

あすみ 「ただちょっと? ただちょっと何だよ?」

成幸 「……すみません」

402: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:16:10 ID:Co5zvoAw
あすみ 「ん?」

成幸 「すみません。言えません……」

成幸 (桐須先生の名誉を守るために……)

あすみ 「っ……」

あすみ (言えねーってことは、つまり……そういうコトってわけか……)

ズキッ

あすみ (……ま、べつに、アタシにはカンケーねーことだけどさ)

あすみ 「……わかった。変なこと聞いて悪かったな。勉強に戻るとするか」

成幸 「そ、そうですね。そうしましょう」 アセアセ

あすみ 「………………」

あすみ (あんだよ……)

あすみ (ほんとにアタシには言えねーようなことなのかよ)

403: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:16:46 ID:Co5zvoAw
………………

あすみ 「……んじゃ、アタシはそろそろバイトの時間だから、もう行くな」

成幸 「はい。では先輩、明日はバイト先に伺いますね」

あすみ 「おう、また明日な」

モヤモヤモヤ

あすみ (……結局あれから、あの話はなく、なんとなく気まずいまま時間だけすぎてしまった)

あすみ (いや、気まずいなんて思ってるのはアタシの方だけか)

あすみ (何でアタシはこんなに、後輩と先生のことを気にしてるんだ……?)

成幸 「先輩?」

あすみ (後輩はケロッとした顔で、普段通りだ)

あすみ (アタシが勝手に気にしてるだけ、か……)

あすみ (アタシらしくもない。でも……)

あすみ 「……なぁ、後輩」

404: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:17:20 ID:Co5zvoAw
成幸 「? なんです?」

あすみ 「……もう一度だけ聞く。あの日、制服姿の先生と何してたんだ?」

成幸 「えっ……」

あすみ 「もし本当に答えられないなら、答えなくてもいい。しつこくてすまん」

成幸 「あっ、えっと……」

あすみ 「………………」

成幸 「………………」

ウェイトレス (す、すごい雰囲気だわ、あの席……)

ウェイトレス (あれが修羅場ってやつね……!?) ドキドキ

成幸 「……すみません。答えられません」

あすみ 「………………」

あすみ 「……そっか」

あすみ 「恋人のアタシにも言えないようなことなんだな」

405: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:17:59 ID:Co5zvoAw
成幸 「へ……?」

成幸 「や、やだなぁ、先輩」



成幸 「俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか」



あすみ 「っ……」

成幸 「また俺をからかおうって魂胆ですね。そうはいかないですよ」

あすみ 「………………」

クスッ

あすみ 「んだよー、後輩。もっと初々しい反応期待してたってのによ」

あすみ 「拍子抜けだよ」

あすみ 「……んじゃ、今度こそ、またな」

成幸 「はい、先輩! また明日!」

406: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:18:33 ID:Co5zvoAw
………………メイド喫茶 High Stage

あすみ 「………………」

ボーーーッ

マチコ 「……? ねえねえ、あしゅみーどうしたのかな?」

マチコ 「あんなに仕事に身が入ってないあしゅみー初めて見たよ」

ミクニ 「どうしたんだろうね」

ヒムラ 「恋かな? 恋の悩みかな」

マチコ 「!? だとすれば、もちろん相手は……」

ミクニ 「唯我クン一択でしょそんなの!」

マチコ&ヒムラ 「「だよねー!」」

ワイワイガヤガヤ

あすみ 「………………」

あすみ (……アタシ、何してんだ? いや、何しちまったんだ)

ズーン

407: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:19:23 ID:Co5zvoAw
―――― 『……もう一度だけ聞く。あの日、制服姿の先生と何してたんだ?』

―――― 『恋人のアタシにも言えないようなことなんだな』


あすみ (何やってんだ、アタシ……)

あすみ (自分があんなに面倒くさい女だと思わなかった……)

あすみ (……っつーか)

あすみ (あれじゃまるで、アタシが後輩とセンセに嫉妬してるみたいじゃねーか)

あすみ (そりゃ、あれくらい言われても仕方ねーわな)


