【前編】女騎士「女魔法使いが結婚、ですか」

2018年12月25日
【前編】女騎士「女魔法使いが結婚、ですか」

1: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:18:04.101 ID:0xT6o7hd0
女騎士「相手は戦士ですね」

女騎士「勇者さまは故郷の幼馴染と結婚されたし」

女騎士「僧侶は武闘家と結婚」

女騎士「わたしはお城の騎士団に戻っただけ」

女騎士「かつて魔王を倒し世界を救ったパーティももはやわたし一人を残し皆所帯持ちですか」

女騎士「……」


女騎士「はぁ」

2: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:19:42.443 ID:0xT6o7hd0
女騎士「盗賊団の討伐ですか」

騎士隊長「うむ。王都から少し外れたところにある村でな。警備隊もいるのだが、どうも彼らの手には余るらしい」

女騎士「はぁ」

騎士隊長「我らも魔王軍を撃退したばかりで浮き足立った城下を警備しなければならず、あまり兵を派遣できんのだ」

騎士隊長「そこで、かつて魔王を倒したパーティの一員である君なら単独でもこの任務をこなせると判断した」

女騎士「それはよいのですが」

女騎士「戦士や魔法使いたちも連れて行ってもよいですか? 彼らは騎士団ではありませんし警備の仕事もないでしょう」

騎士隊長「彼らは新婚旅行だ」

女騎士「あ、はい」

3: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:22:03.692 ID:0xT6o7hd0
パカラッパカラッヒヒーン

女騎士「結局ひとりで討伐に行くことになりました」

女騎士「はぁ」

女騎士「ひとりは寂しいですね。あの頃が懐かしいです」

女騎士「戦士がふざけて魔法使いをからかって」

女騎士「僧侶が慌てて宥めようとして、武闘家は我関せず。勇者さまは困った顔でそれを見てる」

女騎士「ふふっ」



女騎士「……最近ひとりごとや思い出し笑いが増えてきました」

4: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:24:10.577 ID:0xT6o7hd0
女騎士「ここが件の村ですか」

警備隊「あっ、もしかしてあなたが女騎士さんですか」

女騎士「はい。警備隊の方ですね。責任者の方にお会いしたいのですが」

警備隊「こちらへどうぞ」


警備長「ようこそおいでくださいました。私がここの責任者です」

女騎士「女騎士です」

8: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:26:10.052 ID:0xT6o7hd0
警備長「この度は我々の力至らず、こうして援軍に来ていただくことになり申し訳ありません」

女騎士「いえ。わたしもこの辺りの事情はわかっているつもりですから」

領主「おぉ、あなたがかの有名な女騎士どのか」

女騎士「わっ」

領主「私がここら一帯の領主ですぞ。お一人での長旅、お疲れでしょう。討伐は明日にして今日は私ども総出でおもてなししましょう」ギュッ

女騎士「そ、そんなにかしこまらないでください。それと手を……」

領主「おっとこれは失礼」

10: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:28:26.132 ID:0xT6o7hd0
ワイワイガヤガヤ

オッ、アレガウワサノオンナキシサマカ

ヘーアレガ

エレェベッピンサンダナァ



女騎士「な、なんだかすごく視線を感じるのですが」

警備長「女騎士さまはあの魔王を倒したパーティの一員なのですから当然です」

女騎士「はぁ、そういうものですか」

11: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:30:05.059 ID:0xT6o7hd0
領主「それにしてもよく来てくださりましたな、わはは」

女騎士「お仕事ですから。それに、賊に脅かされる方々を見捨てることなんてできません」

領主「それは素晴らしい! あぁどうです、女騎士どの。件の賊を討伐した後も、ここに残っていただくというのは」

女騎士「え」

13: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:31:22.213 ID:0xT6o7hd0
領主「もちろん相応の報酬も出しましょう。なに、私も王都の方には顔が効く。上の方はどうとでもなるでしょう

女騎士「い、いえ……あの」

領主「貴女のような方がいればこの辺も安心なのですがなぁ」

女騎士「お、お気持ちはありがたいのですが私も王都には家族も居ますし、急にそのようなお話をされても…」

領主「……冗談ですよ、わはは」

女騎士「あはは…」

14: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:34:35.886 ID:0xT6o7hd0
領主「それよりどうです、この領主自慢の一品です」

女騎士「う。ワインですか。お酒はあまり得意ではないのですが」

領主「そんなこと仰らずに、一杯だけでも。ささ、どうぞどうぞ」トクトク

女騎士「うぅ。一杯だけなら」

女騎士(仕方ありませんね…これもおつき合いです)

16: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:36:35.132 ID:0xT6o7hd0
女騎士「明日は盗賊の件もありますし。少しだけいただきます」

コクコク…

領主「お味はどうです、美味いでしょう」

女騎士「…………」

領主「……騎士どの?」

女騎士「……きゅー」ばたん

村人「た、大変だ! 女騎士さまが顔を真っ赤にして倒れたぞ!」

領主「……ふむ。私が付き添おう。屋敷の来客部屋にお連れしなさい。丁重にな」

村人「は、はいっ」

17: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:38:19.106 ID:0xT6o7hd0
村人「よいしょ」

女騎士「……うぅん」ふにふに

村人「…………おぉ…」

18: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:40:51.694 ID:0xT6o7hd0
領主「うむ。ここまでで良い。下がって良いぞ」

村人「はっ、失礼します」

領主「さて……」


領主「女騎士どの、大丈夫ですかな」

女騎士「…………」

領主「女騎士どの」ユサユサ

女騎士「うぅん」

領主「…………」



領主「…………」

21: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:43:50.776 ID:0xT6o7hd0
女騎士「うぅん……」


女騎士(頭がぼうっとします…)


女騎士(ここはどこでしたっけ)


女騎士(あぁ、盗賊を退治に城を出て…)


女騎士(村でお酒を…)


女騎士(……あれ?)


女騎士(わたし、服を……?)




女騎士「りょ、領主さま!?」

領主「……」

23: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:46:59.867 ID:0xT6o7hd0
領主「おや、気がつかれましたか」

女騎士「な、何をしてるんですかっ」

領主「ふふふ、何をと申されるか」

領主「私はただ、酔って倒れてしまった女騎士どのを介抱しているだけですよ」

女騎士「こ、こんなっ、服までっ」

領主「汗をかいておられたので」

女騎士「いや、でもっ」

領主「女騎士どのはお疲れのようで。そのまま眠っていると良いでしょう。ぐふふ」

24: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:50:35.146 ID:0xT6o7hd0
女騎士「や、やめてくださいっ、こんなの介抱じゃないです……」

女騎士(うぅ、お酒のせいで力が出ません…)

領主「えぇい、まどろっこしい、大人しくせんかっ!」

女騎士「いやぁぁぁー!」


パチーン!


領主「」


女騎士「…………あれ?」←Level 97

27: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:54:33.233 ID:0xT6o7hd0
女騎士「ということがあったんです」

女魔法使い「うわ……なにそれ、最悪ねその領主」

女騎士「あんなこと、わたし初めてで……」

女魔法「それで? その後はどうなったのよ」

女騎士「えぇと、慌てて服を着て、そのまま領主さまに黙って屋敷を出て、宿に。朝になって盗賊団の討伐に向かいました」

女魔法「結果は……まぁ聞くまでもないわね」

女騎士「あはは…」

28: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:58:52.261 ID:0xT6o7hd0
騎士A「女騎士、城からの呼び出しだ」

女騎士「あれ、なんでしょう。今日は非番なのですが」

女魔法「城からの呼び出しなら仕方ないわね。じゃあわたし、もう行くね」

女騎士「あっ、はい。戦士さんの田舎に引っ越すんでしたっけ」

女魔法「うん、式もそこで上げるから。必ず呼ぶわね」


騎士A「おい、そろそろ行くぞ」

女騎士「わかりました」

女魔法「それじゃ元気でね」

女騎士「お達者で」

29: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:00:05.111 ID:0xT6o7hd0
~王城~


女騎士「え、クビですか」


騎士隊長「うむ」

31: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:01:32.600 ID:0xT6o7hd0
女騎士「………………………………」


女騎士「………………………………」


女騎士「………………………………」


騎士隊長「……女騎士、女騎士! 聞いているのか」

女騎士「あっはい」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)

32: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:04:03.531 ID:0xT6o7hd0
騎士隊長「はぁ、その様子じゃなにも頭に入ってなかったようだな」

女騎士「うぅ……すいません……」

騎士隊長「きみはその、あー、なんだ。先日盗賊を討伐しに行ったな」

女騎士「はい」

騎士隊長「そこでその、あー、なんというか。領主どのに粗相をしたそうじゃないか」

女騎士「う。」

34: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:09:19.794 ID:0xT6o7hd0
女騎士「で、でもっ。あれはっ」

騎士隊長「うむ。みなまで言わなくても良い。あの領主の噂は私も知っている。なにがあったかは、あー、想像はつく。うん、君は悪くないだろう」

女騎士「…………」

騎士隊長「それでもだな、あの領主とつながりのある高官は城にもいる。あの手の輩は厄介でな。君を死刑にするなんて話も上がっていたんだよ」

女騎士「…………」

騎士隊長「それだけは私たちの力で何とか食い止めたが、それでもどうにもならんことはあってなあ」

女騎士「…………」

騎士隊長「私だって君のような優秀な部下を失うのはつらい。だが、わかってくれ」

女騎士「うぅ……隊長さん……」

36: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:13:24.299 ID:0xT6o7hd0
女騎士「騎士をクビになりました」

女騎士「わたし、もう騎士じゃないのですが女騎士表記のままで良いのでしょうか……」

女騎士「ふふ……どうでもいいですね……」

38: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:15:47.537 ID:0xT6o7hd0
女騎士「とにかく、死罪をまぬがれたと言ってもこのまま王都に残るのはまずいとのことです」

女騎士「騎士隊長さんから気持ち上乗せしてもらった退職金もいただきました」

女騎士「引っ越し費用ですかね」

女騎士「騎士隊長さんには感謝しなければですね…」

女騎士「はぁ…」

41: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:20:48.973 ID:0xT6o7hd0
女騎士「行くあてなんてないのです。王国の外でも目指しましょうか…」

女騎士「あ、馬をください」

商人「あいよ」

女騎士「ふふふ、今日からあなたがわたしの家族です」

馬「ヒヒーン?」

女騎士「名前は何にしましょう……よくいる普通の栗毛の馬……そうだ、>>45なんてどうでしょうか」

43: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:21:51.955 ID:Zj68re4X0
突然の安価st

44: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:22:12.197 ID:dig7l7MtK
うんち

928: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 10:14:14.984 ID:0eB7R4CH0
>>927
少なくとも、真面目に考えたSSなら馬の名前で安価なんて出さないし
俺なら馬刺しって名付けられた時点で投げると思う
少なくとも馬刺しの真上の>>44うんちにはならなくてよかったなあと思ってる

934: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 10:35:45.365 ID:0eB7R4CH0
誤解を招かないように>>928を捕捉すると
俺は今は馬刺しって名前で良かったんじゃないかなあと思ってるし安価決まった時もとくに何とも思わなかったです
>>928はあくまで真面目に設定練ってた場合の仮の話で

45: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:22:15.627 ID:kX6ohXce0
馬刺し

48: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:24:43.606 ID:0xT6o7hd0
女騎士「馬刺し……うん、決めました! 今日からあなたは馬刺しです!」

馬刺し「ヒヒーン」

女騎士「よろしくお願いしますね、馬刺し! ともに旅に出ましょう!」

馬刺し「ヒヒーン!」

50: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:29:18.654 ID:0xT6o7hd0
女騎士「行き先はどうしましょうか」

女騎士「馬刺し、おまえはどこに行きたいですか?」

馬刺し「ヒヒーン」

女騎士「東ですか。確かこちらには勇者さまと冒険をしている時に立ち寄った村がありましたね」

女騎士「先ずは東の村を目指しましょう」

馬刺し「ヒヒーン!」

51: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:34:51.886 ID:0xT6o7hd0
パカラッパカラッヒヒーン

女騎士「魔王が討伐されて、この辺りも平和になりましたね。まだ魔物もそれなりにはいると思うのですが」

女騎士「……うぅん、そろそろ日が暮れてきましたね。今日はこの辺りで野宿にしましょう」

ゴソゴソ

女騎士「うん、われながら立派な野営です。勇者さまたちと旅をしてきた経験が活きましたね」

女騎士「彼らは元気でしょうか」

女騎士「……元気でしょうね。だってみんな一人じゃないですもん」

女騎士「ぐすっ」


馬刺し「ヒヒーン」


女騎士「馬刺し? ふふっ、ありがとうございます。そういえばわたしにはお前がいましたね」

女騎士「少し早いですがそろそろ寝ましょうか。おやすみなさい…」

54: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:40:25.331 ID:0xT6o7hd0
女騎士「東の村に着きました」

女騎士「まだ昼間ですが、まずは宿を探しましょうか」

村人「おや、あなたは女騎士さまではありませんか?」

女騎士「は、はい」

村人「あぁやっぱりそうだ! おーい、女騎士さまが来てくれたぞー!」

ザワザワ
ザワザワ


女騎士「え? え?」

56: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:44:45.076 ID:0xT6o7hd0
女騎士「あの、わたしのことを知っているのですか?」

村人「知っているも何も、あの勇者さまのパーティメンバーでしょう。知らない人なんていないですよ」

村人「王都に応援を出して数日、まさかあの女騎士さまに来ていただけるだなんて」

女騎士「王都に……応援……?」

村人「はい、あの魔王軍の残党が現れたのです……と、もしかして女騎士さま。このお話を知らない……?」

女騎士「う。」ギクッ

村人「じゃあ、ここに立ち寄ったのも、ただの偶然……?」

村人「そんな……」

村人「じゃあいったいどうすれば……」

ザワザワ
ザワザワ

女騎士「うぅ……」

女騎士「あ、あのっ! わたしで良ければお話だけでも聞かせてくださいっ」

59: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:01:23.205 ID:0xT6o7hd0
女騎士「夜が来るごとに人が死ぬ、ですか」

村人「はい。いま村では夜眠るまで元気だったのに朝になるとまるで魂を抜かれたように死んでいる、という事件が多発していまして」

村人「次は自分か、自分の家族の番なのか。皆心配で気が気じゃないのです」

女騎士「それはおそらく呪術師のしわざでしょう。文字通り、魂を抜かれているのでしょう。…あの、その人たちは今どこに」

村人「皆、教会に集められています」

女騎士「埋めたり、死体に傷はついていないんですね。よかった。まだ何とかなります」

60: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:04:18.241 ID:0xT6o7hd0
~夜~

警備兵「女騎士さま、おやすみにならないのですか」

女騎士「お気遣いありがとうございます。ですが今眠るわけにはいかないのです」

警備兵「それは……?」

女騎士「……! あそこです!」

警備兵「あ、あそこは私の家です!」

女騎士「あなたは家族のもとへ向かってください! わたしはこのまま魔力をたどって術者を追います!」

警備兵「わかりました…申し訳ありません…お気をつけて!」

61: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:12:34.339 ID:0xT6o7hd0
呪術師「ひぃ、ふぅ、みぃ……足りない……まだ足りない……」

女騎士「何が足りないのですか?」

呪術師「!! お前は女騎士……!」

女騎士「お久しぶりです。あなたと会うのは魔王城以来でしょうか」

呪術師「勇者はいないのか…」

女騎士「えぇ。わたし一人です」

呪術師「勇者に復讐してやりたい気はあるが……残念ながら時期尚早だ……いまはお前一人であったことを喜ぼう」

62: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:14:01.022 ID:0xT6o7hd0
呪術師「それにしてもまた邪魔をするのか…また…なぜいつも邪魔をするのだ」

女騎士「わたしはあなたの邪魔をするのではありません。ただ、民を守るだけのこと」

呪術師「…………くっ」

女騎士「……先ほどからまじないを掛けているようですが無駄なことです。この聖なる剣の前に、呪いなど効きません」

63: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:15:44.556 ID:0xT6o7hd0
女騎士「…………」チラッ

女騎士「……その壺ですね」

呪術師「!! やめろっ…!」


パリーン


女騎士「これで魂は村人のもとへ還るでしょう」

呪術師「あぁ……抜けていく……魂が……」

呪術師「足りない……まだ足りないというのに……また集めなおさなければ……あぁ、魔王様……」

女騎士「!」


女騎士「待ちなさい!」

女騎士「くっ、転移ですか」

66: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:19:06.536 ID:0xT6o7hd0
村人「ありがとうございます、ありがとうございます」

村人「死んだと思われていた村人も無事目を覚まし始めました」

村人「お礼と言ってはなんですが、今日は盛大におもてなしを…」

女騎士「う。いえ、宴は結構です」

村人「そんな!」

女騎士「うぅ……お酒はあまりいい思い出がないのです……」

67: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:21:16.118 ID:0xT6o7hd0
女騎士「それにしても大変なことが起こりました」

女騎士「呪術師……まさか魔王を……」

女騎士「こうしてはいられません! 早くお城に……!」

女騎士「お城に……」

女騎士「帰れないんでしたっけね」

馬刺し「ヒヒーン」

68: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:25:50.642 ID:0xT6o7hd0
女騎士「女魔法使いと戦士は戦士の故郷に」

女騎士「でもわたし、戦士の故郷を知りません……」


女騎士「僧侶と武闘家は結婚してそのまま旅に」

女騎士「いったいどこにいるんでしょうね」


女騎士「勇者は故郷の幼馴染と結婚して……」

女騎士「遠い西の村でしたっけ」


女騎士「ううぅ…」

馬刺し「ヒヒーン?」

69: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:30:06.559 ID:0xT6o7hd0
女騎士「わたし一人でどうこうできるレベルを超えている気がします」

女騎士「ここはやはり勇者さまを頼るべきでしょう」

女騎士「幼馴染さんには悪いのですが……」

女騎士「なんだか行きづらいですね」

女騎士「ですが仕方ありません。王都側に引き返すことになってしまいましたが、勇者さまの所へ行きますよ、馬刺し」

馬刺し「ヒヒーン」

70: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:34:01.428 ID:0xT6o7hd0
5日後

女騎士「お金がなくなりました」

馬刺し「ヒヒーン」

72: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:40:46.408 ID:0xT6o7hd0
女騎士「うぅ……まさか少し目を離して川で水浴びをしているうちに荷物がごっそり盗られているなんて」

女騎士「幸い、馬刺しは盗まれずに済みましたが。抵抗してくれたのでしょうか」

女騎士「えらいですよ、馬刺し」

馬刺し「ヒヒーン」

女騎士「勇者さまの故郷までは馬の足であと1週間ほど」

女騎士「これは困りました。わたしはともかく、馬刺しのごはんも無くては走れません」

女騎士「……一度、近くの村に寄りますか」

73: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:45:39.403 ID:0xT6o7hd0
パカラッパカラッヒヒーン

女騎士「うぅん、せめて聖なる剣くらいは取り戻しておかないと……」

女騎士「あれはそうそう値段の付くものではありませんから、売られるにしてもそれなりに目立つはず」

女騎士「まさか今から行く村で叩き売りされてるなんてことはないでしょうけど…一応確認しますか……」


村人「聖なる剣? こんな形の? あぁ見た見た。ここで売りに出されてたよ」

女騎士「えぇ…」

77: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:55:27.986 ID:0xT6o7hd0
村人「あっちの商店街の方で地面に見せ広げてたヤツがいてね。まだいるんじゃないかな」

女騎士「む。情報、ありがとうございます。行ってみます」


女騎士「床に店を広げていると言っていましたが、あの辺りでしょうか」


商人?「よっ、どうだいそこの人。今日はいいもの仕入れてるよ。今日の目玉は売れちまったが、何と言っても騎士の鎧! 見てよし着てよし何でもいい! こんな田舎じゃ本物なんてそうそうお目にかからないだろう!」

村人「うーん、でもなあ」

商人?「着る機会がない? そんなら飾ってインテリアにしたっていい。カッコいいぞ! 何なら淑女のパンツもオマケ付きだ!」

女騎士「ぶっ」

79: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 03:59:31.258 ID:0xT6o7hd0
女騎士「あの」

商人?「さぁ買った買った! パンツでダメならブラもあるぞ!」

村人「し、下着かぁ」チラチラッ

商人?「持ち主の見た目は保証するぜ! 若い金髪のねーちゃんだ! サイズを見ればわかると思うが出るとこ出てていい女だぜ!」

村人「……ゴクリ」

女騎士「あの!」

商人?「ん? ……げっ、あんたは」

80: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 04:05:21.295 ID:0xT6o7hd0
女騎士「……それ、すごーく見覚えがあるのですが」

商人?「……な、なんのことかな」ササッ

女騎士「……いまは急ぎですので、返していただけるなら何もいいません」

商人?「…………」


商人「くらえっ、目潰し!」

女騎士「きゃっ!?」


女騎士「けほっ、けほっ」

女騎士「くっ、あの男はどこに!?」

村人「あ、あぁ。すごい勢いで商品まとめて走っていったよ」

女騎士「こ、このぉっ!」

81: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 04:08:50.384 ID:0xT6o7hd0
商人?「ハァハァ、ここまで来ればもう……」

女騎士「あいにく、足の速さには自信があるのです」

商人?「げっ」

女騎士「さぁ観念して返してください。それがないとわたしはとても困るのです」

商人?「ぐ……」

83: >>82盗まれたのは替えの服。水浴びの時脱いだのは盗まれなかった 2018/03/21(水) 04:15:43.288 ID:0xT6o7hd0
商人?「……へへっ、丸腰の女が何を強気に言ってやがる」

女騎士「っ! ナイフですか」

盗賊「あぁ、どちらかと言うと俺の本業はこちらの方でね。今はコソ泥なんかやっちゃいるが昔は50人を超える盗賊団の……」

盗賊「……あれ?」

女騎士「……?」

盗賊「……いやいやまさか」

女騎士「なんですか、人の顔をジロジロと」

盗賊「……いいや何でもねえ、他人の空似だろう。いいから大人しくしなっ!」

女騎士「どうしてもと言うのですね」

盗賊「あぁ? こいつが見えねえのか。俺は女だからって容赦は」


女騎士「えいっ」←Level 97

盗賊「ぶべらっ」

85: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 04:20:39.040 ID:0xT6o7hd0
盗賊「はい。すいません。全部俺が盗みました」

