ネカフェ店主「近くに快活クラブってのが出来たせいで客が来なくなってヤバイ」

2019年08月14日
ネカフェ店主「近くに快活クラブってのが出来たせいで客が来なくなってヤバイ」

1: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:00:35.823 ID:BSzXQjp/0.net
―ネットカフェ―

店主「近頃、客がめっきり減った……。なんでだと思う?」

男「なんでって、決まってんだろ!」

ジョボボボボ…

男「見ろ、このウーロン茶! ほとんど水じゃねえか! 薄めすぎだろ!」

店主「ちゃんと色ついてるじゃん」

男「色がついてりゃウーロン茶なのかよ!?」

店主「日本ウーロン茶協会ではそう定義されている」

男「ウソつけぇ!」

陰気娘「ヒヒヒ、日本ウーロン茶協会なんてあるの?」

オタク「ググっても出てこないね」カタカタ

2: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:04:49.621 ID:BSzXQjp/0.net
男「いっとくけどな、ドリンクだけじゃないぞ」

男「ネットカフェのくせにパソコンは古くて、グーグル開くのも苦労する有様」

男「漫画は妙に偏ったラインナップで、マイナーなのばっかだしさ……」

陰気娘「あたしはここの古臭さと漫画のラインナップ好きだけどねぇ」

オタク「ボクもここのパソコン勝手に改造したから、特に不自由ないや」カタカタ

男「あんたらは特殊な人種なの! 天然記念物なの!」

男「こんなダメネカフェ、廃れて当然だっつーの!」

店主「うぐ……」

3: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:07:35.996 ID:BSzXQjp/0.net
店主「ふん、ウチがダメネカフェだとしたら、そっちこそダメ学生じゃねえか!」

店主「大学生のくせに、毎日のようにここに来やがって……勉強はどうした!」

男「俺はもう四年で、卒業に必要な単位は全部取ってるからな」

男「卒論は文字数さえ超えてればオーケーなゼミに入れたし」

店主「大学四年なら、就活があるんじゃないのか?」

男「あんなの焦ってやってもしょうがないよ。変な会社入ったら、かえって経歴に傷がつくし」

男「俺は自分のペースでゆっくりと就活させてもらうよ。なんなら既卒になってもいい」

店主「今日びの学生ってのはこんなもんなのか……俺が学生の頃はもっと……」ブツブツ

4: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:10:51.529 ID:BSzXQjp/0.net
店主「それはさておき、昔はもうちょっと客が来てたぞ?」

オタク「たしかにね。常に5~6人はいた気がするよ」

男「だとしたら……あれかな。近くに快活クラブができたのも原因かも」

店主「快活クラブ? なんだそりゃ、いやらしい店か?」

男「いやらしくないよ。大手のネットカフェだよ」

男「とてもキレイで、サービスよくて、店舗によってはカラオケやダーツ、ビリヤードなんかもできる」

店主「なるほど……ネカフェ界のイオンみたいなもんか」

男「どういうたとえだ」

6: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:14:40.272 ID:BSzXQjp/0.net
男「ただでさえサービスが最低なのに、強力すぎるライバルが登場したんだ」

男「そりゃ客が減るのも当然ってもんじゃない?」

店主「うーむ、たしかに」

店主「だとしたら、その快活クラブ、一度敵情視察する必要があるな」

店主「ってわけで、ちょっと出かけてくる!」

男「は? 店はどうすんだよ!」

店主「任せた!」タタタッ

男「ちょっ……ウソだろ!?」

陰気娘「ヒヒヒ、店番頑張ってねぇ~」

7: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:18:29.766 ID:BSzXQjp/0.net
……

店主「ただいまー」

男「おせーよ!」

男「てっきり一時間ぐらいで帰ってくるかと思いきや、半日近く店番させやがって……」

オタク「まあ、ボクら以外の客は一人も来なかったけどね」

店主「いやー、わりいわりい。ちゃんとバイト代は出すって」

陰気娘「で、どうだったの? 快活クラブは……」

店主「うん……最高だった!」

男「は?」

9: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:21:20.988 ID:BSzXQjp/0.net
店主「漫画読んだり、カラオケしたり、ダーツしたり……最高の一時を味わえたよ」

男「すっかりハマってやがる……」

陰気娘「こりゃ完全にミイラ取りがミイラ取りになってるねえ」

オタク「あっという間にプラチナ会員になりそう」

店主「で、俺は決めた! この際だから、ウチも快活クラブをパクる!」

男「は……!?」

店主「ダーツできるようにしたり、カラオケできるようにする!」

店主「ってわけで改装するから、今日はもう閉店! お前ら今日のところは帰れ!」シッシッ

陰気娘「はぁい」

オタク「やれやれ、思い立ったが吉日を地でいく人だ」

男「メチャクチャだ、この店……!」

11: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:24:34.191 ID:BSzXQjp/0.net
次の日――

―ネットカフェ―

店主「どうよ、完成だ!」

店主「ダーツの的を置いたし」

男「これ……紙じゃん! ダーツの矢はマジで針ついてるやつだし!」

店主「カラオケルームも作ったし」

陰気娘「ヒヒヒ、一人入るのが精一杯って感じねえ」

店主「ソフトクリームは無理だけど、アイスキャンディー食べ放題!」

オタク「砂糖水凍らせただけでしょ、これ」ペロペロ

店主「どうだ、凄いだろ!」

男「まあ、一日でここまで作ったことだけは評価するよ……」

12: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:27:32.707 ID:BSzXQjp/0.net
店主「いっそのこと、名前も変えちまうか!」

店主「『快楽クラブ』とか『快感クラブ』なんかに。あ、でも訴えられたら負けるか……」

男「安心しろよ、向こうはこっちなんか眼中にないから」

店主「さっそく外にも貼り紙したし、お客がいっぱい来るといいなぁ」

男「そんな簡単に来るわけ――」


女「あのー……」


男(来た!?)

