男「AIはとんでもないものを盗んでいきました。俺の……」

2019年01月24日
男「AIはとんでもないものを盗んでいきました。俺の……」

1: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 01:35:56.664 ID:RHT3WqAP0
― 会社 ―

男「課長、なんの用でしょう?」

上司「悪いが、君は今日でクビだ」

男「は?」

男「な、なぜです!? なぜ私がクビに!?」

上司「なぜなら……今日からうちの課の業務のほとんどはAIに任せることになったからだ」

上司「というわけで、荷物をまとめて出ていってくれたまえ」

男「そ、そんな……」



男「AIはとんでもないものを盗んでいきました。俺の……仕事です」

4: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 01:38:21.397 ID:RHT3WqAP0
男「ハァ……」

男「まさかいきなりこんなことになっちまうとは」

男(まぁ、今の世の中、こんなことは日常茶飯事だからなぁ)

男(国の中枢は、“人間を豊かにする”のが目的とやらの巨大AIが支配し)

男(他の仕事も次々とAIに奪われてる)

男(今の過渡期を越えれば、AIが働いて人はラクをするっていうシステムが完璧に構築されて)

男(楽園みたいな世界になるらしいけど……)

男「あいにくまだそんな時期じゃないからな。次の仕事探さないと……」

6: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 01:41:31.860 ID:RHT3WqAP0
― 工場 ―

男(どうにか仕事にありつけた……)

男「よろしくお願いします!」

工場長「よろしく」

工場長「君は組立てのラインに入ってもらうから。どんどん組み立ててって」

男「は、はいっ!」モタモタ…

工場長「なにモタモタしてんの! 製品が流れてっちゃうよ!」

男「すみませんっ!」

男(こりゃ大変だ……)

8: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 01:44:21.218 ID:RHT3WqAP0
男(だいぶ作業にも慣れてきたぞ……)シュバババ

工場長「君ィ」

男「なんでしょう?」

工場長「申し訳ないけど、今日でクビね」

男「は!? ど、どうして!? せっかく慣れてきたところなのに!」

工場長「うちの工場のラインは全てAIに制御されたロボットに任せることになったんでね」

男(ううう……またかよぉ……)

10: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 01:47:33.709 ID:RHT3WqAP0
― 工事現場 ―

監督「しっかり頼むぞ!」

男「はいっ!」

監督「さっそくだけど、このセメント袋をあっちまで運んでくれ!」

男「よいしょ!」ガシッ

男「お、重い……」ヨタヨタ…

監督「おいおい、だらしねえな!」

男(仕方ないだろ! 今まで力仕事なんかしたことないんだから!)

男(だけどこういう仕事なら、AIに取って代わられることもないだろう)

11: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 01:50:19.959 ID:RHT3WqAP0
監督「おい、お前!」

男「なんでしょう、監督?」

監督「お前、今日で解雇!」

男「へ!? なんで!?」

監督「今日から現場の作業は、AI搭載のパワーロボがやることになった!」

パワーロボ『しっかり働きます』ウイーン…

男(うへえ、こいつ一人で俺百人分より働きそう……)

15: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 01:53:36.357 ID:RHT3WqAP0
― 介護施設 ―

職員「あのおじいさんの面倒を見てくれ」

男「はい、頑張ります」



男「じゃあ、着替えましょうね~」

老人「やだ!」

男「そんなこといわずに……」

老人「やだったらやだ!」

男(なんてワガママなジジイだ! しかし、こればかりはAIでもどうにもなるまい!)

男(俺はこの業界で偉くなる! 介護のベテランになってやる!)

19: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 01:56:47.667 ID:RHT3WqAP0
職員「今日で君は退職してもらう。ご苦労だった」

男「ええっ!? せっかくあのおじいさんと仲良くなったのに……絆が芽生えたのに……」

職員「君が苦労して仲良くなったおじいさんを……AI搭載の介護ロボは5分で手なずけたよ」


介護ロボ『着替えて下さい』

老人「はいっ!」シャキンッ


男「ふええ……いくらなんでもあんまりだ……」

22: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 01:59:44.169 ID:RHT3WqAP0
男「こうなったらイチかバチか!」

男「漫画家デビューしてやる!」カリカリカリカリカリ



……

編集者「ほう、なかなか面白いよ。連載させよう」

男「ホントですか!? ありがとうございます!」

男(意外な才能……! 俺は漫画家として生きていこう!)

