少年「どうして隣の芝生は青く見えるだろう?」

2019年06月18日
少年「どうして隣の芝生は青く見えるだろう?」

1: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:08:38.374 ID:7sCbywYA0.net
少年はある日、隣の家の芝生がとても青く見えることに気づきました。
不思議に思って父親に尋ねてみると父親はこう少年に諭しました。

「隣の芝生は「青く見える」んじゃねぇ!隣の芝生は「青い」んだよっ!!いいか。お前が高みを目指すならば、その劣等感はお前にとって大切な道標だ。だから、絶対に目を逸らすんじゃねぇ。わかったらちょっと待ってろ…俺はこれから隣の芝生で糞してくっからよっ!」

そう言い残して、父親はもう帰ってくることはありませんでした。

4: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:10:20.556 ID:7sCbywYA0.net
少年は父親の言うことが本当に正しいのかどうか、酒場に居た物知りな旅人にも話しを聞いてみることにしました。

「隣の芝生は「青い」って?いいかい、少年。隣の芝生は「青く見える」だけだ。君が高みを目指すならば、その道を照らす道標は君自身だ。他と比べるなんて以ての外だ。でなければ、劣等感に押し潰されてしまうぞ?
例えばほら私には君の飲み物の方が多く見える。ほんとに多く見える…ぐぬぬ…店員さぁんっ⁉︎」

話しを聞いた旅人は酒場の店員と喧嘩になってしまいました。

5: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:13:27.166 ID:7sCbywYA0.net
少年は困ってしまいました。

「劣等感に向かい合う強い自分」
「他者に惑わされない強い自分」

どちらが正しい「在り方」なのかわからなくなってしまったのです。
もう一度話しを聞こうにも、父親は他人の家の芝生で脱糞して警察に捕まり、次に話した人も店員と口論になり捕まってしまったのでどうすることもできません。

7: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:15:24.604 ID:7sCbywYA0.net
少年は膝を抱えてうんうん考えました。
何度うんうん唸ったかわかりません。
それでも少年には答えは見つかりませんでした。

少年は膝から顔を上げ、立ち上がりました。
村はずれの「変わり者」に相談することにしたのです。しかし、この「変わり者」には近づくなと大人達からは言われていました。

8: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:17:49.588 ID:7sCbywYA0.net
それでも、少年は答えが知りたかったのです。
村はずれまで行き、意を決して「変わり者」に事情を話しました。
「変わり者」は少年が話し終えるまで静かに瞼を閉じて話しを聞きました。
少年が話し終えると彼はおもむろに口を開きました。

「いつから隣に芝生なんて生えていると錯覚していた?」

9: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:20:09.710 ID:7sCbywYA0.net
「は?」

思わず、少年の口からはそんな間抜けな声が漏れてしまいました。
「変わり者」はそんな少年の様子に全く意に介さずに矢継ぎ早にまくし立てます。

「あれは今から36万…いや、1万4000年前だったか?…まぁいい。私にとってはつい昨日の出来事だったが、君にとっては明日の出来事だ」

10: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:22:36.369 ID:7sCbywYA0.net
少年はなんだか怖くなってきました。
この人とはもう話してはいけない様な気がしました。
しばらく、訳のわからないことを話してた彼は急に黙り込み、ジッと少年を見つめてきました。そして再び口を開き、怯える少年にこう告げました。

「明日、夜が明けたら隣の芝生を見てみるといい」

11: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:25:07.471 ID:7sCbywYA0.net
少年はもう怖くて怖くてたまりませんでした。

「あの!もう失礼します」

少年は足早にこの場を去ろうとしました。しかし、その背に「変わり者」の呪詛が届きました。

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ」

12: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:28:30.787 ID:7sCbywYA0.net
少年はもう何がなんだかわかりませんでした。震える膝を押さえ、なんとかドアの前まで辿り着き、震える手でドアノブを回し、部屋の外に出ました。
少年が外に出てドアが閉まる直前に、駄目だと、見てはいけないとわかっていながら、少年の首はその意思に反して「変わり者」の方を向いてしまいました。
すると彼はまるでそのタイミングを待っていたかのように、額に揃えた指をかざして