14: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:30:54.702 ID:BSzXQjp/0.net
店主「いらっしゃいませ~!」

女「カラオケができるって貼り紙を見て、来たんですけど……」

店主「はいはい! できますよ! お一人様も大歓迎!」

陰気娘「お一人しか入れないでしょ、あのスペース」

男「ねえ、君」

女「はい」

男「カラオケやるんなら、もっとちゃんとしたカラオケボックスでやった方がいいって」

女「ちゃんとしたところで一人カラオケするのって、どうしても勇気がいるので……」

店主「そうそう! よく分かってらっしゃる!」

男「ちゃんとしてない扱いされてよく喜べるな」

15: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:33:52.282 ID:BSzXQjp/0.net
店主「カラオケルームはあちらの部屋ですので。思う存分熱唱して下さい!」

女「はい」

バタンッ


~♪  ~♪  ~♪


男「歌声!」

男「おい……音漏れまくってんじゃん! これのどこがカラオケルームだよ!?」

店主「おかしいな、こんなはずじゃ……」

男(歌を他人に聴かれたくないからヒトカラするんだろうに……可哀想に)

男(せめて聴こえてないフリしてあげるかな……)

17: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:36:49.756 ID:BSzXQjp/0.net
~♪  ~♪  ~♪



男「!」

男(いや、だけど……この子、歌うまくないか?)

陰気娘「いい歌声ねえ……」

オタク「うん、ものすごく上手だ」

店主「泣ける……」グスッ

男「泣くな!」

男(でも、とても綺麗な歌声だ! 心が洗われるようだ……!)

18: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:39:43.813 ID:BSzXQjp/0.net
女「ふぅ……」ガチャッ

パチパチパチパチパチ…

女「え……!?」

店主「すごくよかった!」

陰気娘「お上手!」

オタク「感動したよ」

男「心の奥深くにグッとくるようだったよ!」

女「皆さん、聞いてらしたんですか……!」

男「ごめん、悪気はなかったんだけど、誰かさんの手抜き工事のせいで音漏れしてて……」

店主「うぐ……」

20: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:42:43.392 ID:BSzXQjp/0.net
女「いえ……褒めて下さって、ありがとうございます」

男「あのさ、もしよかったらここにまた歌いに来てよ!」

女「いいんですか?」

男「いいよな?」

店主「もちろん! ついにお前もこのネカフェのために営業活動してくれるようになったか……」

店主「お父さんは嬉しいぞ!」

男「誰がお父さんだ」

女「じゃあ、またここに来させて下さい!」

21: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:45:23.901 ID:BSzXQjp/0.net
……

―ネットカフェ―

女「また来ちゃいました~」

男「やぁ!」

店主「さあさ、歌ってってくれ! 我がカラオケルームで!」

女「はいっ!」

22: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:48:47.290 ID:BSzXQjp/0.net
女「いかがでした?」

店主「ブラボー!」パチパチパチ

男「今日もよかったよ。穏やかなのだけじゃなく激しいのまで、レパートリー豊富なんだね」

女「いえいえ」

女「……そちらのお二人はここで作業してらっしゃいますけど、お邪魔じゃないですか?」

オタク「全然。いいBGMになるよ」

陰気娘「あたしも、あんたの歌聴いてると、漫画描くのはかどるわぁ~」

男(あの人、漫画描いてるのか……知らんかった)

男(きっと、内容はホラー系だったりデスゲームだったりするに違いない……)

23: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:51:33.470 ID:BSzXQjp/0.net
……

店主「それっ!」ピッピッピッ

ストトトンッ

男「すげえ!」

女「ダーツの矢が一直線に並ぶように……。店主さんってダーツお上手なんですね!」

店主「ま、昔、ちょっとね」

男「のび太が射撃だけは得意なように、どんな人間にも取り柄ってあるんだなぁ」

オタク「のび太はあやとりと早寝とピーナッツ投げ食いも得意だよ」

男「……早口で訂正ありがとう」

25: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:54:45.433 ID:BSzXQjp/0.net
店主「よかったら、教えてやろうか?」

男「え、いいの?」

女「是非!」

店主「特に女の子は手取り足取り教えてあげるよ」

男「…………」シュッ

店主「おわっ!」サッ

店主「あっぶねえ! このダーツの矢はマジで刺さるんだぞ!」

男「変なこというからだよ!」

26: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 16:59:11.026 ID:BSzXQjp/0.net
……

女「…………」ペラ…

男「あれ、漫画読むんだ?」

女「はい、結構好きですよ」

男「だけど、ここのネカフェはラインナップ偏ってるから、読むもんあまりないでしょ?」

女「そんなことないですよ。むしろ他で読めないのが多くて、楽しんでます」

店主「ほらな、流行りの漫画ばかり置くのが芸じゃないんだよ」

男「だけどさ、せめてワンピースぐらい置いてくれよ」

店主「ワンピース? あるぞ」

男「あ、ホントだ……でもなんでこんな巻数が飛び飛びなわけ?」

店主「ボアハンコックってキャラが出てる巻だけ買ってる」

男「俺、あんたのそういうとこ嫌いじゃないよ」

27: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:01:24.910 ID:BSzXQjp/0.net
女「最近だと、『虹と木漏れ日と君と』がお気に入りですね」