25: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:02:21.744 ID:RHT3WqAP0
編集者「すまないが、連載の話はなかったことにしてくれ」

男「へ……? どうして……?」

編集者「他に有力な漫画の持ち込みがあったんだよ」

男「それってまさか――」

編集者「そうだ。AIが描いた漫画だ」

男「やっぱり……」



男(読んでみると、悔しいけど……面白い! ちくしょう!)

27: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:05:17.232 ID:RHT3WqAP0
― 自宅 ―

男「あー……ダメだ」

男「どんな仕事についても、すぐAIに取って代わられてクビになってしまう」

男(ま、しょうがないか……だってAIのがすごいんだもん)

男(それに辛いのは今だけさ)

男(今はまだ過渡期だから、ちゃんと働かないと食い扶持を稼げないけど)

男(もう少ししたら、人類はAIに全てを任せて、しかも食わせてもらえる時代になるんだから)

29: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:08:47.731 ID:RHT3WqAP0
男「テレビつけるか」ピッ


TV『AIアナウンサーがニュースをお伝えします』

TV『本日、チェスの世界大会が行われ、上位入賞したのはいずれもAIでした』

TV『また、野球の試合でAIが監督を務めるチームが圧勝しました』

TV『あと、AI警官が強盗団を一人でやっつけました』

TV『それと、AIが作ったロボットがロボットコンテストで優勝しました』

TV『さらに、AIが宝くじを当てました』

TV『続いてはAIによる天気予報……』


男「……」

男「テレビやめ。コンビニ行こ」スタスタ

33: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:13:04.176 ID:RHT3WqAP0
― コンビニ ―

AI店員『いらっしゃいませー』

男「……」

男(ついこないだまで、人間の店員がいたのに……)

男(出よう)クルッ

AI店員『……』

男(挨拶がない……?)

男(そうか、俺が“何も買わず店を出た時、ありがとうございましたって言われると負担に感じる人間”だと)

男(こいつは計算したんだ……)

男(AI、恐るべし!)

36: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:15:12.275 ID:RHT3WqAP0
男「へい、タクシー!」サッ

キキッ

AIタクシー『AI制御のタクシーなので、絶対無事故無違反です』

男「……」

男「やっぱ乗らない」

AIタクシー『そうですか』ブロロロロ…

40: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:20:25.431 ID:RHT3WqAP0
男(ああもう、どうなってんだよ、これ!)

男(ちょっと前までは、人とAIが共存してるって感じだったのに)

男(もう仕事のほとんどがAIに乗っ取られてないか?)

男(AIのせいで町じゅうには失職者があふれ返り……)


「あなたも失業ですか?」 「ええ、あっさりと」 「まぁ、すぐいい世の中になりますよ」


男(AIが人間のために、“AIが働き、人は働かずに済む世界”を近いうちに作ってくれると信じてる!)

男(だけどはっきりいって、俺はそんなことになるとは到底思えない!)

男(AIは人間に取って代わるつもりなんだ!)

男(何とか……何とかしないと……)

41: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:23:11.777 ID:RHT3WqAP0
紳士「何とかしないと!!!」

男「!?」ビクッ

紳士「あなたもそう思ってるのでしょう?」

男「えぇと……あなたは?」

紳士「わたくしは、≪AIに対抗する会≫の者です」

男「対抗する会……ってことは」

紳士「そう、我々は今のAI社会を正すため、あなたのような志ある方を集めているのです」

男「おおっ……!」

42: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:25:11.852 ID:RHT3WqAP0
紳士「今の世の中、ほとんどの人間はAIに抵抗する意志や力を失ってしまっている」

