ウッマ「違うんや　ワイは『怪物』なんかやない……」

2018年12月13日

1991年　春―――

ウッマ「生まれたで」

マッマ「よしよし」

ウッマ「！！」ﾋﾞｸｯ

マッマ「大丈夫だよ」

ウッマ（なんやマッマかいな……びっくりしたンゴ）

アッニ「遊ぼうやで」

ウッマ「おかのした」

ｷｬｯｷｬ

アッニ「おっと　そろそろ行かな」

ウッマ「どこ行きますのん？」

アッニ「ワイらは競走馬になるためにトレーニングを積むんや　ほな今日でさいならや」

ウッマ「アッニ……寂しいンゴ」ｼｸｼｸ

ウッマ（ワイも競走馬になるんや……）

ウッマ「走るで」ﾋﾞｭｲｰｰﾝ

牧場長「！！」

オーナー「！！」

ウッマ「？」

オーナー（あのバネ　柔らかさ　こりゃぁ並のウッマちゃうで）

オーナー「売ってくれ！！今すぐ」

牧場長「え……えぇ……」

水たまり「ﾋﾟﾁｬｯ」

ウッマ「ひえぇ！！！」ﾋﾋｰﾝ

騎手「うわっ！」ﾄﾞｻｯ

ウッマ（なんや水たまりかいな……びっくりしたンゴ）

ウッマ「すまんな」

騎手「ええんやで」

騎手（それにしても臆病な子だな……大丈夫かな）

1993年　夏―――

ウッマ「デビュー戦……」

他のウッマ　ﾋﾋｰﾝ　ﾌﾞﾙﾙﾙﾙﾙ

ウッマ（みんな強そうンゴねぇ……）ﾋﾞｸﾋﾞｸ

ｶﾞｯｼｬ　ﾊﾟｶﾊﾟｶﾊﾟｶﾊﾟｶ

ウッマの影「よろしくニキーｗｗｗ」

ウッマ「ひえぇ！！」ﾋﾞｸﾋﾞｸｯ

騎手「！？」

ウッマ「負けたンゴ……」ｼｮﾝﾎﾞﾘ

1993年　秋―――

ウッマ「またレースンゴ……」

ウッマ「うああああああ！！！！」

ウッマ「はぁ……はぁ……」

調教師（テンションが安定せんな……難しい子や）

ウッマ「勝ったり負けたりンゴ……なんとかせな……」

調教師「なんやお前　自分の影すらも怖いんか」

ウッマ「ひえぇ……すんません！」

調教師「なんも怒ってへんで　これ着けてみいや」ｸﾞﾙｰ

ウッマ「なんですのん？これ」

調教師「シャドーロールや　これで足元気にならんやろ」

ウッマ「ほんまや」

ウッマ「安定してレース勝てるようになってきたンゴ　ええもん貰ったな」

ウッマ「んっ？なんやこれ」ﾍﾟﾗｯ

　『アッニ　菊花賞を制覇！　有馬記念優勝候補！』

ウッマ（アッニ　めっちゃ活躍しとる……）

ウッマ「ワイも……アッニに追いつくんや……」ﾒﾗﾒﾗ

1993年　朝日杯3歳ステークス―――

ウッマ「行くで」

騎手（おっ　なんか雰囲気変わったな）

ｶﾞｯｼｬ　ﾊﾟｶﾊﾟｶ

ウッマ「」ﾋﾞｭｲｰｰﾝ

騎手（おお！）

ウッマ「はぁ…はぁ……勝ったで　3歳チャンピオンや」

なお、当時の馬齢はちょっとカウント方法が違うので
現在の馬齢換算で2歳です
当該レースは今の朝日フューチリティステークスだと思ってください

1994年　春―――

　『ウッマ　重賞を完勝　アッニ以上の逸材か』ﾊﾞｰﾝ

ウッマ「……」

　『ウッマ　トライアル圧勝　Ｇ1確実！！』ﾄﾞｰﾝ

ウッマ「……」

ウッマ（うう……プレッシャーが……）ｶﾞｸｶﾞｸ

ウッマ（負けるのが怖いで……）

1994年　皐月賞―――

ウッマ（あかん……緊張で吐きそうや……）

騎手「落ち着け　大丈夫だから」

ウッマ「し……深呼吸でも……」ｽｰﾊｰｽｰﾊｰ

ｶﾞｯｼｬ　ﾊﾟｶﾊﾟｶ

ウッマ「勝ったンゴ」

ﾜｰ　ﾜｰ　ﾜｰ　
ﾊﾟｼｬｯ　ﾊﾟｼｬｯ　ﾊﾟｼｬｯ　
ｻﾞﾜｻﾞﾜ　ｻﾞﾜｻﾞﾜ　ｻﾞﾜｻﾞﾜ

　『ウッマ皐月賞制覇　このまま三冠か！？』ｽﾞﾄﾞｫｵﾝ

ウッマ（ひえぇ……）

1994年　日本ダービー―――

ウッマ「」ﾊﾟｶﾊﾟｶ

ウッマ「勝ったンゴ」

　『ウッマ二冠達成　平成の怪物　もはや三冠確実！！』ｽﾞﾄﾞﾄﾞｫｵｵｵﾝ!

ウッマ「ああああああああああ！！！！！！」

1994年　秋―――

ウッマ「最近ワイの成績で世間が盛り上がってるンゴ……」

　『菊花賞後はＪＣか有馬か　アッニとの最強兄弟決戦へ！』
　『七冠馬ルドルフ以来の最強馬　海外挑戦も！！』
　『シャドーロールの怪物　勝つ度に着差を離す異次元進化！！』