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ 「ッ……」 ズキッ

あすみ (……何で、あいつのあの言葉を思い出すだけで、こんなに辛いんだ)

あすみ (アタシは、そんなに……)

あすみ (そんなに、あいつに “ニセモノ” って言われたことがショックだったのか)

408: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:19:58 ID:Co5zvoAw
あすみ (アタシは……)

あすみ (アタシは、あいつのこと……――)

客 「――あしゅみーちゃん! 注文お願いしまーす!」

あすみ 「あっ……」

あすみ (……切り替えろ、アタシ。今のアタシは、小美浪あすみである前に……)

あすみ (メイド喫茶ハイステージの、小妖精メイド、あしゅみぃなんだ)

あすみ 「はーいっ! ただいままいりまっしゅみー!」 タタタ


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ (っ……今は、思い出しちゃダメだ)

あすみ (今、考えたら、きっと仕事ができなくなる……。そんなのはダメだ)

あすみ (今は、笑顔で、接客に集中しなければ)

ニコッ

あすみ 「ご注文、お伺いしましゅみー♪」

409: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:20:54 ID:Co5zvoAw
………………夜 小美浪家

小美浪父 「………………」

あすみ 「………………」

ボーーーッ

小美浪父 (めずらしい……)

小美浪父 (……あすみが勉強も家事もせず無為に時間を使っている)

小美浪父 「……あー、あすみ?」

あすみ 「ん……」 モゾッ 「……あんだよ」

小美浪父 (声に元気もない。さすがにこれは心配だな……)

小美浪父 「今日はバイトの前に唯我くんとデートだったんだろう?」

小美浪父 「今日はどこへ行ってきたんだ?」

あすみ 「………………」

あすみ 「……べつに。いつも通り、受験生らしく勉強しただけだよ」

小美浪父 「そ、そうか……」

410: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:21:31 ID:Co5zvoAw
小美浪父 (こ、これは、まさか、ひょっとして……)

小美浪父 「つかぬことを聞くが、」

あすみ 「?」

小美浪父 「まさかとは思うが、唯我くんと喧嘩なんて、してないだろうね?」

あすみ 「っ……」

あすみ (喧嘩……)

あすみ (……だったら、もっと気持ちは楽かもしれねーな)

あすみ (喧嘩以前のことだ。そもそも、あいつは、アタシのことなんか……)


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ (……アタシは、何を考えてる?)

あすみ (アタシは、どうしたいと思ってる? アタシはどうしたい?)

あすみ (アタシは……)

411: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:22:09 ID:Co5zvoAw
小美浪父 (私の問いに対して答えることもできず、急に暗い顔に……)

あすみ 「……べつに、喧嘩なんてしてねーよ。ただ……」

小美浪父 「ただ……?」

あすみ 「……なんでもない。言いたくない」

小美浪父 「!?」

小美浪父 (この反応は、考えるまでもない……)

小美浪父 (あすみと唯我くんの間に何かがあったんだ……!)

あすみ 「……もう寝るわ。おやすみ」

小美浪父 「あ、おい、あすみ!」

小美浪父 (振り返りもせず行ってしまった。ストレートに聞きすぎただろうか……)

小美浪父 「………………」

小美浪父 (いやしかし、あのあすみが、恋愛がらみで悩むことになるとはなぁ……)

シミジミ

小美浪父 (不謹慎な話ではあるが、少し感慨深いな……)

412: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:23:13 ID:Co5zvoAw
………………あすみの部屋

あすみ 「………………」

ボフッ

あすみ 「……はぁ」

あすみ (布団、落ち着く……)

あすみ (このまま、何も考えず寝ちまえば、明日になる……)

あすみ (明日になれば、さすがにこのヘンな気持ちもどっかに行くだろ……)

あすみ (……明日)

あすみ (明日は、店に後輩が来る日だ……)


―――― 『……もう一度だけ聞く。あの日、制服姿の先生と何してたんだ?』

―――― 『恋人のアタシにも言えないようなことなんだな』


あすみ (あいつ、ちゃんと来てくれるかな……って、店でのバイトも兼ねてるんだ)

あすみ (あいつは責任感の強い奴だ。来るに決まってる……)