「アリーヴェデルチ(さよならだ)」

と別れを告げました。

13: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:31:36.264 ID:7sCbywYA0.net
少年は駆け出しました。一直線に自分の家に向って、脇目も振らずに、得体の知れない恐怖心を振り切るように、目尻に涙を浮かべながら走りました。
そして、家に帰った少年はすぐに布団の中に潜り込みました。

怖かった怖かった怖かった怖かった怖かった怖かった怖かった怖かった怖かった怖かった。

14: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:35:07.217 ID:7sCbywYA0.net
「変わり者」なんて生やさしいものじゃなかった。あれは完全にキテる。湧いている。キマってしまっている。「ガンギマリ」だ。

少年は怯えて震える膝を両手で抱えて布団の中でギュッと目を瞑り、恐怖心を抑えつけようとしました。

しかし、頭に巡るのは今日3人から諭された言葉ばかりでした。

15: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:38:41.723 ID:7sCbywYA0.net
どのくらいの時間が流れたでしょうか。
気がつくと布団の隙間から光が漏れて、小鳥のさえずりが聞こえてきました。
少年は「変わり者」の言葉を思い出します。

「明日、夜が明けたら隣の芝生を見てみるといい」

少年はその言葉に従うのはすごく怖かったのですが、勇気を振り絞って布団からでました。

16: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:40:51.629 ID:7sCbywYA0.net
そして、少年は窓から見える光景によって、ポルナレフ状態に陥りました。

あ、ありのまま今見えてる光景を話すぜ!「隣の芝生を見た僕の目には生えてる筈の芝生は映らなかった」
な、何を言ってるのかわからねーと思うが、僕も何がなんだかわからなかった
頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ
もっと恐ろしいもんの片鱗を味わったぜ

17: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:42:41.010 ID:7sCbywYA0.net
錯乱した少年が目を凝らして見ると、隣の庭の隅に一人の人間が佇んでいました。
彼の側には大量の引き抜かれた芝が山の様に積まれていたのです。

少年は外に飛び出して、その人が誰で何をしたのか確認する為に詰め寄りました。

18: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:44:07.153 ID:7sCbywYA0.net
その人は村はずれに住む「変わり者」でした。
こちらに背を向けて立っていて、呼びかけても返事がありません。
「変わり者」の両手は草で切れて傷だらけで泥だらけでした。
それを見て少年は悟りました。

彼は一晩かけて芝生を全て引き抜き、精魂尽き果て、立ったまま気絶しているのだと。

19: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:45:46.377 ID:7sCbywYA0.net
何も語らぬ彼の背は少年がいくら見上げても頂が見えず、少年は眩しそうに目を細めて

「なんて…高い」

と、ひとりごちました。

気絶している彼は何も語りませんでしたが、その背は確かに少年に語りかけてきました。

「迷うならば、初めから何もなかったことにすれば良い」

20: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:49:00.045 ID:7sCbywYA0.net
すぐに隣の家の家主が異変に気付いて、警察が呼ばれました。
少年は身を隠しましたが、気絶した彼は身を隠すことも出来ずに捕まってしまいました。
彼は気絶したまま警察官に抱えられてクルマに詰め込まれ、少年はそんな彼の背に向けて

「アリーヴェデルチ」

と、別れを告げました。

21: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:51:29.441 ID:7sCbywYA0.net
そうして、少年の悩みの種は一本残らず抜き去られ、少年を悩ませ「高み」を諭した3人は、高い高い塀の向こうからもう出てくることはありませんでした。

少年の悩みは「最初からなかったこと」になったのです。

23: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:53:52.188 ID:7sCbywYA0.net
月日が流れ、すっかり大人になった元少年は今日も高い塀を見上げながら歩いていると、道の端っこで膝を抱えてうんうん唸って何かを考えている少年がいました。

元少年はなんだか昔の自分を見ているようで…つい声をかけてしまいました。

「どうしたんだい?」

25: VIPがお送りします 2015/11/21(土) 15:59:08.773 ID:7sCbywYA0.net
すると少年は顔を上げて、元少年を見上げて、困ったように眉を下げて、おずおずと口を開きました。

「どうして隣の家の芝生は青く見えるの?」

FIN

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