男「髪が薄くなってきたな……」商人「食虫植物を植えてみては?」

2019年04月15日
男「髪が薄くなってきたな……」商人「食虫植物を植えてみては?」

1: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 21:54:03.476 ID:AnmyUoz80.net
<家>

男「うーん、髪の毛が薄くなってきたな……」

男(オヤジもハゲだし、覚悟はしてたけど……いざ薄くなるとやっぱ精神的にキツイな)

男(しかも、オヤジはわりとワイルドなツラ構えだったからハゲでも似合ってたけど)

男(俺はお袋似だから、ハゲると絶対似合わないんだよな……)

男「あーあ、どうしよう……」ハァ…

男「とりあえず、まだそこまででもない今のうちに、育毛剤でも試してみるか……」

2: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 21:57:11.113 ID:AnmyUoz80.net
<町>

男(育毛剤をいくら使っても全然効果ねえや……)

男(カツラや植毛ってのもみっともないし……)

男(ハァ~……このままなすすべなく散っていく髪の毛を見守るしかないのか……)



商人「おやおや、なにかお悩みのようですね」

5: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 21:58:43.509 ID:AnmyUoz80.net
男「なんだあんた?」

商人「私は商人です」

男「商人? なんの?」

商人「専門分野はありません。お客様の悩みを解決する商品を売るのが仕事です」

男「はぁ……(うさんくせえ……)」

男「で、俺の悩みがなんなのか分かるのか?」

商人「はい。ずばり……薄毛でしょう?」

男「!」ギクッ

男(他人から見ても、そんなにヤバイことになってんのか……!)

7: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:00:42.070 ID:AnmyUoz80.net
男「……で、あんたなら薄毛をどうにかできるってのか?」

商人「はい、できます」

男「あっさりいってくれたな」

男「いっとくけどな、俺は色んな育毛剤を試したんだ。でもダメだった」

男「あとカツラなんてのもゴメンだ」

商人「私が提案する商品は、育毛剤でもカツラでもありません」

男「はぁ? じゃあなんなんだよ」

商人「すばり……食虫植物のタネでございます」スッ…

男「……へ?」

8: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:01:54.898 ID:AnmyUoz80.net
男「食虫植物……?」

商人「はい、これを頭に植えると葉っぱで頭はフッサフサ」

商人「しかも虫を食べて生きるので、世話をする手間もいりません」

男「…………」

男(なんだろう……)

男(はっきりいって、なにいってんだこいつ、ってなるような提案なのに……)

男(なんだか……一理あるような気もしてきたぞ……)

男「え、と……値段はいくらなんだ?」

9: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:03:10.253 ID:AnmyUoz80.net
男「――た、高いな! たかがタネ一つでそんなにするのか!」

商人「しかし、お値段に見合った効能はあると思いますよ」

男「う~ん……」

商人「薄毛ですと、見た目への自信のみならず、自分そのものへの自信もなくなります」

商人「そうなれば、日常生活や仕事などにさまざまな悪影響が……」

男「うぅ~ん……」

商人「さあ、ご決断を!」

男「……分かった、買おう!」

商人「ありがとうございます」ニヤッ

11: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:05:28.285 ID:AnmyUoz80.net
<家>

男「これがタネか……」

男「頭にタネをくっつけて……適度に水をやれば一週間ぐらいで育つとかいってたな」

男「とりあえずいわれた通り、やってみるか……」

男(頭にタネをくっつけて……)ペタッ

男(水かけて、と……)チョロチョロ…

男(本当にこんなんで育つのかな……?)