男「ああ、知ってる! ウェブ連載でやってるやつね! 面白いよね、あれ!」

女「はいっ! 登場人物の心情描写がとても丁寧で……」

男「ネットだとニジコモって呼ばれてるよね。なんかロコモコみたいだけど」

男「このネカフェにも置かれてるし、意外とあの店主もセンスが――」


陰気娘「……ありがと」ボソッ


男「……え?」

28: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:04:28.812 ID:BSzXQjp/0.net
男「ありがとうってどういうこと?」

陰気娘「…………」

男「まさか……まさか……」

女「あなたが作者さん!?」

陰気娘「…………」コクッ

男「マジか……この顔と笑い方から、あんな美しい物語が生まれるなんて」

陰気娘「ヒヒヒ、笑い方は余計よぉ~」

男「顔はいいのかよ」

30: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:07:42.457 ID:BSzXQjp/0.net
女「どうしてここで作業を?」

陰気娘「あたし、昔漫画に自信がなくなって、この近くで自殺騒ぎを起こしたの」

男「えっ……! まあ、やりそうではあるけど」

陰気娘「そしたら店主さんに止められて、漫画を読んでもらって」

陰気娘「“君の漫画は面白い、本になったら絶対置くから死ぬな”っていわれたの」

男「へぇ~、このダメ店主がねぇ」

女「店主さんが、『虹と木漏れ日と君と』を生んだんですね!」

店主「そうなんだよ! 印税の半分くらいは俺に入るべき」

男「その欲にまみれた発言で全部台無しだよ」

32: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:11:34.488 ID:BSzXQjp/0.net
……

オタク「新しいゲームを作ってみたんだけど、みんなでやらない?」

男「自分でゲーム作ったの? すげえ!」

女「やりますやります!」

陰気娘「あたしもやるぅ」

男「どんな内容?」

オタク「みんなで罠を張り合う対戦ゲームってとこかな」

男「おお、面白そう!」

33: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:14:19.798 ID:BSzXQjp/0.net
女「やりました! 落とし穴プラス毒を塗った竹槍作戦、大成功!」

陰気娘「ヒーッ!」

オタク「う、上手い……」

男「なかなかえげつないことやるなぁ」

ワイワイ… キャッキャッ

店主「…………」

店主「俺もやりたいなー……」

男「悪いな、このゲームは四人用なんだ」

36: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:18:13.836 ID:BSzXQjp/0.net
……

男「この砂糖水アイスも、たまに食うと癖になるな」ペロペロ

店主「だろ? シンプルイズベスト!」ペロペロ

女「男君」

男「ん?」

女「もしよかったら、デュエットしません?」

男「え、俺と?」

37: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:20:22.540 ID:BSzXQjp/0.net
男「だけど……俺ヘタだよ? 足引っぱっちゃう……」

女「かまいませんよ。一度一緒に歌いたかったんです!」

男「それじゃあ……」


~♪  ~♪  ~♪


店主「よっ、いいぞー!」ピーピーッ

陰気娘「ヒヒヒ、なかなか息合ってるじゃん」

オタク「あーでも、たしかに男君は音程ずれてるかな」

店主「こうなったら俺たちも歌うぞォ! 今日はカラオケ大会だ!」

38: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:23:27.947 ID:BSzXQjp/0.net
店主「いやー、今日は盛り上がったなぁ!」

男「うん、楽しかった」

女「いっぱい歌っちゃいました!」

陰気娘「ヒヒヒ……人に聴いてもらうってのも楽しいねぇ」

オタク「思う存分アニソン歌わせてもらったよ」

店主「よーし、この勢いでみんなで快活クラブ行くかぁ!」

男「なにい!? まあ、いいけど……」

店主「ソフトクリームおごってやるよ」

男「タダじゃねーか!」

40: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:26:23.101 ID:BSzXQjp/0.net
―男の自宅―

男「あー、今日も楽しかった」

男(大学ではあまりやることなくて、就活もあまりする気なくて)

男(なんとなく立ち寄って常連になっちゃったあのネカフェだったけど……)

男(まさか、こんなオアシスに生まれ変わるなんて……)

男(ずっとこんな感じの生活を送れれば最高なんだけどなぁ……)

男(ずっと、ずーっと……)

42: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:30:05.074 ID:BSzXQjp/0.net
―ネットカフェ―

男「ちわっす」

店主「らっしゃい」

女「あ、男君!」

男「お、来てたんだ」

陰気娘「ヒヒヒ……」

オタク「待ってたよ」

男「みんな揃っちゃって、どうしたの?」

女「話があるの!」

44: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:33:29.924 ID:BSzXQjp/0.net
男「……オーディション?」

女「うん、ある大作映画の主題歌のオーディションに出られることになったの」

店主「おお、すごいじゃないか」

陰気娘「ひょっとしたらひょっとするかもねぇ。これをきっかけに歌手になったりして」

オタク「うん、十分可能性はあると思うよ」

女「こんなチャレンジしようと思ったのは、ここで歌わせてもらったおかげ!」

女「だから、みんなにもちゃんと報告しようと思って……」

店主「また一人才能を発掘してしまうとは……。やはり俺は育成の天才……」

男「…………」

女「男君?」

45: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:36:09.779 ID:BSzXQjp/0.net
男「……なんだよそれ」

女「え?」

男「ちょっと歌が上手いからってオーディションだなんて……いくらなんでも無茶だよ」

男「あーあ、なんでそんな早まったことするかなぁ」

男「絶対恥かくから、やめといた方がいいって」

女「…………!」

店主「お、おい!」

46: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:39:25.860 ID:BSzXQjp/0.net
女「そうだよね……ごめん」タタタッ