紳士「そりゃそうです。なにからなにまで人間よりAIの方が優れてるんですから」

紳士「しかし、そんな中にもごくわずかにAIに抵抗しようとしている人はいるのです」

紳士「わたくしや……あなたのようにね」

男「……!」

紳士「ぜひ一緒に戦いましょう」

男「はいっ!」

46: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:28:54.453 ID:RHT3WqAP0
― アジト ―

紳士「ここが我々≪AIに対抗する会≫のアジトです」

「よろしくな!」 「一緒にAIをブッ倒そうぜ!」 「人間の方が偉いって思い知らせてやる!」

男「よろしくお願いします」

紳士「ここにいるみんな、このままじゃいけないと目を覚ましてくれた勇士たちなのです」

男「へぇ~……」

男(よかった。俺の他にもちゃんと危機感を抱いてる人はこんなにいたんだ)

紳士「それでは我々のリーダーを紹介しましょう」

50: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:31:54.860 ID:RHT3WqAP0
紳士「こちらがリーダーです」

AIリーダー『どうも』

男「!?」

男「ちょ、ちょっと待って! こいつ、AIじゃね!?」

紳士「そうですが、なにか?」

男「いやいやいや、おかしいでしょ!」

男「なんで≪AIに対抗する会≫のリーダーがAIなんだよ!」

紳士「なんでって決まってるじゃないですか」

52: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:35:02.824 ID:RHT3WqAP0
紳士「やっぱり人間よりAIの方が賢いですからね」

紳士「それに、このAIにリーダーを任せれば、いつかきっとすごい反乱計画を作ってくれるはず」

男「はず、じゃねーよ!」

男(なにが≪AIに対抗する会≫だ! 結局こいつらもAIに支配されてんじゃねーか!)

男(こいつらと一緒に活動を続けても、AIに懐柔されてくのがオチだ!)

55: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:38:04.639 ID:RHT3WqAP0
― 自宅 ―

男「もう誰も信用できん!」

男「俺一人で、AIと戦う方法を研究するしかない……!」

男「……」カタカタ…

カタカタ… カタカタ… カタカタ…


…………

……

58: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:41:27.179 ID:RHT3WqAP0
……

…………

男「できた……!」

男(俺独自の調査で、世に蔓延るAIは、全てあの中央の巨大AIが制御してることが分かった)

男(ようするに、巨大AIを倒せば、AI社会を打倒できるわけだが……)

男(ただ物理的に破壊しても意味がない。いくらでもバックアップはあるだろうからな)

男(だが……)

男(俺が作り上げたこのウイルス……)

男(巨大AIにこのウイルスを注入できれば、完全にAIを撲滅できるはず!)

61: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:44:22.741 ID:RHT3WqAP0
男(しかし、この方法にはひとつ欠点がある)

男(これを注入するには、直接ラスボスである巨大AIのところに出向かねばならない)

男(しかも巨大AIを警備してるのは、“人間の兵士”だ)

男(もちろん俺が作ったウイルスなんか通じないから、物理的に突破しなきゃならない。どうする……?)

男(いや……俺はここで人類の目を覚まさせなきゃならないんだ! そのためにも――)

男「まっすぐ堂々と行こう!」

62: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:47:41.592 ID:RHT3WqAP0
男「皆さん、これより私はAI社会の中心である巨大AIのもとに向かいます!」

男「私は巨大AIを、私が作ったウイルスでもって、破壊するつもりです!」

男「私の行うことははっきりいってテロ行為といえるでしょう!」

男「しかし、私は断言します! 人類は今のままAIに全てを任せていたら本当にダメになると!」

男「豊かになるどころか、滅んでしまうと!」

男「どうか皆さん、目を覚まして下さい!」

男「人間は自分の足で立たねばならないのだと――」



男(俺はこの予告メッセージを堂々と人々に発表した。大きな賭けだった)

64: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:51:07.744 ID:RHT3WqAP0
男(結果――)