12: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:06:23.048 ID:AnmyUoz80.net
翌日――

男「ふあぁ……」ムクッ

男「……ん」サワサワ

男「あ、分かる! タネから芽が出てきてる! 頭にも根をはったみたいだ!」

男「一晩でこんなに伸びるとは……よ~し、もっともっと水を与えよう!」チョロチョロ…

14: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:08:22.808 ID:AnmyUoz80.net
それから一週間――

男「お、また生長してる! 鏡を見なくても分かるくらいだ!」



男「おおぉ~、スクスク生長してるな!」



男「お、もう少しで葉っぱができそうだ!」



男「もう一晩ってところかな?」

男「ぐぅ、ぐぅ……」

15: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:11:05.399 ID:AnmyUoz80.net
そして――

男「おおっ! ついに!」

食虫植物「キシャーッ!」

男「ついに俺の頭に食虫植物が生えたぞ!」

男(見た目は……ハエトリグサに似てるな)

男「これで俺はやっと薄毛を克服できたんだ! やったーっ!」

食虫植物「キシャーッ!!!」ウネウネ

16: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:14:04.991 ID:AnmyUoz80.net
<会社>

男「ふんふ~ん」フサフサ

同僚「お前、最近妙に生き生きしてるな」

男「分かるか?」

同僚「そりゃあ、鼻歌まで歌ってりゃあ、誰だって分かるさ」


プーン… プーン…


同僚「ん、ハエだ! うっとうしいなぁ……」

男「よし、出番だ」

食虫植物「キシャーッ!」

18: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:17:12.258 ID:AnmyUoz80.net
食虫植物「キシャッ!」パクッ

食虫植物「…………」モグモグ ゴクンッ

男「よくやった!」

食虫植物「キシャーッ!」

男「お前がいれば、いくらハエがいてもへっちゃらだな!」

同僚(こいつの頭……緑色の髪の毛がフサフサしてると思ったら)

同僚(ハエトリグサみたいなのが生えてやがる……)

19: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:19:27.241 ID:AnmyUoz80.net
プーン… プーン…

男(季節外れの蚊だ……)

食虫植物「キシャアアアアッ!」パクッ

食虫植物「…………」ムクムク…

男「おお、どんどん生長するな!」

男「ほれ、カマドウマだ。食うか?」

食虫植物「キシャッ!」バリバリ

男「うちの会社にはカマドウマがいっぱいいるんだ」

男「どんどん食べて、どんどん育てよ!」

23: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:23:58.700 ID:AnmyUoz80.net
食虫植物「キシャッ! キシャッ! キシャァァァッ!」ウネウネウネ

男(最初は10cmぐらいだったのに、今や30cmぐらいになった……!)

男(今やこいつの生長が、俺の一番の生きがいだよ)

男(薄毛のことなんてすっかりどうでもよくなっちまった)

男「おかげで頭はちょっと重いが……」

男「これからもよろしくな!」

食虫植物「キシャッ!」

24: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:26:29.462 ID:AnmyUoz80.net
食虫植物「キシャシャッ」

同僚女「かわいい~!」

食虫植物「キシャッ、キシャッ」

同僚「へぇ~、こいつ結構人になつくんだな」

食虫植物「キシャ~」

男「食わせられるような虫があったら、食わせてやってくれよ」

同僚「よーし、だったらアリでも捕まえてくるか」

同僚女「あたし、ヒル捕まえてくる! 家の近所によく出るから!」

男「ありがとう!」

男(こいつのおかげで会社の人気者になった!)

28: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:30:15.736 ID:AnmyUoz80.net
男「課長、この書類はいかがでしょう?」サッ

課長「どれどれ……」

男「…………」ゴクッ

課長「ふむ……ほうほう……いいじゃないか!」

課長「君ィ、このところ、油が乗ってきたんじゃないかね?」

男「ありがとうございます!」

男(乗ってるのは油じゃなく、食虫植物なんだけどね)



男「へへへ、お前のおかげだ!」ナデナデ

食虫植物「キシャッ」

29: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:32:57.834 ID:AnmyUoz80.net
<繁華街>

男(今日は給料日……ちょっと贅沢なメシでも……)

