男「同窓会呼ばれたから見栄張って左手薬指に指輪つけてくことにした」

男「同窓会の案内状か……」

男（すっかり疎遠になってたし、何人か会いたい奴いるし、出席してみるかな）

男（特にずっと憧れだったクラスのマドンナちゃんがどうなってるか気になる）

男（ただ……俺ぐらいの年になると、結婚してる奴も多いはず）

男（“こいついい年してまだ結婚してないのかよ”と思われるのは嫌だな……）

男（……そうだ！）

男「当日は左手薬指に指輪をつけていこう！」

男「これください」

店員「ありがとうございまーす！」



男（やっすい指輪だけど、まあバレはしないだろう）

男（これで俺も既婚者だ！）

同窓会当日――

ﾜｲﾜｲ…　ｶﾞﾔｶﾞﾔ…

旧友「おー、久しぶりー！」

男「久しぶり！」

旧友「すっかりおっさんになったな！」

男「お前もな！」

旧友「……ん。お前、その指輪……結婚してたのか！　いいなぁ！」

男「まあな」

男（おお……さっそく効果が出た！）

旧友「なんで式呼んでくれなかったんだよー」

男「え！？　あ、ああ……式は、挙げなかったんだ」

旧友「そうなのか。まー、今はそういう人多いらしいしな」

男「だろ？　金もかかるし、誰を呼ぶ呼ばないとかも煩わしいしさ」

男（ホッ……）

ﾜｲﾜｲ…　ｶﾞﾔｶﾞﾔ…

男「みんな、久しぶり！」

旧友「こいつ、結婚してたんだってよ！　絶対まだだと思ったのに！」

イケメン「へぇ～、おめでとう！」

七三「おめでとう」

男「どうもありがとう」

オタク「いいなぁ。ボクはまだ独身だよ」

デブ「俺も～」

男「へへへ……」

男（この優越感……たまんねえな！　指輪してきてよかった……）

旧友「あっちには女子グループがいるぞ」

男「どれどれ」


金髪女「わぁ、キレイになったねー！」

マドンナ「そんなことないわよ……」


男（うおおおおおおお！）

男（マドンナちゃん、ますます美人になってる！　一目見られてよかった……）

男「ところで、あのやたら派手な金髪女は誰だ？」

旧友「ああ、あれは図書委員やってた……」

男「え、マジ！？」

男（あんなに地味だったのに……人は変わるもんだな）

旧友「そういやさ、嫁さんの名前はなんていうんだ？」

男「え！？」

イケメン「ぜひ教えてよ！」

男「お、おう」

男（やばい……嫁の設定を全然考えてなかった）

男（嫁の名前即答できないのはおかしいし……適当で！）

男「ケ、ケイコっていうんだ」

七三「ケイコさんを幸せにしてやれよ」

男「も、もちろん！」

オタク「そうだ！　奥さんの写真見せてよ！」

デブ「見たい見たい！」

男「え！？」

オタク「スマホに一枚くらい入ってるでしょ？　ボクもスマホには嫁の写真がいっぱいだし！」

男（ねーよ！　つーかお前の“嫁”は二次元だろうが！）

男（ど、どうする……！？）

男「実はさ……。写真は……ないんだ」

オタク「え、どうして？」

男「俺の奥さん、顔にちょっとヤケドしててさ……。写真撮られるの嫌がるんだよね」

オタク「あ、そうなんだ」

デブ「それなら仕方ないなぁ」

男（ふぅ……）

男（でも、これだとキズモノと結婚したと思われかねないな……）

男「だ、だけどね？」

男「決して不細工ってわけじゃないんだ」

男「身長は高めで、胸は結構大きいし、口元のホクロがセクシーだし、しかもW大卒だし！」ﾍﾟﾁｬｸﾁｬ

男「パソコンが得意で、今も共働きでIT系企業に勤めてて……」ﾍﾟﾁｬｸﾁｬ

オタク「う、うん」

デブ「わ、分かった、分かったよ」

男（おっと、嘘を取り繕うためについ早口になっちまった！）

旧友「ケイコさんってもしかしてこの人か？」ｻｯ

男「そうそう！　それが俺の嫁！　ヤケドしてるけど可愛いだろ！」

男（誰の写真だか知らないけど、適当に返事してやれ！）

オタク「へぇ～、可愛い！」

デブ「羨ましいなぁ」

男「へへへ……お前らも早く結婚しろよ！」

イケメン「しかし……ちょっと残念だな」

男「え、なにが？」

イケメン「実はボクのいとこに独身の女の子がいて、“そろそろ結婚したい”っていってて」

イケメン「もし君が独身だったら、今日紹介しようかなと思ってたんだけど……」

男「え！？」

イケメン「君と趣味や性格も合いそうだったし……」

男「え、どんな子！？　どんな子！？」

イケメン「この子」ｻｯ

男（美人だ……！　さすがイケメンのいとこ……！）

男「ぜひ！　一度会うだけでも！」

イケメン「いや、そりゃまずいだろ。君が奥さんに浮気だのなんだのと言われかねない」

イケメン「それに、いとこにも悪いからね」

男（あううう……）

イケメン「まあ、他の人をあたってみるよ」

男（マジかよぉ～……）

七三「まあまあ、既婚者は既婚者同士、愚痴でもこぼし合おう」

イケメン「そうそう」

