成金「どうだ明るくなったろう」女中「まだ暗いです……」

2019年05月06日
成金「どうだ明るくなったろう」女中「まだ暗いです……」

1: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 21:52:04.710 ID:IkhR9MI+0.net
―料亭―

成金「ハーッハッハッハ! 今日も飲んだ飲んだ! 高級酒ばかりをな!」

成金「ほら、100円札だ! 受け取れ、女ども!」バサッ

キャーキャーッ!

部下「成金様、そろそろお時間です」

成金「うむ、そうだな」

成金「では女中君、靴を用意してもらおうか」

女中「は、はい……」

4: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 21:55:12.235 ID:IkhR9MI+0.net
女中「……」モタモタ

成金「どうしたのかね?」

女中「暗くてお靴が分からないわ」

成金「無理もない。もう夜も更けておるからな」

成金「ならば100円札を燃やして……」ボッ…

成金「どうだ明るくなったろう」メラメラ…

6: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 21:57:26.050 ID:IkhR9MI+0.net
女中「す、すみません……まだ暗くて……」

成金「なんだと!?」

成金「ならばもう一枚!」ボッ…

成金「どうだ明るくなったろう」

女中「まだ暗いです……」

成金「なんと!?」

7: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 21:59:28.777 ID:IkhR9MI+0.net
成金「もう一枚!」ボッ…

女中「……」モタモタ…

成金「まだ暗いのかね?」

女中「す、すみません……」

成金(バカな……100円札を三枚も燃やして明るくないわけが……)

成金(ま、まさか……!?)

9: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:01:30.405 ID:IkhR9MI+0.net
成金「君は……目が見えないのでは!?」

女中「!」ギクッ

女中「は、はい……おっしゃる通りでございます」

成金「やはりそうだったのか……」

女中「黙っていて、ごめんなさい……」

成金「!」ドキッ

成金(この女中、よく見ると……なんと儚げで美しいのだ!)

成金(わしのタイプじゃないか!)

12: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:04:43.211 ID:IkhR9MI+0.net
女中「本当にごめんなさい……」

成金「いや、いいのだよ……気にしないでくれたまえ」





主人「てめえ! 何をチンタラやってやがる!」

15: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:07:27.643 ID:IkhR9MI+0.net
主人「ったく、満足にお客の靴も揃えられねえとは! 使えねえ!」

主人「目が見えねえらしいから、同情して雇ってやったが、何の役にも立たねえじゃねえか!」バシッ

女中「あうっ!」

主人「このっ! このっ!」バシッ バシッ

女中「いたっ! いたいっ!」

成金「コラコラ、その辺にしておきなさい。100円札をあげるから」

主人「まあ……お客さんがそこまでいうなら」

16: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:10:11.915 ID:IkhR9MI+0.net
部下「成金様、馬車が到着いたしました」

成金「うむ」


主人「またお越し下さいませー!」

女中「お越し下さいませ……」

主人「ったく、使えねえ!」バシッ

女中「きゃっ!」



成金「……」

26: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:13:32.310 ID:IkhR9MI+0.net
翌日――

―会社―

部下「成金様、今日のご予定は――」

成金「……」

部下「成金様!」

成金「!」ハッ

成金「あ、すまんすまん……ボケーッとしていた」

部下「まったく……三度の飯より金儲けが好きなあなたが、仕事中にボーッとするなんて珍しい」

27: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:17:18.902 ID:IkhR9MI+0.net
部下「一体どうなさったのです?」

成金「実はな……わしは恋をしてしまったかもしれん」

部下「恋ィ!?」

成金「うむ」

部下「呼吸より金儲けの方が大事だと豪語するあなたが、恋ですか!?」

成金「……うむ」

31: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:20:33.937 ID:IkhR9MI+0.net
部下「相手は……あの女中ですか?」

成金「ああ……あの儚い美しさに一目ぼれしてしまった」

成金「彼女は金でキャーキャーわめく他の女どもとは違う……」

部下「やれやれ金儲けの化身といわれたあなたでも、恋なんてシャレたものをするんですね」

部下「でしたら、今夜もう一度あの料亭に行ってみればどうです?」

成金「うむ……そうだな。そうしよう」

33: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:23:45.257 ID:IkhR9MI+0.net
夜――

―料亭―

主人「これはこれは成金様、よくいらっしゃいました」

成金「実は……昨日の目の見えない女中に会いたいのだが」

主人「ああ、あいつですか……あいつならスラム街に捨てましたよ」

成金「な、なんだと!?」

36: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:27:46.339 ID:IkhR9MI+0.net
主人「あまりに使えないんで、いい加減愛想が尽きましてねえ」

主人「退職金だといって小銭を渡して、スラム街に放り込んでやりましたよ!」

主人「あいつ、使えないけどわりと美人だから、今頃スラムの住民に……ひっひっひ!」

成金「キサマ……許さん!」

成金「100円札ビンタ!」バシッ

主人「あうっ!」

成金「釣りはいらん……とっておけ」

成金「部下よ、すぐスラム街に向かうぞ!」

部下「はっ!」

37: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:31:22.184 ID:IkhR9MI+0.net
―スラム街―