女騎士「屯所には何も言わないでおきますから、全部返してくださいね」


盗賊「……あの」

女騎士「お金と……鎧と……」ゴソゴソ


盗賊「……その」

女騎士「服と……あれ?」ゴソゴソ


女騎士「剣がありません」

盗賊「剣は売れちまいました」

86: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 04:23:31.129 ID:0xT6o7hd0
女騎士「……………………は?」

盗賊「ヒィッ!」

女騎士「あれが一番大切なものなのですが」

盗賊「ぱ、ぱんつは?」ピラッ

女騎士「ぱんつは別です! 何握ってるんですか!」

88: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 04:30:05.634 ID:0xT6o7hd0
盗賊「剣はここらの領主サンが買い取ってったよ。いやぁ、あれ相当な値打ちモンだろ? 目が肥えてるだけあって目についた瞬間言い値で即買いだったぜ」

女騎士「りょ、領主……」

女騎士「うん……まぁ、別人ですよね……あの地からはそれなりに離れてますし」

盗賊「? 何をごちゃごちゃ言ってるんだか知らないが、いいのか? ありゃ相当気に入った様子だったからそう簡単に手放さないと思うぜ」

女騎士「いいのか? じゃありません」グリグリ

盗賊「あぁやめて!! ギブギブ!!」

92: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:01:44.164 ID:0xT6o7hd0
村人「た、大変だー! 魔物が、魔物が出たぞー! 人型だー!」

女騎士「くっ、こんな時に……!」

盗賊「珍しいな、魔王が死んでからは村を攻めて来るような魔物なんて滅多に出なかったのに」

女騎士「……仕方ありませんね」

盗賊「ど、どうしたんだよ。まさか行くつもりか? 警備隊に任せとけばいいじゃんか」

女騎士「そうも言っていられません。人型の魔物は知性が高い……ここの警備隊がどれほどかは知りませんが、苦戦は間違いないでしょう」

盗賊「あの高そうな剣もないのに?」

女騎士「当然です。そもそもあの剣は、人を守るためのもの。剣が無いからといってこの場を見逃すようであれば、あの剣に顔向けもできません」

盗賊「……へーへー、そりゃ格好の良いことで」

女騎士「このナイフは借りて行きますよ」

93: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:03:18.677 ID:0xT6o7hd0
オーク大将「ウェヘヘへ、久しぶりのニンゲンだぁ」

村人「う、うわぁ、オークの群れだぁ!」

魔物使い「あまり殺すんじゃないぞ。呪術師どのは生きた人間をご所望だ」

オーク大将「おう? ナンで?」

魔物使い「はぁ……まぁ多少は死んでもいい。手足が無くとも生きてさえいればそれでいいのだしな。回収はある程度やってやる。好きなようにやれ」

オーク大将「おうおう、サイショっからそういえよ。おまえらも行け行け、じゃんじゃんやっちまえ」

オーク「「「おほぉ」」」

94: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:04:32.968 ID:0xT6o7hd0
村娘「きゃあああ!!」

オーク「おー、オンナ。おとなしくしろい」

村娘「いやあ!!」

オーク「……ウェヘヘ……まあちょっとくらい、いいか。なぁにコロしゃしねえよ」

村娘「むぐぅ!」


女騎士「待ちなさい」

オーク「あ?」

95: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:06:50.863 ID:0xT6o7hd0
魔物使い「む? ……オークの血の匂い……それも、ひとつではないな。ここまで戦える人間がこの地にいるとは……」

オーク大将「どうした」

魔物使い「なに、ちょうどあの辺りに少しヤレる人間がいるみたいでな。お前の部下も相当苦戦しているらしい」

オーク大将「なニィ?」

魔物使い「このまま放っておくとまずいことになるな」

オーク大将「おれのなかまを……ゆるさねえ!!」

96: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:10:51.392 ID:0xT6o7hd0
オーク「ぎゃあああああああ!!」

女騎士「ふぅ……12体目。まだまだ居そうですね」

女騎士「このナイフも、もう少し持ってくれればいいのですが…!」

オーク大将「おう、お前がおれのなかまをコロし回ってるニンゲンかぁ!!」

女騎士「!」

オーク大将「お前が……おまえが……」

97: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:11:26.246 ID:0xT6o7hd0
女騎士(この格好と冠、これがオークの大将でしょうか。あれをやれれば…!)

オーク大将「おまえぇ…!!」

女騎士「…………」

オーク大将「気に入った、おれのヨメにこい」

女騎士「ふぇっ!?」

99: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:13:39.491 ID:0xT6o7hd0
女騎士「なにを急に!」

オーク大将「いや、いい。おれごのみのメスだ。腕っプシもいい。すげぇいい」

オーク大将「髪が金なのがいいし、ハダが白いのもいい。ほそっけぇようにミえて肉付きもわるくねぇ」

女騎士「………うぅ」ゾゾゾ


「安心しな。おめぇはおれがかわいがってやるから、魔物使いのヤロウにはわたさねえからよ、ウェヘヘへ」


女騎士「! 魔物使いといいましたか!?」

女騎士(ここにも魔王軍の残党が…!)

103: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:21:25.369 ID:0xT6o7hd0
女騎士「残念ですが、ここであなたのお嫁さんになるつもりはありません」

オーク大将「だ、だめかぁ!?」

女騎士「だめです!」


女騎士「……ッ!」

オーク大将「は、はえぇ!」

ザン

女騎士「……なっ」

オーク大将「ん? なんだおめぇ、そんなちっちぇえ剣でこんなにあばれてたのか」

女騎士「皮が厚すぎてナイフじゃ届かない……!」

オーク大将「安心しなあ、ヨメにきたらそんなちっちぇえ剣より立派なもんをやるよぉ!」

女騎士「うぅ……!」

105: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:37:47.097 ID:0xT6o7hd0
盗賊「……やっぱダメじゃねえか」

盗賊「まああんな安物でバッタバッタとよくやりましたわ」

盗賊「さすが、ほとんど一人で俺の盗賊団を壊滅させるだけのことはある」

盗賊「しっかし相手が悪りぃよ相手が……」

盗賊「さっさと逃げちまえばいいのに」

盗賊「…………」


盗賊「…………」

106: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:39:49.791 ID:0xT6o7hd0
女騎士「…………」ボロボロ

オーク大将「ウェヘヘへ、ヨロイも砕けて、イイかっこになったじゃねえか」

女騎士「くっ」

オーク大将「…………ほんとイイ」

女騎士(き、気持ち悪いです……)

オーク大将「ニンゲンのやわ肌ぁ、いまいちテカゲンはわからねえんだ。さっさと降参してくれねえか」

女騎士「誰が……!」

107: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:40:17.770 ID:0xT6o7hd0
オーク大将「わかんねえヤツだなあ!」

女騎士「きゃあ!」

ギィン!

女騎士「ナ、ナイフが……」

オーク大将「おれちまったなぁ。どうだ、ヨメにくるか」

女騎士「行きません!」

108: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:42:16.072 ID:0xT6o7hd0
盗賊「おい、アンタ!」

女騎士「! 盗賊さん!?」

盗賊「お探し物はこれかい?」

女騎士「あっ、わたしの剣!」

オーク大将「なんだぁテメェ、邪魔すんじゃねえ!」ブン!

盗賊「当たらねえよ!」

女騎士「盗賊さん!」


盗賊「そら!」

パシィ

女騎士「ありがとうございます!」

109: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:43:15.057 ID:0xT6o7hd0
オーク大将「へん、そんなの、すっげぇちっちぇえ剣がちょっとちっちぇえ剣になっただけじゃねえか!」

女騎士「……そう思いますか?」

オーク大将「ウェヘヘへ! また折ってやるよぉ!」ブン!

女騎士「…………」


スパン


オーク大将「…………」


オーク大将「…………お?」

ゴロン


盗賊「……お見事」

111: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 05:52:30.662 ID:0xT6o7hd0
女騎士「オーク大将を倒したらみんな逃げて行きましたね」

盗賊「情けねえ連中だぜ」

女騎士「あなたが言いますか」

盗賊「いやまぁ。いいでしょ、最後は俺のおかげでしょう。助けてやったんだし……」

女騎士「ふふ、そうですね。ありがとうございます」

盗賊「お、おう」

112: >>110 こういうの書くの初めてだから違うと思う 2018/03/21(水) 05:54:13.517 ID:0xT6o7hd0
女騎士「しかしこの剣はどこから……? 売られたはずでは」

盗賊「あぁ、それなら……」

村長「いやぁ、よくやってくださいました旅の方!」

村娘「あの人です! わたしあの人に助けてもらったんです!」

村人「見てたぞ! あの剣でスパーンとオークを叩き斬ったんだ!」

ウオースゲー
アノヒト、ユーメーナオンナキシサマジャナイ⁉︎


女騎士「こ、こういうのは苦手です……」

盗賊「へぇ」


???「あ、あの剣は!!」

女騎士「ふぇ?」

盗賊「あっ」

113: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 06:01:15.755 ID:0xT6o7hd0
領主「あの剣はワシの剣だ! ワシが買った剣だぞ! 盗まれた剣だ!」


ザワザワ


女騎士「…………まさか」

盗賊「いやまあ、仕方ないだろ? 盗むのが商売だぜ俺たちは」

女騎士「そ、それにしたってもっと穏便にできないのですかっ!」

領主「む? ……それにしても、ほほぉ。あなたが魔物を退治した騎士どのですか」

女騎士「あ、はい」

領主「ふむふむ。なるほどなるほど」

女騎士「?」


女騎士(あの、どうしたんでしょう。こちらをじろじろと見ていますが)

盗賊(あんた、自分の今の格好わかってないの?)

女騎士「? …………!!」

114: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 06:06:36.783 ID:0xT6o7hd0
女騎士「そ、そういう目で見ないでくださいっ!」

領主「ほっほっ、これは失礼。まぁ剣を盗んだことには目を瞑りましょう。代わりにどうです、私に雇われてみませんかな? 報酬は可能な限り出しましょう」

女騎士(こ、このパターンは……!)

女騎士「あの、お気持ちは嬉しいのですが先を急いでいますので」

領主「ふむそうですか。ならばおもてなしだけでも、是非に」

女騎士「いえ、それもいいです……あの、そろそろ失礼しますね……」

領主「なんと……このワシにここまで誘われておいて断るとは無礼な」

女騎士「すいません……それと、この剣もわたしの物なので返してもらいますね」

領主「なんだと!」

115: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 06:09:05.596 ID:0xT6o7hd0
領主「盗っ人だ、捕らえよ!」

警備兵「しかし、この方にはご恩が……」

領主「恩も糞もあるか! 相手は罪人だぞ!」

警備兵「す、すいません!」

女騎士「わっ、わっ、わっ!」

116: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 06:11:02.854 ID:0xT6o7hd0
女騎士「どうするんですか!」

盗賊「どうするも何も、俺には関係ないでしょう」

女騎士「もとはといえばあなたのせいじゃないですか!」

盗賊「あーあー聞こえない」

女騎士「怒りますよ!」

盗賊「あ、それはやめて」

118: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 06:19:32.387 ID:0xT6o7hd0
女騎士「どうにか盗賊さんの手引きで脱出できました」

女騎士「よくあんな道を知っていますね」

盗賊「地元民ですから」

女騎士「それにしたってあんな、人を撒くためだけにあるようなルートまで」

盗賊「盗賊ですから」

女騎士「もうっ」

119: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 06:20:04.951 ID:0xT6o7hd0
盗賊「ここまで来れば大丈夫でしょ」

女騎士「それではここでお別れですね」

盗賊「あぁ、先を急いでるんだっけ?」

女騎士「はい。急を要することです」

盗賊「はーん。…………悪かったな」

女騎士「はい?」

盗賊「邪魔して悪かったなって言ってんだ。……俺も、少しは反省してる」

女騎士「……ふふ、そうですか。ならもう盗みはしないと誓えますか?」

盗賊「それは……まあ、人は選ぶよ」

女騎士「そういうことではありません!」

120: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 06:23:28.431 ID:0xT6o7hd0
盗賊「行っちまったな」

盗賊「面白い女だったぜ」

盗賊「……盗みをやめる、か」

盗賊「今さら真っ当に生きてけってのも難しい話だが」

盗賊「まあ、考えてみるか」

盗賊「…………」

盗賊「…………」


盗賊「ん? ……戻ってくるぞ」

盗賊「なんか、すごい形相だぞ……」

盗賊「こっちに来る……!」



女騎士「馬刺しを取り返してください!」

盗賊「は?」

132: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:13:01.259 ID:0xT6o7hd0
盗賊「馬刺し?」

女騎士「わたしの馬です」

盗賊「あんた、自分の馬に馬刺しって名前付けてんの? ……マジ?」

女騎士「ともに故郷から出てきた、わたしの家族のようなものなんです……お願いです、盗賊さん」

盗賊「家族に付ける名前かよ……!」

134: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:15:30.339 ID:0xT6o7hd0
女騎士「なんとか戻ってきてくれましたね」

馬刺し「ヒヒーン!」

女騎士「おおよしよし。寂しい思いをさせましたね」

女騎士「ありがとうございます。盗賊さん。……何でそんなにボロボロなんですか?」

盗賊「……あんたの馬に蹴られたんだよ、よっぽど忠誠心が強いようで。あんた以外にゃ懐かねえんだろうな」

女騎士「まぁ」

盗賊「ちょっと嬉しそうにしてんじゃねえよ」

135: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:19:33.741 ID:0xT6o7hd0
パカラッパカラッヒヒーン

女騎士「勇者さまの故郷までもう少しですね」

女騎士「なんだか懐かしいです。むかし、魔王軍との戦いでこの辺りに来たときに勇者さまに出会ったのでした」

女騎士「軍とはぐれて偶然村に迷い込んだわたしが、あの村で勇者さまに会い、魔物を一緒に討伐したのが始まりでした」

女騎士「それから勇者さまが故郷を旅立たれて。魔法使いや戦士、僧侶と武闘家と出会い、魔王討伐までの道のりをともに乗り越えたのでした」

女騎士「…………」

136: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:23:56.828 ID:0xT6o7hd0
女騎士「着きました」

馬刺し「ヒヒーン!」

女騎士「お疲れさまです馬刺し。よくここまで連れてきてくれました」

女騎士「あとでおいしい干し草いっぱい食べさせてあげますからね」


女騎士「……うわぁ、前に来たときよりもなんだかすごく栄えてるように見えます」

女騎士「なになに……『勇者生誕の地、はじまりの村へようこそ!』」


女騎士「観光名所になってますね……」

137: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:27:58.467 ID:0xT6o7hd0
女騎士「勇者さまの家は……あそこですね」

女騎士「幼馴染さんと結婚されたのですよね」

女騎士「ご両親は他界されてるはずだから、いまは二人暮らしでしょうか」


チリンチリーン

女騎士「…………」

女騎士「…………」

女騎士「…………あれ、留守でしょうか」

女騎士「もう一度」


チリンチリーン

女騎士「…………」

ガチャ

幼馴染「あんたはどこの女よ!」

女騎士「ひゃっ!?」

138: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:29:51.775 ID:0xT6o7hd0
幼馴染「……あれ? 女騎士さん?」

女騎士「お、お久しぶりです」

幼馴染「や、やだわたしったら。ごめんなさい。つい……」

女騎士「あはは……」

140: おはよう 2018/03/21(水) 07:33:43.797 ID:0xT6o7hd0
幼馴染「今日はどうされたの? 王都からは遠いでしょう」

女騎士「それは……いろいろありまして。とにかく、勇者さまにお会いしたいのですが」

幼馴染「……勇者ァ?」

女騎士「ひっ……!」

幼馴染「あ……こほん。彼なら今はここにいません」

女騎士「そんな。何かあったのですか?」

幼馴染「追い出しました」

女騎士「へ?」

幼馴染「追い出しました」

女騎士「それはまた……」

141: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:39:04.142 ID:0xT6o7hd0
幼馴染「ちょっと聞いてもらえますか!?」

女騎士「あ……えぇ」

幼馴染「上がってください!」



幼馴染「それでね、4番目に来た女。いきなり何て言ったと思います?」

女騎士「な、なんでしょうね」

幼馴染「『勇者さま、あのときはありがとうございました。あの時あなたに助けられてから、ずっとお慕いしておりました』……ですって」

女騎士「それはまた……」

女騎士(もう1時間くらいになるでしょうか)

142: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:42:40.181 ID:0xT6o7hd0
女騎士「勇者さまはお優しいひとでしたから。旅の道中、いろいろな方と関わり合いになり事件を解決してきましたので……」

幼馴染「それは……わかっているけれど。でも少し女の子が多すぎませんか」

女騎士「言われてみれば」

幼馴染(そう言えばこのひとはそういうの鈍感そうね)

143: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:46:29.466 ID:0xT6o7hd0
女騎士「でも、勇者さまのお気持ちもわかってあげてくださいね。彼が一番に想い続けていたのはずっとあなたなんですから」

幼馴染「女騎士さん……」

女騎士「勇者さまたちと魔王城に突入する前夜、パーティのメンバーで改めてお話をしたんです」

女騎士「そのとき、勇者さまは仰りました。『俺、魔王を倒したら故郷に帰って幼馴染と結婚するんだ』って。目をキラキラと輝かせて言っていました。とても素敵でしたよ」

幼馴染「勇者……」

144: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:50:44.499 ID:0xT6o7hd0
幼馴染「とてもお見苦しいところをお見せしました」

女騎士「彼をゆるしてあげられそうですか?」

幼馴染「はい。ありがとうございます。女騎士さんのおかげで胸のつかえが取れました」

女騎士「ふふっ、それは良かったです」

女騎士「ところで勇者さまは……」



カンカンカンカンカンカン!!!!


女騎士「!」

幼馴染「この鐘は……!」

146: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:05:48.948 ID:0xT6o7hd0
女騎士「魔物の侵入の合図ですね」

幼馴染「えぇ、どうしましょう……勇者はいないし」

女騎士「わたしが行きます。あなたはここに残っていてください。決して外に出ないでくださいね」


女騎士「! あれは……!」

デーモン「勇者はどこだ……」

女騎士「魔王軍幹部、デーモン……!」

デーモン「貴様は女騎士か……」

女騎士「あなたは、わたしたちが倒したはずです! なぜこんなところに!」

147: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:07:36.618 ID:0xT6o7hd0
デーモン「……それを話す義理はない。貴様に用はない。邪魔をするなら話は別だが、勇者はともかく、貴様ひとりで敵う相手か?」

女騎士「…………」


女騎士「……敵う敵わないの話ではありません。勇者さまに何か用があったのでしょうが、あなたたちに好きにさせるつもりはありません」

デーモン「ふん……」

中級悪魔「デーモンさま、勝てる相手とは言えここでこいつに抵抗されるのは少々面倒です。ここは私たちに」

デーモン「指図をするな」

ボッ

中級悪魔「あ……が……」

女騎士「自分の仲間を……! 相変わらずですね、あなたは。その癖は死んでも治らないようです」

149: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:13:08.244 ID:0xT6o7hd0
デーモン「勇者はどこだ」

デーモン「私に臆して逃げ隠れたか……」

女騎士「それを知ってどうするつもりですか!」

デーモン「ふん。小癪な呪術師の策とやらに乗るのは気に食わなんだが、居らんのであれば仕方あるまい」


下級悪魔「キィキィ」バサバサッ


幼馴染「うぅ……」

女騎士「幼馴染さん!?」

150: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:16:00.268 ID:0xT6o7hd0
デーモン「こんなことをせずとも、直接勇者を捻り潰せば済む話というのに」

女騎士「彼女をどうするつもりですかっ!」

デーモン「人質とやらだそうだ。私も気に食わんが、これも魔王様復活のために確実な方法ならば仕方あるまい」

女騎士「魔王復活……! やはり!」

デーモン「クッ、呪術師め。勇者がいるならば殺しても良いといいながら、わざわざこのタイミングを狙いおったな。食えん奴よ」

152: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:23:14.777 ID:0xT6o7hd0
デーモン「勇者に伝えろ。手を出すなと。この女の命と引き換えだ」

女騎士「ッ!」


ギィン!


デーモン「貴様もなかなかやる……。だが勇者ほどではないな」

女騎士「…………ッ」

デーモン「結局、ひとりでは何もできぬ弱者よ」

女騎士「くっ!」

153: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:25:15.174 ID:0xT6o7hd0
女騎士「はぁ、はぁ……」

デーモン「勇者には手を出すなと言ったが、貴様には言っていない。だから私を倒せるものなら倒しにこいと言いたいところだったが」

デーモン「この程度ならばいらぬな。死ね」

女騎士「!」

女騎士(だめ……ごめんなさい、勇者さま……!)

154: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:26:55.311 ID:0xT6o7hd0
ギィン!