ウッマ「はぁ……違うんや……ワイは『怪物』なんかやない……」

ウッマ「これで期待を裏切ったりしたら　ワイどないなってまうんやろ」

ウッマ「はぁ……怖いンゴ……」

ウッマ「胃が……」ｷﾘｷﾘｷﾘｷﾘ

ウッマ「トライアルレースに出るンゴ」ﾊﾟｶﾊﾟｶ

ウッマ「うっ……なんか調子が……」

スター「へっへっへ……」ｽﾙｽﾙｯ

ウッマ「！！」

ウッマ「負けた……負けてしまったンゴ……」ｽﾞｩｩｩｩﾝ

厩務員「ウッマ　お前なんちゅう顔してんねん」

ウッマ「厩務員さん……」

厩務員「ええやないか　負けたって」

ウッマ「！！」

厩務員「ワイらはな　お前がケガせず無事に走ってきてくれればそれだけでええんや」

ウッマ「……ええんですか……？」

厩務員「ええんやで　外の雑音なんか気にするな　次も無事に帰ってこい」

ウッマ「うっ……すまんやで……」ﾎﾞﾛﾎﾞﾛ

　『アッニ屈腱炎発症　現役続行は絶望　引退へ』

ウッマ「！！」

ウッマ（アッニ……）

ウッマ（アッニはもう走れないんか……）

ウッマ（アッニは重傷負うぐらい全力出して頑張ったんやな……）

ウッマ（それに比べてワイは……）

ウッマ（……）

1994年　菊花賞―――

ウッマ（見ててくれアッニ）

ウッマ「行くで！」ﾊﾟｶﾊﾟｶ

ウッマ「うおおおおおお！！！」ﾋﾞｭｲｰﾝ

騎手（凄い手応えだ……！）

ウッマ「か……勝った！　三冠達成や！！」

騎手「やった！　おめでとう！！」

ウッマ「ありがとうやで！……よかった……本当によかった……うう……」ｳﾙｳﾙ

1994年　有馬記念―――

ウッマ「ファン投票1位……確かにプレッシャーはあるンゴ」

ウッマ「でももう迷わない！ワイは勝つンゴ！！」

騎手（逞しくなったなぁ……）

ウッマ「行くで！！」ﾋﾞｭｲｰﾝ

ウッマ「勝ったンゴ！！」

1995年　春―――

ウッマ（去年は年度代表馬にもなって充実の1年だったンゴ）

ウッマ（今年も緒戦を勝利　大きいレースにむけてトレーニングするンゴ！）ﾊﾟｶﾊﾟｶ

ｽﾞｷｽﾞｷ

ウッマ「んっ？……腰が痛いンゴ……」

調教師「疲れたまっとるんかなぁ……休ませるべきか……」

調教師「まぁ……行けるか」

ウッマ「！？」ｸﾞｷｯ

調教師「あかん！故障や」

ウッマ「」

1995年　秋―――

ウッマ「怪我も治ったし出直しや　頑張るで」

天皇賞・秋―――

ウッマ「あかん！惨敗や」

　『ウッマ馬群に沈む　巻き返しなるか』

ウッマ「」

　
ジャパンカップ―――

ウッマ「あかん……ここでも負けや」

　『ウッマ連敗　もう限界か』