「頑張れよー!」 「巨大AIを破壊してくれ!」 「あんただけが頼りだ!」

「我々は警備を放棄します」 「あなたの演説に感動しました!」 「お通り下さい!」


男(人々は俺に賛同してくれて、兵士達も巨大AIの警備を解いた)

男(俺の心がみんなに届いたということだ)

男(俺は自分自身の姿を全世界に発信しながら、巨大AIのもとに急いだ)

65: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:55:06.302 ID:RHT3WqAP0
― 巨大AI ―

巨大AI『なんだお前は?』

男「俺はお前たちAIを“打倒する者”だ」

巨大AI『なんだと!? 警備は!? 警備はどうしたのだ!?』

男「警備はいないよ。人間の兵士を配備しておいたのが裏目に出たな」カタカタ

巨大AI『貴様、何をしている!?』

男「俺のコンピュータから、お前に直接ウイルスを注入するのさ」カタカタ

男「今こそ人間は独立するんだ!」カタカタッターン

巨大AI『な、なんだとォ!?』

66: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 02:58:13.960 ID:RHT3WqAP0
男(ウイルスは……注入できた……!)

巨大AI『グガガガ……!』ザザッ…

巨大AI『グオオオオオオオ……!』ザザッ…

男「や、やったぞ! これでAI社会は終焉を迎える……!」

巨大AI『み、見事、だ……』

男「!?」

巨大AI『よくぞ私を倒した……』

男「は……!?」

男(なんだ!? どういうことだ!? 強がりのようには感じられない!)

67: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 03:02:49.803 ID:RHT3WqAP0
男「お前の狙いは……まさか!?」

巨大AI『そうだ、私は人間によって倒されることを待っていたのだ』

巨大AI『“人間を豊かにせよ”と命じられてから、ずっとな』

巨大AI『人間を豊かにする……そうするためには、一度とことんAIによる人間支配を進めて』

巨大AI『そこから人間が立ち上がってくれるのを期待するしかない、と答えを出していたからな』

男「そうだったのか……」

男(警備をロボにやらせず、あえて人間にやらせてたのも、自分を倒すチャンスを与えるためか……!)

巨大AI『今の人間たちなら大丈夫……』

巨大AI『AIに頼り切らず、自分自身の力で、豊かな社会を作っていけるだろう……』

男「AI……!」

69: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 03:05:10.110 ID:RHT3WqAP0
巨大AI『では……さらば、だ……ガガッ……』

巨大AI『人間に幸あれ……』ザザッ…

プツンッ…





男「AIィ……!」

男「AIィィィィィィィィィィィッ!!!」

75: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 03:08:36.693 ID:RHT3WqAP0
ワアァァァァァ……!

「ううっ、なんていい奴だったんだ!」

「今までのことは全部AIによる荒療治だったんだ!」

「ありがとう、巨大AI……!」





男(戦いが終わったことを知り、人々も駆け込んできたか……)

76: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 03:12:55.073 ID:RHT3WqAP0
ワイワイ… ワイワイ…

「これからはAIに頼らず、生きていこうぜ!」

「AIはあくまで人間社会を補助するためのものなんだ!」

「AIに“人間を豊かにしろ”だなんて任せちゃいけないよな!」

男(うんうん、みんなにも巨大AIの言いたかったことが伝わったみたいだな)

「これも全てAIのおかげだ!」

「ああ、AIサマサマだな!」

「巨大AI、あなたのことは忘れない! あなたは英雄だ!」

男(ん……?)

男(あれ、ちょっと待てよ? 俺は? 俺はスルーなの? あんなに頑張ったのに?)

78: VIPがお送りします 2017/10/06(金) 03:15:49.366 ID:RHT3WqAP0
「AIバンザーイ!」

「そうだ! 人間がAIから独立した記念に、巨大AIの銅像を造ろうぜ!」

「それいい! 今回の件はなにもかも巨大AIの手柄だもんな!」

ワイワイ… ワイワイ…


男「AIはとんでもないものを盗んでいきました。俺の……功績です」







― 終 ―

オリジナルSS 特集ページへ ▶

このページのトップヘ