女騎士「あなたは……!」

デーモン「ほう……これは。」


勇者「すまん、待たせた」


女騎士「勇者さま……!」

デーモン「待った甲斐があったというものだ」

159: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:31:42.371 ID:0xT6o7hd0
勇者「…………」

幼馴染「…………」


勇者「…………」

女騎士「…………」


勇者「随分好きに暴れてくれたな」

デーモン「それもこれも貴様のためだ」

勇者「らしくないんじゃないか?」

デーモン「自覚はある。だが必要なことだ」

勇者「お前が自分を曲げてまでってなると、魔王絡みか」

デーモン「好きに想像しろ。もっともそんなこと、貴様が現れた今となってはどうでもいいがな」

161: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:41:44.364 ID:0xT6o7hd0
勇者「ここでやる気か」

デーモン「おうとも」

勇者「女騎士、下がってろ」

女騎士「勇者さま……すみません。幼馴染さんを……」

勇者「気にすんなよ。悪いのは全部あいつらだ」

デーモン「ククク、ひとりでやる気か? 何ならそこの女と、かつての仲間を集めても構わんのだぞ」

勇者「俺だけで十分だ」

デーモン「かつての仲間と束になってようやく私の不意を突けた貴様が、自惚れるなよ」

勇者「いいから、構えろ」

デーモン「……小僧がっ!」



ザンッ


デーモン「……あ?」

勇者「俺だって、あれから何もしてなかったわけじゃねえんだ」

勇者「あの時のままのお前に、負けるわけがないだろう」

デーモン「が…………は…………」

162: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:43:22.490 ID:0xT6o7hd0
呪術師「クッ、デーモンめ。わざわざ魔王様の分を使って蘇らせてやったものを、勇者に乗せられおって」

呪術師「だがしかし、十分な役割は果たしたようだな」

166: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:47:44.298 ID:0xT6o7hd0
女騎士「勇者さまっ!」ひしっ

勇者「お、女騎士っ、あいつの前でそういうのはっ!」

呪術師『勇者』

勇者「ッ! その声は呪術師か。生きてやがったのか。もっかい叩き斬ってやるから姿を現せ」

呪術師『クク、そう急くな。貴様の女の命はこちらにあるのだぞ?』

幼馴染「…………」

勇者「何が目的だ」

呪術師『聖剣だ』

勇者「なに?」

呪術師『貴様の聖剣を折れと言っているのだ。今、この場で』

167: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:55:42.923 ID:0xT6o7hd0
女騎士「勇者さま、だめです! 女神の加護を受けたその聖剣を折ってしまえばあなたは……!」

呪術師『ああ、本当に忌々しい剣よ。その剣があるから貴様は殺しても死なない。そして貴様が死ななければその剣は折れない。その上、我ら魔族には折れぬと来た。厄介なことこの上ない』

呪術師『だが勇者、貴様自身の手ならば折れるだろう』

勇者「それで幼馴染を返す保証はどこにある。お前の性格はわかってんだよ」

呪術師『良かろう。我らの魔王様と魔神様に誓う。貴様がその剣を折ればその娘には手出しはすまい』

勇者「魔王と魔神、か」

女騎士「勇者さま!」

勇者「……女騎士」

168: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 08:57:01.027 ID:0xT6o7hd0
勇者「悪りぃ、女騎士。俺、あいつを見捨てるなんてできないわ」


ビキッ


バキバキバキバキバキバキ


ブワッ

170: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 09:03:28.583 ID:0xT6o7hd0
呪術師『ククク、フハハハハハ! まさか本当に折るとはな。これだから貴様ら人間は脆いのだ!』

勇者「いいから、幼馴染を返せよ。約束だろう」

呪術師『いいだろう、魔王様と魔神様に誓ったのだ。その名前は重い』


下級悪魔「キィキィ」バサバサッ


勇者「ふんっ」ズバッ

下級悪魔「キィーー……」

呪術師『柄に残った破片だけで下級悪魔を斬ったか。だが所詮そんなものよ。女神の加護は失われた。我らの邪魔をするものはいなくなった!』


勇者「幼馴染」

幼馴染「……うぅん、勇者? あ、良かった……無事で」

勇者「俺も、良かった」

171: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 09:08:41.620 ID:0xT6o7hd0
呪術師『だがそれでも、私は念には念を入れる男でね』

中級悪魔「…………」

女騎士「! 中級悪魔の骸が勝手に……! 勇者さま危ないっ」



ザンッ

172: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 09:09:17.252 ID:0xT6o7hd0
……………………


……………………


……………………

175: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 09:17:07.929 ID:0xT6o7hd0
医者「まあ、峠は越えたね」

女騎士「よかった……」

医者「だけどしばらくは目を覚まさないだろう。幼馴染も、しばらく安静にさせてやった方がいい」

女騎士「はい」



女騎士「勇者さまはお医者さまの懸命な治療で一命を取り留められました」

女騎士「けれど、聖剣は折れてしまいもう二度とその輝きを宿すことはありません」

女騎士「わたしたちは呪術師の策に見事に嵌ってしまいました」

女騎士「わたしは……どうすれば……」

馬刺し「ブルルッ」

189: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:14:30.889 ID:0xT6o7hd0
馬刺し「ヒヒーン」

クシクシ

女騎士「馬刺し……。ううん、こんな時に弱気になっていてはだめですね」

女騎士「気分転換に、少し遠乗りをしましょうか」

191: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:18:34.432 ID:0xT6o7hd0
パカラッパカラッヒヒーン

女騎士「呪術師の企みは成功し、勇者さまという邪魔者がいなくなった今、おそらく魔王復活の準備をすすめています」

女騎士「わたしひとりの力では、魔王軍の武闘派幹部には……悔しいけれど敵いません」

女騎士「頼みの勇者さまの聖剣は折れてしまった」

女騎士「そして魔王が復活してしまえば、聖剣なしに倒すことはできない……」

女騎士「あれはもともと魔王を倒すため、女神の伝承に導かれて勇者さまが手にしたもの」

女騎士「あの伝承はたしか勇者さまの故郷の、女神の祠にあった書物によるものでしたね」

女騎士「聖剣を直す方法とか、ないでしょうか」

女騎士「……一度、立ち寄ってみましょうか」

195: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:24:15.153 ID:0xT6o7hd0
女騎士「ここが女神の祠……」

女騎士「実はわたし、入るの初めてなんです」

女騎士「緊張しますね……」ドキドキ

女騎士「! これが、女神の伝承……」

196: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:25:20.249 ID:0xT6o7hd0
女騎士「勇者と聖剣について書かれていますね」

女騎士「聖剣に選ばれし勇者。聖剣が折れぬ限り勇者は死なず、勇者が死なぬ限り聖剣は折れず。聖剣は決して魔には負けず」

女騎士「ここまではわたしたちも知っていますね」

女騎士「初めて勇者さまが幹部級に殺されてしまった時はびっくりしたものです」

女騎士「思わず泣いてしまいましたが……」

女騎士「ただまさか、聖剣が勇者さま自身の手によって折れるだなんて裏技があったなんて……」

198: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:27:26.517 ID:0xT6o7hd0
女騎士「…………」

女騎士「……おや? まだつづきがあるようですね」

女騎士「…………」

女騎士「…………」

女騎士「! これは……」

200: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:30:40.170 ID:0xT6o7hd0
女騎士「西の聖剣。東の聖槍」

女騎士「聖剣の対となる聖槍、ですか」

女騎士「ここは西の祠だからあまり聖槍については書かれていませんね」

女騎士「これを勇者さまに渡せばあるいは、魔王が復活しても立ち向かえるかもしれません!」

女騎士「やりましたよ馬刺し! わたしにもまだできることはあるみたいです!」

馬刺し「ヒヒーン?」

201: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:31:52.273 ID:0xT6o7hd0
女騎士「記述によれば、東の霊峰……例によって遠いですね……」

女騎士「西へ東へと大忙しですね。あなたの足が頼りです。お願いしますよ馬刺し」

馬刺し「ヒヒーン」

203: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:33:30.371 ID:0xT6o7hd0
勇者「女騎士」

女騎士「あ、勇者さま。もう起きても大丈夫なんですか」

勇者「あぁ……。すまないな」

女騎士「……聖剣のことは、仕方ありません。だって、勇者さまですから」

勇者「なんだよそれは」

女騎士「ふふっ」

205: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:35:36.125 ID:0xT6o7hd0
女騎士「女神の祠に行ってきました」

勇者「あぁ、あそこ行ったのか。小難しいことばっか書かれててよくわかんねえだろう」

女騎士「そこで聖剣に関する手がかりを探していました。なんとか直せないものかと」

勇者「……直るの?」

女騎士「残念ながら、それについてはわかりませんでした」

勇者「そっか。こいつにも悪いことしちまったな」

206: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:39:15.356 ID:0xT6o7hd0
女騎士「勇者さま……ですが、聖剣の対となる聖槍についての伝承を見つけました。わたしは、その手がかりを追ってみようと思います」

勇者「聖槍、か。俺も一緒について行きたいけど。この調子じゃな」ヒラヒラ

女騎士「えぇ。勇者さまはここで休んで……って、ちぎれかけた腕を振り回さないでください!」

勇者「大げさだなぁ」

女騎士「もうっ」

207: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:42:37.753 ID:0xT6o7hd0
女騎士「それじゃあ、行ってきます」

勇者「おう。俺も動けるようになったら出来ることはする。お前も、死ぬなよな」

女騎士「そちらこそ。聖剣はもう無いんですから、これまでみたいな無茶はだめですよ」

勇者「む。……善処する」

女騎士「お願いしますよ。あなたが死んで、悲しむひとはいっぱいいるんですから」

勇者「わかった。俺も死なないよ。幼馴染もいるしな」

209: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:46:03.499 ID:0xT6o7hd0
勇者「……ただやっぱりお前も心配なんだよな……ひとり旅で大丈夫か? お前なら強盗とかは平気だろうけど……その、スリとか置き引きとかに合わないか?」

女騎士「う。」

勇者「お前は戦闘では頼れるけど、普段はどこか抜けてるからな。頼むぜ」

女騎士「ま、まかせてくださいっ」


女騎士「さぁ行きましょう馬刺し、東へ!」

馬刺し「ヒヒーン!」

210: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:46:52.338 ID:0xT6o7hd0
4日後

女騎士「お財布をスられました」

馬刺し「ヒヒーン!」

212: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:51:55.315 ID:0xT6o7hd0
親方「テメェこら何やってんだボケこらぁ!」

盗賊「へいへい、すんませんすんません」


盗賊「あのクソ親方……人が下手に出てれば調子に乗りやがって……」

同僚「おっ、今日もお疲れさん。どうよ一杯」

盗賊「はいはいお疲れさん。今日はやめとくわ。筋肉痛でガタガタだっての……」

盗賊「あーあ、真っ当に生きるってきっついな。これならまだそこらの通行人からスった方が断然楽だぜ……ん?」

213: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:52:48.885 ID:0xT6o7hd0
ドン!

通行人「あ、すんません」

同僚「ったく、気ぃ付けろよ」

盗賊「…………」



盗賊「おい」

通行人「!」

215: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:55:35.053 ID:0xT6o7hd0
盗賊「見てたぜ。なかなか上手いじゃねえか」

スリ「へ、へへっ。なんだ同業者か。脅かすんじゃねえよ……」

盗賊「……いいや」

スリ「……あ?」

盗賊「元、同業者だ。……チッ、胸くそ悪いなおい」

216: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 10:59:11.930 ID:0xT6o7hd0
同僚「いやぁ、助かったぜ後輩! おかげで今月スカンピンになるところだったぜ」

盗賊「まあ気にすんなよって」

盗賊「よかったなお前、ウチの同僚は財布返してくれたら何ともしねえってよ」

スリ「…………」

盗賊「それより、ほれ。もっとあるんだろう? 全部出しやがれ。そっちの分はウチの同僚も管轄外だ。まとめてお巡りに持ってくぞ」

スリ「てめぇ……!」

盗賊「ひぃ、ふぅ、みぃ……おうおう多いな。でも今日は欲張りすぎたみたいだな」

盗賊「……ん?」

盗賊(この財布、どこかで見たような……)

225: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 11:57:39.500 ID:Plzaq70Aa
女騎士「とりあえず馬刺しは宿舎に預けてきましたがこれはまずいです……」

女騎士「お財布をスられた……のかもしれないですし、さっきのお茶屋さんに忘れてきたのかもしれません」

女騎士「むぅ……。困りました……」

女騎士「せめてお金を借りられればいいのですが」

女騎士「知り合いなんていませんし……」

盗賊「おいアンタ」

女騎士「あっ、盗賊さん」

227: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 12:01:03.228 ID:0xT6o7hd0
同僚「おいなんだよ後輩、こんな綺麗なねーちゃんと知り合いなのかよ」

盗賊「あー、同僚さんは黙っててくださいね」

女騎士「盗賊さん、この町に移ってきたんですか?」

盗賊「まあ、向こうの村じゃちょいと居づらくなっちまいましてね。これまでは上手くやってきたんだが、どこぞの騎士サマの逃走幇助に馬ドロボウ。これだけ目立っちゃどうにもこうにも行かねえですわ」

女騎士「うぅ……その節は、どうもでした……」

229: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 12:07:10.777 ID:0xT6o7hd0
盗賊「で。こんなところでキョロキョロとどうしたんです? まるでスリにでもあったような顔してるぜ」

女騎士「うっ……」

盗賊「へへっ」

同僚「あー、おい後輩。あんまりいじわるしてやるもんじゃないぜ。見ちゃいられねえ」

盗賊「はいはい、ってまだ居たのかよ」

同僚「お邪魔みてぇだし俺は帰るよ。財布サンキューな。こいつは俺がしっかり届けておくぜ」

スリ「…………」

盗賊「ほいほいどうも、また明日」

230: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 12:10:51.766 ID:0xT6o7hd0
女騎士「あの、お財布……? もしかして」

盗賊「ほらよ」

女騎士「わぁ、わたしのお財布!」

盗賊「たまたま見っけたスリがたまたま見覚えのある財布を持ってたもんでな。まさかと思って探してみたら案の定よ」

女騎士「ありがとうございます……本当に助かりました」

盗賊「う……。まぁ気にするな」

女騎士「盗賊さん?」

盗賊「何でもねえよ。礼とか、そういうの言われ慣れちゃいないもんでな」

232: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 12:14:06.679 ID:0xT6o7hd0
盗賊「それより、そっちの用はどうなんだよ。随分急いでたみたいだが」

女騎士「それが……」

女騎士「まぁ、あまり上手く行かなかったといいますか……」

盗賊「ふぅん。まあ、俺には関係ねえけどな」

女騎士「そう、ですね……」

盗賊「…………」

盗賊(チッ、調子狂うな)

233: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 12:16:38.668 ID:0xT6o7hd0
町人「大変だ! 旗印を持った魔物の群れ……魔王軍が来たぞ!」

女騎士「な、この町にも!?」

盗賊「あぁ、最近多いんだよ。ちょうどここ三、四日辺りか。一日一回は攻めてくる。それもこの前のオークの群れとは違う、魔王の旗印を持った奴らがな」

女騎士「魔王軍……やはり……」

236: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 12:25:35.697 ID:0xT6o7hd0
盗賊「魔王なんてのが例の勇者サマに退治された話は有名だってのに、これじゃあまるで復活でもしたみたいだな、ハハ」

女騎士「…………」

盗賊「……ま、今は町の防壁と騎士団でなんとか抑えられちゃいますがね。おかげで毎日防壁はボロボロ。俺のバイト先もてんてこ舞いで新人だってのにやたらとこき使われる有様ですわ」

女騎士「バイト……? 盗賊さん、アルバイトを始めたんですか」

盗賊「どこかの誰かさんと約束しちまったからな。そんなことは今はどうだっていいだろう。行くんだろ?」

女騎士「はい。行って来ます」

盗賊「あの時と違って剣は持ってるし、アンタなら大丈夫だろう」

女騎士「えぇ」

盗賊「俺もこれでまた城壁の直しに駆り出されるだろうし、あーあ。真っ当に生きるってつらいねえ」

女騎士「……ふふっ。盗賊さんもお仕事がんばってくださいねっ」

タタター


盗賊「…………」

盗賊「…………俺も鍛えるかなぁ」

241: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 12:50:57.457 ID:0xT6o7hd0
女騎士「どうにか撃退できましたね」

騎士長「女騎士様、ご助力感謝します!」

女騎士「いえ、とんでもないです。皆さんの力のおかげです。この町の騎士たちはよく訓練が行き届いていますね。防壁もしっかりしているし、そのおかげです」

騎士長「あの女騎士様にそう言っていただけるとは……光栄です」

女騎士「そ、そんなにかしこまらないでください。……わたし、クビになった身ですし……」

騎士長「え?」

女騎士「な、なんでもないです」

242: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 12:55:04.327 ID:0xT6o7hd0
女騎士「魔王軍の活動が活発になってきたのはここ最近のこととか?」

騎士長「えぇ。勇者様たちが魔王を討伐してから鳴りを潜めていたはずなのですが。ここ三、四日は特に」

女騎士「やはり……あのことが関係しているのですね……」

騎士長「あの、こんなこと女騎士様に聞くことではないかもしれないのですが……奴らが口にしていた『勇者は死んだ』『魔王の復活』というのは本当なのでしょうか」

女騎士「……勇者さまは、生きています。ただ魔王復活については。……まだわかりませんが、彼らが魔王討伐からの今までを、影で動いていたのは本当のようです」

騎士長「おぉ……なんと。ただ勇者様の件については確かなのですね」

女騎士「はい。わたしが保証します」

騎士長「それは良かった……。魔王復活はともかく、勇者様の死についてはこれで狼狽える兵も多く、恥ずかしながら私めも。ですが、これで自信を持って戦えます! いつかこの魔王軍の騒動も、勇者様が解決してくれると信じて!」

女騎士「……はい。信じて、ください」

女騎士「必ず、この戦いを終わらせて見せましょう」

243: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 12:59:14.064 ID:0xT6o7hd0
パカラッパカラッヒヒーン

女騎士「東へ、東へ。……馬刺し、もう少しがんばれますか?」

馬刺し「ヒヒーン!」

女騎士「あれからいくつか村々を経由してきましたが、どこも魔王軍に荒らされ、民は眠れぬ夜を過ごしているようです」

女騎士「なんとしても、終わらせなければ」

245: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 13:02:00.562 ID:0xT6o7hd0
女騎士「もうすぐ王都です。居づらいと言ってもこんな事態ですのでそうこう言っていられません。王都に着いたら少し休憩と、補給をしましょう」

馬刺し「ヒヒーン」

パカラッパカラッ

女騎士「!」

女騎士「あれは……!」


女騎士「王都が……燃えている! 馬刺し、急いで!」

258: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 13:54:53.597 ID:0xT6o7hd0
騎士団長「ドラゴン相手には必ず5人以上で当たれ! とにかく足を止めろ! B隊は負傷者の救護を! 手が空いている者は消火を!」

騎士団長「くっ、魔王は死んだのではなかったのか。まさかここまで攻め入ってくるとは」

259: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 13:55:52.139 ID:0xT6o7hd0
吸血鬼「暑い暑い……。はぁ、これだから野蛮なドラゴンなんかと一緒の仕事はしたくないのだよ」

吸血鬼「もう少し優雅に……そう、美しい女性の血なんかを吸っていたい」

吸血鬼「彼奴らめ、何もかも壊してしまって品のカケラもない」

吸血鬼「それにしても、あの時の勇者のパーティは良い顔ぶれだった」

吸血鬼「魔法使いに女騎士、僧侶。男どもはともかく、実に良い味をしそうな連中だった」

吸血鬼「惜しむらくは、彼女らの血の一滴も飲めずに殺されてしまったことか。忌々しい勇者め」

吸血鬼「普段は気に食わぬ呪術師ではあるが……私を蘇らせたことだけは感謝をしよう」

吸血鬼「全く、そんな借りもなければこんな仕事はやってられんがな」

260: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 13:57:14.144 ID:0xT6o7hd0
吸血鬼「あぁ、彼女らの姿を思い出しただけで唆る……」

騎士「いたぞ、魔王軍だ!」

騎士「人型だ……油断するな!」

吸血鬼「全く……男どもに興味はないというのに」

262: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 13:59:33.330 ID:0xT6o7hd0
騎士団長「A隊は下がれ! 控えていたC隊は前へ……」

吸血鬼「お前が指揮を執っている人間だな?」

騎士団長「なっ」

ザクッ

吸血鬼「王都にはあの女騎士がいると聞いていたが、どこにもいないじゃないか」

吸血鬼「下等吸血鬼ならともかく、私はこんな野蛮そうな男の血はいらないのだがね」

騎士団長「が……貴様……!」

吸血鬼「さようなら」

ズバッ

263: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 14:01:23.841 ID:0xT6o7hd0
吸血鬼「…………」

ポタポタ…


騎士団長「かはっ、ハァハァ……」

女騎士「ご無事ですか、騎士団長」



吸血鬼「女騎士……」

266: ズバッって斬ったのは吸血鬼さんの腕なのでセーフ……ダメ? 2018/03/21(水) 14:04:13.849 ID:0xT6o7hd0
吸血鬼「おぉ、君を探していた。君に会いたかったんだよ、女騎士」

女騎士「吸血鬼……! あなたも蘇っていたんですね」

吸血鬼「そんな顔をしないでおくれ。む? この腕のことを気にしているのか。気にするな、また生える」ズリュ

女騎士「化物……!」

267: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 14:09:40.213 ID:0xT6o7hd0
吸血鬼「今日は勇者や取り巻きの顔はないんだね。僧侶や魔法使いの顔も見えないのは残念だが、なに。君さえいれば十分だ」

女騎士「なぜあなたがここに、とは聞きません。呪術師のしわざでしょうから。ですが、まさか王都に攻め入るほどに力を付けていただなんて……」

吸血鬼「まあ、そんなことはどうでもいいじゃないか。それよりも今夜は空いているかな。君のためにとっておきを用意しているんだが」

女騎士「ッ!」

ズバッ

吸血鬼「おぉ怖い。だがそれが良い」ズリュズリュ

女騎士「くっ」


女騎士(吸血鬼にはわたしの剣では通用しない……せめて、勇者さまの剣か僧侶がいれば……!)

269: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 14:18:31.055 ID:0xT6o7hd0
ビッ

女騎士「きゃっ!」

女騎士(ほ、頰を浅く斬られましたが、まだ対応できる速さです!)

吸血鬼「どれ、少し味見を……」

吸血鬼「…………おぉ……やはり極上の味……!」

女騎士「ッ!」ゾゾゾ

吸血鬼「もっと、もっと。君が力尽きて倒れてから。その首筋から直接いただくとしよう」

女騎士「うぅ……」

女騎士(このひと、相変わらず気持ちわるいから苦手です……!!)

270: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 14:22:30.084 ID:0xT6o7hd0
女騎士「はぁ、はぁ……」

吸血鬼「あれから随分頑張ったが、そろそろかね」

女騎士「うぅ……」

吸血鬼「全身私好みの匂いと色だ。もう立っているのも覚束ないのでは?」

女騎士(悔しいけれど、その通りです……。もう、目の前も……)

女騎士(! あれは……!)