男「う、うん……」

ﾍﾟﾁｬｸﾁｬ…　ﾍﾟﾁｬｸﾁｬ…

七三「俺の奥さんなんていっつも……」

男（キ、キツイ……）

イケメン「三歳になった息子が……」

男（既婚者のふりして、既婚者の会話に混ざるのキツイ……）

男（あーあ……）ﾁﾗｯ


デブ「俺たち結婚できるかなぁ？」

オタク「一生できないかも～」

旧友「それも気楽でいいんじゃないか？」

ﾍﾟﾁｬｸﾁｬ…　ﾍﾟﾁｬｸﾁｬ…


男（いいなぁ……俺も独身トークに混ざりたい……楽しそう……）

男（ふぅ、やっとひと段落ついた……）

マドンナ「あの～、男君？」

男「は、はいっ！」

マドンナ「お久しぶりね」

男「そ、そうだね」

男（うおおおお……！　マドンナちゃん！　まさか向こうから話しかけてくれるとは！）

オタク「だけど、俺達には二次元って嫁がいるからなｗ」

デブ「ブヒィィィイイイイイイイイイイーーーーーーーーーイ！？！？！？！？」

寝転んでゴロゴロゴロゴロ！！！！！！

オタク「！？」

イケメン「おい、どうしたデブ！！」

デブ「ンゴゴゴｗｗｗｗｗｗｗｗンブヒウィィィィィイイイ！！！！！ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ」

七三「どうした！？具合でも悪いのか！？」

デブ「ブヒュルルルルブヒュルルルルｗｗｗｗｗｗｗｗｗ（おもむろに服を脱ぎだす）

美人「イヤァァーーーー！？！？！？！？！？」

金髪女「男くん、何とかして！！男でしょ！！！！！？？？？？」

男「え！？」

デブ「タッポイタッポイタッポイｗｗｗｗﾃﾞｭﾃﾞｭﾃﾞｰｭﾃﾞｨﾃﾞｭｳｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ」

男「キレイになったね……」

マドンナ「そんなことないよ」

男「いや、ぶっちゃけちゃうと、俺はずっと君のことが好きだったんだよ」

マドンナ「……」

男「なーんて、気持ち悪いこといっちゃってごめん！」

マドンナ「そんなこと……ないよ」

男「え？」

マドンナ「私も男君のこと、ずっと好きで……」

男（え！？）

マドンナ「今日も……男君が来るかと思ったから、出席したぐらいなんだ」

男（そうなの！？）

男（マジかよ……両想いだったのかよ！）

男（だったら……！　だったら……！）

マドンナ「でも……もう結婚しちゃってるんだもんね」ﾁﾗｯ

男「！？」

男「あ……！（左手の指輪……！）」

マドンナ「ありがとう……一目見られて嬉しかった。話せて嬉しかった」

男「待っ……！　この指輪は……この指輪は……ッ！」

マドンナ「それじゃ、今日はこれで……」

男「あああああっ……！」

男「……」

旧友「よう、どうしたー？　こっち来て飲もうぜー？」

男「……」

旧友「そうだ、お前の住所教えてくれよー。今度遊びに行くからさー」

男「ああ……」

ﾜｲﾜｲ…　ｶﾞﾔｶﾞﾔ…

同窓会終了後――

男「くそーっ！！！」

男「こんなもの、こんなもの、つけてたから……！」

男「こんなものーっ！！！」ﾎﾟｲｯ

ﾎﾟﾁｬﾝｯ…

男「はぁ、はぁ、はぁ……」

男（今回の件でようく分かった……！）

男（見栄なんか張っても、なにひとついいことなんかないって……！）

男（もし、次があったら、絶対に見栄を張ったりしない！）



――――

――

翌朝――

男「あぁ～……昨日は帰ってから深酒しちゃった」

男「鍵もかけないで寝ちまったよ、不用心な……」

テレビ『続いてのニュースです』

テレビ『昨日深夜、○×市で殺人事件が発生しました』

男「お～、結構近いじゃんか。物騒だねえ」

テレビ『殺害されたのは、△□ケイコさん……』

男（ん、ケイコ？）

男（ちょっと待てよ……このケイコさん、どっかで見たことあるぞ……）

男（そうだ！　旧友が見せてくれた写真の女だ！）

テレビ『ケイコさんはW大を卒業後、IT系企業に就職し、勤務状況は良好……』

男（マジかよ……。俺がでっちあげた特徴とドンピシャじゃねえか！）

テレビ『目撃者の話によると、犯人は“お前結婚してたのに俺と付き合ってたのか！”などと』

テレビ『怒鳴り声を上げ、戸惑うケイコさんを刃物でめった刺しにしたということです』

男（え、“結婚してたのに”って？　まさか、まさか……！）

男（ケイコさんを殺した犯人って……！　あいつ、本当に俺がケイコさんと結婚してたと思って……！）

テレビ『犯人は“お前と結婚してたあの野郎も殺してやる”と言い残し、現在も逃走中です』

テレビ『警察では全力で犯人の行方を追っており……』

男「……！」

ｷﾞｨｨ…

男（今、玄関のドアが開いた音がしたような……）

男（果たして、俺に“次”はあるのだろうか――）







― 終 ―

乙
終わり方ゾクッとした

住所もバッチリ聞き出してるな