バタンッ

男「…………」

店主「お前! なんであんなこと……」

陰気娘「今のはちょっとひどいんじゃなぁい? いや、ちょっとどころじゃないわよ」

オタク「うん、一番あの子の歌を評価してるのは君だと思ってたのに……」

男「いや、俺は……」

47: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:43:20.504 ID:BSzXQjp/0.net
店主「ははーん」

店主「さてはお前、ノートルダムってやつだな?」

男「ノートルダム?」

店主「あれ、いや……ミュージアムだっけ? いつまでも社会に出たくない……的な」

男「もしかしてモラトリアム?」

店主「そうそう、それ!」

店主「お前、自分は就活もせずぶらぶらやってるのに、彼女は具体的な夢を見つけて走り始めた」

店主「それで、彼女に抜け駆けされた気になったんだろ?」

男「そ、そんなことは……」

店主「図星か。だが、もっと大きい理由は他にもある」

男「!」ギクッ

48: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:46:28.468 ID:BSzXQjp/0.net
店主「もし、あの子がオーディションに受かって、歌手にでもなったら」

店主「とてもお前の手の届かない存在になる。もう相手してくれなくなるかもしれない」

店主「それが嫌なんだろ?」

男「違うっ!!!」

男「ダメネカフェの店主如きが、好き勝手ほざいてんじゃねーよ!」

店主「…………」

店主「なあ、あの子がオーディションの件、なんでお前が来るまで俺らに話さなかったか分かるか?」

男「知るかよ!」

49: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:49:39.216 ID:BSzXQjp/0.net
店主「いくら実力があっても、オーディションなんて生半可な覚悟で出れるもんじゃねえ」

店主「ましてあの子の性格じゃ……誰かにその覚悟を後押ししてもらわなきゃとても無理だ」

店主「だからあの子は真っ先にお前に、オーディションのことを伝えたかったんだ」

店主「他ならぬお前に“最後のひと押し”ってやつをして欲しかったんだ」

男「…………!」

店主「それなのに……バカなことしやがって」

男「俺は……俺は……」

店主「少しでも悪いと思ってんなら、さっさと連れ戻してこい!」

店主「それができなきゃ、お前は出禁だ!」

男「全然繁盛してないくせに……分かったよ!」ダッ

51: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:53:19.342 ID:BSzXQjp/0.net
外――

女「…………」


「待ってくれっ!!!」タタタッ


女「!」

男「よ、よかった……追いつけた……」ハァ…ハァ…

男「運動不足だな……息がなかなか……」

女「男君……」

53: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:56:25.538 ID:BSzXQjp/0.net
男「さっきはゴメン!!!」

男「俺、大学四年なのに、ふらふらしてて、履歴書に書けるような特技も資格もなくて……」

男「ちゃんと特技があって、具体的に動き始めてる君を見て……嫉妬しちゃったんだ」

男「ホントは俺、君のオーディションを応援したい!」

男「ネカフェに戻って下さい! お願いします!」

女「男君……」

男「それでさ、練習ついでに戻ってカラオケやろう。よかったら……デュエットで」

女「……うん!」

54: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 17:59:26.306 ID:BSzXQjp/0.net
―ネットカフェ―

店主「なんだよ、お前ら結局仲直りしたのかよ。こじれたら蜜の味だったのにつまんねーな」

男「このネカフェが潰れたら絶対蜜の味っていってやるからな」

女「ご心配をおかけしました」

陰気娘「これで心おきなくオーディション受けられるねえ」

女「うんっ!」

店主「よーし、じゃあ今日はオーディションの前祝いとして、快活クラブ行くか!」

店主「コンポタスープおごってやるよ!」

男「タダじゃねーか!」

56: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:03:37.468 ID:BSzXQjp/0.net
……

―オーディション会場―

男「このスタジオで一次オーディションをやるわけかぁ……」

女「一次オーディションは非公開だから、男君は入れないけど、ついてきてくれてありがとう」

男「俺なんかでよければ、いくらでもついていくよ」

男「いつも通り、みんなと歌う時のように歌えば、きっと実力を出し切れるよ!」

女「うん、そうするつもり!」

男(といっても、それができれば苦労しないよな)

女(といっても、それができれば苦労しないんだけど)

58: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:06:07.332 ID:BSzXQjp/0.net
パシャッ パシャシャッ パシャッ

記者「今回の主題歌オーディション、自信はどう?」

アイドル「一般の人達も歌自慢の方ばかりでしょうし、厳しい戦いになると思ってますぅ」



女(あの子……テレビでよく見る人気アイドル歌手の人だ)

女(現役のアイドルも受けるんじゃ……私なんか勝ち目あるわけないよね)

女(かえって安心しちゃった! 男君のいうとおり、カラオケするつもりで歌おうっと!)