チンピラA「ようよう、そこのサラリーマンのお方。景気よさそうじゃ~ん?」

チンピラB「貧しい若者に恵んでくれよぉ~」

男「ゲ……」

食虫植物「キシャアアアアアアアアッ!!!」

チンピラA「うわっ!」

チンピラB「な、なんだァ!?」

30: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:37:01.538 ID:AnmyUoz80.net
食虫植物「キシャッ!」ガブッ

チンピラA「うげえ!」

食虫植物「キシャアッ!」ガブッ

チンピラB「あいたぁっ!」


チンピラA「ひいいっ! 血がっ! 血が出たぁっ! 痛いよぉ!」タタタッ

チンピラB「お、覚えてやがれぇっ!」タタタッ


男「俺を守ってくれてありがとう!」

食虫植物「キシャッ!」

31: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:39:28.696 ID:AnmyUoz80.net
<家>

食虫植物「キシャッ、キシャッ」パクパク

男(今日も俺の食虫植物は元気だ……)

男(こいつがいる限り、俺は薄毛を気にせず堂々と表を歩けるし)

男(会社でも人気者だし、仕事も順調だ! そこらのチンピラだって撃退できる!)

男「お前さえいれば、俺は順風満帆な人生を歩める!」

男「これからも頼むぜ! ――俺のために!」

食虫植物「キシャッ!」

32: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:42:53.857 ID:AnmyUoz80.net
ところが――

食虫植物「キシャァァァ……」シナッ…

男「おーい、どうした?」

食虫植物「キシャァ……」

男「なんでこのところ元気がなくなったんだ?」

男「エサはちゃんと与えてるのに……」

男「こないだ、同僚の女の子からもらったセアカゴケグモがよくなかったのか……?」

商人「いいえ、違います」

男「!」

33: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:45:35.325 ID:AnmyUoz80.net
商人「ついにこの時が来てしまいましたか。誠に残念です」

男「あんたは……商人さん!」

商人「虫を食べて生きるとはいえ、やはり植物」

商人「土ではなく、頭の上で育てるのは難しかったのです。無理が出てきたのです」

商人「こうなれば仕方ありません。お金は返金いたしましょう」

男「いや、金なんかどうでもいいんだ!」

男「どうすれば……どうすれば食虫植物は助かるんだ!?」

商人「ふむ……」

商人「あなたが選ぶべき道は二つあります」

35: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:48:57.733 ID:AnmyUoz80.net
商人「一つはそのまま食虫植物を頭に植えて枯れるのを待ち、髪の毛代わりにしてしまう」

商人「もう一つは、食虫植物を鉢植えに植え替える」

商人「二つに一つです」

男「…………!」

男「そ、そんな……そのどっちかしかないのか!」

男「枯れちまったら髪の毛にはなるかもしれないが、そんなの絶対イヤだし……」

男「こいつが頭からなくなったら俺は元の薄毛に戻っちまう!」

男「なにか……なにか他に方法はないのか!?」

商人「…………」ニヤッ

商人「ならば、もう一つ方法があります」

男「教えてくれぇ!」

36: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:51:49.886 ID:AnmyUoz80.net
商人「それは――あなた自身とこの食虫植物が一体化するのです」

商人「そうすれば、あなたとこの食虫植物は共存することができます」

商人「一生ね」

商人「あなたが“そうする”とおっしゃれば、すぐにでも処置いたしましょう」

男「…………」

男(一番いい方法に思える……けど、一体化か……決心がつかない!)

男「少し考えさせてくれ……」

商人「分かりました。決心がつきましたらこちらに連絡をください」スッ

37: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:54:37.521 ID:AnmyUoz80.net
食虫植物「キシャァァ……」シナッ…

男「しっかりしてくれ……。お前がいなきゃ俺は……」

男(薄毛を克服できたという意味でも、いい相棒を持ったという意味でも)

男(今さらこいつなしの生活は考えられない……)

男(だったらもう、答えは決まってるじゃないか!)

