女「クマだわ! 死んだフリしなきゃ!」クマ「大変だ! 人が倒れてる!」

2019年01月04日
女「クマだわ! 死んだフリしなきゃ!」クマ「大変だ! 人が倒れてる!」

1: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 02:56:57.471 ID:alRl2NYT0
― 山 ―

女(たまには登山も楽しいな……)ザッザッザッ

クマ「……」ガサッ

女(ゲ!?)

女(ク、クマだわ! 死んだフリしなきゃ!)バタンッ

クマ「ん?」

クマ「大変だ! 人が倒れてる!」

2: チャカ坊 ◆BQNDQNZ68I 2018/05/03(木) 02:57:27.582 ID:2VUFgVana

5: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 02:59:01.593 ID:alRl2NYT0
クマ「もしもし!」

女「……」

クマ「大丈夫ですか!? 大丈夫ですかぁっ!?」

女(あ~もう、早くどこかに消えなさいよ!)

クマ「返事がない……! どうしよう……! どうすれば息を吹き返すんだ!?」

女(あんたが消えればすぐ息吹き返すっての!)

10: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:00:48.691 ID:alRl2NYT0
クマ「生きてるのかな……」サッ

女「……」ドクッドクッ

クマ「心臓は……動いてる。かなり鼓動が早いぞ!」

女「……」

クマ「呼吸は……してる! しかも鼻呼吸か、素晴らしい! 風邪をひきにくいぞ!」

女(うっさい!)

12: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:02:48.123 ID:alRl2NYT0
クマ「生きてると分かってホッとしたけど、これからどうしよう?」

クマ「とりあえず、救急車呼ぶか!」サッ

女(こいつ、なんでクマのくせにスマホ持ってんのよ!)

クマ「もしもし! ……救急です! はい、山に人が倒れてまして……」

クマ「えっ、救急車到着まで一時間もかかる!? こりゃくまったな」

女(うぜえ)

15: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:05:01.435 ID:alRl2NYT0
クマ「一時間か、どうしよう……」

女「……」

クマ「とりあえず、人工呼吸でもしようか」

女(熊工呼吸だろうが!)

クマ「ん~……」

女(ファーストキスがクマだなんていやぁぁぁぁぁ!!! 絶対くさいいいいいいい!!!)

ブチュッ

女(あっ……)

女(ブレスケアの匂い……クマのくせに……)ンッ…

18: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:07:18.264 ID:alRl2NYT0
ピーポー… ピーポー…

救急隊員「お待たせしました! 患者はどちらに!?」

クマ「あそこでまだ倒れてます!」

女(やっと来た……やっとこのクマから解放される……)

救急隊員「クマさん、あなたはどうしますか?」

クマ「もちろん、ついていきます!」

女(くんな!)

20: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:10:33.383 ID:alRl2NYT0
― 病院 ―

女「……」

医者「うーむ……」

ナース「この患者さん、どこも異常はありませんね、先生」

女「当然ですよ!」ガバッ

ナース「きゃっ!? 起き上がった!」

女「だって私、死んだフリしてただけですもん!」

ナース「なーんだ、だったらすぐ退院してもらわなきゃ!」

医者「いや、ちょっと待った」

医者「脳の手術をしよう、今すぐ!」

21: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:13:06.124 ID:alRl2NYT0
女「……ん」

医者「目が覚めたかね」

女「手術は……?」

医者「手術は成功だ」

医者「君の脳には悪性の腫瘍ができていてね」

医者「あれ以上小さいと検査機器では発見できないし、あれ以上大きいと取り除くのが難しくなるという」

医者「絶妙な大きさになっていた」

女「ってことは……」

医者「もし、このタイミングで病院に来てなければ、君の命は危なかったかもしれない」

女「……!」

医者「偶然とはいえ、あのクマに感謝することだ」

女「……はい」

22: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:15:08.731 ID:alRl2NYT0
クマ「あ、手術は成功だったみたいですね」

女「うん……」

クマ「これで、ボクも安心して山に帰ることができます」

クマ「それじゃ……」

女「待ちなさいよ!」

23: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:18:41.197 ID:alRl2NYT0
女「命を助けられたのに何もしないってのは、なんだかスッキリしないわ」