59: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:08:09.573 ID:BSzXQjp/0.net
進行役「では続いて、16番の方!」

女「はいっ!」


~♪  ~♪  ~♪


オオッ…

審査員A「キレイな歌声ですね。澄み切った水のようだ」

審査員B「うん、今度の映画のコンセプトにピッタリかも……」

ワイワイ…



アイドル「…………」

61: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:10:22.021 ID:BSzXQjp/0.net
―ネットカフェ―

店主「来たか! 即日結果が出るんだろ? どうだった?」

男「…………」

女「…………」

陰気娘「ダメだったとしても、リストカットはダメよぉ」

オタク「君じゃあるまいし」

女「――合格しました!」

店主「おおっ!」

陰気娘「ヒヒヒ、やったじゃない」

62: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:13:28.403 ID:BSzXQjp/0.net
オタク「ま、ボクは知ってたけどね」

店主「な、なんだと!?」

オタク「ネット上では、すでに次のオーディションの予想が出てるよ」カタカタ

男「さすがゲームも発売日前にネタバレされる世の中だ……」

オタク「下馬評だと、アイドルと女さんの一騎打ちになるって感じみたい」

店主「おお~、プロとのタイマンか。巌流島の決闘って感じだな」

陰気娘「だとしたら、わざと遅刻すれば勝てるかもねえ」

女「相手はプロなんで、さすがに勝てないと思いますけど……」

男「そんなことないよ! ここまで来たらいっそ映画の主演を奪うぐらいのつもりでいこうよ!」

店主「お、いいこというじゃねえか」

女「……うん、頑張る」

63: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:16:24.760 ID:BSzXQjp/0.net
数日後――

―ネットカフェ―

男「ちわーっす」

店主「……おお、お前か」

女「…………」

男「あれ、どうしたの? 最終オーディションまで日にちがないってのに」

女「実は……こんなものが届いたの」

男「?」

64: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:19:36.208 ID:BSzXQjp/0.net
『今度のオーディションを辞退しろ

 もし会場にやってきたらお前の身は無事では済まない

 警察や主催者に知らせても同じことだ』



男「……なんだこれ」

店主「見ての通り、脅迫状だよ」

陰気娘「文面がストレートすぎて、センスが感じられないわねえ。あたしならもっと……」

男「どうしたの、これ」

女「今日、家のポストに入ってて……私、怖くて……」

66: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:22:25.206 ID:BSzXQjp/0.net
男「こんなのただの脅しだよ。気にすることないよ」

女「うん……」

オタク「とも言い切れないんだよ」

男「え、どうして?」

オタク「インターネット上の闇サイトで色々調べたんだけど……」カタカタ

男(なんなんだ、闇サイトって)

オタク「今度のオーディションで対立候補になってるアイドル、どうも真っ黒みたいなんだ」

男「どういうことだよ?」

67: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:25:31.062 ID:BSzXQjp/0.net
オタク「このアイドルにも他のアイドルと同じようにファンクラブがあるんだけど――」

オタク「その中の一部はファンとは名ばかりの暴力集団らしいんだ」

男「え」

オタク「一言でいえば、このアイドルのいうことならなんでも聞く狂信者集団」

オタク「実際、今までもイベントなんかで何度も騒ぎを起こしてる」

オタク「このアイドルのライバルの握手会で、暴力事件を起こしたのもこいつら……なんていわれてる」

男「マジで?」

オタク「しかも、ここからは都市伝説の域を出ないんだけど――」

68: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:29:29.386 ID:BSzXQjp/0.net
オタク「裏社会の凄腕の“壊し屋”と契約してるって噂もあるとか」

男「壊し屋? 殺し屋じゃなくて」

オタク「うん、殺すんじゃなく、怪我をさせたり後遺症を負わせるのが専門の業者さ」

オタク「殺人事件じゃなきゃ、警察もそこまで本腰入れて捜査しないだろうし、足もつきにくい」

オタク「ある意味、殺し屋よりタチが悪いよ」

オタク「彼女の黒い真相に近づこうとした人間を、今までに何人も病院送りにしてきた疑惑がある」

男「……とんでもない奴だな」

店主「本当だとしたら、よくそんな悪女がアイドルなんかやってられるな。アイドルじゃなく悪ドルだ」

陰気娘「今の世の中、あっという間に拡散されて炎上しちゃいそうよねえ」

オタク「なにしろ疑惑だけで、決定的な証拠がないからね」

オタク「むしろ、その黒さもかえって彼女の人気を押し上げる要因になってる始末さ」

69: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:31:44.950 ID:BSzXQjp/0.net
オタク「ボク個人の意見をいわせてもらえば、はっきりいってあのアイドルを敵に回すのはマズイと思う」

店主「……たしかにな」

店主「オーディションに出ようとして、二度と歌を歌えない体にされましたじゃ」

店主「たとえ犯人が逮捕されて、治療費や賠償金もらえたとしても、割りに合わなさすぎる」

陰気娘「そうねえ……」

オタク「他にもオーディションはいくらでもあるんだ。今回はやめたっていいんじゃないかな」

女「そう……かも」

70: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:34:41.562 ID:BSzXQjp/0.net
男「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

女「!」

男「せっかく掴んだチャンス……こんなことで諦めていいのか?」

男「オーディションを受けてダメだったならともかく、こんな理不尽な脅迫に屈するなんて……」

男「いくらなんでも勿体なすぎるよ!」

オタク「そうはいっても……」

陰気娘「あんたのいってることは安全地帯にいる部外者だからの意見よ」

男「俺は部外者じゃないッ!!!」

71: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:37:29.649 ID:BSzXQjp/0.net
男「俺が……俺が君を守る!」

女「え……」

男「俺がボディガードになって、絶対オーディション受けさせるから……だから諦めちゃダメだ!」

女「……男君」

オタク「ボディガードって君、なにか武道とかやってるの?」

男「……いや」

陰気娘「それじゃ、二人揃って壊し屋に壊されるのがオチじゃない」

オタク「気持ちだけじゃ解決しないことが世の中いくらでもあるんだよ」

男「……う」

店主「…………」

72: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:40:11.440 ID:BSzXQjp/0.net
店主「おい」