男(それにこいつと一体化しちまえば、真に相棒同士になれる気がする……)

男「なぁ、お前もそう思うだろ?」ナデナデ

食虫植物「!」ピクッ

38: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:57:48.823 ID:AnmyUoz80.net
食虫植物「キシャアッ!」カプッ

男「いでっ!」

男「な、なにすんだ! 俺はお前のことを思ってッ!」

食虫植物「キシャァァァッ!」

食虫植物「キシャシャッ、キシャァァッ!」

食虫植物「キシャッ、キシャッ、キシャァァァッ! キシャシャーッ!」

男「お前……!」

男(分かる……こいつは俺に、自分をこのまま枯らしてしまえ、といっている……!)

39: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 22:59:42.451 ID:AnmyUoz80.net
男「俺だって……分かってたさ」

男「このままじゃいけないってことぐらい……」

男「やっぱ人間として、一人の男として、植物に寄りかかってちゃいけないよな」

男「だけど、お前をこのまま枯らすってのもごめんだ……」



男(だったら、俺は――!)

40: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 23:03:47.134 ID:AnmyUoz80.net
プルルルル…

商人「はい、もしもし」

男『商人さん』

商人「おや、あなたですか。心は決まりましたか?」

男『はい、決まりました。すぐ私の家に来ていただけますか』

商人「分かりました、すぐ向かいます」

商人(ふっふっふ、やはり人間とは弱い生き物だ)

商人(あとはあの男から、返事を引き出せば契約は成立する)

商人(そうすればあの男はあの植物と一体化し、晴れて“魔物”となる……)

41: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 23:06:37.051 ID:AnmyUoz80.net
<家>

商人「――え!?」

男「やぁ、驚いたかい」

男「俺たち、分離したんだ。食虫植物は俺の頭からむしり取って、鉢植えに植え替えた」

男「ほら、すっかり元気になったよ」

食虫植物「キシャッ、キシャッ」ウネッウネッ

商人「なぜ!? なぜそんなバカなことを!?」

商人「そんなことしたら、またあんたは元の薄毛に逆戻りじゃないか!」

商人「あれだけ悩んでいたのに……!」

男「ああ、そうだな」

42: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 23:10:03.903 ID:AnmyUoz80.net
男「だけど俺はやっと分かったんだ」

男「俺はこいつを頭に植えてから、生長するこいつに頼りっぱなしだったけど」

男「こいつと真のコンビになるには、俺もまた成長しなきゃいけないって」

男「だから……頭からむしった」

男「これからは開き直って、薄毛を恐れず、薄毛を受け入れるさ」

男「ま、それだけ伝えたかったんだ」

商人「…………」

43: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 23:13:39.025 ID:AnmyUoz80.net
商人「……分かりました」

商人「そういうことであれば、もはや私になにもいうことはありません」

商人「よくご決断なされました」

男「どうもありがとう」

食虫植物「キシャシャシャーッ!」

商人「では、さようなら」

男「さようなら!」

食虫植物「キシャシャシャシャーッ!」

44: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 23:16:01.039 ID:AnmyUoz80.net
男「お、ハエが飛んでる」

プーン… プーン…

食虫植物「キシャッ!」パクッ

男「相変わらずの素早さだな」

食虫植物「キシャシャ~」

男「おう、よしよし」ナデナデ

男「分離はしちまったけど、これからも俺たちは一緒だ!」

食虫植物「キシャッ!」ウネッ

45: VIPがお送りします 2016/11/09(水) 23:20:08.310 ID:AnmyUoz80.net
商人「…………」

商人(やれやれ、また一人、我ら悪魔の忠実なるしもべにできると思ったのに……)

商人(とんだ失敗でした)

商人(どうやら、食虫植物の奴、彼の“弱虫”まで食べてしまったようですね)

商人(しかしながら、彼が食虫植物に身を委ねない選択をしたのは紛れもなく彼の力)

商人(まだまだ人間も捨てたものではないようです)ニコッ





―おわり―

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