女「お礼ぐらいさせてよ……」

クマ「というと?」

女「私の自宅に寄っていきなさいよ!」

クマ「いいんですか? ボクはクマですよ?」

女「クマだろうがなんだろうが、命の恩人に変わりないわよ」

クマ「女性の家にお呼ばれするなんて初めてで……こりゃくまったな」

女「それ、なんかイラッとくるからやめて!」

25: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:21:29.481 ID:alRl2NYT0
― 女の自宅 ―

女「これからお料理作るけど……なに食べる?」

クマ「お野菜を頂けたら、と」

女「あんた、ベジタリアンなんだ。他には?」

クマ「デザートにはできればハチミツを……」

女「結構ベタなところもあるのね」

27: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:22:31.307 ID:alRl2NYT0
クマ「おや、ヤングジャンプがありますね」

女「漫画が分かるんだ」

クマ「ヤングジャンプは山のふもとのコンビニで毎週買ってますよ」

女「私はキングダム目当てで買ってるけど、あんたの好きな漫画は?」

クマ「またベタだといわれそうですが、やっぱりあれですね」

女(ゴールデンカムイか。クマ出てくるもんね)

クマ「スナックバス江です」

女「よりによってそれかよォ!」

28: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:24:11.767 ID:alRl2NYT0
クマ「それにしても、あの山はかなり険しいというのに、よくあそこまで登れましたね」

女「私、建設現場で働いてるから、体力には自信あるのよ」

クマ「ほう、たくましい」

女「たくましくならなきゃ、やってられなかったのよ。私は一人ぼっちだから」

クマ「あの、ご両親は?」

女「お父さんは仕事人間でいつも家にいなくて、お母さんはそれを支えて死んじゃって」

女「私それに反発して、高校卒業と同時に家出しちゃったの」

クマ「そうだったんですか……苦労なされたんですね」

女「うん……」

クマ「……」

女「……」

31: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:27:06.381 ID:alRl2NYT0
女「ねえ、しばらくここにいたら?」

女「女の一人暮らしだし、ボディガードが欲しかったのよね」

クマ「クマでよろしければ……」

女「あ、そうだ! どうせならウチの現場で働いてみない?」

女「仕事がきつくてすぐ辞めちゃう人多いし、ちょうど人手が欲しかったのよ」

クマ「熊手でよろしければ……」

女「うっさい!」

32: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:28:59.288 ID:alRl2NYT0
― 現場 ―

女「というわけで、今日から彼をお手伝いさせて下さい!」

クマ「クマです。よろしくお願いします」

監督「よ、よろしく……」

同僚「こりゃすごい新人が入ってきたな……」

34: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:30:37.753 ID:alRl2NYT0
クマ「よいしょ」ヒョイッ

監督「おおっ、あのでかい鉄パイプを十本もいっぺんに……!」

同僚「すげー! こりゃこのクマがいたら、みんなリストラされちゃうかもな!」

クマ「……」

クマ「あ、あの、やっぱり一本に」ゴトッ

女「遠慮しなくていいから!」

36: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:32:49.506 ID:alRl2NYT0
監督「いやぁ、いい働きっぷりだよ、あんた!」

監督「どうだい、正式に入社しねえか!?」

クマ「いいんですか?」

監督「いやいっそ、俺の代わりに現場監督になってくれ!」

クマ「こりゃくまったな」

女「だから、それやめろって!」

38: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:35:59.306 ID:alRl2NYT0
女とクマの楽しい日々は続いた――

監督「今月分の給料だ!」

クマ「ありがとうございます!」

女「初給料で何買うの?」

クマ「貯金します」



子供「わ~い」キャッキャッ

幼女「クマさんだぁ~」キャッキャッ

クマ「わわっ!」

女「ふふっ、近所の子供からもすっかり人気者ね」

42: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:39:24.547 ID:alRl2NYT0
……

― 役所 ―

役人「ようこそ来てくれました」

マタギ「用件は……なんだ?」

役人「実は……近頃この町にクマが出没しているという情報があるのです」

役人「ろくに事件もないこの町で、クマ退治という大仕事を成し遂げれば、私の出世も間違いなし!」

役人「ぜひともあなたの手で、退治していただきたい!」

マタギ「いいだろう……」

マタギ「久しぶりに俺の猟銃が火を吹く時が来たようだ」ジャキッ

43: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:41:03.418 ID:alRl2NYT0
スタスタ…

女「今日も疲れたわねー。監督ってば、私達をこき使いすぎよね」

クマ「ですが、あと少しであのビルも完成……」





――ズドンッ!!!