413: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:23:43 ID:Co5zvoAw
あすみ (ああ、もう、ちくしょう)

あすみ (このまま寝かしてくれよ……)

あすみ (なんで……)


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ (……思い出したくもない言葉ばっかり、頭に浮かぶんだ)

あすみ (わかってるよ。アタシは、お前にとって、ただのニセモノだって)

あすみ (でも……)

あすみ (……あんな言い方しなくたって、いいじゃないか)

あすみ 「………………」

あすみ (……やっぱり後輩は、アタシみたいなちんちくりんじゃなくて、)

あすみ (まふゆセンセみたいな、スタイルのいい美人さんの方がいいんだろうな)

あすみ 「………………」

あすみ (……寝よ)

414: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:24:14 ID:Co5zvoAw
………………翌日 メイド喫茶 High Stage

あすみ 「おかえりなさいませっ、御主人様!」

あすみ 「……って、後輩かよ」

ケッ

あすみ 「営業スマイルして損したわ」

成幸 「いつもより投げやり!? それはひどすぎないですか!?」

あすみ 「いいから早くエプロン着てこいよ。早速床掃除してもらいたいんだ」

成幸 「わかりました。じゃあ、すぐエプロン取ってきます!」

ミクニ 「……よかった。あしゅみー、いつも通りに戻ったみたい」

ヒムラ 「だねぇ。唯我クンと喧嘩でもしたのかと思ってたけど、そんなことなさそうだね」

マチコ 「………………」

あすみ 「……はぁ」

あすみ (いつも通り。いつも通り。いつも通り)

あすみ (……まぁ、大丈夫だろ。いつも通りできてるだろ。多分)

415: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:24:53 ID:Co5zvoAw
あすみ (昨日、寝る前に色々考えた)

あすみ (アタシは、自分のことしか考えてなかったんだ)

あすみ (後輩に言われた言葉で勝手に悩んで、怒って……)

あすみ (そもそもアタシは、そんな立場にないってのに……)

あすみ (後輩は、アタシのために恋人のフリをしてくれてるだけ。ただ、それだけ)

あすみ (そんな後輩に言われたことで悩むなんて、それこそ自分勝手だ)

あすみ (……後輩が真冬センセと何をしてようが、アタシには関係ない)

あすみ (アタシがそのことについて考えるなんてことがそもそもおこがましいんだ)

あすみ (……だから、アタシはもう、後輩に不用意に近づいたり、からかったりしたらいけない)

あすみ (……うん。だから、大丈夫)

あすみ (アタシはもう、大丈夫)

マチコ 「………………」 (“いつも通り” ……?)

マチコ (……そうかなぁ? なんか思い詰めてるように見えるけど)

416: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:25:32 ID:Co5zvoAw
………………

あすみ 「……ん、じゃあ、後輩。ここはどう解くんだ?」

成幸 「ああ、それも基本は一緒ですよ。方程式を正しく立てられれば解けるはずです」

成幸 「その釣り合いの問題なら、連立方程式が立てられると思います」

あすみ 「む……。悪い、式を一度立ててもらえると助かる」

成幸 「ああ、分かりました。ここに書きますね」

ズイッ

あすみ 「……っ!?」 ササッ

成幸 「……? 先輩?」

あすみ 「あ、いや……わ、悪い。何でもない」

成幸 「………………」 ズイッ

あすみ 「っ……」 ササッ

成幸 「………………」 ズイッ

あすみ 「………………」 ササッ

成幸 「……何で逃げるんですか、先輩?」

417: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:26:12 ID:Co5zvoAw
あすみ 「に、逃げてなんかねーよ」

成幸 「どう見ても逃げてますよね!?」

あすみ 「お前が近づくからだろ!」

成幸 「近づかないと書きながら教えられないですよね!?」

あすみ (っ……こいつ、こっちの気もしらないで……)

あすみ (アタシはもうお前に近づかないって決めたんだよ。なのにそっちから近づいてきやがって……)

