サッカー部員「お前太ってるからキーパーやれよ！」デブ「ううっ……分かったよ」

体育教師「今日の体育はサッカーだ！」



サッカー部員A「よーし、シュート練習しようぜ！　シュート練！」

サッカー部員B「おう！」

サッカー部員A「だけど、やっぱキーパーがいなきゃ格好がつかねえな」

サッカー部員A「おいデブ、お前太ってるからキーパーやれよ、キーパー！」

デブ「ううっ……分かったよ……」

サッカー部員A「んじゃ、俺から蹴るか」

サッカー部員A「せめてボールが来た方向に手を出すくらいしろよ、デブ！」

デブ「う、うん」

サッカー部員A「そりゃ！」ﾊﾞｼｭｯ

デブ「よっ」ﾊﾟｼｯ

サッカー部員A「……な！？」

サッカー部員A「バ、バカな……結構いいコースだったのに……」

サッカー部員B「どうせマグレだろ。次は俺だ！」

サッカー部員B（フェイントをかけてから――）ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

サッカー部員B「シュート！」ﾊﾞｼｭｯ

デブ「えいっ」ﾊﾟｼｯ

サッカー部員B「ウソォ！？」

サッカー部員A「でりゃあっ！」ﾊﾞｼｭｯ

デブ「そりゃっ」ﾊﾟｼｯ


サッカー部員B「うりゃ！」ﾊﾞｼｭｯ

デブ「とうっ」ﾊﾟｼｯ


ﾊﾞｼｭｯ　ﾊﾟｼｯ　　ﾊﾞｼｭｯ　ﾊﾟｼｯ　　ﾊﾞｼｭｯ　ﾊﾟｼｯ　……



サッカー部員A「マ、マジかよ……！？　ことごとく止められちまう！」

サッカー部員B「サッカー部の俺たちが、シュートを一発も決められねえ……！」

サッカー部員A「おいデブ！」

デブ「な、なに……」ﾋﾞｸｯ

サッカー部員A「お前すげえな！　キーパーの才能あるぜ！」

サッカー部員B「なぁ、サッカー部入れよ！　お前がいれば、大会で結構上を狙えるぜ！」

デブ「えぇ～、でも……」

サッカー部員A「いいから入れって！」

サッカー部員B「歓迎するぜ！」

デブ「あうぅ……強引だなぁ……」

サッカー部に入ったデブは、キーパーとして大活躍をし……



サッカー部員A「やべえ、抜かれた！」

サッカー部員B「一対一だ！　うわぁ、ダメだ！」

敵校エース「もらったァ！」ﾊﾞｼｭｯ

デブ「ほいっ」ﾊﾟｼｯ

敵校エース「なにィ！」

ﾋﾟﾋﾟｰｯ

実況『試合終了！　全く無名だった○△高校、なんと全試合無失点で優勝です！』

デブ「やったぁ！」

サッカー部員A「すげえや、デブ！」

サッカー部員B「お前のおかげだ、デブ！」

デブ「二人とも、ボクを誘ってくれてありがとう！」



なんと全国大会優勝を果たした。

母「ねえ、あんたにJリーグからスカウトが来てるわよ！」

デブ「ええっ！？」

スカウト「ぜひうちのチームに！　契約金はこれぐらいでいかがでしょう？」ｻｯ

デブ「ええっ、こんなに！？」

デブ「入ります入ります！」