46: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:43:15.552 ID:alRl2NYT0
シュゥゥゥゥゥ…

女「きゃあっ!?」

クマ「これは……銃弾!?」



マタギ「今のは宣戦布告の一発……」ジャキッ

マタギ「クマよ……。マタギとして、貴様を狩らせてもらう」

役人「フハハハハッ! 町の平和を脅かす侵略グマよ!」

役人「正義の鉄槌を受けるがいい! 我が出世の礎になるがいい!」

48: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:45:07.047 ID:alRl2NYT0
クマ「くっ……!」サッ

マタギ「無駄だ……俺は狙った獲物は絶対外さない」

マタギ「どんなに素早く動こうと、な」

クマ「どうやら……ここまでのようですね。抵抗はしません」

マタギ「なかなか潔いクマだな」

クマ「大暴れして、皆を巻き込む方が嫌ですので」

マタギ「なるほど……ならば一発で楽にしてやろう……」ジャキッ

49: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:46:25.126 ID:alRl2NYT0
女「やめてぇっ!!!」バッ

クマ「あっ!?」





マタギ「――む!?」

51: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:48:20.710 ID:alRl2NYT0
女「お願い、このクマを殺さないで!」

女「このクマはとても優しいし、働き者だし、子供にだって人気なの!」

女「なにより……私の命を救ってくれたの!」

役人「知るかボケェ! 山から下りてきたクマは例外なく射殺される運命なんだよォ!」

クマ「そうです。ボクはいつかこうなることを覚悟してきました」

クマ「危ないから、ボクの前からどいて下さい!」

女「嫌っ!」

マタギ「……」

マタギ「!?」

52: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:50:28.586 ID:alRl2NYT0
マタギ「お前は……まさか娘か?」

女「あっ、あなた……お父さん!?」

マタギ「家出したお前と……こんなところで会えるとはな」

女「お父さんも相変わらず……狩人として働いてたのね。お父さんらしいや」

マタギ「母さんとお前にはすまないことをした……」

女「ううん、もういいよ……。私も働くことの大変さを学んだし……」



クマ(この二人、父子だったのか……!)

55: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:52:29.347 ID:alRl2NYT0
女「だけど一つだけワガママ聞いてくれる?」

マタギ「なんだ?」

女「このクマは悪いクマじゃないの! お願い、見逃してあげて!」

マタギ「……」

役人「おい、何をやっている! 早くクマを殺せ!」

役人「クマを駆除すれば私は出世しまくりだし、クマの毛皮は高く売れる! クマ肉は珍味!」

役人「盾になってるその女ごと、害獣をブチ殺せぇぇぇぇぇ!!!」

マタギ「……了解した」スッ

女「お父さん!」

57: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:55:24.888 ID:alRl2NYT0
マタギ「……」ジャキッ

役人「!? ――な、なぜ私に銃口を!?」

マタギ「あのクマとアンタだと……アンタの方がよっぽど獣に見える」

役人「う、ぐっ……! 一理ある!」

役人「くそぉぉぉぉぉぉっ!!!」シュタタタタタッ

マタギ「それに……娘の恩人を撃つことなどできんさ」

女「お父さん……!」

クマ「ありがとうございます……」

60: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 03:58:05.811 ID:alRl2NYT0
クマ「それにしても、なんて危ないことを!」

クマ「ボクの盾になろうとするなんて、銃弾が発射されてたらどうするんです!」

女「だって私……」

女「あんたのこと、好きになっちゃったんだもの!」

クマ「え……」

女「命をかけて守りたくなるくらい、好きになっちゃったの!」

クマ「そりゃボクだってあなたのこと……しかし、ボクはクマですよ?」

女「クマでもいい!」

63: VIPがお送りします 2018/05/03(木) 04:00:18.144 ID:alRl2NYT0
女「お願い……私とずっと一緒にして! 伴侶として一緒に暮らして!」

クマ「ボクでよろしければ……」

マタギ「フフッ……義理の息子がクマってのも面白いな。お前は立派なマタギにしてやろう!」

クマ「こりゃくまったな」







― END ―

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