あすみ 「……よし。じゃあこうしよう」

スッ

あすみ 「アタシはお前の対面に座る。これでアタシに見せながら式を書けるな?」

成幸 「まぁ、書けますけど……逆さ文字か。難しいんだよな……」

あすみ (……すまん、後輩。だがこれもお前のためなんだ)

マチコ 「………………」

ジーーーッ

マチコ (……うん。やっぱりヘンだよね)

418: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:26:44 ID:Co5zvoAw
………………閉店後

あすみ 「……今日もありがとな、後輩」

あすみ 「おかげでまた苦手がひとつ潰せた気がするよ」

成幸 「いえいえ。バイト代をもらいながら勉強できるんだから、願ったり叶ったりですよ」

成幸 「まだそう遅くはないですけど、暗いですから送っていきますよ」

あすみ 「あっ……いや……」

あすみ 「……ありがとな。ただ、今日はちょっと寄るところがあるから、遠慮しとくよ」

成幸 「? そうですか」

成幸 「わかりました。じゃあ、また。先輩」

あすみ 「おう。またな、後輩」

419: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:27:33 ID:Co5zvoAw
………………公園

あすみ 「………………」

あすみ 「……はぁ」

あすみ (……あれ以上後輩と一緒にいたら、また辛い気持ちになりそうだったから)

あすみ (ウソついちまったけど、仕方ないよな……)

あすみ (っつーか、今さらな話だけど)

あすみ (よく考えたら、恋人のフリをしてもらってるって、とんでもないことだよな)

あすみ (アタシがよく知らない男の恋人のフリ……)

あすみ (たとえば、吉田、坂本、高橋あたりで想像すると……)

あすみ 「……うぇっ」

あすみ (……うん。五秒と保たずに想像の中で殴りそうになったな)

あすみ (それを考えると、知り合いでもなかったアタシの恋人役をしてくれる後輩って……)

あすみ (聖人か何かなのか?)

420: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:28:10 ID:Co5zvoAw
あすみ (……まぁ、大変申し訳ないことではあるが、恋人のフリはこれからも続けてもらうとして、)

あすみ (やっぱり、さっき決めた通り、あいつをからかったりするのは金輪際なしにしよう)

あすみ (……今まで散々後輩に迷惑かけてきたことだし)

あすみ (受験に成功しても失敗しても、たくさんお礼をしてやらないとな……)


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ 「………………」

あすみ (……まぁ、後輩はアタシからのお礼なんかいらないかもしれないけどな)

あすみ 「……はぁ――」


「――驚愕。あなたでもそんな顔をすることがあるのね。小美浪さん」


あすみ 「へ……?」

あすみ 「あ……ま、真冬先生?」

真冬 「まったく」 ハァ 「だから、その呼び方はやめなさいと言っているはずよ」

421: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:28:54 ID:Co5zvoAw
あすみ 「どうしてこんな公園なんかに……?」

真冬 「学校からの帰り道よ。まぁ、公園の中に入る予定はなかったのだけど」

真冬 「――ベンチでしょぼくれた顔をしている元生徒を見かけたりしなければ、ね」

あすみ 「っ……。しょぼくれてなんか……」

真冬 「……まぁ、あなたも高校は卒業しているわけだし、私もあまりかたいことを言うつもりはないのだけど、」

真冬 「あなたはまだ未成年でしょう。夜中に公園にひとりでいるのは感心しないわね」

あすみ 「………………」

あすみ (……聞いてしまえば、楽になるだろうか)

あすみ (“あの日、後輩と何をしてたんですか?” って……)

あすみ (この人に直接聞いてしまえば、楽になるのだろうか)

あすみ (ニセモノの恋人のくせに、そんな出しゃばるようなことを聞けば、)

ズキズキズキ……

あすみ (少しはこの胸の痛みもやわらぐのだろうか……)

真冬 「……ふぅ」

真冬 「まるで、受験に失敗したときのあなたを見ているようだわ。小美浪さん」

422: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:29:41 ID:Co5zvoAw
あすみ 「なっ……」

真冬 「半年くらい前かしらね。あのときも、あなたはそんな風に、あなたらしくない顔をしていたわね」

真冬 「何かを後悔するような、何かを迷うような、そんな、小美浪さんらしくない顔を」

あすみ 「………………」

あすみ (……そっか。アタシ、今、そんな顔をしてるのか)