女中(ご主人様にここでなら幸せに暮らせると、追い出されてしまったけど……)

女中(ここはどこだろう……私は目が見えないから分からない……)

チンピラ「よう、ねえちゃん」

女中「なんですか、あなたは?」

チンピラ「俺と遊ばねえか?」

女中「遊ぶ……って何をするんです?」

チンピラ「決まってんだろ! こういうことさ!」ガバッ

女中「キャーッ!」

40: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:35:25.745 ID:IkhR9MI+0.net
チンピラ「お、この女、なかなか美人じゃねえか!」

女中「やめて! 人を呼びますよ!」

チンピラ「呼んだって無駄だ! なにしろここはスラム街だからな! 俺の仲間が増えるだけだ!」

女中「そ、そんな……」

チンピラ「うへへへ……久々の女だぜえ……」ジュルリ…



成金「やめないか!!!」

41: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:38:42.880 ID:IkhR9MI+0.net
チンピラ「なんだ、てめえは!?」

成金「わしは成金だ! その女中さんを返してもらう!」

チンピラ「誰が渡すかぁっ!」

成金「100円札紙吹雪!」バサッ

チンピラ「わっ! 100円札が俺の視界を塞いだ!」



部下「さあ、今のうちにこちらへ」

女中「は、はいっ!」

44: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:41:32.541 ID:IkhR9MI+0.net
―喫茶店―

成金「どうだ逃げられただろう」

女中「昨日に引き続き、助けていただいてありがとうございます」

成金「いやいや……気にしないでくれたまえ」

成金「しかし、君の主人もひどい奴だね。目が見えない君をあんなところに送り込むなんて」

女中「いえ……私が悪いんです。私、あそこに雇ってもらったのに、なんの役にも立たなかったから……」

成金「……」

47: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:44:31.913 ID:IkhR9MI+0.net
成金「君はどうして目が見えないんだい?」

女中「子供の頃、事故で目をケガしてしまって……」

女中「その後、どんどん視力が落ちていき、ついに失明してしまったんです」

女中「それで……家族からも厄介者扱いされて……都に出てきたんですが……」

成金「そういうことだったのか」

成金「……だったら!」

成金「わしが君の目を治してあげよう!」

女中「え!?」

成金「国中の医者をあたれば、きっと君の目を治療できる医者がいるはずだ」

48: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:47:43.149 ID:IkhR9MI+0.net
女中「でも私、お金が……」

成金「なに気にしないでくれたまえ」

成金「わしは金だけはたっぷり持っているからね」

部下「あと下心もですね」

成金「余計なお世話だ!」

女中「……くすっ」

成金「と、とにかく……部下よ、腕のいい眼医者を探してまいれ!」

部下「かしこまりました!」

50: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:50:57.942 ID:IkhR9MI+0.net
数日後――

―豪邸―

部下「成金様、腕のいい医者を何人か見つけました」

成金「よくやった」

成金「ではさっそく、君の眼を診せにいこう」

女中「よろしくお願いします……」

52: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:53:47.120 ID:IkhR9MI+0.net
―病院―

眼医者「ふむふむ……幼少の頃、事故で弱視になり、失明、と……」

女中「……」

成金「……いかがでしょう?」

眼医者「……」スッ

成金(ポケットから何かを取り出そうとしてる!? まさかいきなり手術か!?)

53: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:55:18.535 ID:IkhR9MI+0.net
眼医者「……」サッ

成金「それは……匙!?」

眼医者「……」ポイッ

成金「こいつ匙投げやがった!」

56: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 22:59:12.955 ID:IkhR9MI+0.net
その後も――


医者A「これは……私では治せませんな。申し訳ありません」

成金「うむむ……」


医者B「視力低下を食い止めるならまだしも、失明を治すとなると……厳しいねえ」

部下「ダメですか……」


医者C「よろしければ、ティンベーとローチンの道場を紹介しますが」

女中「遠慮させていただきます」

59: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:03:18.515 ID:IkhR9MI+0.net
―会社―

成金「くそっ……世の中ヤブ医者ばかりか!」

成金「あの娘の目に明るさを取り戻させられる医者はいないのか……!」

部下「……成金様」

成金「なんだね?」

部下「一人……可能性のある医者を見つけました」

成金「本当か!?」

部下「ただし、その医者はいわゆる闇医者でして、非常に高額な治療費を要求すると聞きます」

成金「この際なんだっていい! 診てもらおうではないか!」

63: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:06:34.659 ID:IkhR9MI+0.net
―診療所―

闇医者「……」

成金「いかがでしたか?」

闇医者「私なら治せますよ、100%ね」

成金「おおっ、本当ですか!」

闇医者「ただし……治療費は一千万円いただきましょうか」

成金「一千万!?」

成金(今の時代の貨幣価値だととんでもない高額だ!)

