理髪師「王子様の耳はロバの耳!」

2019年06月29日
理髪師「王子様の耳はロバの耳!」

1: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 19:37:47 ID:E6gu3UPI
<城>

国王「おぬしがこの国一番と呼ばれている理髪師か」

理髪師「この国で一番かは定かではありませんが、そう呼ばれることもございます」

国王「うむ……謙虚でよろしい」

国王「おぬしには、我が息子の散髪をしてもらいたい」

理髪師「かしこまりました」

国王「こちらへ来てくれたまえ」

2: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 19:41:26 ID:E6gu3UPI
国王「ところで……」

理髪師「はい」

国王「これからおぬしが何を見ようとも、決して他言してはならぬ」

国王「もしこの約束を破れば……どうなるかは分かっておるな?」

理髪師「……もちろんです」

国王「よろしい。むろん、報酬はそれに見合うだけ払う」

理髪師「……」

理髪師(王子はもう10歳を超えているはずだが、表舞台に出たことはほとんどない)

理髪師(まさか、とんでもない化け物だったりするんじゃ……)

3: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 19:46:33 ID:E6gu3UPI
理髪師「お初にお目にかかります、王子」

王子「やぁ」ボサッ

理髪師(うわっ、ボサボサだ。完全に耳が隠れるほど、髪が伸びちゃってるじゃないか)

理髪師(だが……切りがいがある!)シャキーン

理髪師「それでは王子、これより散髪を開始いたします」

王子「よろしく頼むよ」

4: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 19:48:04 ID:E6gu3UPI
理髪師「……」チョキチョキ

理髪師「……」チョキチョキチョキ

理髪師「……」チョキチョキチョキチョキ

理髪師(少し警戒していたが、なんてことはない……普通の髪の毛じゃないか)

理髪師(このままいけば、問題なく散髪が終わりそうだ――)

理髪師「!?」ギョッ

5: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 19:50:40 ID:E6gu3UPI
理髪師(なんだ!? なんだこの耳は……!?)

理髪師「お、王子……! この耳は……!?」

王子「あーあ、やっぱり驚くよね」

理髪師「犬……? いや猫……? いや、ロバ……ですか」

王子「そのとおり、ボクの耳はロバの耳なんだ」

理髪師「ロバの耳……!」

理髪師(なるほど……こういうことだったのか)

6: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 19:52:45 ID:E6gu3UPI
王子「分かってるよね?」

王子「もしボクの耳のことを誰かにバラしたら……“しけー”だからな」

理髪師「も、もちろんバラしませんとも!」

理髪師(いわれるまでもなく、こんなのバラしたら大変なことになる……)

理髪師(だ、だけど……)

7: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 19:54:36 ID:E6gu3UPI
理髪師「か、可愛い……」

理髪師「あの、ちょっとだけ触ってもいいですか?」サワッ

王子「あっ!」ピョコッピョコッ

理髪師「結構敏感なんですね」サワサワ

王子「やめろよ~!」ピョコピョコピョコ

理髪師「し、失礼しました! つい……」

王子「ふん……まぁいいよ。髪を切ってくれたんだし、触るぐらい許してやるよ」

8: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 19:57:15 ID:E6gu3UPI
理髪師「――お疲れ様でした、終了です」

王子「あ~、さっぱりした! どうもありがとう!」

理髪師「では今後は、一ヶ月に一度ぐらいのペースで来ますので」

王子「うん、頼んだよ」ピョコッ

理髪師(可愛い……)

9: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:02:30 ID:E6gu3UPI
それからというもの――

理髪師「王子様、ご機嫌うるわしゅう」

王子「今日もよろしく頼むよ」



理髪師「こんな髪型はいかがです?」

王子「うん、かっこいい! ボク、本の中に出てくる王子みたいだ!」ピョコッ

理髪師(可愛い……!)



王子「近頃、帝国がこの国にちょっかいかけてきてるんだってさ」

王子「ボク、心配だよ……」

理髪師「大丈夫ですよ。きっと陛下たちがなんとかして下さいます」



王子「お前が来てくれるようになってから、毎日が楽しくなったよ。ありがとね!」

理髪師「身に余る光栄でございます」


理髪師は王子の散髪をし続けた。

10: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:05:38 ID:E6gu3UPI
半年後――

<理髪師の家>

理髪師「……」ウズウズ

理髪師(ああ、しゃべりたい)

理髪師(誰かにしゃべりたい)

理髪師(それに王子も、ずっと引きこもったままじゃ辛いだろう)

理髪師(しかし……しゃべったら私の命はない)

理髪師(だけどしゃべりたい……ええい、もどかしい!)