あすみ (受験に失敗して、つらかったあのときみたいな、そんな顔を……)

真冬 「……隣、失礼するわね」 スッ

あすみ 「あっ……な、何でまふゆセンセまで座るんですか……」

真冬 「……あなたはもう私の生徒ではないけれど、」 クスッ

真冬 「アフターサービスみたいなものよ。何か悩みがあるのでしょう? 話くらいは聞くわ」

あすみ 「そんなの……」

真冬 「必要ないかしら?」

あすみ 「………………」

あすみ 「……じゃあ、少しだけ、話聞いてもらっても、いいですか?」

真冬 「ええ。どうぞ」

423: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:30:11 ID:Co5zvoAw
あすみ 「……恥ずかしい話ですし、ひょっとしたら “そんな程度のことで” って思われるかもしれないけど……」

あすみ 「……実は、その……友達、というか、彼氏、というか……いや、なんていうか……」

カァアアアア……

あすみ 「……まぁ、彼氏みたいな相手、と喧嘩をしてしまいまして」

真冬 「………………」

真冬 「……な、なるほど?」

真冬 (す、少しかっこつけて、元生徒の悩みを聞いてあげるつもりが……)

真冬 (急にとんでもない悩みが飛んできたわ……)

真冬 (か、彼氏……? いや、まぁ、小美浪さんくらいの年頃なら当然かもしれないけど……)

真冬 (恋愛関係の悩みなんて私の専門外よ……!?)

あすみ 「……先生?」

真冬 「あ、な、なんでもないわ。続けてちょうだい」

あすみ 「……まぁ、喧嘩というか、一方的に私が怒ってるだけというか、ヘコんでるだけというか……」

あすみ 「それで、ちょっと公園でボーッとしてたんです」

424: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:30:43 ID:Co5zvoAw
真冬 「そう……」

真冬 「……ちなみに、小美浪さんは、その彼氏さんにどうして怒っているのかしら?」

あすみ 「……大したことじゃないです。ただ、あいつが隠し事をするから……」


―――― 『……もう一度だけ聞く。あの日、制服姿の先生と何してたんだ?』

―――― 『……すみません。答えられません』


あすみ 「……でも、それは仕方がないことだったのかもしれないとも思えてきて、」


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


あすみ 「少し、傷つくようなことも言われてしまって……」

あすみ 「……でも、あいつが言ってることが正しいんです。だから、アタシはそもそも、怒る立場にない」

あすみ 「それからずっと自己嫌悪というか、頭の中でグルグル同じ考えが回ってて……」

真冬 「……なるほどね」

真冬 (……どうしよう。小美浪さんが何を言っているのか全然分からないわ)

真冬 (恋愛経験の豊富な人なら分かるのかしら。ダメだわ。私には荷が重すぎる……)

425: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:31:18 ID:Co5zvoAw
あすみ 「……すみません、先生。話聞いてもらっちゃって……」

あすみ 「わけわからなかったでしょ? 色々はしょりすぎたし」

あすみ (……まぁ、何もかも包み隠さず話したら、先生と後輩が制服で何をしてたのかも問いただすことになっちまうし)

あすみ (仕方ないっちゃ仕方ないんだけど……)

真冬 「………………」

真冬 (……然りとて、たとえ元生徒といえど、それを放っておいていいわけではない)

真冬 (荷が重かろうと、経験がゼロだろうと、できることをしなければ、教員である意味はない)

真冬 (私は、小美浪さんの “元” 先生なのだから)

真冬 「……言わないと、伝わらないわ」

あすみ 「え……?」

真冬 「言ったかしら? 伝えたかしら?」

真冬 「たとえ筋違いであろうと、その彼の発言に傷ついたという旨を、彼に」

あすみ 「い、言えないですよ、そんなの……。あいつは悪くないのに」

426: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:31:53 ID:Co5zvoAw
真冬 「そうでしょうね。でも、言ったらきっと伝わるわ」