男「な、なんだよ」

店主「今の覚悟……マジだろうな? 勢いで言っちゃっただけじゃないだろうな?」

男「大マジだよ!」

男「もし今の俺に目標があるとしたら、この子にオーディションを受けさせることだ!」

店主「……いいだろう」

店主「常連から歌手が生まれるかもって時だ。俺も協力するぜ」

女「店主さん……」

男「い、いいのかよ」

73: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:43:19.097 ID:BSzXQjp/0.net
オタク「うーん、だったらボクも」

陰気娘「ヒヒヒ……あたしも。やっぱりやられっ放し脅迫されっ放しは性に合わないわ」

男「みんな……!」

女「皆さん……ありがとうございます」

店主「三本の矢は折れないって武田信玄もいってたし、五本も集まればなんとかなるだろ!」

男「毛利元就な」

店主「ってわけで、景気づけに快活クラブ行くか! モーニングおごってやるよ!」

男「タダじゃねーか! しかも今の時間はモーニングやってないし」

74: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:46:26.674 ID:BSzXQjp/0.net
……

―ネットカフェ―

男「作戦を考えないとな……」

店主「おそらくあちらさんは、オーディション当日、会場周辺を過激なファンで固めてくるはず」

店主「んで、やってきた女ちゃんを襲うなり拉致するなりするはずだ」

男「つまり、そいつらをすり抜けて、会場入りできればいいわけだ」

陰気娘「だけど、顔はバレちゃってるでしょ? どうすんの?」

オタク「いい手があるよ」

75: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:48:35.287 ID:BSzXQjp/0.net
オタク「インターネット上に偽情報を流すんだ」

オタク「たとえば“オーディション最有力候補の女の子は当日、ド派手な格好で現れる”って」

男「なんでそんなことを?」

オタク「連中もおそらく、インターネット上で情報を収集してると思うんだ」

オタク「それっぽく情報を流すすべは心得てるから、信じさせる自信はあるよ」

店主「分かった! 囮作戦ってわけだな!」

オタク「そういうこと」

男「だけど、囮役は誰がやるわけ?」

オタク「そりゃあ、もう一人の女の子である……」

76: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:51:18.598 ID:BSzXQjp/0.net
陰気娘「あたし?」

オタク「そう。君しかいない」

女「囮なんて危険すぎるんじゃ……」

陰気娘「危険、危険ねえ……」

陰気娘「やるわ、やる! 囮なんて面白そうだもん! ゾクゾクしてきちゃった!」

陰気娘「漫画のネタにもなりそうだしねえ……ヒヒヒ」

男「たくましいなぁ……」

77: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:54:29.155 ID:BSzXQjp/0.net
男「……作戦はだいたいこんなところか」

店主「ああ、これで会場入りするくらいはなんとかなるだろ」

女「みんな……ありがとう」

女「だけど絶対怪我しないでね……! そんなことになったら私……」

陰気娘「大丈夫よぉ。あたし、もし右手を折られても左手でも絵を描けるから」

オタク「そういう問題かなぁ」

男「とにかく……やばくなりそうだったら、すぐ逃げるようにしよう!」

78: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 18:57:13.525 ID:BSzXQjp/0.net
……

アイドル「分かってるわね」

アイドル「もし当日、あの女が会場にやってきたら……」

ファンA「すぐ捕まえてみせます!」

ファンB「んでもって、二度と歌を歌えない体にしちゃいますよ!」

アイドル「ウフフ、頼んだわよ。褒美は弾むからね。なんなら下着をくれてやってもいいわ」

ファンA「はいぃっ!」

ファンB「お任せ下さぁいっ!」

80: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:00:43.850 ID:BSzXQjp/0.net
アイドル「バカは扱いやすくて助かるわ」

アイドル「もっとも……あたしが一番頼りにしてるのはアンタなんだけどね」

壊し屋「…………」

壊し屋「それだけの金はもらってますからね。きっちり働きますよ」

アイドル「ド素人の小娘にオーディションに負けたなんてことになったら現役アイドルとして大恥かくわ」

アイドル「絶対に会場入りさせないでよね」

壊し屋「もし、現れたら……きっちり“壊し”ますよ。身も心もね」

…………

……

81: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:05:03.961 ID:BSzXQjp/0.net
オーディション当日――

―会場近辺―

男「このイベントホールはいくつも出入り口があるけど……」

男「どの方面も……アイドルのファンらしい奴らががっちり固めてるな」

女「やっぱり囮作戦は危険すぎるんじゃ……」

男「いっそ俺らで強行突破しちゃう? 武器も持ってなさそうだし」

店主「いや、あいつらの持ってるサイリウム……ありゃそう見せかけた警棒だ」

男「警棒!?」

店主「まともに行けば袋叩きだ。作戦通りやるべきだろう」

男「うう……」

店主「今さらなにビビってんだ! シャキッとしろよ!」

男「分かってるよ!」

83: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:07:24.540 ID:BSzXQjp/0.net
金髪女「ふんふ~ん」スタスタ…





ガヤガヤ…

「おい、来たぞ!」

「金髪、黒いドレス、赤いバラ! 間違いねえ! ネット上にリークされてた情報通りだ!」

「あの女が俺らのアイドルちゃんを脅かす素人女だ!」

「ケバイ格好しやがって……そんなに目立ちたいのか」

84: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:09:40.704 ID:BSzXQjp/0.net
過激ファン「おい、お前!」ガシッ

金髪女「ヒヒヒ……なぁ~にぃ?」ファサッ

過激ファン「!」ギョッ

金髪女「あたしになんか用? もしかしてナンパ? ヒヒヒ……」

過激ファン「なんだこいつ……全然顔が違うぞ!」

金髪女「呪ってあげようかぁ?」ジロリ

過激ファン「ひっ……!」

85: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:12:13.587 ID:BSzXQjp/0.net
シャーッ