ウッマ「」（白目）

1995年　有馬記念―――

ウッマ「……三連敗……あかん……あかんで……」ﾄﾎﾞﾄﾎﾞ

ウッマ「……ワイもう勝てんのやろか……皆が期待してくれているのに……」ｼｮﾝﾎﾞﾘ

トップ「よう『怪物』さんよぉ」

ウッマ「！？」

トップ「調子悪そうだな　でもアンタの実力はそんなもんじゃないだろう」

ウッマ「……」

トップ「俺は勝ち逃げは性に合わねえんだ　また会おうぜ」ｽﾀｽﾀ

ウッマ「……」

ウッマ「……悔しいンゴ……！うう……」ﾎﾞﾛﾎﾞﾛ

ウッマ（ワイは正直もう……全盛期は過ぎて衰えてしまったのかもしらん）

ウッマ（世間では『もう終わった』とか言われとるのも知っとる）

ウッマ（でも……それでも……）

ウッマ（それでも応援してくれる関係者　競馬ファン……　皆が支えてくれとるんや……）

ウッマ（ワイはもう評判は怖れない！何とかその気持ちに報いるんや……！）

ウッマ「……勝つ！！」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ

厩務員（……強くなったなぁ）ﾎﾛﾘ

1996年　春―――

トップ「ようまた会ったな　今日はよろしく頼むぜ」

ウッマ「……」ﾒﾗﾒﾗ

トップ「おっ今日は気合入ってるじゃねぇか　楽しみだぜ」

ウッマ「……負けないンゴ」

トップ「よっしゃ　勝負だぜぇ！！」

ｶﾞｯｼｬ　ﾊﾟｶﾊﾟｶ

ウッマ「行くで！！」ﾋﾞｭｲｰﾝ

トップ「流石だな　だがしかし！！」ｷﾞｭｲｰﾝ

ウッマ（……強いンゴ！）ﾋﾞｭｲｰﾝ

トップ（くっそ……半端じゃねえな……）ｷﾞｭｲｰﾝ

ウッマ「はぁ……はぁ……」

トップ「はぁ……はぁ……」

ウッマ・トップ「「勝負！！！」」

☆　　☆　　☆

トップ「くそ……負けたか…」

ウッマ「はぁ……はぁ……」

トップ「流石『怪物』の名は伊達じゃねえな　やっぱ超一流は違うわ」

ウッマ「……」

トップ「アンタは終わってなんかいない　今度は負けねぇからな！」

ウッマ「……ああ！」

　彼の晩年を悲運と見る向きも、確かにあるだろう。
　しかしその若駒の栄光は歴史に輝かしい蹄跡を残し
　今もなお、競馬の殿堂に燦然と輝いているのだ。

　しなやかに躍動するその美しい走りと、
　黒い馬体に鮮やかに映える白いシャドーロールを
　私たちは決して忘れないだろう。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい

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