273: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 14:32:14.787 ID:0xT6o7hd0
女騎士「……あなたの言う通り、わたしももう限界です。あと三……いえ、二振り。あなたと刃を交えるのが精いっぱいでしょう」

吸血鬼「ふむ。敵に限界を伝えるなど、気高き君らしくもない」

吸血鬼「が、ようやく負けを認めるということかな?」

女騎士「…………」チャキ

吸血鬼「……結構。それでは君の残りの全力を受け切ってみせよう。そしてその後……その白い首筋に……ウェヒヒヒ」

女騎士「そ、そういう想像はやめてください!」

274: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 14:34:36.968 ID:0xT6o7hd0
女騎士「はっ!」

ズバッ

吸血鬼「まずは一振り。腕を落としてきたか。だが無駄だと…………ぬ」

吸血鬼「…………さ、再生できない! まさか……!」



吸血鬼「僧侶!!」


僧侶「女騎士さん!」

女騎士「えぇ、行きますよ!」


ザンッ


吸血鬼「が…………」

276: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 14:39:44.011 ID:0xT6o7hd0
吸血鬼「……再生できん。僧侶の聖言か。どうやらここまでのようだ」

女騎士「わたしひとりではあなたに勝てなかったでしょうが、油断しましたね」

女騎士「……いえ、僧侶がいたことを知られていれば、二人がかりでも厳しかったでしょう」

吸血鬼「ふ……自らの実力を認めるとは実に潔い……勇者のような野郎ではなく、君にとどめを刺されてよかった」

女騎士「…………」

吸血鬼「……だから最後に首筋を…」

女騎士「いやです」

278: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 14:46:21.655 ID:0xT6o7hd0
女騎士「うぅ……血を流しすぎました……」

僧侶「大丈夫ですか女騎士さん、今治癒をかけます」

女騎士「ありがとうございます……よく、来てくれましたね」

僧侶「はい。武闘家さんとたまたまこの近くに来ていて、王都に火の手が見えたので急いで駆け付けたのです」

僧侶「今ごろ、外の魔物は武闘家さんが蹴散らしてくれているところでしょう。幹部級は今の吸血鬼だけみたいですので心配はいりません」

女騎士「それは……よかっ……」

女騎士「…………すぅ」

僧侶「……今は、ゆっくり休んでくださいね」

280: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 15:04:35.079 ID:0xT6o7hd0
女騎士「うぅん……」

武闘家「む。目を覚ましたか」

女騎士「武闘家さん」

武闘家「いま僧侶を呼んでくる。少し待っていろ」



僧侶「ご無事で何よりです。もう少し私たちが駆けつけるのが早ければ……と思うのですが」

武闘家「すまん」

女騎士「いえ。ふたりともよく来てくれました。本当にお久しぶりで、会えて嬉しいです」

281: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 15:08:23.176 ID:0xT6o7hd0
僧侶「私たちは各地を旅して回っていたのですが……」

武闘家「急に魔王軍の残党が活発し始めたのが気になってな。王都近辺に来れば何かがわかると思い、こうして近くに来たのだが」

女騎士「王都の火の手を見て、駆けつけてくださったんですね」

僧侶「何か知っているのですか」

女騎士「えぇと。何から話しましょう……では、わたしが騎士団をクビになった話から……」

僧侶「えぇっ!?」

武闘家「僧侶」

282: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 15:12:26.199 ID:0xT6o7hd0
僧侶「そうですか。勇者様が……」

武闘家「聖剣が折れたか。だが流石にしぶとい。生きているのなら、奴は黙って見ているだけの男ではないだろう」

女騎士「そうですね……。でも今は怪我が治るまでは安静にしていてほしいのですが」

武闘家「それが無理なことはお前もよくわかっているだろう」

僧侶「死なないからって昔から無茶をする人でしたけど、死ぬと分かって止まるような人でもないですしね」

283: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 15:23:45.043 ID:0xT6o7hd0
女騎士「わたしはこのまま東へ、聖槍の手がかりを追おうと思います」

僧侶「なら、私たちも一緒に……」

女騎士「いえ、お二人は勇者さまのもとへ向かってください」

武闘家「何?」

女騎士「無茶はしないと約束をしてきましたけど……やはり心配です。怪我も完治していないでしょうし」

女騎士「僧侶さんがいれば怪我の治りも早くなります。どうせ無茶をするのなら、健康になってから無茶をしてほしいですから」ニコッ

僧侶「でも……」

武闘家「僧侶。今は女騎士の言うことが理にかなっている。聖剣が折れたとは言え奴はあの勇者だ。魔王軍の追っ手も用意されていることだろう。ここは勇者との合流を急ぐべきだ」

285: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 15:28:24.177 ID:0xT6o7hd0
僧侶「でも私、心配なんです。女騎士さん、ひとりで旅をして大丈夫ですか? スリに合ったりしてないですか? 置き引きされたりしてないですか? わたし、女騎士さんがひとりで旅をするというだけで心配で……」

武闘家「僧侶。女騎士も子どもではないのだ。今更そんな心配は……」


女騎士「………………」

僧侶「女騎士さん、すごい汗ですよ? やはりお身体が……」

女騎士「あ、いえっ、これはそういうのではなくてですね」

288: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 15:56:11.451 ID:0xT6o7hd0
馬刺し「ブルルッ」

女騎士「…………」

騎士団長「女騎士、もう行くのか」

女騎士「あっ、団長さん。お怪我はもう大丈夫なのですか?」

騎士団長「ああ。僧侶殿の治癒が効いた。もう剣を振るうのも問題ない」

女騎士「よかった……」

騎士団長「女騎士……やはり君が抜けてしまった穴は大きい。今回も、君が居なければどうなっていたことか。何なら、今すぐにでも戻ってきてほしいくらいだ」

女騎士「……団長さん……」

騎士団長「いや、わかっている。今のは私の弱音だ。そんな虫のいい話もないし、君には今、やるべきことがあるのだろう」

女騎士「はい」

騎士団長「ならば引きとめまい。だが見送りくらいはさせてほしい」

女騎士「……ありがとうございます」

291: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 16:00:33.361 ID:0xT6o7hd0
女騎士「では行ってきます」

僧侶「女騎士さん……無理はしないようにね。あとお財布は必ず肌身離さず持っておくこと。あと荷物を置くときはちゃんと目の届くところに」

武闘家「僧侶」

僧侶「うぅ……」

女騎士「うぅ……」


女騎士「行きますよ、馬刺し!」

馬刺し「ヒヒーン!」


僧侶「…………」

武闘家「…………」

騎士団長「…………」



三人「…………馬刺し?」

295: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 16:19:00.777 ID:0xT6o7hd0
その頃

勇者「むむむ。」

幼馴染「勇者?」

勇者「箸が持てない」

幼馴染「……仕方ないわね」

幼馴染「ほら」

勇者「ぬ」

幼馴染「あーん」

勇者「…………」

幼馴染「は、早くしてよ。わたしだって恥ずかしいんだから」

勇者「わ、悪い」


幼馴染「どう?」

勇者「うまい」

幼馴染「……早く治ってよね」

297: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 16:28:20.702 ID:0xT6o7hd0
女騎士「東の霊峰へ向かうにはこの大河川を渡らなければならないのですが」

女騎士「まさか泳いで渡るわけにはいきませんよね」

馬刺し「ブルルッ」

女騎士「向こう岸が遠いです。まるで海みたいですね……」

女騎士「舟か……それか橋はないのでしょうか」

女騎士「もう少し川沿いを行けば村があると思うのですが」



女騎士「……あっ、ありました。小さいですけど集落です」

298: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 16:29:34.841 ID:0xT6o7hd0
女騎士「すみません」


シーン…


女騎士「どなたかいらっしゃいませんかー」


シーン…


女騎士「も、もしもーし」


シーン…


女騎士「おかしいですね……」

女騎士「少し前まで生活していた痕跡はあるのですが」

303: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 16:59:23.876 ID:0xT6o7hd0
村人「なんだ騒々しい。まだ逃げてない奴がいたのか」

女騎士「ああ、よかった……人がいました」

村人「ああん? 嬢ちゃん、見かけない顔だな。旅人か?」

女騎士「そのようなものです」

304: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 16:59:54.134 ID:0xT6o7hd0
女騎士「東の霊峰に行くために川を渡りたいのですが。何か渡る手段……舟などはないのですか?」

村人「はん、そんなものはないよ」

女騎士「そんな……しかしそれでは川の向こう側との行き来が取れません。今までも何らかの方法でやりとりをしていませんでしたか?」

村人「……海魔だよ」

女騎士「海魔?」

村人「あぁ」

305: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 17:01:55.206 ID:0xT6o7hd0
女騎士「川なのに?」

村人「うるせえ」

306: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 17:02:24.396 ID:0xT6o7hd0
村人「……あいつが現れるようになって、舟はみんなぶち壊されちまった。この村も、大半が川に面している。どいつもこいつも化け物をこわがって、みんな逃げちまいやがった」

女騎士「……あなたは逃げなかったのですか?」

村人「……どのみち老い先短えんだ。どうせ死ぬならこの村と一緒に死んでやらぁ」

女騎士「村人さん……」

308: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 17:07:12.353 ID:0xT6o7hd0
女騎士「わかりました。わたしがその海魔を退治してきましょう」

村人「はん、やめとけやめとけ。嬢ちゃんなんかが行ったところでニュルニュルの触手にとっ捕まって川の中に引きずり込まれて溺れ死ぬだけだ」

女騎士「た、たこなのですか……?」

村人「……いや、見たことはねえけどよ」

310: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 17:14:16.930 ID:0xT6o7hd0
村人「何せ、見たことあるやつは誰も帰って来ねえんだ」

村人「俺の息子もよ、俺ん家は代々あの川を舟で渡す仕事をしていたんだが」

村人「……息子が、最初の犠牲者だった」

村人「いつも通りに出掛けたと思ったら、それ以来とんと帰って来ねえ」

村人「捜索隊も出されたが、そいつらも帰って来ねえ」

村人「ある日村の川岸に舟の残骸が流れ着いてなあ」

村人「ありゃあ、間違いねえ。俺の家の舟のもんだ……見間違うはずもねえ……」

村人「くそ、何で息子なんだ……持ってくならこの老いぼれのタマ取っていきやがれってんだ……」

女騎士「…………」

312: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 17:26:05.300 ID:0xT6o7hd0
女騎士「村人さん。本当に舟はないのでしょうか」

村人「……あんた、何考えてやがる」

女騎士「わたしがその海魔を退治してきます」

村人「やめとけっつってんだろ。……これ以上若いモンが死んでくのを見るのはゴメンだよ俺ァ」

313: VIPがお送りします 2018/03/21(水) 17:27:32.670 ID:0xT6o7hd0
女騎士「…………」

村人「…………」

女騎士「…………」

村人「…………なぁ」

女騎士「はい」

村人「本当に、倒せるのか? あんたが?」

女騎士「はい」


村人「…………いい目をしやがる。その腰に下げた剣は本物ってわけか

女騎士「もとより」


村人「仕方ねえ、舟を出してやる。正真正銘、この村に残った最後の一隻だ。付いてきな」

女騎士「! ありがとうございます!」

366: ◆n3NUgrtbv6 2018/03/22(木) 00:04:58.572 ID:+XRUC74z0
ザザーン…


女騎士「う…………!」


村人「女騎士……!」


女騎士「く…………!」


村人「くそっ、大丈夫か! 頑張れ!」


女騎士「うぅ…………」


村人「まさか……まさか」


女騎士「おえぇ…………」


村人「あんたがここまで舟に弱えとは」

369: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 00:05:54.504 ID:+XRUC74z0
村人「おいしっかりしろ! まだ漕ぎ出してすぐじゃねえか!」

女騎士「だ、大丈夫です……すぐに慣れます」

村人「ふ、船酔いって慣れるモンなのか」

女騎士(勇者さまと旅をしているときも舟は乗ったはず……こんなとき、どうしてましたっけ……)



女騎士(……あ。……ずっと僧侶に背中をさすってもらっていました……)

372: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 00:11:53.439 ID:+XRUC74z0
村人「くそっ、こんなときに海魔に遭遇でもしたら……」



ザパーン!


海魔「ニョロニョロ……久方ぶりの獲物だぁ……」

村人「来やがった!」

373: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 00:16:39.420 ID:+XRUC74z0
海魔「今回はスジ張ったジジイか。こりゃあまた固そうなヤツで」

海魔「はぁ……どうして船乗りってのは野郎ばっかなんだろうねぇ」

海魔「迷信だかナンだか知らねえが、おれももうちょっとこう……華のある獲物と遊びてぇんだがなァ」

海魔「村にいた娘どもも逃げちまったようだし」

海魔「……ん?」


女騎士「きゅぅ……」


海魔「へぇ」

376: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 00:20:45.478 ID:+XRUC74z0
海魔「感心じゃねえか爺さん、わざわざおれのために贄を用意してくれたってのかァ?」

村人「そんなこたぁねぇ! この御仁はおめぇを倒すために来たんだ!」

海魔「それはいいんだがよぅ」


女騎士「うぷ…………」


海魔「おれが言うのはナンだが、大丈夫かそいつ」

村人「くっ!」

380: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 00:27:53.728 ID:+XRUC74z0
海魔「まあいいや、ありがたく貰っていくぜ」

シュルルルル

村人「く、くそっ、離しやがれ!」ガンガン!

海魔「そんな櫂でいくら殴ったって無駄だぜ……ニョロニョロ、安心しなぁ。すぐに殺しゃしねえ」

海魔「あんたもこいつをここに連れて来てくれた礼に、見逃してやってもいいぜ。あばよ!」


ザパーン!

381: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 00:36:40.279 ID:+XRUC74z0
ゴポゴポ…


女騎士(う……ここは……)

海魔「よぅ、気がついたかよぉ」

女騎士(か、体ににゅるにゅるが絡みついて……!)

海魔「ニョロニョロ……いいなアンタ……ここ最近、獲物と言ったら船乗りの筋肉質なおっさんばっかりでおれも頭がどうなっちまうかと思ってたんだぁ」

女騎士「!」

女騎士(その中に、村人さんの息子さんも……!)

海魔「ありゃあダメだな、スジばっかで固くて。喘ぐ声も野太いモンで全然唆らねえ」

女騎士「…………!」

387: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 00:53:32.846 ID:+XRUC74z0
海魔「さて、そろそろお楽しみと行こうじゃねえか。……わざわざ意識が戻るまで待ってやったんだ。この意味わかるよなぁ」

シュルルルル

女騎士「!」

女騎士(触手が動いて……!)

女騎士(わっ、わっ……)

海魔「へへ、まずはどうしてやろうか。まずはその硬そうな鎧を剥いで……いや、付けたまま中に入れてやるってのも悪くねえな……」

女騎士(うぅ……気持ちが悪いです……!)

女騎士(…………ですが……)


海魔「……ニ〝ュ ッ!?」


スパパン!


女騎士(船酔いは、もう収まりました)

388: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 00:55:52.332 ID:+XRUC74z0
海魔「チッ、てめぇ……おれの触手を……!」

女騎士(しょせんはたこです。いくら水中で剣が鈍るとは言え、この程度斬れないわたしではありません)ガボガボ

海魔「くっそ、水ん中で何言ってるかわかんねえけど馬鹿にされたのはわかるぞ!」

390: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 01:04:53.347 ID:+XRUC74z0
海魔「!」

海魔「そうか! 思い出したぞ!」

海魔「おまえ、昔おれが勇者たちと戦ったときにいた……」

女騎士「…………」

海魔「僧侶に背中をさすられてた女だな!」

女騎士「…………」ガボガボ

393: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 01:11:26.597 ID:+XRUC74z0
女騎士(わたしはいまいち覚えていませんが)

女騎士(どうやらこの魔物も、呪術師の手で蘇った魔物のようですね)

女騎士(…………)

女騎士(……もう、大人しく……)

女騎士(冥界に帰りなさい!)

ズバン!

394: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 01:12:19.428 ID:+XRUC74z0
海魔「くぁ……くそ…………」

海魔「あのときは大したことねえヤツだと思っていたが……くそ、ここまでやるとはな……!」

女騎士「…………」

海魔「へへっ……おれもなかなかしぶとい方だが、こんなに見事に斬られちゃどうにもならねえなぁ」

女騎士「…………」

海魔「お前が気絶してる間にもうちょっと……楽しんでおけばよかったぜ……」

ズズゥン…!

女騎士(村人さん……)

397: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 01:15:25.743 ID:+XRUC74z0
女騎士(海魔は……倒しましたよ……)

女騎士(とにかく水上に上がって安心させてあげないと……!)

ワシャワシャ

女騎士(……あ。)



女騎士(鎧が重くて浮けません)

400: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 01:31:06.181 ID:+XRUC74z0
女騎士「ぷはぁっ!」

村人「じょ、嬢ちゃん!」

女騎士「む、村人さん……」

村人「ヤツは……?」

女騎士「……倒しました」

村人「…………そうか。……そうか」

村人「……………………ありがとよ……」

女騎士「…………」

402: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 01:31:37.630 ID:+XRUC74z0
女騎士(死者の命は戻ってこない……)

女騎士(わたしがもっと早ければ……)

女騎士(……いいえ。わたしにできるのは、先を急いで、このようなことを繰り返さないようにするだけです)

403: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 01:32:07.800 ID:+XRUC74z0
女騎士「村人さん、ありがとうございました」

村人「本当にもう行っちまうのかい」

女騎士「えぇ。わたしにはやらなければならないことがありますから」

村人「……すまねえな。あの立派な鎧も失くしちまってよ。ウチの村にはああいう装備は置いてねえんだ」

女騎士「気にしないでください。鎧はまた買えばいいのですから」

405: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 01:33:45.151 ID:+XRUC74z0
女騎士「それより、この子を舟に乗せていただいてありがとうございます。サイズ的に大丈夫か不安だったのですが」

村人「ああ。俺も初めての経験だったが、大人しいお馬で助かったぜ。名前はなんてぇんだ?」

女騎士「馬刺しです」

村人「ばっ……そりゃまた個性的な名前だな」

女騎士「えぇ。とってもいい子なんですよ」

馬刺し「ブルルッ」

村人「そ、そうかい」

410: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 01:54:03.424 ID:+XRUC74z0
その頃

幼馴染「勇者……もう体は大丈夫なの?」

勇者「ああ。これ以上怠けていると体が鈍る」ブン!ブン!

勇者「それに…………そろそろ来るころだと思っていた」


ビュッ

ズバン!


幼馴染「なっ……」

勇者「ワーウルフ。この辺にいる魔物じゃないが。群れだな」

勇者「……魔物使いか」

勇者「聖剣が折れたからって人のこと舐めやがって」

勇者「こんなので俺が死ぬわけがねえだろう」

411: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 01:54:49.599 ID:+XRUC74z0
パカラッパカラッヒヒーン

女騎士「あれが東の霊峰……」

女騎士「近くで見るとなかなか大きいですね……」

女騎士「麓に村などはないのでしょうか」

女騎士「馬刺しを預けなければなりませんし」

女騎士「さすがに、お前を山登りに付き合わせるわけにはいきませんからね」

馬刺し「ヒヒーン」

419: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 02:13:05.923 ID:+XRUC74z0
女騎士「麓の村を見つけましたが……」

女騎士「どうやら戦闘中のようですね」

女騎士「こんなところにも魔王軍が……」

女騎士「急ぎます。頼みますよ馬刺し」

馬刺し「ヒヒーン!」

420: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 02:15:53.742 ID:+XRUC74z0
戦士「よっ」

ズガッ

魔物「ギィィー……」

戦士「チッ、一匹一匹は大したことねえが」

ザシュッ

魔物「ギャンッ!」

戦士「数が多すぎるな」


蟲男「その辺りで大人しくしてもらおうか」

戦士「人型か」

子ども「せ、戦士の兄ちゃん!」

戦士「てめぇ……」

蟲男「なに、お前を倒すために手段なんて選んでる暇はなさそうでな」

蟲男「悪く思うなよ。イノシシ頭にはこれが一番聞くと聞いた」

421: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 02:16:21.501 ID:+XRUC74z0
蟲男「そら、何をしている。武器を捨てろ」

戦士「…………」

ガラァン…


子ども「に、兄ちゃん……」

蟲男「よしよし。それでいい。わかっているじゃないか人間」

422: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 02:16:53.358 ID:+XRUC74z0
戦士「子どもを離せよ」

蟲男「まぁ待て。お前には散々煮湯を飲まされ続けてきたんだ。少しくらいいいだろう?」


魔物「…………」

魔物「…………」

魔物「…………」


戦士「はぁ。好きにしやがれ」

423: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 02:17:31.091 ID:+XRUC74z0
蟲男「くひひっ。そら、まずは目玉から喰って……」

女騎士「はっ!」

ズバッ


蟲男「がはっ」

戦士「!」

425: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 02:22:48.408 ID:+XRUC74z0
蟲男「せ、背中から斬るとは……卑怯な……」

女騎士「人質を取っているあなたには言われたくありませんっ」キンッ

子ども「わっ……すごい……」


戦士「女騎士!」

女騎士「はい!」

ビュッ

パシィッ!

戦士「おぉ!」

ズバババッ!