オタク「キックボード持ってきたよ! ほら逃げるよ!」シャーッ

金髪女「うん、分かったぁ~!」シャーッ

過激ファン「あっ、逃げやがった!」

「怪しすぎる!」 「きっと仲間だ!」 「追いかけろーっ!」 「あいつら速いぞッ!」

シャーッ

タタタタタッ… タタタタタッ…

87: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:15:18.358 ID:BSzXQjp/0.net
店主「よし、うまくいった! あの区画のファンが消えたぞ!」

男「これで会場の敷地内に入れる!」

女「だけどあの二人、大丈夫? もし捕まったら……」

男「あの二人、ある意味俺ら二人よりよっぽど頼もしいし、まず心配ないよ」

店主「たしかに。やられてる姿が想像できねえ」

男「それより今度は、俺らが走らないと!」

店主「正面突破は利口じゃねえ、裏口から入るぞ!」

88: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:19:05.069 ID:BSzXQjp/0.net
―イベントホール・裏口―

男「よし、ここから入れば――」

壊し屋「おっと……そうはいかんな」ザッ

男「!」

男(なんだこいつ……!)ゾクッ

壊し屋「その女をオーディションに出すわけにはいかん。“壊させて”もらう」

女「ひっ……!」

店主「どうやら……ボスのお出ましらしいな」

90: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:22:36.334 ID:BSzXQjp/0.net
男(俺でも分かる……。さっきのファン軍団よりこいつ一人のがよっぽどヤバイ!)

男「なんとか二人がかりで――」

店主「ここは俺に任せて、お前ら先に行け」

男「なにいってんだ! こんなヤバそうな奴、一人でどうにかなるかよ!」

店主「大丈夫だ……行け! あと念のためこれ持ってけ!」サッ

男「……これは! 分かった……行こう!」

女「う、うんっ!」

タタタッ…

壊し屋「…………」

91: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:25:35.868 ID:BSzXQjp/0.net
店主「意外だな、あっさりあの二人を通すなんて」

壊し屋「この先の通路にも武器を持ったファンはいる。あの男では突破できまい」

壊し屋「それにとっととお前を壊して追いかければ、十分間に合う」ブオンッ

バキィッ!

店主「ぐ……!」ミシッ

店主「なんて蹴りだ!」

壊し屋「プロを敵に回したこと、後悔しろ」サッ

店主「バカでかいナイフ持ちやがって……。本当に“壊し”で済ませてくれるのか?」

壊し屋「安心しろ、どう刺せば死なない程度にできるかは熟知している」

店主「そりゃあ人を死なせたことがある奴の台詞だ……ド悪党が!」

92: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:28:15.122 ID:BSzXQjp/0.net
壊し屋「壊してくれるッ!」

ビュオッ! ビュアッ!

店主「…………」ザッ…

店主「右手」

壊し屋「?」

グサッ!

壊し屋「うぐっ!? ああああああっ……!」ブシュッ…

壊し屋「な、なんだこれは……! ダーツの矢……!?」

94: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:31:35.233 ID:BSzXQjp/0.net
店主「左手」

壊し屋「くっ!」サッ

ザクッ!

壊し屋「ぐぎゃあっ……!」

壊し屋「く……! なんだ、その狙いの正確さは……!?」

店主「快活クラブのダーツコーナーで鍛えたかいがあったぜ」

壊し屋「そんなんで、そこまでの腕になるはずが……!」

店主「喋ってる暇ないぞ。次は右足だ」ピッ

ドシュッ!

壊し屋「いぎゃああぁぁぁっ!」

95: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:34:22.556 ID:BSzXQjp/0.net
店主「左足」

ブスッ!

壊し屋「あぐあぁぁぁぁぁっ!」

店主「さて……次はどこを狙うか。矢はまだまだあるからな」チャッ

壊し屋「や、やめ……」

店主「両目」

壊し屋「ひっ!」バッ

ガンッ!

壊し屋「あう……! キ、キン、タマを……」ドサッ…

店主「バーカ、戦いの最中に両目塞いだらいかんだろ」

96: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:38:28.100 ID:BSzXQjp/0.net
壊し屋「この俺が……子供扱いだなんて……」

壊し屋「お前、何者だ……!?」

店主「ネットカフェの店主だよ。今は絶賛快活クラブにドハマり中!」

壊し屋「ネット……」

壊し屋「聞いたことがある……」

壊し屋「依頼されればどんな標的も退治する、裏のプロフェッショナル……」

壊し屋「絶対に獲物を逃がさないことから、“網(ネット)”と呼ばれ恐れられたとか……」

店主「俺がそのネットさんだってか? だからネットカフェ店主?」

店主「冗談は壊し屋とかいう職歴にもならねえ肩書きだけにしとけよ」

店主「だけどな……これだけはいっておく」

97: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:41:53.164 ID:BSzXQjp/0.net
店主「今後もし、ウチの客に手を出すようなことしてみろ……」

店主「そん時は両目ぐらいじゃ済まさねえからな」

壊し屋「…………!」

壊し屋「わ、分かった……」

壊し屋(格の違いを見せつけられた……。もはや廃業するしかあるまい……)ガクッ

店主「…………」

店主(さて、俺にできるのはここまでだ! 絶対オーディション受けさせろよ……!)