理髪師(仕方ない。せめて、地面に穴を掘って、そこに叫ぶとするか……)

11: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:09:47 ID:E6gu3UPI
ザクッザクッザクッ……



理髪師「……これでよし、と」

理髪師「王子様の耳はロバの耳!」

理髪師「王子様の耳はロバの耳~!」

理髪師「王子様の耳はロバの耳~!!」

理髪師「王子様の耳はロバの耳~!!!」

理髪師「ハサミで髪の毛を切ったら、王子様の耳はロバの耳~!!!」

12: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:10:26 ID:E6gu3UPI
理髪師「あ~、スッキリした!」

理髪師「やっぱり人間、秘密なんて持つもんじゃないな!」

理髪師「これからも、王子の秘密をしゃべりたくなったら、どんどんここで叫ぼう!」

13: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:12:18 ID:E6gu3UPI
ところが――

草木「クスクスクス……」ザワザワ…

草木「面白い話を聞いたぞ……」ザワザワ…

草木「これは叫ばずにはいられない!」ザワザワ…

草木「王子様の耳はロバの耳~!」

草木「王子様の耳はロバの耳~!」

草木「王子様の耳はロバの耳~!」

草木「ハサミで髪の毛を切ったら、王子様の耳はロバの耳~!」

14: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:16:11 ID:E6gu3UPI
ザワザワ…… ガヤガヤ……





「ねえねえ、王子様の耳はロバの耳なんですって!」

「オレも聞いた!」

「だから、めったに姿を現さないのかもしれないな」

「でもちょっと見てみたいわね、ロバの耳!」

「もし本当だとしたら、ビックリだよな」

15: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:22:13 ID:E6gu3UPI
<城>

王子「――どういうことだよ、これは!」

理髪師「いえっ、これは違うんです! 私ではありませんっ!」

王子「でも髪の毛切ったらロバの耳って……お前しかいないじゃないか!」

理髪師「いえっ、それはきっと……なにかの間違いで……」

王子「もういい! 言い訳すんな!」

王子「お前なんかしけーにしてやる!」

理髪師「ひいいっ!」

16: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:27:38 ID:E6gu3UPI
王子「――なぁんてね」

王子「いつかはバレることだし、かえってスッキリしたよ」

理髪師「へ」

王子「やっぱり人間、秘密なんて持つもんじゃないよね」

王子「それにさ、いつもボクの髪を切ってくれてるお前をしけーにするはずないじゃん」

王子「これからもよろしくね」ピョコッ

理髪師「王子様……」

理髪師(いかん……可愛すぎる!)ハァハァハァ…

王子「おい……目つきが怖いんだけど」

理髪師「失礼しました!」

17: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:29:35 ID:E6gu3UPI
これをきっかけに、王子は市民の前に姿を現すようになった。



王子「どうも……王子です」ピョコッ



キャーキャー! ワーワー!



「可愛い~!」

「いちいち耳がピョコピョコ動くのが可愛すぎる!」

「まずいな……新しい世界に目覚めてしまいそうだ」

18: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:33:41 ID:E6gu3UPI
国王「あれだけいっておいたのに約束を破ってしまいおって……」

理髪師「も、申し訳ありません……!」

国王「だが、結果としておぬしのおかげで息子が明るくなったのは事実」

国王「今回の件は不問に処そう」

理髪師「ははーっ! ありがとうございます!」

19: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:37:51 ID:E6gu3UPI
さて、理髪師と王子は分かり合うことができたのだが――



<城>

大臣「陛下、帝国からトップ同士の会談を要求する書状が届きました!」

大臣「どうやらこちらの返事を待たず、兵を率いて出向いてくる模様です!」

国王「ついに来たか……!」

国王「あの帝国の皇帝についてはほとんど何も知らんが、かなりの野心家と聞く」

国王「おそらく帝国はまともに話し合いをするつもりなどなかろうが……」

国王「なんとか、武力衝突は避ける方向に話を持っていかねばな……」

20: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:41:05 ID:E6gu3UPI
王子「なんだかこのところ、パパやママや大臣たちが騒がしいんだ」

王子「帝国がこの国を欲しがってるって噂もあるし……」

王子「この国はどうなっちゃうのかな……」

理髪師「大丈夫、王子様が気にすることじゃありませんよ」チョキチョキ

王子「うん……」

理髪師「……」チョキチョキ

理髪師(帝国の武力は強大だ……。我が国とは大人と子供ぐらいの差があると聞く)

理髪師(もし、あの帝国がこの国を狙っているという噂が本当であれば……)

理髪師(この国は滅ぶ……!)チョキチョキ

21: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:44:19 ID:E6gu3UPI
一週間後――

<城>

国王(帝国のトップか……いったいどんな皇帝なのか……)



敵将軍「女帝陛下、こちらです」ザッ

女帝「狭苦しい城ね~、こんなの半日もあれば落とせちゃうわ」ヒョコッ

国王「なんだね、君は? 皇帝のご息女かね?」

女帝「あら、失礼しちゃうわ。私こそが帝国の皇帝よ」

国王「な……!?」

国王(バカな……まだ子供じゃないか!)