真冬 「解決するかは分からないけれど、伝わったら、きっと……」

真冬 「……あなたの気持ちを理解してくれるのではないかしら」

あすみ 「………………」

真冬 「……だって、その彼は、他でもないあなたが選んだ男の子なのでしょう?」

あすみ 「ん……」

あすみ 「………………」

真冬 (……そ、その沈黙はどういう意味なのかしら、小美浪さん)

カァアアアア……

真冬 (す、少しかっこつけすぎたかしら。今さら恥ずかしくなってきたわ)

あすみ 「……アタシのこの、モヤモヤした気持ち、わかってくれるかな、あいつ」

真冬 「……ええ、きっと。わかってくれると思うわ」

あすみ 「……そう。そうですね」

427: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:32:23 ID:Co5zvoAw
あすみ (……アタシは、今までずっと、きっと後輩に迷惑をかけてきた)

あすみ (まずはそれを謝ろう。その上で、もし、言えるなら……)

あすみ (……そんなことを言える立場ではないのはわかっているけど、)

あすみ (ニセモノの恋人って言葉にモヤモヤしていることを、伝えよう)

あすみ 「っ……」 カァアアアア……

あすみ (そ、それってもう、つまり、そういうこと、だよなぁ……)

あすみ (いやいやいや、単純にアタシがモヤモヤしてるだけであって、決して……)

あすみ (ホンモノになりたいとか、そういうわけじゃなくて……)

あすみ (……あー、ちくしょう。またわからなくなってきた)

あすみ (でも、不思議だ。なんか……)

あすみ (まふゆセンセのおかげかな。今は、後輩に会って、早く話したくて仕方ない)

真冬 「ふふ……」 (少し表情が明るくなったかしら)

真冬 (それにしても、小美浪さんが恋愛で悩むなんて……)

真冬 (小美浪さんにこんな一面があるのね。在学中は全然知らなかったわ)

428: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:33:08 ID:Co5zvoAw
………………翌日

あすみ 「………………」 ドキドキドキドキ……

あすみ (昨日の今日で呼び出してしまった……)

あすみ (一昨日から三日連続、後輩に会うことになるな)

あすみ (あいつにも予定があるだろうし、そもそも勉強で忙しいだろうし、)

あすみ (さすがに迷惑だよなぁ……。また悪いことしてしまった……)

あすみ 「……後輩、来てくれるかな――」

成幸 「――来られないなら来られないって、最初から断りますよ」

あすみ 「……あ、後輩……」

成幸 「どうしたんです、先輩? なんか元気ないですけど……」

あすみ 「いや、べつに……」

あすみ 「悪いな、後輩。なんか、毎日アタシに無理に付き合わせて……」

あすみ 「今までだって、恋人のフリとか、勉強とか、バイトとか、色々なことに付き合わたし……。本当に、ごめん」

成幸 「? 誰かと一緒に勉強した方が捗りますし、海とかカラオケとか、息抜きにもなりましたし、」

成幸 「俺は、先輩に無理に付き合わされてるとは思ってないですけど」

429: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:33:46 ID:Co5zvoAw
あすみ 「そ、そっか。ならいいんだ」

成幸 「で、今日は一体どうしたんです? 昨日の力学の範囲でまた分からないことでも出ました?」

成幸 「それとも別の分野ですか?」

あすみ 「あー、いや……。勉強の前に、お前に話したいことがあってさ」

成幸 「話したいこと?」

あすみ 「……おう。聞いてもらってもいいか?」

成幸 「そりゃ、もちろん聞きますよ。なんですか?」

あすみ 「……ん。ありがとう」 (……なんて、言ったらいい?)