98: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:45:10.280 ID:BSzXQjp/0.net
―イベントホール・通路―

タタタタタッ

女「店主さん、大丈夫かなぁ」

男「はっきりいって不安だけど、自信はあるようだったし、なにか策があると信じよう」

男「このまま裏の通路を行けば――」

ファンA「お、あの女がアイドルちゃんが言ってた奴じゃねえか?」

ファンB「ここは通さねえぜ!」

男「……くっ! あいつが最後じゃなかったのか!」

99: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:48:33.250 ID:BSzXQjp/0.net
ファンA「オラァッ!」ブンッ

ガツッ!

男「ぐっ!」

女「男君!」

男「大丈夫だ、これくらい!」ヨロッ…

ファンA「なにいってやがる。二対一だぜ」

ファンB「ここは人通りもカメラもねえんだ。寝たきりになるくれえボコにしてやる!」

男(いや……俺にだって切り札がある! さっき店主にもらった“こいつ”が!)

100: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:50:44.916 ID:BSzXQjp/0.net
男「でやっ!」ピッ

男「たっ!」ピッ

グササッ!

ファンA「いっでぇ!」

ファンB「ダーツの矢……!?」

男「今だ!」ダッ

女「うん!」ダッ

ファンAB「しまった!」

男(ダーツの矢……渡してもらってなきゃアウトだったよ、ありがとう!)

101: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:55:26.086 ID:BSzXQjp/0.net
―イベントホール・会場―

審査員A「一次審査でよかった素人の女の子、来ないねえ」

審査員B「こりゃ棄権かもしれないな。引っ込み思案そうだったし」

アイドル「いいライバルになりそうだったのに残念です……」

アイドル(ふん、来るわけないっての!)

アイドル(今頃、あたしのファンか壊し屋に二度と歌えない体にされてるんだから!)

ザワッ…

審査員A「おっ、来たぞ!」

審査員B「なんであんな裏口から入ってきたんだ?」

アイドル「――え!?」

102: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 19:58:01.746 ID:BSzXQjp/0.net
男「たどり着いたね……」

女「うん」

アイドル「な、なんで……」

女「こんにちは、色々やってくれたけど、大失敗みたいだったですね」

アイドル「!」

女「行きつけのネカフェのみんなのおかげで、私、ここまでたどり着けました」

女「あとは私があなたを叩き潰すだけです!」

アイドル「ぐ、ぐ、ぐ……!」

ドヨドヨ…



男(お~……怖っ! まさか彼女にあんな一面があったとは……)

男(だが、もう……勝負は見えたな)

104: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 20:01:29.982 ID:BSzXQjp/0.net
女「歌います!」


~♪  ~♪  ~♪


審査員A「おおっ!?」

審査員B「一次の時より、さらに闘志がこもってるよ! この短期間でなにが……」



アイドル「…………!」

アイドル「帰る」クルッ

マネージャー「ちょっ、まだ君は歌ってないのに……」

アイドル「辞退するわ……」

…………

……

106: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 20:05:35.093 ID:BSzXQjp/0.net
―ネットカフェ―

女「晴れて、映画の主題歌を歌わせてもらえることになりました!」

陰気娘「おめでとう! イェ~イ!」

女「イェーイ!」

オタク「もし君が歌手になったら、たくさんステマするからね!」

女「ど、どうも……」

店主「君をスカウトした俺の目に狂いはなかったな……」

陰気娘「あんたがいつスカウトしたのよ」

オタク「ちなみに例のアイドルは自信失って、しばらく活動休止するってさ」

陰気娘「ヒヒヒ、ざまあないわねえ。このままフェードアウトすりゃいいのに」

107: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 20:08:26.705 ID:BSzXQjp/0.net
オタク「だけど、男君来てないのに、ボクらに教えちゃっていいの?」

女「男君にはもうとっくに教えてあるから」

陰気娘「なによぉ、それ」

店主「おじさん悔しくて泣きそう」

オタク「そういえば、そろそろ彼が来る時間だね」


キィィィ…


店主「お、来たか」

108: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 20:11:35.155 ID:BSzXQjp/0.net
男「ちわっす」ビシッ

女「えっ!」

店主「なんだ、そのスーツ姿は!?」

陰気娘「リクルートスーツ?」

オタク「ってことはついに……」

男「……女ちゃんに触発されて、俺もがっつり就活始めたんだ」

男「もう遅いかもしれないけど、今からでも全力で取り組むよ」

店主「22の若造にもう遅いとかいわれたら、俺の立場がなくなるからやめて」

110: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 20:15:15.280 ID:BSzXQjp/0.net
女「男君なら絶対大丈夫だよ! スーツとっても似合ってるし!」

男「ハハハ……ありがとう」

女「お互いこれから忙しくなるけど、落ち着いたら……二人でゆっくりデートしようね!」

男「うん! 約束だ!」

陰気娘「ちっ」

オタク「ちっ」

店主「ちっ」

111: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 20:18:38.712 ID:BSzXQjp/0.net
店主「さて、お前の就活祈願と女ちゃんの歌手デビューを祈願して、乾杯でもしたいとこだけど」

店主「ウチの濃いウーロン茶と綺麗なテーブルじゃ味気ないだろ」

男「まあ、たしかに」

オタク「なら、どこに行くの?」

店主「決まってんだろ……」

店主「快活クラブだよ!」

男「やっぱり……」

女「いいじゃない、みんなで楽しもうよ!」

陰気娘「うんうん、今日はあたし、歌うよぉ~」

112: VIPがお送りします 2019/03/24(日) 20:21:22.475 ID:BSzXQjp/0.net
店主「んでもって今日はこの俺が……」

男「またソフトクリーム?」

店主「トルコライスおごってやるよ!」

女「いいんですか? やったぁ!」

男「マジで!? 無理すんなよー」







―おわり―

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