魔物の群れ「ギィィィィィ!!」

426: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 02:26:33.234 ID:+XRUC74z0
女騎士「む。あの魔物を倒したら一気に退いていきましたね」

戦士「礼は言わねえからな。武器なんか無くたって、噛み付いてだって勝ってやるんだ俺は」キンッ

女騎士「相変わらずですね。戦士さん」

427: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 02:30:39.544 ID:+XRUC74z0
蟲男の死体「………………………………」

ガサガサッ

439: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 03:08:54.459 ID:+XRUC74z0
女騎士「ここが戦士さんの故郷だったのですか」

戦士「ああ。こんな辺鄙な場所にあるが……まあ悪い所じゃねえよ」

女騎士「……へぇ」

戦士「なんだよ」

女騎士「ふふっ。戦士さんのそういう顔は初めて見ました」

戦士「……やっぱりお前と話していると調子が狂うぜ」

440: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 03:11:05.241 ID:+XRUC74z0
女騎士「魔法使いさんはどちらに? せっかく来たのですから、一度ご挨拶したいのですが」

戦士「ああ。王都の騎士団にいるはずのお前が何だって一人でこんな所にいるのかとか、こっちも色々聞きたいしな。一度うちに寄ってけ」

戦士「最近の魔王軍のこととか、知ってんだろ?」

女騎士「えぇ。お話するつもりです」

441: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 03:14:58.427 ID:+XRUC74z0
戦士「……………………あー」

戦士「だが……まぁ、なんだ、その。魔法使いなんだがよ……」

女騎士「……む。珍しく歯切れが悪いですね。まさか、なにかあったのですか」

戦士「いや……まあお前が心配するようなことは何もねえんだが」

女騎士「なんですか」

戦士「……………………」


戦士「…………その、デキちまってな」

女騎士「え?」

442: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 03:15:44.480 ID:+XRUC74z0
戦士「ガキが、デキちまったんだよ」

女騎士「……………………」

女騎士「……………………」



女騎士「……………………ふぇ?」

443: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 03:20:48.026 ID:+XRUC74z0
魔法使い「あっ! 女騎士!」

魔法使い「久しぶりね、元気にしていたかしら」

女騎士「魔法使いさん……あのときの王都以来ですね」

魔法使い「どうしてこんな所に? まさか一人で来たの?」

女騎士「うぅん……そこは話すと長くなってしまうのですが。どこから話しましょうか」


戦士「……ほら、茶だ。」

女騎士「……せ、戦士さん」

戦士「ンだよ」

女騎士「戦士さんが……お茶を……!?」

戦士「……………………うるせえ! いらねえなら俺が飲む!」

ゴクゴクゴクゴク


女騎士「あぁっ、そんな!」

魔法使い「うぅん、懐かしいわね」

444: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 03:24:45.520 ID:+XRUC74z0
魔法使い「戦士ったら、子どもができたことがわかった途端から急にこうなのよ」

魔法使い「まだお腹も大きくなってないし、わたしは全然大丈夫なんだけど」

魔法使い「今日だって魔王軍が来たって言うからわたしも出ようとしたのに。お前はここに残ってろって」

魔法使い「そのおかげでピンチになったところをあなたに助けてもらったみたいだけど?」

戦士「……その話はもういいじゃねえか」

446: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 03:35:24.276 ID:+XRUC74z0
魔法使い「ねね、わたしたちの話なんかより貴女の話よ女騎士」

魔法使い「戦士の故郷、知らなかったそうじゃない。じゃあわたし達に会ったのも偶然だし。こんな所にはるばるどうしたの? 鎧も着てないし、王都の騎士団はどうしたの?」

女騎士「う。」


女騎士「…………」チラッ


戦士「…………」ジロッ


魔法使い「?」

447: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 03:40:32.072 ID:+XRUC74z0
少し前

戦士『あいつの前で、魔王軍だなんだの物騒な話はしないでやってくれねえか』

戦士『あいつのことだから、そんな話聞いて黙ってるわけがねえ』

戦士『ガキのこともある。少しはジッとしといてほしいんだよ、頼む』

戦士『代わりに俺が全部聞いてやる。あいつに会う前に全部ここで喋ってけ』

女騎士『戦士さん……』

456: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 04:38:24.363 ID:+XRUC74z0
魔法使い「へぇ……あのときのお城の呼び出しからそんなことに」

魔法使い「女騎士は職柄わたしたちの中で一番安定してると思ってたんだけど、人生何があるかわからないわね」

女騎士「そ、そうですね。自分でもびっくりしてます」

魔法使い「それで、霊峰なんかに何の用事があるの?」

女騎士「はい。実は勇者さまの、」

戦士「…………」

ガシャン!

魔法使い「あっ、ちょっと戦士。またやったの!?」

戦士「……すまねえ」

魔法使い「もう、慣れないことするからそうなるのよ」



戦士「…………」ジロリ

女騎士(は、はわわ……)ブンブンブン

458: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 04:43:03.185 ID:+XRUC74z0
女騎士「ゆ、勇者さまの故郷に立ち寄る機会がありまして。女神の祠の書物に、霊峰の聖槍の件が書かれていまして。見聞を広めるためにもそのような所を回っているのです」

魔法使い「ふぅん。意外。貴女ってそういうの興味あったのね」

女騎士「あ、あはは。やることもないですしね」

戦士「…………」ハラハラ

459: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 04:44:41.834 ID:+XRUC74z0
蟲「…………」

ガサガサ…

460: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 04:52:51.595 ID:+XRUC74z0
女騎士「それでは、わたしは霊峰を見てこようと思います」

魔法使い「えぇ。わたしもついて行ってあげたいけど、戦士がうるさいからやめておくわ」

戦士「ケッ」

女騎士「ふふ。お二人とも仲が良くて羨ましいです」



女騎士「では、馬刺しをお願いしますね」

馬刺し「ブルルッ」

戦士「あぁ。……お前のセンスにはもう突っ込まねえけど。もうちょっとどうにかならなかったのか」

馬刺し「ヒヒーン!」

462: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 05:06:09.110 ID:+XRUC74z0
女騎士「ここから先は、ひとりですね」

女騎士「久々の山登りです」

女騎士「勇者さまたちと旅をしているときは、北の山から南の山まで踏破したものですから、慣れたものですね」


女騎士「……………………」


女騎士「……………………」


女騎士「……………………」

463: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 05:06:40.533 ID:+XRUC74z0
女騎士「わぁ。いい眺めですね」

女騎士「戦士さんたちの村も見えます」

女騎士「ここらで少し休憩にしましょうか」

女騎士「魔法使いさんからいただいたお弁当」

女騎士「おなかも空きましたし、ちょうどいいですね」

464: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 05:08:40.346 ID:+XRUC74z0
キィ、キィ……


女騎士「……おや?」


鳥「キィ、キィ…」


女騎士「きれいな白色の鳥ですね……」

女騎士「怪我をしているのでしょうか」

鳥「キィ…」

女騎士「…………」

466: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 05:14:08.942 ID:+XRUC74z0
ゴソゴソ


女騎士「お食べなさい」

鳥「…………」

女騎士「……うぅ」

女騎士「サンドイッチなら、食べられると思ったのですが」

女騎士「……パンとハムなら食べられますよね」

女騎士「レタスはわたしが食べましょう」シャクシャク

女騎士「……どうですか」

鳥「…………」


パクッ


女騎士「わぁっ、食べた!」

467: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 05:16:46.649 ID:+XRUC74z0
ゴソゴソ


女騎士「これでよし、ですね」

女騎士「あまり本格的な治療はできませんが、わたしは騎士」

女騎士「これでも応急的な処置ならできるのです」

鳥「キィ」

468: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 05:21:05.054 ID:+XRUC74z0
女騎士「それではわたしはこれで。あまり無理をしちゃだめですよ」

鳥「キィ」

469: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 05:21:59.115 ID:+XRUC74z0
女騎士「……………………」


ペタペタ


女騎士「……………………」


ペタペタ


女騎士「……………………」クルッ


鳥「…………」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)

470: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 05:23:43.300 ID:+XRUC74z0
女騎士「……………………」


ペタペタ


女騎士「……………………」


ペタペタ


女騎士「……………………」クルッ


鳥「…………」


女騎士「ついて来たいのですか」

鳥「キィ」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)

472: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 05:27:22.821 ID:+XRUC74z0
女騎士「しょうがないですね」

女騎士「ここで会ったのも何かの縁です。一緒に行きましょうか」

鳥「キィ」

女騎士「となると、お前にも名前をつけてあげないといけませんね」

女騎士「うーん。……>>477なんてどうでしょう」

479: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 05:44:38.942 ID:+XRUC74z0
女騎士「うん、決めました! あなたの名前は焼き鳥です!」

女騎士「よろしくお願いしますね、焼き鳥!」

鳥「キィ」

481: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 05:54:52.629 ID:+XRUC74z0
焼き鳥「キィ」

バサバサッ

女騎士「おや、肩に。焼き鳥、このくらいの高さなら飛べるようになったのですね」

焼き鳥「キィキィ」

女騎士「では、行きましょうか」


女騎士「……………………」


女騎士「……………………」


女騎士「ここが、霊峰の。勇者さまの故郷とは別の、もう一つの女神の祠ですね」

焼き鳥「キィ」

482: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 06:10:03.655 ID:+XRUC74z0
女騎士「ごくり……」

女騎士「ではさっそく、入ってみましょう」


パチッ!


女騎士「きゃっ!?」

焼き鳥「キィ、キィ!」

484: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 06:10:50.173 ID:+XRUC74z0
馬刺し「!」

馬刺し「ヒヒーン!」

戦士「! お前、急にどうした!」

馬刺し「ブルルッ!」

馬刺し「ヒヒーン!」

戦士「あ、待て!」


パカラッパカラッ…


戦士「行っちまった」

戦士「今まで大人しかったくせに、急に暴れ出しやがって」

戦士「走ってったのは霊峰の方か……」

戦士「……まさか、女騎士に何かがあったのか?」

485: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 06:13:10.538 ID:+XRUC74z0
女騎士「うぅん……」

女騎士「はっ。ここは……」

女騎士「真っ暗ですね。何も見えません」

焼き鳥「キィキィ!」

女騎士「あっ、焼き鳥。無事だったのですねっ」

493: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 07:08:13.030 ID:+XRUC74z0
女騎士「さっきのは……結界、でしょうか」

女騎士「触れた途端にこんな状態になってしまいました」

女騎士「やはり、この祠には何かがあるのでしょうか」


「……女騎士どの、女騎士どの……」


女騎士「!」

494: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 07:08:59.645 ID:+XRUC74z0
女騎士「だ、誰ですかっ」

??「ぐふふ。気がつかれましたかな」

女騎士「あ、あなたはっ」


女騎士「あのときの領主さま!」

領主「どうされましたかな、女騎士どの」

女騎士「い、いえ。でも、どうしてこんな所に」

領主「女騎士どのはお疲れのご様子。私が見ておりますから、そこでお眠りになってはどうですかな」

女騎士「ひっ」

495: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 07:09:24.841 ID:+XRUC74z0
「ウェヘヘへ……」

女騎士「!」


オーク大将「ウェヘヘへ、おれごのみのメスだ。ヨメにこい」

女騎士「オ、オークまで!?」


オーク大将「髪が金なのがいいし、ハダが白いのもいい。ほそっけぇようにミえて肉付きもわるくねぇ」

女騎士「………あわわ」ゾゾゾ

496: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 07:09:51.675 ID:+XRUC74z0
女騎士「あ、相変わらず気味の悪い……」


「女騎士……女騎士……」


女騎士「こ、今度は……まさか……」

吸血鬼「あぁ……君に会いたかった……君のその白い首筋にかぶりつきたい」

女騎士「吸血鬼……!」

497: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 07:11:07.001 ID:+XRUC74z0
女騎士「これは……」


「女騎士どの……女騎士どの……」

「ウェヘヘへ……」

「君の血が欲しい……」

「ニュルニュル……」


焼き鳥「キィ、キィ!」

女騎士「焼き鳥、安心してください。これはどうやら……」

女騎士「幻覚、みたいですね……」

499: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 07:16:39.050 ID:+XRUC74z0
女騎士「…………」

女騎士「どうやらひとのトラウマのようなものを映し出す類の幻覚のようですが」


「汗をかいておられるご様子。どれ、拭いて差し上げましょう」

「ウェヘヘへ、ヨロイも砕けて、イイかっこになったじゃねえか」

「全身私好みのいい匂いといい色だ」

「へへ、まずはその硬そうな鎧を剥いで……いや、付けたまま中に入れてやるってのも…」


女騎士「あの……」

女騎士「もうちょっとマシな人選はなかったのでしょうか」

503: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 07:36:02.803 ID:+XRUC74z0
その頃

勇者「とりあえず幼馴染は師匠の所に預けてきた」

勇者「まぁあの爺さんなら大丈夫だろう」

勇者「少し助平な所が心配だが、ほとぼりが冷めるまでは我慢してくれよ」

勇者「さっさとこの騒動を終わらせないとな……」

勇者「む。また魔物の群れか。……魔物使いめ……しつこい奴だ」

ザンッ
ズバッ
ザシュッ
ズガッ

ピキッ

勇者「ん?」


ボキッ

勇者「あ」

504: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 07:36:36.270 ID:+XRUC74z0
勇者「ちくしょう! また折れやがった!」

勇者「結構高かったくせに! あのオヤジ、掴ませやがったな!」

508: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 07:54:18.909 ID:+XRUC74z0
魔物「ギィィィ!」

勇者「くそっ!」バキッ

ジワ…

勇者「ちっ」

勇者(傷が開いて来やがった)

勇者「せめて剣さえあれば……!」



??「そこの兄さん、剣が入り用かい?」

勇者「!」

509: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 07:55:58.165 ID:+XRUC74z0
パシィ

勇者「こいつは……」


ガサ…


盗賊「見てたぜ。相当腕っ節がお強いようで。こいつらが町に来てまた防壁ぶっ壊す前に追っ払っちゃくれねえか」

勇者「……こいつはありがたい。誰だか知らんが助かったぜ」スラッ

盗賊「頼りにしてるぜ」

盗賊「…………」

盗賊(……なんか前にもこんなことがあったなぁ)

盗賊(まあ、あのときと違って安物だけどよ。フリーターが用意するにしちゃ上出来のモンだろ)



ボキッ

盗賊「ん?」

勇者「あ」

510: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 07:59:45.604 ID:+XRUC74z0
盗賊「……うっそだろアンタ! もう折ったの!? 新品だぞそれ!?」

勇者「う、うむ。すまん。つい昔の感覚で……」

盗賊「ちっ、とりあえずこっちだ! 逃げるぞっ」

勇者「……それにしても新品でコレって、また随分な……」

盗賊「どうせ安物だよ、悪かったなちくしょう!」

517: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 08:43:46.790 ID:+XRUC74z0
女騎士「……………………」


「………女騎士………女騎士………」

「……残念だが、君を騎士団から除名する……」

「………足りない……まだ足りない……魔王様………」

「……結局、ひとりでは何もできぬ弱者よ……」


女騎士「さ、さすがに。いくら幻覚とわかっていても、そろそろ気分が悪くなってきました」

女騎士「これ、いつ終わるのでしょう」

焼き鳥「キィ…」

518: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 08:44:11.641 ID:+XRUC74z0
「ヒヒーン!」

女騎士「!」

519: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 08:44:40.542 ID:+XRUC74z0
女騎士「馬刺し……いえ。あの子は戦士さんの所に置いてきたはず」

女騎士「これも幻覚……幻聴なのでしょうか」

女騎士「しかし、馬刺しの幻聴にいったい何の意味が……」


馬刺し「ヒヒーン!」


女騎士「!」

女騎士「これは……幻聴じゃない! 馬刺し!」

521: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 08:49:33.362 ID:+XRUC74z0
馬刺し「ヒヒーン!」

女騎士「もうっ。大人しくしていてと言ったはずですよ」

女騎士「こんな所にまで来るだなんて」

馬刺し「ブルルッ」

女騎士「でも……ふふっ。ありがとうございます。少し心細かったところでした」

焼き鳥「キィ、キィ!」

女騎士「あっ。ごめんなさい。焼き鳥のことも忘れていないですよ」

522: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 08:52:11.053 ID:+XRUC74z0
バサバサッ

焼き鳥「キィ、キィ!」

馬刺し「ブルルッ」

女騎士「ふ、ふたりとも? どこへ行くんですか」

女騎士「…………」

女騎士「……ついてこいということでしょうか」

523: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 08:54:14.580 ID:+XRUC74z0
女騎士「……………………」

女騎士「……………………」

女騎士「……幻覚が無くなりました」

女騎士「やはりこちらで合っているのでしょうか」

女騎士「!」

女騎士「暗闇が晴れていく……」 👀


524: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 08:55:18.374 ID:+XRUC74z0
女騎士「!!」

女騎士「あっ、あれはまさか……」



女騎士「聖槍……」

528: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 09:04:34.117 ID:+XRUC74z0
女騎士「こ、これが……」

女騎士「り、立派な槍ですね……すごく大きいです……」

女騎士「聖槍が刺さっている台座も、なんだかそれらしくしっかりしていますね」

女騎士「……………………」

女騎士「……………………」

女騎士「えいっ」ズボッ

女騎士「意外と簡単に抜けましたね」

529: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 09:05:01.089 ID:+XRUC74z0
女騎士「あっ、台座に何か書いています」

女騎士「ふむふむ。『強き者。心優しき者。清らかなる乙女。白く疾き翼を従え聖槍を振るい、魔を滅する』」

女騎士「…………」

女騎士「あっ」

530: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 09:05:26.857 ID:+XRUC74z0
女騎士「ま、まずいですよ馬刺し! 焼き鳥!」

女騎士「ここに乙女と書いてあります!」

女騎士「勇者さまは男の子なので、聖槍は使えないです!」

馬刺し「…………」

焼き鳥「…………」

533: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 09:07:51.552 ID:+XRUC74z0
女騎士「……とにかく、こうして槍が抜けたのですから一度持ち帰ってみましょう」

女騎士「勇者さまならもしかすれば、使えるかもしれません」

女騎士「何と言っても、これまで不可能を可能にし続けた勇者さまですから」

538: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 09:15:34.008 ID:+XRUC74z0
女騎士「…………」

女騎士「祠から出るときは何も起きないのですね」

女騎士「少しおっかなびっくりだったのですが」

女騎士「ううん、久しぶりに外の空気を吸った気がします」

女騎士「とりあえず、この聖槍を持って戦士さんたちの所に戻りましょうか」

551: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 10:54:18.189 ID:+XRUC74z0
女騎士「!!」

女騎士「あれは……」

女騎士「大変、村が襲われています!」

女騎士「こんな高い所からもわかるほどの数……」

女騎士「戦士さん、魔法使いさん!」

552: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 10:55:48.983 ID:+XRUC74z0
蟲男「くひひっ、また会ったなぁ戦士」

戦士「てめぇ……! あのとき斬られただろうが」

蟲男「……あぁそうだ。あの女騎士め」

蟲男「ようやくしぶとい貴様を殺せるって時に限って邪魔をしやがって」

蟲男「おかげで身体を集め直すのに余計な時間がかかっちまった」

蟲男「今度あったらタダじゃおかねえ。蟲の海に沈めてじっくりと嬲ってやる」

戦士「…………」

蟲男「そんな怖え顔すんなよ。……それに、聖槍だったか」

戦士「!」

蟲男「せっかく苦労して聖剣を折ったってのに、そんなもんをまた勇者に渡されちゃたまったもんじゃねえ。どの道あいつはここで始末するつもりだよ」

553: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 10:56:44.964 ID:+XRUC74z0
戦士「……だが、あいつのおかげで読めたぜ蟲野郎。その体は蟲の寄せ集めで、どっかに核になる本体の蟲がいるんだろ」

蟲男「……これはこれは。イノシシにしてはよく考えたじゃないか」

蟲男「まあ答え合わせをしてやる義理は無いがな」

戦士「ちっ」

戦士(厄介だな。俺や女騎士じゃ相性が悪りぃ)

戦士「…………」

戦士「その上、てめぇまで居やがるのか」

竜人「ふん」バサッ

554: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 10:57:08.764 ID:+XRUC74z0
竜人「蟲男。俺は俺で好きにやらせてもらうぞ」

蟲男「へいへい、好きにしろ。アンタは暴れてくれるだけで十分だよ」

竜人「ふん」

戦士「…………」

555: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 10:58:22.053 ID:+XRUC74z0
魔法使い「戦士!」

戦士「! お前……引っ込んでろっつっただろうが」

魔法使い「そうも言ってられないでしょう。人型が二体。それに竜人の方は幹部級じゃない。何で倒したはずのこいつが蘇ってるのかはわからないけれど!」

戦士「……ったく、仕方ねえ。怪我すんじゃねえぞ!」

556: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 10:59:56.844 ID:+XRUC74z0
女騎士「急いで戻らないと……馬刺し!」

馬刺し「ブルルッ」

女騎士「この斜面を走って下るのは少し怖いですが……そうも言っていられません」

女騎士「……やれますね?」

馬刺し「ヒヒーン!」

女騎士「行きましょう、最短距離で!」

595: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 16:58:56.443 ID:+XRUC74z0
その頃

呪術師「…………」

呪術師「…………」

呪術師「少々邪魔が入ったが、あと少し」

呪術師「あぁ、魔王様……」

魔物使い「呪術師」

呪術師「……何の用だ」

魔物使い「……勇者が、かつての仲間の二人と合流した」

596: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 16:59:25.109 ID:+XRUC74z0
呪術師「!」

呪術師「僧侶と武闘家か」

呪術師「だが、もう聖剣は無い。魔王様さえお戻りになれば、勇者など大した問題ではない……」

魔物使い「呪術師。すでに聖剣が無いからと、あまり勇者とその仲間をあなどるべきではない」

呪術師「……。残りの連中には手を打っている」

呪術師「あぁわかっているさ。仮にも一度は魔王様を討った男だ。油断などするものか」

598: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 17:31:25.116 ID:+XRUC74z0
戦士「…………ぐっ……」

魔法使い「戦士!!」


竜人「……蟲男。どういうつもりだ」

蟲男「ああ? どういうつもりも何も、ちょいと助太刀してやっただけじゃねえか」

竜人「貴様……!」

蟲男「別にいいだろうそのくらい。互いに互いを利用しあう。そこの人間どももよく使う手だ」

蟲男「まあ、今回は事前に蒔いたタネを利用させてもらったがな。前回目を付けといてよかったぜ。再利用ってヤツだ」

蟲「……………」ワシャワシャ

子ども「………………」

戦士「ちっ、ワンパターンな野郎だ……」

魔法使い「……ッ!」

蟲男「おっと。杖を下ろせ魔法使い。お前の魔法は厄介だ。動けばこいつの目玉をくり抜くぞ」

599: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 17:32:31.610 ID:+XRUC74z0
蟲男「くひひっ。いいザマだ。さっきまでの威勢はどうした」

戦士「…………」


魔法使い「……このッ」

竜人「魔法使い。やめておけ」

魔法使い「!」

竜人「竜の鱗は魔力の動きに聡い。お前が今何をしようとしているかなど手に取るようにわかる」

魔法使い「…………」

竜人「あの男のやり方は気に入らんが……それでも今は、魔王様のことが優先だ。俺も仕事の選り好みはすまい」

魔法使い「なっ、魔王の……まさか……」

竜人「それより、呪術師は生贄の質が低いと嘆いていたな。お前の保有する魔力。連れて行けばまず間違いなく魔王様の復活の一助となるだろう」

魔法使い「くっ」

617: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:45:51.743 ID:+XRUC74z0
女騎士「斜面を駆けますよ! 馬刺し!」

馬刺し「ヒヒーン!」

ドドドドドド…

女騎士「……急がなきゃ」

女騎士「もっと、もっと早く」

618: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:46:17.708 ID:+XRUC74z0
ドドドドドド…

女騎士「……………………」


村人『…………そうか。……そうか』

村人『……………………ありがとよ……』


女騎士「もう、間に合わないのは、嫌なんです……!!」

619: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:47:35.138 ID:+XRUC74z0
焼き鳥「キィーーーーーー!」

バサッ

女騎士「…………焼き鳥?」

バサッ、バサッ

女騎士「あなた、なにを……。」

女騎士「ッ!? 聖槍が、急に熱く……!」

620: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:48:09.602 ID:+XRUC74z0
馬刺し「ヒヒーン!」

女騎士「きゃっ!?」

ダンッ!