―――― 『たとえ筋違いであろうと、その彼の発言に傷ついたという旨を、彼に』

―――― 『そうでしょうね。でも、言ったらきっと伝わるわ』

―――― 『解決するかは分からないけれど、伝わったら、きっと……』

―――― 『……あなたの気持ちを理解してくれるのではないかしら』


あすみ (……うん。大丈夫。わかってる)

あすみ (ただ、伝えるだけ)

430: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:34:23 ID:Co5zvoAw
あすみ 「……一昨日のことだから、後輩は覚えてないかもしれないけどさ、」

成幸 「一昨日?」

あすみ 「……お前、“ニセモノ” って言っただろ?」

成幸 「……?」


―――― 『俺たちはフリをしてるだけのニセモノの恋人じゃないですか』


成幸 「ああ……」

あすみ 「……すごく勝手なことだし、自分でもわけわかんないんだけどさ、」

あすみ 「それが、すごく……なんていうか、嫌でさ……」

成幸 「へ……?」

あすみ 「わ、わかってるんだ! 実際ニセモノで、ただのフリで、そんなの、分かってるんだけど……」

あすみ 「……でも、嫌だったんだ。“ニセモノ” って言われるのが、すごく」

成幸 「………………」

あすみ 「わ、悪い。ヘンなこと言って。忘れてくれていい。すまん……」

431: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:34:59 ID:Co5zvoAw
あすみ (い、言ってしまった……)

あすみ (何言ってんだろ、アタシ。もっとこう、ドキドキするもんかと思ってたけど……)

ドキドキドキドキ……

あすみ (このドキドキは、想像してたドキドキじゃない)

あすみ (怖いだけだ。糾弾されて、拒絶されて、絶交される。そんな、恐怖のドキドキだ)

成幸 「先輩……」

あすみ 「っ……」 (怖い。怖くて、後輩の顔も見られない。後輩はどんな……――)


成幸 「――――すみませんでした!!」


あすみ 「ふぇっ……?」

成幸 「いま思い返してみれば、すごく無神経なことを言いました。すみません」

あすみ 「あ……えっと……」

カァアアアア……

あすみ (ああ、そっか……。後輩、アタシの勝手な言い分を、聞いてくれたんだ……)

432: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:35:29 ID:Co5zvoAw
あすみ (……まふゆセンセの言った通りだ)


―――― 『……だって、その彼は、他でもないあなたが選んだ男の子なのでしょう?』


あすみ (後輩、分かってくれたんだ……)

成幸 「そりゃ、嫌ですよね。っていうか、俺だってそんなこと言われたら嫌ですよ……」

成幸 「本当にごめんなさい、先輩……」

あすみ 「あ、いや、そんな、謝れってわけじゃなくて、ただ……」

あすみ 「少しモヤモヤしてたから、それを言いたかっただけだから……」

あすみ 「むしろ、ごめんな。変な気を遣わせるようなことを言って」

成幸 「いや、先輩は悪くないですよ」

成幸 「先輩と俺の恋人関係はただのフリですけど……」

成幸 「先輩と海に行ったり、バイトを手伝ったり、家事代行をしたり……」

成幸 「先輩としてきたことは、ニセモノなんかじゃないですもんね!」

あすみ 「あっ……いや……///」

あすみ (な、なんて恥ずかしい台詞を言えるんだ、こいつは……。こっちが恥ずかしい……)

433: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:36:02 ID:Co5zvoAw
あすみ (でも、そっか……)


―――― 『先輩としてきたことは、ニセモノなんかじゃないですもんね!』


あすみ (この関係がニセモノでも、アタシたちがしてきたことはニセモノじゃない、か……)

あすみ (……うん)

成幸 「先輩、あの……」

あすみ 「……なぁ、後輩? 悪いと思ってるか?」

成幸 「へ? そ、そりゃもう。申し訳ない気持ちでいっぱいですよ」

あすみ 「わかった。じゃあ、詫び代わりにひとつやってもらいたいことがある」 ニィ

成幸 「はい! 俺にできることだったら、何でも!」

あすみ 「うん。じゃ、とりあえず」

スッ

成幸 「せ、先輩……?」 (ち、近い……っていうか、)

成幸 「なんで俺の耳を塞ぐんですか?」

434: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:36:49 ID:Co5zvoAw
あすみ 「……聞こえるか?」