22: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:46:49 ID:E6gu3UPI
女帝「ああ、子供だからって甘く見ないでね」

女帝「弱冠12歳にして国のトップの大学を卒業し、軍略の天才でもあるの」

女帝「私の頭脳と帝国の軍事力で、成人するまでに全世界を我が物にしてやるわ!」

国王「なんと恐ろしいことを……!」

女帝「ところで、さっそく会談を行いたいんだけど、こっちからの要求はたった一つよ」

女帝「我が帝国に全ての領土を明け渡すか、それとも戦争するか、今この場で決めてちょうだい」

女帝「さ、どうする? 勝負する? 降伏する?」

国王「ぐ、ぐぐぐ……!」

23: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:49:51 ID:E6gu3UPI
王子「……!」

王子「どうしよう、このままじゃこの国が……!」

理髪師「……」

王子「もし帝国に領土を渡したら、この国の市民はきっと奴隷のような扱いになるに決まってる!」

理髪師「……王子」

王子「?」

理髪師「……私の読みが確かならば、この国を救えるのはあなただけです!」

王子「ボクが!? どうして!?」

理髪師「とにかく……あなたがあの女帝の前に出てみて下さい!」

王子「うん、分かった! ……やってみる!」

24: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:53:08 ID:E6gu3UPI
女帝「さぁ、早く決めなさいな」

敵将軍「女帝陛下は気が短い。早くせねば、待機させている軍を暴れさせるぞ」

国王「うぐ……ううう……」



王子「待って!」



国王「!? ……お前がなぜここに!?」

女帝「!!?」ビクッ

25: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:55:50 ID:E6gu3UPI
王子「あの……皇帝さん! 侵略なんて……世界征服なんてやめて下さい!」

女帝「……」

王子「お、お願いします!」ピョコッ

女帝「……」

王子「……?」

女帝「……」

王子「もしもし……?」

女帝「か……」

王子「?」

女帝「可愛すぎるぅぅぅ~~~~~~~~~~!!!」

王子「!?」ビクッ

26: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 20:58:54 ID:E6gu3UPI
女帝「ねえねえ、さわっていい? なででいい?」

王子「ちょ、ちょっと……」

女帝「さわらせてぇぇぇぇぇ!」

王子「やめてっ!」ドンッ

女帝「はうっ!」ドサッ

敵将軍「女帝陛下に暴力を! ……貴様!」チャキッ

女帝「お黙り!」キッ

敵将軍「!」ビクッ

27: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 21:01:58 ID:E6gu3UPI
王子「あ、あの……」

女帝「なんですか!?」

王子「もし侵略をやめてくれたら……好きなだけさわっていいよ。ボクの耳」

女帝「やめます!」

王子「え?」

女帝「やめます!!!」

敵将軍「ちょっ! 女帝陛下!? なにをおっしゃってるのですか!?」

敵将軍「こんなあっさりと、帝国の天下統一の野望をやめるなど――」

女帝「あ?」ギロッ

敵将軍「ひいっ!」

28: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 21:05:12 ID:E6gu3UPI
女帝「ほら、あんたもご覧なさい! この子を!」

王子「ど、どうも……」ピョコピョコ

敵将軍「……!」ゴクッ…

敵将軍(こりゃあ……すげえ……)

敵将軍「ぜひとも養子に!」

王子「お断りします」

29: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 21:07:34 ID:E6gu3UPI
女帝「ある哲学者はいったわ」

女帝「ケモノ耳は最上である、特にロバは極上だ、と……」

王子「聞いたことないけど……」

女帝「と、に、か、く!」

女帝「不束者ですが、これからはよろしくお願いしますね」ペコッ

王子「は、はぁ……こちらこそ」ピョコッ

女帝「かーわーいーいー!」ギュッ

王子「わぁっ、抱きつかないで!」





理髪師(どうやら私の読みは当たっていたようだな……)ホッ…

30: 深夜にお送りします 2016/08/26(金) 21:10:45 ID:E6gu3UPI
それから数ヵ月後――

<城>

理髪師「今日は二つの国の正式な和解と同盟が成る記念すべき日です」

理髪師「お二人のヘアスタイルはこの私が、しっかりと整えさせていただきます」

王子「うん! かっこよく決めてよね!」ピョコッ

女帝「私の美しさと彼の可愛さを損なったら、承知しないから!」

理髪師「もちろんでございます」







おわり

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