女騎士「ば、馬刺しっ!? 急に飛び上がるなんてっ」




焼き鳥「キィーーーーーー!」

バサバサッ

621: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:48:29.492 ID:+XRUC74z0
女騎士「なっ……!」

女騎士「焼き鳥が……」

スゥ…


女騎士「馬刺しの中に入って行っちゃいました……」

623: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:49:11.598 ID:+XRUC74z0
馬刺し「ヒヒーン!」

バサッ

女騎士「わっ……馬刺し……飛んでる……あなた、飛んでいます!」

女騎士「なんだか色も白くなって翼も生えていますね」

女騎士「これはまるで天馬のようです!」

女騎士「これも、聖槍の力なのでしょうか……」

625: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:50:45.744 ID:+XRUC74z0
魔法使い「せ、戦士!」

竜人「暴れるな」

ガッ

魔法使い「うっ……」


戦士「てめぇ、魔法使いに手を出すんじゃねえ!!」

蟲男「くひひっ。呪術師は良質な生贄を求めている。数はあるだけいいが、その女もまた良い糧になるだろう」

627: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:51:13.611 ID:+XRUC74z0
竜人「……俺はもう行くぞ。貴様の戦いは見るに堪えん」

バサッ


戦士「空に……! 待ちやがれ!!」

蟲男「余所見をしている場合か?」

戦士「くそっ邪魔すんな!」

ギン!


戦士「魔法使いーーー!!」

629: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:51:46.812 ID:+XRUC74z0
竜人「またくだらん仕事だったな」

竜人「魔王様のためとは言え、またあいつと組むのは御免被りたいものだ」


「ヒヒーン!」


竜人「……む?」

630: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:52:18.857 ID:+XRUC74z0
女騎士「やぁーーーーーーー!!」


ドシュッ!



竜人「がっ……貴様!!」

631: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:54:36.159 ID:+XRUC74z0
女騎士「魔法使いさん、大丈夫ですかっ」

バサッ、バサッ


魔法使い「うぅ……お、女騎士……?」

女騎士「はい。もう大丈夫です」

魔法使い「戦士を……お願い……」

女騎士「…………」


竜人「貴様、女騎士か」

女騎士「竜人……久しぶりですね」

633: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 20:55:41.669 ID:+XRUC74z0
竜人「貴様、女騎士か」

女騎士「竜人……久しぶりですね」

竜人「その天馬……そしてその槍。只者ではないな」

女騎士「……」

竜人「そんな得物をどこで手に入れたかは知らんが……」


竜人「この竜人の背を取った代償、高く付くぞ」

女騎士「……あなたは、そんなものよりも大事なものを取ろうとしました」

女騎士「そちらこそ、覚悟してください!」ジャキッ

635: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 21:09:04.539 ID:+XRUC74z0
ギィン!

ズガッ!

ガキィン!


蟲男「な、何だ……あの天馬は……あの槍は……!」

蟲男「女騎士ぃ……!!」ギリッ


戦士「…………」

戦士「……隙ありだ」

636: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 21:09:35.365 ID:+XRUC74z0
戦士(ちょっと熱ぃが、我慢しろよ。……男だろう)

戦士「…………」

ボッ

子ども「……あつっ」

ジュッ

蟲「ブゥン…」ボトボト


蟲男「な、何だっ! 火だと!? 貴様、戦士だろう!」

戦士「へっ……。俺の嫁を誰だと思ってやがる」

637: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 21:09:54.986 ID:+XRUC74z0
戦士(家事用の炎魔法と水魔法を教わっといてよかったぜ……素人仕事じゃこんなもんで魔力はすっからかんになっちまうし、全然大した威力もねえが)

戦士「おい、怪我はねえか」

子ども「……うん。ちょっとあちってなっただけだよ」

戦士「そ、そうか」

641: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 21:39:57.220 ID:+XRUC74z0
ギィン、ガキィン、ドカッ!

竜人「……魔法使いを抱えたままでは戦いづらそうだな、女騎士」

女騎士「…………」

竜人「……いいだろう、その女を降ろすことを許そう。もちろん蟲男の手の届かぬ所にだ」

女騎士「……罠ですか?」

竜人「俺がそんな手を使う男と思うか」

女騎士「あなたは……。いいえ、そういう人でしたね」

竜人「ついてこい」

バサッ

642: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 21:42:05.898 ID:+XRUC74z0
女騎士「お待たせしました」

竜人「…………行くぞ!」

643: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 21:43:10.012 ID:+XRUC74z0
女騎士「はっ!」

竜人「くっ……」


竜人「以前戦ったときとは別人のようだな……まさか貴様がここまでやるようになっているとは」

竜人「人間で歯応えがあるのは勇者ばかりと思っていた。嬉しいぞ、女騎士」

女騎士「はぁ、はぁ……」

女騎士(この聖槍の力、思ったよりも消耗が激しい……!)

竜人「これこそこの俺が求めた戦いだ。蟲男めの姑息な戦い方に飽いていたところ、まさに望むところ!」

竜人「もっとだ! もっと力を見せろ女騎士!!」ゴォッ

女騎士「…………ッ!」

645: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 21:57:26.913 ID:+XRUC74z0
キィン! ズガッ! ガキィン!

ギィン! ガキィン! ズドッ!


竜人「ハァ……ハァ……」

女騎士「はぁ……! はぁ……!」

竜人「……もう少し愉しませてもらいたい所だが、日も暮れてきた。どうやら、互いに限界も近いようだ」

竜人「次の一撃で決着を付けようか」

女騎士「はぁ、はぁ……望むところです……!」

女騎士「馬刺し、焼き鳥……あなたたちも疲れているでしょうが、最後に力を貸してください……!」

646: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 21:58:40.747 ID:+XRUC74z0
竜人「…………いざ」

女騎士「…………ッ!」


女騎士(信じていますよ、馬刺し、焼き鳥!)


竜人「おぉっ!!」

女騎士「はぁっ!」

バッ


竜人「なっ!! 飛ん……ッ!?」


女騎士「やぁーーーーーーー!!」


ドシュッ…

648: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 22:02:04.270 ID:+XRUC74z0
女騎士「わぁーーっ、落ちてます! 落ちてます!」

ヒューーーー……



「ヒヒーーーーン!!」


女騎士「!」

女騎士「馬刺しっ! 焼き鳥っ!」

651: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 22:07:59.038 ID:+XRUC74z0
ドサッ…

竜人「…………」


バサッ、バサッ…

女騎士「……竜人」


竜人「あぁ……俺の負けだ」

652: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 22:11:59.677 ID:+XRUC74z0
竜人「久方ぶりに、血の滾る、よき戦いだった。……未練はない」

女騎士「…………」

竜人「……あぁ、だが」

竜人「貴様とは、また矛を交えたいものだな……」

653: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 22:17:48.716 ID:+XRUC74z0
ガサガサガサガサッ

蟲「……………………ッ!」

蟲「くそっ、戦士のやろうに細切れにされたッ!」

蟲「なんとか本体だけは逃がせたが、ちくしょう!」

蟲「あいつら、体がまた揃ったら絶対に殺してやる!」

蟲「特に女騎士のヤツは許さねえ!」

蟲「蟲の海に沈めて、泣いて赦しを乞うても嬲り続けてやる……!」

ザッ

蟲「…………あ?」



魔法使い「……………………ふぅん」

655: VIPがお送りします 2018/03/22(木) 22:30:18.985 ID:+XRUC74z0
戦士「で。このビンに入ってる氷漬けのちっこいのが、あいつの本体かよ」

魔法使い「そ。あのままプチッと潰してもジュッと焼いても良かったんだけど。なんだかこのまま楽にしてやるのも癪だったしね」

女騎士「あ、あはは……相変わらずですね、魔法使いさん」

魔法使い「でもいまいち使い道がわからないわ……あなたの鳥、食べるかしらこれ」

女騎士「や、焼き鳥にそんなもの食べさせないでくださいっ」

669: ◆n3NUgrtbv6 2018/03/23(金) 00:00:03.430 ID:fjda8Zj90
その頃

勇者「……金が無え」

盗賊「アンタが剣をポキポキ折っちまうからだろうが」

勇者「……頑丈な剣がほしい」

盗賊「そんな金無えっての」


盗賊「くそ、人が柄にもなく真面目にシコシコ貯めた金全部使ってこれだぜ」

僧侶「ま、まあまあ。私たちも出しますから。ね?」

武闘家「うむ。すぐに折ってしまうとは言え、やはり我々には勇者の剣技が必要だろう……やむを得まい」

勇者「……すまねえ」

武闘家「そう思うのならもう少し大人しい太刀筋を覚えるんだな」

674: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 00:35:43.975 ID:fjda8Zj90
魔法使い「それにしても、戦いが終わったら元に戻っちゃったわね。あなたの馬と鳥」

女騎士「馬刺しと焼き鳥のことですね」

魔法使い「あなたとは長い付き合いになるけれど、そういうところは未だによくわからないわ」


馬刺し「ブルルッ」

焼き鳥「キィ」

675: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 00:40:23.394 ID:fjda8Zj90
魔法使い「それにしてもよく使いこなせてたじゃない、聖槍。調べに行くだけじゃなかったんだ」

女騎士「はい。勇者さまの聖剣の代わりをと思いましてこうして持ってきて……あっ」

魔法使い「勇者? 聖剣? いったい何があったのかしら。竜人や蟲男も気になることを言っていたし」

女騎士「……あわわ」チラッチラッ

戦士「…………はぁ」

676: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 00:43:43.769 ID:fjda8Zj90
魔法使い「……そんなことがあったのね」

女騎士「は、はい」

魔法使い「それにしてもわたしだけに隠し事なんて狡いじゃない。戦士も知ってるみたいだし、僧侶や武闘家も一枚噛んでいるんでしょう」

女騎士「う。」

魔法使い「……わたしだけ、除け者?」

女騎士「そ、そんなことは……」

戦士「もういいだろう魔法使い。お前も気付いてる通り、女騎士に口止めしたのは俺だ」

677: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 00:49:23.185 ID:fjda8Zj90
魔法使い「やっぱりね。もともとこの子に腹芸なんて向いてないのよ。……口止めの理由は、聞かないでおいてあげるわ」

戦士「…………」

魔法使い「とにかく。聞いたからには黙っているつもりはないわよ、わたし」

戦士「!」

女騎士「で、でも魔法使いさん……」

魔法使い「いいから。とにかく、今回の件はそれなりに頭に来たわ。わたし、やられっぱなしは性に合わないの。知ってるでしょう?」

678: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 00:57:51.678 ID:fjda8Zj90
戦士「だがよ、…………」

魔法使い「そんなに気にしてくれるのなら、あなたが守ってちょうだいよね。いつも、そうしてくれたじゃない。それとも、自信がない?」

戦士「……チッ、その言い方は狡ぃだろうが……」



女騎士(魔法使いさん、やけに早口ですね。戦士さんの気持ちは嬉しかったのでしょう)

女騎士(……照れ隠しですかね?)


魔法使い「…………」ジロッ

女騎士「ひっ」

馬刺し「ブルルッ」

焼き鳥「キィ」

679: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 01:09:40.036 ID:fjda8Zj90
魔法使い「ひとまずその聖槍だけれど」

女騎士「はい。勇者さまにお渡ししたいと思います」

魔法使い「はぁ。……あなた、まだそんなことを言ってるの?」

女騎士「?」

魔法使い「いい? 聖槍はあなたを選んだのよ。勇者でも、他の誰でもないあなたを」

魔法使い「ここに来たとき、実はわたしも興味本位で聖槍を見に行ったことがあるの」

魔法使い「それで、最初の結界。あなたは突破したんでしょうけれど、わたしはあれを出れなかったから、魔力で無理やりこじ開けて押し通ったわ」

戦士「お前、女神の祠になんてことしやがる」

680: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 01:17:17.931 ID:fjda8Zj90
魔法使い「それでなんとか聖槍の前に辿り着いたのだけれど、抜けなかったのよ。いくら魔力で小細工しようとしても全然ダメ」

魔法使い「やっぱり台座の碑文に当てはまらなかったからみたいね」

女騎士「そ、そんな。魔法使いさんは強くて優しい乙女ですよっ」

魔法使い「………………………………う、うん。そうね。まあ、最初の結界でズルをしたのもいけなかったのかもしれないわ」

魔法使い「とにかく、勇者にそれを渡してもそれは使えない。あなたが持つべき物なのよ」

709: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 07:00:34.831 ID:fjda8Zj90
呪術師「……………………」

呪術師「……予定よりも魂の集まりが悪い」

呪術師「勇者…………いや、認めよう。女騎士」

呪術師「ついには聖槍を手にし、単独で竜人をも下した」

呪術師「貴様が邪魔だ」

呪術師「……小物の魂を各地で搔き集めるだけでは足りぬ」

呪術師「もっと大量の……」

呪術師「……いや、それとも……」

呪術師「……………………」

710: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 07:02:57.003 ID:fjda8Zj90
女騎士「まずは、勇者さまたちと合流したいと思います」

魔法使い「ごめんなさいね。わたしたちも一緒に出たいのだけれど、少し準備がいるの。戦士の怪我もあるし」

戦士「……俺はこんなの平気だし、昔旅してたときだって生傷は絶えなかったじゃねえか」

魔法使い「あのときは僧侶がいたでしょう。それに、本当にわたしを守ってくれるのなら、あなたは万全な状態でいてくれないとね」

戦士「……ケッ」

女騎士「あはは…」

711: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 07:04:16.155 ID:fjda8Zj90
戦士「……勇者のやろう、腕は鈍ってなかったか」

女騎士「むしろ、以前よりも冴え渡ってるように見えました」

戦士「野郎……。追い越そうとしてもまだ先にいやがるのか。……それでこそだがな」

魔法使い「あら、珍しい。本人の前ではそういうこと言わないのにね」

戦士「うるせえ」

712: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 07:05:40.636 ID:fjda8Zj90
魔法使い「行く宛に心当たりはあるの?」

女騎士「勇者さまも今頃は故郷を出られて、東の方に向かっているかと思います。ひとまずは王都を目指してみるつもりです」

魔法使い「そ。……じゃあ、行ってらっしゃい。怪我しちゃだめよ。」ギュッ

女騎士「魔法使いさん……」ギュッ

魔法使い「……お財布はちゃんと持った? 肌身離さず持ち歩くのよ。あと、荷物は必ず目に届くところに……」

女騎士「そ、それはもういいですからっ」



女騎士「では、行きましょう。馬刺し、焼き鳥っ」

馬刺し「ヒヒーン!」

焼き鳥「キィ」

714: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 07:18:39.339 ID:fjda8Zj90
女騎士「大河川が見えてきました」

女騎士「またあの川を渡るのですね」

女騎士「また天馬の力を借りられれば良いのですが」

女騎士「あれは消耗が激しいし、お前たちも疲れてしまいますものね」

女騎士「長旅のことを思えば、あまり使えるものではありませんね」

馬刺し「ブルルッ」

焼き鳥「キィ」

717: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 07:40:58.146 ID:fjda8Zj90
パカラッパカラッヒヒーン

女騎士「川沿いの村に来ました」

女騎士「前に来たときは人は誰もいませんでしたが、徐々に人が戻りつつあるみたいですね」

女騎士「やはり海魔を倒したのが良かったのでしょう」

女騎士「あの村人さんが住んでいる対岸の村も、同じように復興が進んでいると良いのですが」

女騎士「きっと、大丈夫ですよね」

女騎士「まずは舟を探しましょうか」

724: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 08:47:05.026 ID:fjda8Zj90
パカラッパカラッヒヒーン

女騎士「川沿いの村に来ました」

女騎士「前に来たときは人は誰もいませんでしたが、徐々に人が戻りつつあるみたいですね」

女騎士「やはり海魔を倒したのが良かったのでしょう」

女騎士「あの村人さんが住んでいる対岸の村も、同じように復興が進んでいると良いのですが」

女騎士「きっと、大丈夫ですよね」

女騎士「これだけ人が戻って来ているのなら、舟を出してくれる人もいるはずですよね……」

女騎士「あっ、そこの人。わたし、川の向こうの村に渡りたいのですが…」

725: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 08:47:33.684 ID:fjda8Zj90
二時間後

女騎士「誰も乗せてくれませんね」

馬刺し「ヒヒーン」

焼き鳥「キィ」

726: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 08:49:24.661 ID:fjda8Zj90
女騎士「もうっ。どこに行っても『鳥はともかく馬なんて載せられない』ですって」

女騎士「馬刺しはこんなにいい子なのに」

女騎士「説明しても誰もわかってくれませんね……」

馬刺し「ブルルッ」

女騎士「おおよしよし」

727: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 08:54:59.673 ID:fjda8Zj90
??「おーーーい、嬢ちゃん!」

女騎士「!」

728: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 08:58:38.502 ID:fjda8Zj90
女騎士「あのときの村人さん!」

村人「おう、久しぶりだな。つってもあれからそんなに経っちゃいねえが」

女騎士「こちらの村にいらしたんですね」

村人「あぁ。たまたま仕事でな」

村人「あんたのおかげで村から離れてった奴らもぼちぼち戻ってきた。感謝してるぜ」

女騎士「それは良かったです」

729: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 08:59:49.474 ID:fjda8Zj90
村人「ははぁん、誰も舟を出してくれねえってのか」

女騎士「そうなんです。最初の交渉はうまくいくのですが、みなさん馬刺しのことを知ると途端に嫌そうな顔をしてしまって……」

村人「あぁ。例の海魔にぶっ壊されて、今は舟も少ねえ。そんだけデカイ馬を載せたがる奴はいねえだろうなあ。みんな余裕がねえのさ」

女騎士「大きい……思えば、初めて会ったときよりも少し大きくなりましたね。馬刺し」

馬刺し「ヒヒーン」

737: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 09:31:24.614 ID:fjda8Zj90
村人「霊峰の用事とやらは上手く行ったのかい」

女騎士「おかげさまで。舟を出してくれて助かりました」

村人「おう。帰りの舟も出してやる。たまたま居合わせて良かったなあ、あんたのことなら馬も含めていつでもタダで乗せてやる」

女騎士「あ、ありがとうございます村人さん!」

村人「ついでに渡したいモンもあるしな」

女騎士「?」

村人「まあ、その話は川を渡ってからだな。付いてきな、乗せてやるよ」

738: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 09:31:48.489 ID:fjda8Zj90
女騎士「…………うぷ……」

村人「相変わらず舟に弱えなアンタ」


馬刺し「ブルルッ」

焼き鳥「キィキィ」

740: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 09:48:24.747 ID:fjda8Zj90
女騎士「こ、これは……わたしの鎧……ですが……」

村人「あぁ。あんたの鎧、あの時に沈んじまったままだったろう。村に戻って来た奴らを説得して、一緒に川底を探したんだ」

村人「なんとか見つかったんだが、そん時にゃあこの有様でな」

女騎士「さびさびですね……。ですが、探していただいてありがとうございます。お気持ちだけでも嬉しいです」

村人「いいや、渡したいモンってのはこれじゃねえ」

女騎士「?」

741: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 09:49:49.390 ID:fjda8Zj90
女騎士「……あっ」

村人「村の骨董屋でホコリ被ってたモンだが、主人曰くかなりの一品だそうだ」

村人「金物屋に手入れしてもらって、もう使える状態にはしてある。サイズも、その鎧を使って調整済みだ。もらってやってくれねえか」

女騎士「そんな……こんな立派なものを」

村人「いいんだ。俺たちのせめてもの気持ちだ。受け取ってくれや」

女騎士「村人さん……」

759: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 12:32:07.223 ID:fjda8Zj90
ゴソゴソ


女騎士「ど、どうですか?」

村人「おう、バッチリ決まってるぜ」

女騎士「なんだか少し照れますね……でも、新しい鎧というのはいつ着てもいいものです。みなさんのお気持ちに、この鎧に応えられるよう、がんばります!」

760: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 12:32:43.190 ID:fjda8Zj90
女騎士「では、そろそろ行きますね」

村人「おう。達者でな。また、落ち着いたら遊びにでもこいや」

女騎士「はい。……いつかきっと、また会いましょう。さようなら!」

馬刺し「ヒヒーン!」

焼き鳥「キィキィ!」バサバサッ



村人「行っちまったか……」

村人「へへっ。なんだか新しく娘でもできたみてえな気分だ」

村人「さて、この錆びた鎧どうしようか」

村人「このまま捨てちまうってのもアレだな。何か考えとくか」

763: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 12:42:04.098 ID:fjda8Zj90
パカラッパカラッヒヒーン

女騎士「あれからしばらく走りましたが、王都まであと三日と言ったところでしょうか」

女騎士「このまま何事もなく勇者さまと合流できれば良いのですが……」

女騎士「あれからの呪術師の動きも気になります」

女騎士「戦士さんと戦った蟲男の話を聞くに、呪術師は魔王復活にまだ手こずっていそうとのことですが」

女騎士「……何だか。少し、胸騒ぎがします」

女騎士「ひとまずは王都へ。急がなくては」

765: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 13:03:45.873 ID:fjda8Zj90
道中、とある村のはずれ

ズバッ

魔物「ギィーーー……!」

ドサッ

村人「女騎士さま、ありがとうございます」

女騎士「いえ、たまたま通りがかったものですから」

村人「少し前から魔王軍の動きが活発になってはきましたが、ここ二、三日は特に魔物が増えてきまして」

女騎士「ここ二、三日ですか?」

村人「えぇ。……何となく、ですが、どうも少し前までの魔物たちと違って、この村を襲う目的というわけでもなさそうで。まるでどこかに向かう通りがかりに、たまたま襲ってきたような印象を受けます」

女騎士「通りがかりに……? あの、魔物が来た方角とか、向かってそうな場所とか。何か印象はありませんか?」

村人「うぅん、言われてみれば。あっちの方からこっちの方……あぁそうだ、王都の側へって感じですかね」

女騎士「!」

女騎士「情報、ありがとうございます」

766: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 13:04:09.947 ID:fjda8Zj90
王都、王城

騎士団長「この前の魔王軍の襲撃はこちらの油断……不意を突かれたようなものだ。まったくいいようにやられてしまった」

騎士団長「魔王が討伐されたことで気の緩みがあったのかもしれんな」

騎士団長「あれから、王都の襲撃の傷も癒えつつある。兵達の気をさらに引き締め直さなければ……む?」


ドタドタ

バン!