成幸 「えっ? 何です、先輩? 耳を塞がれてるから何言ってるのか分からないですよ?」

あすみ 「うん。それでいい。そのまま聞いてくれ」

あすみ 「……鈍いお前は、“ニセモノって言われて嫌だった” って言ったくらいじゃ気づかないみたいだからな」

あすみ 「まぁ、気づかれるかもしれないって怖さもあったから、虚しさ半分安堵半分ってとこなんだが、」

成幸 「えっ? なんです? 何を言ってるんですか?」

あすみ 「……だから、聞こえないままで、聞いてくれ」

あすみ 「今は、どんなに否定しても “ニセモノ” かもしれない」

あすみ 「でも、いつか……」


あすみ 「……いつか、アタシはお前の “ホンモノ” になりたいんだ」


あすみ 「っ……///」

あすみ 「それだけ、だよ……」

スッ……

435: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:37:27 ID:Co5zvoAw
成幸 「あっ……先輩? 耳を塞ぎながら、なんて言ったんですか?」

あすみ 「……なんでもねーよ。今のでチャラにしてやるから、感謝しろよ?」

成幸 「先輩がそれでいいならいいですけど……」

あすみ 「……それから、」

成幸 「?」

あすみ 「今まで、色々なことに付き合わせて悪かったな。ありがとう」

成幸 「へ……?」

あすみ 「……あと、これからもよろしくな。後輩」

成幸 「………………」 クスッ 「はい、先輩!」


おわり

436: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:37:57 ID:Co5zvoAw
………………幕間 あすみの部屋 「娘の彼氏の趣味」

成幸 (……とりあえず、先輩の家で勉強をすることになったが、家についた途端先輩はどこかへ消えてしまった)

ガチャッ

成幸 「あっ、先輩。やっと戻って来……――!?」

あすみ 「にしし、さすがに外で着る勇気はないが、着てみるもんだな。我ながら悪くないんじゃねーか?」

成幸 「な、何で制服着てんですか!?」

あすみ 「いやな、まふゆセンセの制服がイケるならアタシもイケるだろ、って思ってさ」

成幸 「イケるって何が!?」

あすみ 「言わせんなよー、ドスケベくーん?」

成幸 「アンタ何言ってんすか!? っていうか、その……」

あすみ 「む……。なんだよ。まふゆセンセは大丈夫で、アタシの制服姿は見られたもんじゃないってか?」

成幸 「い、いやいや、似合ってますよ。違和感がまるでないです。後輩って言われても自然なくらいです」

あすみ (……それはそれでムカつくけど) ニィ (にしても、後輩の奴、顔真っ赤だな。制服好きなのか、こいつ)

あすみ 「……じゃ、今日はこのまま勉強会といこうか」

成幸 「なぜ!?」

437: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:38:28 ID:Co5zvoAw
ガチャッ

小美浪父 「大声が聞こえるが、どうした? まさかまた喧嘩をしているんじゃ……」

あすみ 「あっ……」

成幸 「あ……」

小美浪父 「………………」

ポッ

小美浪父 「す、すまない。制服で、と……なるほど、ああ、邪魔をしてしまったな」

成幸 「ち、ちょっと待ってくださいお父さん!? なんか勘違いしてますからね絶対!」

小美浪父 「いや、大丈夫だ。何も勘違いしていない。その……まぁ、唯我くんがコスプレさせる趣味があるのは知ってるから」

小美浪父 「大丈夫。許容範囲だ」

成幸 「許容しなくて良いです! 全部勘違いですからね!? あ、いや、メイド服の件はたしかにその通りですけど!」

小美浪父 「メイド服だけでなく高校の制服も好きなのだね……。い、良い趣味だと思うよ」

小美浪父 「では、これ以上は本当にお邪魔だろうから失礼するよ。唯我くん。えっと……ごゆっくり」

成幸 「ちょっと待ってください! 待って!? 俺の話を聞いてください! お父さん!?」

おわり

438: 深夜にお送りします 2018/12/26(水) 21:41:00 ID:Co5zvoAw


毎回あすみさんのSSを書くたびに言っている気がしますが、
本編のあすみさんはこんなにチョロくないですし、好意も明示されていません。
わたしは単純なのでついチョロくしてしまいます。申し訳ないことです。

幕間も1レスで収められませんでした。それも反省点です。


また投下します。

ぼくたちは勉強ができないSS ▶

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