デブ（これだけお金があれば、好きなだけお肉を食べれるぞぉ！）

Jリーグに入ったデブは、プロの舞台でも好セーブを続け……


デブ「よっ」ﾊﾟｼｯ


デブ「ほっ」ﾊﾟｼｯ


デブ「はっ」ﾊﾟｼｯ



実況『なんとデブ、Jリーグでも一切得点を許しません！』

監督「日本がワールドカップを制するには、君の力が必要だ」

監督「日本代表になってくれ！」

デブ「はいっ！」

デブ（いよいよ世界が相手か……だけど、絶対にゴールネットは揺らさせないぞ！）





日本代表に選ばれたのであった！

チームメイト10人「いよいよワールドカップ予選……作戦はどうしよう？」

デブ「君たち10人で攻めてくれ」

チームメイト10人「10人で！？　それじゃ守りはどうするんだ！？」

デブ「ゴールはボク一人で大丈夫さ！」

チームメイト10人「無茶だ！　いくらなんでも……」

監督「いや、その作戦でいこう。守備は彼に任せ、DFも全員攻めて攻めて攻めまくれ！」

デブ「ありがとうございます、監督！」

予選が始まった。

チームメイト10人「しまった、ボールを奪われた！」

敵FW「カウンターだ！」

敵FW「もらった！」ﾊﾞｼｭｯ

デブ「ほいっ」ﾊﾟｼｯ

敵FW「そんな……あっさりキャッチされるなんて……」

敵FW「頼むっ！」ﾎﾟｰﾝｯ

チームメイト10人「敵がボールをゴール前に上げたぞ！」

敵ノッポ「大したキーパーだが……」

敵ノッポ「この高さからのヘディングはどうしようもあるまい！」ﾋﾞｼｭｯ

デブ「よっ」ﾊﾟｼｯ

敵ノッポ「バカな……！　“急降下爆撃”といわれる俺のヘディングシュートを……！」

ワァァァッ！！！


チームメイト10人「やったーっ！」

デブ「ワールドカップ出場だーっ！」



実況『日本、無失点のままワールドカップ出場を決めましたーっ！』

実況『鉄壁の守護神デブの神がかり的なセーブが、この偉業を成し遂げさせたといえるでしょう！』

記者「ワールドカップ出場、おめでとうございます」

デブ「ありがとうございます」

記者「それにしてもなぜ、ここまで完璧なセービングができるのでしょうか？」

デブ「サッカーのゴールはいわば、高さ2.44m、横7.32mの小さな長方形に過ぎません」

デブ「この長方形にボールを通さないよう、常に最適な動きを心がけているだけですよ」

記者「そ、そうですか」

記者「引き続き頑張って下さい！」

デブ「はい、無失点で優勝してみせますよ」

ワールドカップでもデブは大活躍した。


デブ「てやっ」ﾊﾟｼｯ


デブ「えいっ」ﾊﾟｼｯ


デブ「そりゃっ」ﾊﾟｼｯ


デブ（さすがに今までのシュートとは一味違う……だけど守れないほどじゃない！）



チームメイト10人「俺たち10人は安心して攻められるぜ！　うおおおおっ！」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞｯ

いよいよ決勝戦――

相手は世界最強のストライカー率いる強豪国である。


記者「対戦相手である日本のゴールキーパーは、これまで一度もゴールを許していませんが」

世界最強のストライカー「たしかに……彼は素晴らしいゴールキーパーだ」

世界最強のストライカー「だが、彼にも弱点がある」

記者「弱点？」

世界最強のストライカー「その弱点を突き、得点を決め、我が国を優勝に導いてみせるさ」



デブの弱点とは一体――！？

決勝戦が始まった。


世界最強のストライカー「いくぞっ！」ｽﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

チームメイト10人「は、速いッ！　あっという間に全員抜かれた！」

世界最強のストライカー（とにかく攻めあるのみ！）ﾊﾞｼｭｯ

デブ「くっ！」ｶﾞｯ

世界最強のストライカー「まだまだ！」ｽﾞﾄﾞｯ

デブ「うおっ！」ﾊﾟｼｯ



デブ（なんてシュートだ……！　一発止めるごとにスタミナを持っていかれる！）

デブ（これが世界最強のシュート……！）

デブ（だけど、止められないほどじゃない！　――取れる！　勝てる！）

実況『世界最強のストライカー、何十発何百発とシュートを枠内に放っていますが』

実況『デブもその全てを止めています！』

実況『凄まじい試合だぁ～～～～～っ！！！』



世界最強のストライカー（そろそろのはずだ……）

デブ「ん！？　ボクの体が……」ｼｭｩｩｩｩ…

デブ「みるみるうちに……！」ｼｭｩｩｩｩ…

ガリ「や、痩せてしまった！」ﾊﾞｰﾝｯ

世界最強のストライカー「全て狙い通りだ」

ガリ「どういうことだ！？」

世界最強のストライカー「君が素晴らしいキーパーでいられた理由は、あの肥満体型にあったんだ」

世界最強のストライカー「肥満体型から引き起こされる引力がボールを引き寄せ」

世界最強のストライカー「さらに極度の脂肪による瞬発力が好セーブを可能にしていたのさ」

世界最強のストライカー「だから私はシュートを連発し、君にカロリーを消費させた」

世界最強のストライカー「今の君はもはやただの痩せたキーパー……」

世界最強のストライカー「もう私のシュートは防げない！」

ガリ「ぐっ！」

ガリ（たしかに……今のボクじゃ、彼のシュートは取れない！　どうすれば……！）

チームメイト10人「デブ！」

ガリ「みんな！？」

チームメイト10人「まだ打つ手はある！　今すぐ太ればいいんだ！」

ガリ「っていってもどうやって！？　食べ物なんかないよ！」

チームメイト10人「食べ物ならここにあるじゃないか」

ガリ「え？」

チームメイト10人「……俺たちを食うんだ！」

ガリ「な……！」

ガリ「そんなことできるわけないだろ！」

チームメイト10人「デブ！　俺たちの絆ってのはそんなもんだったのかよ！」

チームメイト10人「俺たちはワールドカップ優勝のためなら命を捧げる覚悟もできてる！」

チームメイト10人「俺たちを食って、優勝してくれ！」

ガリ「……分かったよ」

ガリ「君たちを……食う！！！」ﾊﾞｸﾝｯ



世界最強のストライカー「チームメイトを一口で食べただと！？」

デブ「みんなを食って……リバウンド！」ﾎﾞﾖﾝｯ

世界最強のストライカー「まさか……チームメイトを食うとは！」

世界最強のストライカー「まぁいい……ならば、純粋な実力勝負！」

世界最強のストライカー「私のサッカー人生の全てを、この一撃にかける！」ｸﾞｵｯ

ドシュッ！！！

デブ（すごいシュートだ……！）

デブ（今までのボクなら、絶対止められなかっただろう！）

デブ（だけど、今のボクにはあの10人がついている！）

デブ「でやぁぁぁぁぁっ！！！」ﾊﾟｼｯ





実況『と、止めたぁーっ！！！』

実況『チームメイトを食べたデブ、世界最強のシュートを止めました！』

世界最強のストライカー「私の……負けだ」

世界最強のストライカー「まさか、チームメイトを犠牲にして、体重を増加させるとは……」

世界最強のストライカー「流石はサムライだ……」

デブ「……いや！」

デブ「みんなはちゃんと生きてるよ」

世界最強のストライカー「え！？」

デブ「ほら」

チームメイト10人『胃袋の中で生きてま～す！』

デブ「ね？　ボクは彼らを消化しないように食べたんだ！」

デブ「生きたまま上から出すことも下から出すこともできる！」

チームメイト10人『出来れば上からでお願いしますぅぅぅぅぅ！　下は嫌ですぅぅぅぅぅ！』

世界最強のストライカー「なるほど、ゴールもチームメイトの命も守ったというわけか」

世界最強のストライカー「見事……！　君は世界最強のゴールキーパーだ！」

デブ「だけど、さすがに人間10人腹に入れると……ゲップ」


ｺﾛｺﾛ…


デブ「あ」

実況『ゴ～～～～～ル！　オウンゴォ～～～～～～ル！！！』

実況『なんとゲップの風圧で、オウンゴールをしてしまったァ！』

ﾋﾟﾋﾟｰｯ

実況『ここで試合終了のホイッスル！　日本準優勝～～～～～！』


デブ「ああ、やってしまった……」ｶﾞｸｯ


世界最強のストライカー「なるほど、自分からゴールを奪えるのは自分だけ、ということか」

世界最強のストライカー「試合に勝って勝負に負ける、とはこのことだな……」

世界最強のストライカー「見事……！　君は宇宙最強のゴールキーパーだ！」







おわり

反応に困るけどおもしろかった