騎士「団長! 大変です!」

騎士団長「どうした、落ち着いて報告しろ」

騎士「はっ! 物見からの報告で、南の方から、動く巨大な何かが王都に向かっているとのことです!」

騎士団長「巨大な……!? 私も行く。案内してくれ」

767: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 13:22:45.467 ID:fjda8Zj90
呪術師「……人魂の数はまだ足りぬ」

呪術師「各地でコソコソと動き回るだけでは限界があると見ていい」

呪術師「薄く広げた手駒を、勇者とその仲間に各個撃破されるのも安い被害ではない」

呪術師「忌々しい人間の都、王都」

呪術師「人魂の数も申し分ない上、何よりあそこはこの大陸の中心にあたる」

呪術師「我ら魔族を大陸の端に追いやり、独占しているエネルギー」

呪術師「人魂の狩り場にも良いが、あそこさえ落とせば、魔王様は……」

呪術師「あの場は奴らには無用の長物だ。我ら魔族で有効利用させてもらうぞ……!」

771: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 14:20:10.795 ID:fjda8Zj90
騎士団長「あれは……!」

騎士「人型をした、巨大な石の魔物……まだここからでは影しか見えませんが、宮廷魔導師に遠見をさせたところ、胴体や頭部など、体の一部が城の形に似ているとのこと。中に何者がいるかはまだ掴めていません」

騎士団長「城塞形の、ゴーレムとでも言ったところか」

騎士「奴の速度は大したものではありませんが、着実にこの王都に向けて進行しています」

騎士団長「……猶予はどのくらいある」

騎士「……おそらく、三日後にはこの王都に到着すると思われます」

騎士団長「三日か……。あの図体のおかげで早くに観測できた。不幸中の幸いといったところか」

騎士「団長……」

騎士団長「それだけの猶予があるならば、すぐに首脳陣による会議が開かれることだろう。我々の一存だけではまだ何も決定できん」

騎士団長「だが、覚悟はしておくべきだろう」

773: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 15:00:46.603 ID:fjda8Zj90
ゴーレム襲来まであと三日

騎士団長「住民の様子はどうだ」

騎士「早速荷をまとめて避難を求める者もいますが、まだ現実を受け止めきれない様子の者が大半のようです」

騎士団長「ふむ。……王都を囲うように現れた魔物の群れはどうだ」

騎士「今も討伐隊が動いていますが、魔物の増加量に追いついていないのが現状です」

騎士団長「これでは住民の避難退路の確保もままならんな……」

騎士「あの、首脳陣の会議の様子はいかがですか」

騎士団長「議論は一進一退を繰り返している。まだまだ意見がまとまるのは先だろう」

騎士「……歯痒いですね」

騎士団長「そう言うな。彼らにも落ち着くだけの時間は必要なのだ。我々は今出来ることをやるだけだ」

774: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 15:01:11.083 ID:fjda8Zj90
ゴーレム襲来まであと二日

騎士団長「今王都にいる魔法使い総出で、ゴーレム迎撃用の大規模術式が組まれることになった。魔法陣は南の城門に設置される」

騎士「我々はその護衛ですか」

騎士団長「あぁ。避難退路の確保に当てていた魔物討伐隊もそちらに回すことになった。どうやら首脳陣はこの魔法陣に全てを託すことに決めたらしい。ついに腹を括ったと言うわけだ」

騎士「……本当に大丈夫なのでしょうか」

騎士団長「言うな。不安なのは皆同じなのだ。騎士たるお前がそれを表に出すんじゃあない」

騎士「……はっ」

775: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 15:01:57.442 ID:fjda8Zj90
ゴーレム襲来まであと一日

騎士「日に日に大きくなるゴーレムの影に、住民はパニックを起こしかけています。中には、無理やり防壁をよじ登って逃げ出そうとする者も……壁の外には魔物の群れがいると言っても中々聞いてくれません」

騎士団長「……騎士団や魔導師団の存在では住民を安心させるに足りんということが、歯痒いと同時に不甲斐ないな」

騎士「こんな時、勇者様がいてくれたら……」

騎士団長「…………」

781: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 16:34:21.275 ID:fjda8Zj90
ゴーレム襲来当日

騎士A「わ、わかってはいたことだが……でかいな」

騎士B「こんなの本当に倒せるのか……」

騎士C「魔法陣を組んだ魔導師団を信じる他ないだろう。今この国でできる、間違いなく最大の迎撃だ」

騎士A「これで駄目なら、いよいよこの国もおしまいってことか」

騎士B「俺たちにできることは、発射の準備ができるまでこの魔法陣を守り抜くことだけ、か」

782: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 16:38:31.197 ID:fjda8Zj90
騎士団長「迎撃魔法の発動まであとどれ程だ?」

騎士「およそ、二時間ほどだそうです」

騎士団長「……長いな。ここまで近づいているのだ。敵も陣の存在には気がついていることだろう。何の妨害もないというのは少し楽観がすぎるか……」

騎士「! ゴーレムから……ゴーレムの中から多数の魔物が湧いて出て来ます!」

騎士団長「早速来たか……!」

783: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 16:41:10.425 ID:fjda8Zj90
騎士団長「あの量の魔物だ! 黙って見ていたところで城門が破られるのは時間の問題! よって先に撃って出ることとする!」

騎士団長「だが、城門も一時の時間稼ぎには使えるだろう。いざという時に閉門できるよう準備しておけ!」

騎士団長「開門と同時に王都周囲の魔物も雪崩れ込んでくると思われる! 皆、気を引き締めてかかるように!」

騎士団長「最優先は魔法陣の守護だ! 何としても時を稼ぐ! 皆、配置に付け!」

784: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 16:43:46.243 ID:fjda8Zj90
下級悪魔「ギィィ!」

ズバッ

騎士A「くっ、やはり数が多い! 斬っても斬ってもキリがないぞ!」

下級悪魔「ギィィ!」

ガブッ

騎士B「ぐあああ!」

騎士A「くそっ、お前、大丈夫か!」

ズバッ

騎士団長「A隊退がれ! B隊と交代だ。C隊は負傷者の救護に入れ!」

785: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 16:47:17.087 ID:fjda8Zj90
騎士「ッ!? 団長! ゴーレムの中から更に増援が! しかもあれは……!」


ドラゴン「GAAAAAAAAAAAAAAA!!」

騎士C「うわあああああ!!」

騎士D「こんなの、どうやって戦えばいいんだ!」


騎士団長「飛竜……! 三体程だが、前回の襲撃の時とは比べものにならん大きさだ!」

787: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 16:54:08.966 ID:fjda8Zj90
騎士団長「退け! 退け! 弓兵と魔導隊は奴を撃て!! 城門は閉じろ!!」

ビシビシッ

ドラゴン「GAAAAAAAAAAAAAAA!!」


騎士「ダメです! まるで効いていません!」

騎士団長「くそっ! どうしろと言うのだ!」

788: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 16:56:36.912 ID:fjda8Zj90
ドラゴン「GAAAAAAAAAAAAAAA!!」


騎士団長「!? まずい! ブレスを撃つつもりだ!!」

騎士「閉門、間に合いません!!」

騎士団長「目標は……魔法陣か!? あんなものが直撃すれば魔法陣は……!」

騎士「くそっ……!」

790: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:02:22.531 ID:fjda8Zj90
バサバサッ


騎士「……!!」


騎士「団長! あ、あれは……!」

騎士団長「なっ……あれは……!?」


騎士団長「…………天馬……!?」

791: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:02:52.866 ID:fjda8Zj90
女騎士「やぁーーーーー!!」


ドシュッ!

ドラゴン「GAAAAAAAA!!?」


騎士「ドラゴン! ブレスの動作を中断!」

騎士団長「あの声は、まさか女騎士か!?」

793: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:04:26.996 ID:fjda8Zj90
女騎士「聖槍よ……!!」

女騎士「力を貸してくださいっ!!」


カッ!

ドラゴン「GAAAAA!!?」


ドパァン!!

ドラゴン「……………………」


ズズゥン……!

797: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:17:55.005 ID:fjda8Zj90
女騎士「はぁ…!! はぁ…!!」

女騎士「ドラゴンはあと二体……!」

女騎士「…………スゥ……」


女騎士「騎士団のみなさん! ドラゴンはわたしが引き受けます!」

女騎士「みなさんは負傷者を救助しつつ小型魔物の迎撃! 一時退避と、立て直しを!」


バサッ!

799: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:23:05.178 ID:fjda8Zj90
騎士団長「……………………」

騎士「……だ、団長……?」

騎士団長「……ククッ、先に言われてしまったな」


騎士団長「皆!! 呆けている場合ではないぞ!! あの天馬の騎士の声に従い行動に移せ!! 機運は我らにあるぞ!!」

800: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:35:40.653 ID:fjda8Zj90
女騎士「やぁーーーっ!!」

ドパァン!

ドラゴン2「GAAAAA!!」

ズズゥン……!


騎士A「……天馬の、騎士様……」

騎士B「め、女神だ……きっと女神様の遣いなんだ!」

騎士C「うおおおーーー!!」


ウワァァァーーーー!!

メガミサマノツカイダーーー!!


女騎士「はぁ…!! はぁ…!! はぁ…!! はぁ…!!」

801: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:38:02.413 ID:fjda8Zj90
女騎士「あと……!! 一体……!!」

女騎士「これで…………倒れてっ!!」

ドパァン!!


ドラゴン3「……………………!!」


ズズゥン……!

803: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:41:03.714 ID:fjda8Zj90
女騎士「やっ…………た…………」フラ…


カッ!


女騎士「あっ……」


ヒューーー…

ドサッ

馬刺し「ブルルッ…」

焼き鳥「キィ…」

804: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:46:02.494 ID:fjda8Zj90
女騎士「……………………」

馬刺し「ヒヒーン」

焼き鳥「キィ、キィ」


女騎士「……あ、あはは……参っちゃいました……」

女騎士「まだ……戦場の中なのに……もう一歩も動けません……」


ザッ


???「良いものを見させてもらった」

女騎士「ッ!」

805: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:48:52.905 ID:fjda8Zj90
女騎士「あなたは……」

デュラハン「……久しいな、女騎士。以前の魔王城以来か」

女騎士「……デュラハン……!」

女騎士「……くっ」

809: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:55:28.281 ID:fjda8Zj90
デュラハン「見違えたぞ。以前の貴様も確かに強きものであったが。」

デュラハン「生きた人間の年月というのは本当に……人を変えるものだ」

女騎士「…………」

ググッ…

女騎士「……あっ」

ドサッ

デュラハン「立ち上がれぬ程に疲弊した貴様と戦えぬのは残念だが、貴様の武勇はこのデュラハンがしかと目に焼き付けた」

女騎士「くっ……」

デュラハン「……本当に、刃を交わせぬのは残念だが、ここは戦場。恨むでないぞ」

グワッ

810: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 17:58:53.679 ID:fjda8Zj90
女騎士「ッ!!!!」


ギィィィィン!!



デュラハン「貴様……」

女騎士「…………あはは……やっぱり来てくれましたね」


女騎士「勇者さま……」


勇者「…………」

813: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 18:15:37.446 ID:fjda8Zj90
デュラハン「勇者……やはり……」

勇者「盗賊、そいつを頼む」

盗賊「あいよ。……ほら、掴まりな」

女騎士「と、盗賊さん……どうしてあなたがここに……」

盗賊「それはまあ、成り行きってやつ? とにかくそんな話は後々。こんな所じゃあ落ち着いて話もできねえ」

盗賊「ほら、ご主人サマのピンチだ。前みたいに蹴ったりしないでくれよ……そらっ」

女騎士「あっ」

馬刺し「ブルルッ」

814: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 18:16:19.846 ID:fjda8Zj90
女騎士「勇者さまっ!」

勇者「……女騎士」

女騎士「は、はい……」

勇者「カッコよかったぜ。後は任せろ」

女騎士「……はいっ」


盗賊「ひとまず城門まで撤退するぜ。少々荒っぽいが、舌を噛むなよっ」

馬刺し「ヒヒーン!」

パカラッパカラッ…

851: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 23:22:13.581 ID:fjda8Zj90
勇者「……よし、覚悟しろよ」ジャキッ

デュラハン「ふん……随分と物々しい装いではないか、勇者よ」

勇者「あいにく、燃費が悪いんでな」

デュラハン「その背中に提げている大量の剣……聖剣を失い、まだ戦い慣れておらぬと見える」

勇者「…………」

デュラハン「だがあのデーモンを一撃で討った技の冴え……決して侮りはすまい」チャキ

853: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 23:39:34.088 ID:fjda8Zj90
ギィン! ガキィン!

ドガッ! キィン!


ピキッ…


勇者「……ちっ」

ビュッ

デュラハン「ふん」

キン!


勇者「……やっぱ一筋縄じゃあ行かないか」スラッ

デュラハン「三本目……。どうした勇者、聖剣無しではこんなものか。このままでは先に剣の方が尽きてしまうぞ」

勇者「くそ、あんまり人が気にしてることを言うんじゃねえよ」

デュラハン「かつて騎士として、剣の道を生きた私には貴様の太刀筋がはっきりと見える。そのような鈍らばかりを掻き集めたところで、デーモンの時のような力押しは通用しないと思え」

勇者「そう言うお前はなかなか良い剣をもっているじゃねえか」

デュラハン「生前から愛用の魔剣だ。もっとも、魔剣となったのは私の死後。貴様ら人間の手により、人間だった私が処刑された後の話だがな」

855: VIPがお送りします 2018/03/23(金) 23:52:07.870 ID:fjda8Zj90
勇者「へぇ。そりゃさぞかし名剣なんだろうな」

勇者「…………」

勇者「決めたぜ。お前に勝ったらその剣、貰い受ける」

デュラハン「……ふん。戯言をっ!」

ギィン!

858: ◆n3NUgrtbv6 2018/03/24(土) 00:13:59.351 ID:0eB7R4CH0
パカラッパカラッヒヒーン!

盗賊「そら、もうすぐ城門だ。中じゃあ僧侶の姐さんが負傷者の手当てしながら待ってるはずだ。もうちょっと気張ってくれよ!」

女騎士「…………盗賊さん……」

盗賊「ん? なんだよ、俺ァあんまり乗馬慣れてねえから、下手に喋ると舌噛むぞ」

女騎士「……勇者さま、剣が……」

盗賊「ああ。あの野郎、ハリネズミみたいになってたろ。剣がポキポキ折れるたびにいちいち調達してちゃ割に合わねえってもんで、最初から全部担いでんだ」

女騎士「剣が折れる……?」

盗賊「今までの聖剣の感覚で振り回してると、並みの剣じゃすぐに折れちまうんだとよ」

盗賊「ありゃあ逆に動きづれぇんじゃねえかと思うんだが、変態みたいな身体能力持った超人サンの考えることはわかりませんわ」

女騎士「……………………」

861: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 00:42:00.446 ID:0eB7R4CH0
城門

盗賊「僧侶の姐さん!」

僧侶「あっ、盗賊さん!」

盗賊「忙しい所悪りぃが、こいつを見てやってくれねえか」

僧侶「! 女騎士さん……!」

女騎士「僧侶さん……」

僧侶「見ていましたよ。よく頑張りましたね」

女騎士「…………」

僧侶「その槍……聖槍ですね。約束通り、手がかりどころか本物を持ってきて、その上使いこなしてしまうだなんて。あなたって子は、もう……」ギュッ

女騎士「あぅ……」

863: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 00:43:44.478 ID:0eB7R4CH0
僧侶(ひどい消耗……! きっとまだ槍の力の加減ができていないんだわ……)

僧侶「あの、騎士団長さん。私は女騎士の治癒のために少しこの場を離れます」

騎士団長「ああ。助かりました、僧侶殿。あとは騎士団の救護班に何とかさせましょう。……女騎士を、頼みます」

僧侶「えぇ、任せてください」

騎士団長「女騎士」

女騎士「団長さん……」

騎士団長「すまない。君のおかげで助かった……君と共に戦えたこと、誇りに思う」

867: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 01:12:29.485 ID:0eB7R4CH0
僧侶「それでは、女騎士をあちらのテントまで運びたいと思います。騎士さん、力を貸してくださいっ」

騎士A「はっ。承知しました」

騎士B「おい、急げ! 担架を用意しろ!」

盗賊「……………………」

盗賊「……………………」

盗賊(……ま、俺の役目もこの辺で終わりか)

868: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 01:13:26.197 ID:0eB7R4CH0
盗賊(所詮盗賊上がりのチンピラにしちゃあよくやった方でしょ)

盗賊(女騎士に会って、勇者に会って。あとは成り行きでズルズルこんな所まで来ちまったが)

盗賊(救護もできねえし、戦闘だってあんな化け物どもに比べちゃからっきしの一般市民だ)

盗賊(本物同士のやりとりにゃやっぱり敵いませんわ)

盗賊(……女騎士を助けられただけでも俺にとっちゃ上出来ってとこですかね)

盗賊(あとは勇者やこいつらに任せて、俺ァ……)

盗賊(俺は……)


女騎士「……さん…………盗賊さん……」


盗賊「!」

870: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 01:27:56.249 ID:0eB7R4CH0
盗賊「はいはい、お呼びですかい。ま、用事ならそこらの騎士サマにでも頼んだ方が……」

女騎士「盗賊さんに、お願いがあるんです……」

盗賊「……何だよ」

女騎士「……これを……」

盗賊「!」

盗賊「こいつは……」

女騎士「はい、わたしの剣です。……これを、勇者さまに届けてもらえませんか……」

盗賊「…………」

871: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 01:28:26.998 ID:0eB7R4CH0
女騎士「本当は、この聖槍を持って行っていただきたいのですが……どうやらこの槍は、わたしにしか使えないようなのです……」

盗賊「…………」

女騎士「それでも、この剣はそれなりに名のある名剣……きっと、今の勇者さまのお力になってくれるはずです」

盗賊「……俺で、いいんかよ」

女騎士「盗賊さんだから、お願いできるんです……初めて会ったときのこと、覚えていますか?」

女騎士「ナイスパス、でしたよ」ニコッ

盗賊「……………………」

盗賊「……ちっ、しょうがねえな」

872: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 01:31:16.187 ID:0eB7R4CH0
盗賊「本当は今からでもトンズラこいて布団にくるまってガタガタ震えていたいところなんですがねぇ。そんな男でいいなら、力になってやるよ。早く剣を貸しな」

女騎士「信じていますよ」

盗賊「あんまり過度な期待はかけないでくれよ」

女騎士「馬刺し……盗賊さんをよろしくお願いしますね……」

馬刺し「ヒヒーン!」



盗賊(上等だ……今は使いっぱしりだろうが何だろうが、やれることは何だってやってやろうじゃねえか……!)

879: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 02:20:12.288 ID:0eB7R4CH0
ガキィン!


ピシピシ…

パキィン

勇者「……チィッ!」

デュラハン「七本目……そろそろ底が見えて来たな勇者よ」

勇者「へっ、残り三本もあればお前の首を落とすにゃ十分だ。……おっと、もう首は落ちてるんだったか」

デュラハン「……減らず口をっ!」

ギィン!

880: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 02:21:08.040 ID:0eB7R4CH0
勇者(……認めるのは癪だが、奴の言う通りこのままじゃジリ貧だ)

勇者(何度か奴の身体に剣は届いちゃいるが……)


勇者「そこだっ!」

デュラハン「ッ!」

ズガッ!

デュラハン「…………」グラッ…


デュラハン「甘いわ!!」

ドガッ!

勇者「ぐっ……!」

勇者(この剣じゃ致命傷にならねえ!)

881: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 02:22:24.345 ID:0eB7R4CH0
パカラッパカラッヒヒーン!

魔物「ギィィ!」

盗賊「くそっ、邪魔すんじゃねえ!」

ズバッ

盗賊「奴らは戦場のど真ん中で戦ってるはずだ」

盗賊「逃げる時はマシだったが、向かうとなると魔物の数が多すぎる……! このままじゃ勇者の所に辿り着く前にこっちが参っちまうぜ……!」

魔物「グルル……!」

盗賊「しつけえ!」

882: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 02:23:05.833 ID:0eB7R4CH0
魔物2「ギィィィィィ!!」

盗賊「なっ……後ろから!?」

ドガッ!



武闘家「盗賊、無事か」

盗賊「武闘家のおっさん!」

883: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 02:24:34.492 ID:0eB7R4CH0
武闘家「! その剣、女騎士の剣か」

盗賊「ああ、あのハリネズミに渡してくれとよ!」

武闘家「なるほどな。確かに彼女の剣ならば、勇者の剣技にも耐え得るだろう」


武闘家「……少し下がっていろ。道を開ける」

盗賊「あぁ? 何するつもりだよ」

武闘家「………………………………」


フゥーーーーーーーー…………

885: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 02:25:30.083 ID:0eB7R4CH0
武闘家「……喝っ!!!」

ドウッ!!!

魔物の群れ「ギィィィィィィィ…………!!」

シュウウウウ……


盗賊「……つくづく思うが、勇者だけじゃなくてあんたも大概化け物だよな」

886: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 02:26:11.641 ID:yPXWpxOS0
雄叫びか?
なんにせよ化け物クラス

887: >>886 気功砲的な 2018/03/24(土) 02:27:58.987 ID:0eB7R4CH0
武闘家「奴らはこの先にいる。早く行け」

盗賊「武闘家のおっさんは?」

武闘家「なに。まだしぶとい奴らがいるものでな」


上級悪魔達「……………………」


盗賊「……へっ。任せたぜおっさん!」

馬刺し「ヒヒーン!」


武闘家「……………………」

武闘家「…………俺はまだ、おっさんと呼ばれるような年ではない……」

3: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 08:38:59.304 ID:0eB7R4CH0
盗賊「急げよ、馬!」

馬刺し「ヒヒーン!」

盗賊「勇者の野郎、剣はあと何本残ってる……?」

盗賊「倒してくれてりゃ万々歳だが、最悪の展開だけは勘弁してくれよ……!」

5: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 08:41:34.805 ID:0eB7R4CH0
パキィン!

勇者「…………くっ……」

デュラハン「ついに最後の一本か……。勇者。まだ認める気にはならんか」

勇者「はぁ…はぁ……。誰が、何を認めるって……?」

デュラハン「ククッ……そうだ。貴様はそう言うヤツだ」

デュラハン「その目……前回の戦の折を思い出す」

6: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 08:42:10.116 ID:0eB7R4CH0
デュラハン「俺はこれでも貴様を評価している。追い詰められた貴様は何をしでかすかわからん」

デュラハン「俺は戦では常に確実な勝ちを取れる戦いを選ぶ。常に真っ当な戦いを好む竜人と違うのはその点だ」

デュラハン「だがな、たとえ人の道を捨てようとも、それでもかつては武人であったこの身。好敵と身を削り合う際のこの昂りを、感じない訳ではないのだ」

デュラハン「失望させてくれるなよ、勇者。たとえ最後の剣が折れようとも、決して諦めてくれるな。俺も、貴様の首を取るまで決して手を抜かんことを誓おう」

勇者「…………ッ!」

ギィン!

9: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 08:46:34.327 ID:0eB7R4CH0
盗賊(くそっ、勇者の所に辿り着いたはいいが、剣を渡す隙がねえ!)

盗賊(勇者の剣は……よりによって最後の一本かよ……!)

盗賊(どうにか隙を作らねえと……)

盗賊(何か……何かねえのか……!)

10: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 08:50:14.447 ID:0eB7R4CH0
キィン! ガキィン!

デュラハン「…………どうやら虫が一匹紛れ込んだらしい」

勇者「はぁ……はぁ……。あぁ?」

デュラハン「なに、貴様が気付かんのも無理はない。単に、既に死者の俺にとって、聖の気を発するあれは少し眩しすぎると言うだけのことよ」クルッ

勇者「なっ…! お前、どこに行きやがる!」


ザッ…

ザッ…


デュラハン「その剣……勇者への届け物か?」

盗賊「……ははっ、こっちに来ちゃったよ……」

11: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 08:55:10.884 ID:0eB7R4CH0
勇者「!! ……盗賊!!」

勇者「何で戻って来やがった!」

勇者「そんな所で何をしてる! さっさと逃げろ!」

勇者「デュラハン! お前の相手は俺だろうが! こっちを向けえ!!」


デュラハン「これもまた戦だ。俺は多対一の戦いも認めるし、物資の補給も認めよう。ただ、こちらもそれを防ぐ手段を取らせてもらうだけだ」

デュラハン「同時に貴様にも、この俺に抵抗する権利をやろう」

グワッ


盗賊「…………抵抗の権利をやるだぁ?」


盗賊「そんなもん、いらねえよ」


ズバッ!!

12: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 08:58:08.130 ID:0eB7R4CH0
盗賊「……………………」

盗賊「…………」

ドチャッ…


デュラハン「ほう」


ヒュン…

ザンッ

勇者「……………………な」


デュラハン「抵抗の機会。その一切を捨て、勇者のもとに剣を放ることだけを選んだか」

デュラハン「虫一匹と侮って悪かった。貴様も一人のもののふよ」

デュラハン「さあ勇者。そこの剣を執るがいい。そこの男が命を賭して貴様に……」

ズ…

勇者「…………………………お」

13: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 08:59:18.315 ID:0eB7R4CH0
勇者「おおおおおおおおおお!!!」

デュラハン「ッ!」


ガァン!! ガァン!! ガァン!! ガァン!!

デュラハン「クッ……」


ガァン!! ガァン!! ガァン!! ガァン!!

ビキッ

勇者「ッ!」

ドガッ!

デュラハン「ぐおおっ……」ズサァッ

15: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 09:00:54.729 ID:0eB7R4CH0
勇者「盗賊! しっかりしろ!」

盗賊「……ぅ…………ぁあ……勇者か……………剣……届いたな…………?」

勇者「お前……何やってんだ……! 届いたぞ、ちゃんと!」

盗賊「…………もう………………折るんじゃねえぞ…………それ、借り物なんだ…………」

勇者「見りゃわかる……! そんなの、お前が、返しに行けよ……」

盗賊「はは……こりゃ、手厳しい…………こんな時まで、使いっぱしりかよ……」

盗賊「でも……悪りぃな…………もう、何も見えねえよ…………」

勇者「……………………」




勇者「死ぬな!!!!」

16: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 09:01:34.226 ID:0eB7R4CH0
女騎士「ッ!」

17: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 09:08:14.236 ID:0eB7R4CH0
女騎士「ここは……」

僧侶「女騎士さん……よかった、目が覚めたのね」

女騎士「僧侶さん……」

僧侶「救護用のテントよ。まだ貴女が倒れてからそんなに時間は経ってないわ」

女騎士「そう、ですか……」

僧侶「外傷はそれほどでも無かったから、貴女が動けるのなら動いても平気よ。もっとも、無理はしないでほしいのだけれど」

女騎士「……………………」

女騎士「少し、外の様子を見てきます」

21: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 09:15:49.266 ID:0eB7R4CH0
騎士「迎撃魔法発動準備、間も無く整います!」

騎士団長「撤退の銅鑼を鳴らし兵を退かせ、合図を待て! まだ、勇者殿が幹部級と交戦中だ!」

22: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 09:17:31.659 ID:0eB7R4CH0
女騎士「団長……」フラッ…

騎士団長「! 女騎士か。身体の具合はどうだ」

女騎士「大丈夫です……少し身体の重みが残っていますが、また戦えるほどには、何とか……。いつまでも僧侶さんをひとりじめにするわけにはいきませんからね」

騎士団長「ふむ。……中で作戦は聞いているな」

女騎士「……はい」

騎士団長「いま、準備が整う。退却の銅鑼も鳴らした。あと戻ってきていないのは勇者殿と、盗賊殿だけだ」

24: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 09:20:07.635 ID:0eB7R4CH0
女騎士「……なにか、胸騒ぎがするんです……。何か良くないことが起こったような……」

騎士団長「……………………」

女騎士「すみません……戦場で、騎士が発する言葉ではないですよね……今のは……」

騎士団長「……………………」




騎士団長「勇者殿……まだか……!」

28: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 09:38:41.171 ID:0eB7R4CH0
勇者「……………………」


デュラハン「……良い殺気だ、勇者よ。戦場で友を失うのは初めてか?」


勇者「……………………」


デュラハン「仮にも女神の使者たる勇者の発する殺気とは思えんが、俺にとってはそちらの方が好ましい。さあ剣を構えろ、続きを始めるぞ」


勇者「……………………あぁ」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)

30: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 09:51:07.525 ID:0eB7R4CH0
ガァン! ギィン!

デュラハン「……ッ!!」

デュラハン「流石に、剣を持ち替えただけはある…………ッ……!?」

デュラハン「こいつ、先ほどから動きが……太刀筋が……!」


勇者「……………………」

ビキビキビキビキ……!


デュラハン「!? なんだ、それは……! 剣が……黒く……!?」


勇者「……首無し騎士」


ドガッ!

デュラハン「ぐおおっ……!?」


勇者「その頭、邪魔そうだな」


デュラハン「ッ!!」

ザンッ!

31: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 09:59:11.065 ID:0eB7R4CH0
騎士「……あっ! 人影が! 馬に乗っています!」

女騎士「!」

騎士団長「あれは……」

女騎士「……勇者さま!」

騎士「誰かを抱えているようです! ぐったりしています!」

騎士団長「至急、僧侶殿を呼べ!」

女騎士「そんな……まさか……!」

32: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 10:04:12.735 ID:0eB7R4CH0
女騎士「盗賊さん!! 盗賊さん!!」

馬刺し「ブルルッ…」

焼き鳥「キィ、キィ…」

勇者「……………………」

僧侶「……!!…………ッ!!」



僧侶「…………」フルフル

女騎士「僧侶さん……そんな!!」

34: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 10:06:05.365 ID:0eB7R4CH0
女騎士「わ、わたしのせいだ……わたしが……剣を……! 盗賊さんに……!」

勇者「……………………お前は、悪くない」

勇者「俺が弱かったせいだ。あいつが来てくれなきゃ、俺は勝てなかった」

勇者「俺が弱かったせいだ」

勇者「……それだけだ…………」

女騎士「あ…………あぁ…………」

女騎士「そんな…………盗賊さん…………盗賊さん……!!」


女騎士「死なないで!!!」

37: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 10:14:51.559 ID:0eB7R4CH0
カッ!



女騎士「ッ!!?」

女騎士「聖槍が……光を……!?」

38: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 10:15:21.432 ID:0eB7R4CH0
女騎士「……これは…………見える……!?」


女騎士「…………まさか……魂の…………!」


女騎士「……………………ッ!!!!」


女騎士「まだ……消えかけているけれど、残っている…………これを……繋ぎ、止めれば……!!」


ドスッ!

39: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 10:18:36.770 ID:0eB7R4CH0
勇者「なっ……!? 槍をっ?!」

僧侶「女騎士さん、何を……!?」

女騎士「…………繋いだ」

勇者「…………!?」

女騎士「いま、盗賊さんの魂を、繋ぎ止めました……」

女騎士「……僧侶さん……僧侶さん……盗賊さんを、まだ間に合います! 早く治癒を!」

僧侶「ッ! はい!」

40: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 10:24:09.195 ID:0eB7R4CH0
僧侶「……………………回復、しました」

女騎士「……………………」

勇者「……………………」

41: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 10:24:59.996 ID:0eB7R4CH0
僧侶「意識はまだ戻りませんが、じきに回復するでしょう」

僧侶「一命を……取り留めました…………!!」


女騎士「……よかったぁ……よかったよぉ……うぅ……」

勇者「……………………」

42: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 10:27:19.583 ID:0eB7R4CH0
僧侶(……盗賊さんは、間違いなく手遅れの状態でした……私の治癒では間に合わないほどに)

僧侶(それを、あの子が何かを……いいえ、聖槍の力でしょうか)

僧侶(掌から零れ落ちる水のように、止めることのできない死を。命を繋ぎ止めた)

僧侶(聖槍は、そんな力を……!)


勇者「…………よかった。盗賊……本当に……よかっ……」



勇者「ッ!」

ズキン!

44: VIPがお送りします 2018/03/24(土) 10:45:35.318 ID:0eB7R4CH0
女騎士「勇者さま……?」

勇者「……いや、何でもない。盗賊が無事で良かった。……こいつ、無茶しやがって。あとで説教だな、女騎士」

女騎士「は、はい」

女騎士(あれ……いま、勇者さまが一瞬……)ゴシゴシ

勇者「外の様子を見てくる。まだ、戦いは終わっちゃいないからな」


女騎士「……気のせいでしょうか」

156: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 14:47:52.095 ID:9ZyHGvO90
魔導師「迎撃魔法、ゴーレム進行方向100mに座標登録完了! いつでも行けます!」

騎士団長「よし。騎士隊、退がれ! 弓兵隊と魔導隊は遠距離から城門前の魔物の足止めに専念しろ!」

騎士団長「これよりゴーレムの接近を待ち、迎撃魔法を発動する!」

155: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 14:47:20.227 ID:MKjKDxuA0
おっ帰ってきたの?

157: >>155 ただいま 2018/03/25(日) 14:50:32.887 ID:9ZyHGvO90
騎士「ゴーレム、接近! 目標まであと九〇…………八〇…………!」


勇者「……………………」

女騎士「勇者さま」

勇者「……あぁ。作戦は今聞いた」

女騎士「王都中のすべての魔導師の力を結集した、人類がいま放てる最大の魔法だそうです」

勇者「今は、見届けるしかないか」

女騎士「はい。……これで、すべての決着が……」

160: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 14:52:50.571 ID:9ZyHGvO90
騎士「…………五〇…………四〇…………」

騎士「!!」

騎士「ゴーレムに動きがありました!」

騎士団長「何っ……あれは……!」

騎士「城塞ゴーレムの頭部が変形!! あれは、巨大な砲台のようです!」

騎士団長「魔法陣への魔力の収束を察したか……。敵はこちらの魔法を迎え撃つつもりのようだ」

騎士「尚も接近は続いています! 三〇…………二〇…………!!」

161: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 14:57:15.029 ID:9ZyHGvO90
騎士団長「いいだろう。構うものかっ! 人間を侮るなよ魔物ども……!」

騎士「一〇…………!! …………団長!!」


騎士団長「迎撃魔法、裁きの光! 放てえ!!!」


カッ!!

162: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 14:57:56.929 ID:9ZyHGvO90
勇者「!!」

女騎士「空に……光が……」

勇者「あれが、迎撃魔法……!」

女騎士「光が落ちていきます!」

163: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 15:00:18.205 ID:9ZyHGvO90
カッ!!


騎士「ゴーレムの砲台からも巨大な光が放たれました!!」

騎士団長「負けるものか! 押し潰せ!!」


キィィィィィィィン……


ズガァァァァン!!!

164: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 15:01:13.425 ID:9ZyHGvO90
勇者「くっ、どうなった!?」

女騎士「煙がすごくて、何も見えません……!」

165: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 15:10:49.427 ID:9ZyHGvO90
騎士団長「…………どうだ!?」

騎士「今、煙が晴れて…………!」

騎士「……!…………ッ!!」



騎士「迎撃魔法、命中!! ゴーレム、半壊です!!」

騎士団長「……くっ、消し飛ばすには至らなかったか!」

騎士団長「だが、砲台部は完全に崩壊し、進行も停止している! この機を持って攻め立てる!」

騎士「半壊したゴーレムから大量の魔物が溢れ出てきます!」

騎士団長「総員! 戦闘準備だ!」

166: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 15:16:19.558 ID:9ZyHGvO90
勇者「女騎士、俺たちも行くぞ!」

女騎士「はい!」

女騎士「……あっ、勇者さま。その剣……」

勇者「む? ……あぁ、デュラハンの野郎からぶんどって来た」

女騎士「デュラハンの……」

勇者「頑丈そうだったんでな。これならポッキリ行くこともないだろう」

167: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 15:18:49.631 ID:9ZyHGvO90
勇者「……………………」

勇者「これで剣は手に入ったけど、女騎士。お前の剣、もうちょっと借りておいてもいいか?」

女騎士「え? えぇと、それは構いませんが」

勇者「悪いな。まだこいつの具合を確かめてないから、万が一の時のためにも、な」

勇者「……………………」

170: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 15:35:25.402 ID:9ZyHGvO90
ウオオオオオオオ、、、

ズバッ
ドカッ
ズシャッ

騎士A「くそ、こいつらっ。どんだけゴーレムの中に詰め込んでやがったんだ!」

騎士B「だけど、迎撃魔法が命中したおかげで大分数も減った方なんじゃないか?」

騎士C「それでも、やっぱり数が多すぎる!」


ドカァァァン!!

騎士A「こ、今度は何だっ!?」

騎士B「あれは……!」

171: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 15:37:48.392 ID:9ZyHGvO90
バリバリバリバリ…

ピシャァァァン!

魔物の群れ「ギィィィィィ!!」


魔法使い「さて、久しぶりの実戦よ。鈍ってないといいのだけれど」パリパリッ

戦士「おい、あんま無茶すんじゃねえぞ」

魔法使い「もうっ。心配してくれるのは嬉しいけれど、わたしだってたまには体を動かさないと参っちゃうわ」ピキピキ…

パキィィィン!

魔物の群れ「ギ、ギィィィ……」パキパキ…


戦士「……ったく、相変わらず派手好きな奴だ」

ズバッ!

172: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 15:52:09.436 ID:9ZyHGvO90
ドカッ! バキッ!

僧侶「ふぅ。……あの大きな音と光」

武闘家「どうやら魔法使いが来たようだな。おそらく戦士も一緒だろう」


ズガッ! グシャッ!

僧侶「そうですね。この量の魔物を相手にするなら、頼もしい限りです」

武闘家「そうだな」

173: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 15:53:07.181 ID:9ZyHGvO90
ベキッ! ドガッ!

武闘家「…………僧侶。あまり前に出すぎるな」

僧侶「え? ……あぁ、ごめんなさい、私ったら。戦場でメイスを握るのも久しぶりで、つい……」

武闘家「ふむ。お前のことだから心配はしていないが、な」

僧侶「えぇ、そうですね」


アンデット兵「グオオオ……」

僧侶「私の適任は、どちらかと言うとこちらの方々の相手ですね」

武闘家「そちらは任せたぞ……ハッ!」

ズガッ!

176: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 16:15:14.310 ID:9ZyHGvO90
ドシュッ!

女騎士「あの派手な魔法の連発は……魔法使いさん! 来てくれたんですね!」

馬刺し「ヒヒーン!」

勇者「ああ。戦士も一緒かな」

勇者「俺とお前と、戦士に魔法使い、武闘家、僧侶」


ズバッ! ズドッ!


勇者「……ようやく、揃ったな」

女騎士「離れてはいますけど、こうして戦っているとなんだか懐かしいですね」

勇者「お前たちがいてくれたから、俺はあの時魔王に勝てた」

勇者「お前たちがいてくれるなら、俺はどんな敵にだって負ける気はしない」

ザンッ!

178: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 16:57:47.667 ID:9ZyHGvO90
勇者(思えば、こいつに出会ったのが始まりだったな)

勇者(まだ何も知らなかった俺は、軍の遠征部隊からはぐれて村に迷いついた女騎士と出会った)

勇者(それから魔王軍が俺の村に攻め込んできて)

勇者(一人で村を守ろうとする女騎士の力になるために、俺は女神の祠の試練を受け聖剣を引き抜いた)

勇者(それから俺たちの旅が始まったんだ)

勇者(二度目の今回もまた、こいつがみんなを繋げてくれた)

勇者(女騎士、お前は…………)

180: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 17:01:56.529 ID:9ZyHGvO90
騎士団長「かつての英雄たちが揃い踏み、か」

騎士A「団長っ! 俺……なんだか負ける気がしません!」

騎士団長「……それでも、決して気を抜くな。戦場は最後まで何が起きるかわからん」



騎士B「大変です! 団長!!!」

騎士団長「! どうした」

181: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 17:02:21.692 ID:9ZyHGvO90
騎士B「はぁ……はぁ……お、王宮が……!」



騎士B「王宮が、陥落しました!!」


騎士A「なっ!?」

騎士団長「なんだと!?」

182: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 17:04:57.914 ID:9ZyHGvO90
騎士B「ほぼ全ての部隊が南の城門に回され、手薄になった北の城門から魔王軍が侵入……」

騎士B「警備の部隊が全滅したため、発覚が遅れた模様……!」

騎士B「侵入した魔王軍はそのまま王宮まで駆け上り、城内に……!」

騎士団長「陛下は……陛下はご無事なのか!」

騎士B「陛下の安否は……不明です……!」

騎士団長「……!! 至急、王宮へ向かう! 馬を回せ!! 今この場にいる動ける者は皆、私についてこい!!」

183: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 17:08:34.210 ID:9ZyHGvO90
騎士A「まさか……まさか、あのゴーレムこそが囮だったなんて……!」

騎士A「俺は……俺は……!」

騎士A「勇者様に、知らせなきゃ!!」

196: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 18:43:40.060 ID:9ZyHGvO90
バサッ

キメラの群れ「GAAAAAAAAAAAAAA!」


女騎士「あれは……合成魔獣……!」

馬刺し「ヒヒーン!」

勇者「あんなのが出てくるってことは……あいつか!」

魔物使い「察しのいい奴らだ」

勇者「魔物使い……! 丁度良かった。旅の最中、何度も何度も邪魔してきやがって。いい加減その面を叩き斬ってやりたかった所だ」

魔物使い「ふん。聖剣を失った分際でよく吠えるものだ」

197: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 18:44:36.035 ID:9ZyHGvO90
勇者「女騎士! ヤツは空だ! 俺も乗せろ!」

女騎士「はい!」

女騎士「焼き鳥!」

焼き鳥「キィーーーーーー!」 バサッ


カッ!


馬刺し「ヒヒーン!」バサバサッ

女騎士「行きますよ、勇者さまっ」

勇者「ああ、頼む!」

魔物使い「天馬……これが聖槍の力か……!」

198: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 18:51:32.688 ID:9ZyHGvO90
女騎士「やあっ!」

ザシュッ!

勇者「おおっ!」

ズバッ!

勇者「女騎士っ。他は俺がやる! お前は、前の敵と手綱に集中しろ! 指一本触れさせねえ!」

女騎士「わかりました! 信じています!」

ドシュッ!

キメラ「GAAAA…………!」

199: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 18:54:35.434 ID:9ZyHGvO90
キメラ「GAAAAAAAAAAAAAA!」

ボオッ!

馬刺し「ヒヒーン!」グラッ

女騎士「わわっ!?」

勇者「ッ! 火を吹く奴もいるのか!」

勇者「うおおおっ!!」

ゴオッ!

女騎士「! すごい……剣圧で炎が!」

女騎士「これなら!」

ザシュッ!

キメラ「GAAAAAA……!?」



魔物使い「クッ、奴ら……存外にやる……!」

魔物使い「……………………」

魔物使い「…………やはり…………か」

201: VIPがお送りします 2018/03/25(日) 19:10:25.757 ID:9ZyHGvO90
ズバッ! ザシュッ!

勇者「……おかしい」

女騎士「勇者さま……?」

勇者「魔物使いのくせに、手緩い。これだけの数がいるのに何で一斉に襲って来ない? もっと密度を詰めて、包み込むように制圧しに来てもおかしくないはずだ」

女騎士「! それは……」

勇者「こんな戦い方じゃあ時間が掛かるだけだ」

女騎士「まさか、時間稼ぎ……?」

勇者「何の目的かは知らないが、嫌な予感がする……!」

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