闇医者「どうします?」

成金「……」

69: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:10:53.437 ID:IkhR9MI+0.net
部下「成金様、一千万円といえばあなたの全財産とほぼ同額……」

部下「たかが女性一人を救うのには大きすぎる額です」

部下「やめておいた方がよろしいかと……」

成金「……バカモノ!」

成金「成金の使命とはなんだ? 金を稼ぐことか? 裕福さを見せびらかすことか? ――違う!」

成金「人々に明るさをもたらすことだ!」

成金「惚れた女に明るさをもたらせずして、なにが成金か!」

部下「やれやれ……なんと愚かな。しかし、今のあなたは今までで一番輝いてますよ」

成金「苦労をかけるな、部下よ」

成金「払おうじゃないか、一千万円!」ドサッ

闇医者「ではさっそく手術を始めましょう。女中を連れて来て下さい」

74: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:13:34.045 ID:IkhR9MI+0.net
手術中……



部下「よかったですね、これでやっとあの娘に視力が戻ります」

成金「ああ、あの娘のためなら全財産投げ打っても惜しくはない」

部下「つまり、ようやく成金様のお姿を見ることができるわけです」

成金「うむ……」

成金「!」ハッ

79: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:16:40.531 ID:IkhR9MI+0.net
成金(そ、そうだ……)

成金(あの子の目を治してしまうと、わしの正体がバレてしまう!)

成金(きっとあの女中の中では、わしはイケメンダンディ足長おじさんかなんかになってるだろうが)

成金(実際のわしは一文無しの肥満中年親父……)

成金(確実に幻滅されてしまう!)

成金「い、いやだ……幻滅されたくない!」

部下「成金様!?」

成金「いやだぁぁぁぁぁっ!!!」タタタタタッ

81: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:19:31.491 ID:IkhR9MI+0.net
―スラム街―

成金「今日からここに暮らすことにしました。よろしくお願いします」

チンピラ「久々の新入りだな」

チンピラ「いいか、この街では腕力と狡さがルールだ!」

チンピラ「金を稼ぐ方法は、スリ、空き巣、カツアゲ、かっぱらい、強盗、殺しももちろんアリ!」

チンピラ「三ヶ月間は試用期間だから、俺が面倒見てやるが、その後は自力で頑張れよ」

成金「はい」

82: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:21:15.742 ID:IkhR9MI+0.net
チンピラ「ところでおめえ、どこかで俺と会ってねえか?」

成金「気のせいでしょう」

チンピラ「ふうん、まあいいや。じゃあなんでスラム街にやってきたんだ?」

成金「実は……」

85: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:25:36.475 ID:IkhR9MI+0.net
成金「……というわけなのです」

チンピラ「……」

チンピラ「バカヤロウ!!!」

バキッ!

成金「ぶげっ!?」

86: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:28:42.306 ID:IkhR9MI+0.net
チンピラ「自分の姿を見られて幻滅されるのが怖いから、女から逃げただぁ!?」

チンピラ「てめえはなんにも分かっちゃいねえ!」

チンピラ「目が見えるようになった女が一番見てえのは、自分を助けた男のツラに決まってんだろ!」

チンピラ「それを見せずに逃げてくるなんて、ヤリ捨てと変わらねえ!」

成金「し、しかし……わしは足長くないし……金もないし……」

チンピラ「愛の前には容姿も財力も関係ねえんだよ!」

チンピラ「それに“自分を幻滅するかも”って考えること自体、相手の女への侮辱じゃねえか!」

チンピラ「そうだろう?」

成金「ううっ……」

90: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:32:02.402 ID:IkhR9MI+0.net
チンピラ「……行けよ」

成金「!」

チンピラ「おめえにスラム街で生きる資格はねえ! とっとと行っちまいな!」

成金「……ありがとう」





チンピラ「へっ、幸せになれよ……おっさん」

94: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:35:43.075 ID:IkhR9MI+0.net
成金「ハァ……ハァ……」タッタッタ…

成金(もうそろそろ病院だが……やっぱり行くの怖い……)

成金「!」ビクッ


女中「……」


成金(もう外に出ていたのか……声を出したらわしとバレるから、素通りしちゃおう)スタスタ


女中「――あなたなんでしょう?」


成金「!?」ギョッ

96: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:38:30.458 ID:IkhR9MI+0.net
女中「私を三度にわたって助けてくれたのは……」

成金「……な、なんで? なんで分かった? 部下からわしのことを聞いたのか?」

女中「いいえ……」

女中「その黒い背広、白いヒゲ、薄い頭髪、脂ぎった顔、細い目、だらしない肥満体……全てが私の想像通り……」

女中「あなたは……私の理想の男性そのものなのです!」

成金「なんとマニアックな……いや、そうだとしても、わしはもう一文無し……」

女中「かまいません! あなたと二人でなら、どんな茨の道も怖くありません!」

女中「愛してます!」ギュッ

成金「おおっ!」ギュッ

97: VIPがお送りします 2017/01/30(月) 23:41:29.686 ID:IkhR9MI+0.net
成金「ならば、手術を終えた君に、わしからも言わせてもらおう!」

成金「どうだ明るくなったろう」

女中「はいっ!」


部下「成金様、おめでとうございます……」

闇医者「……これをあの二人に渡してやって下さい」ドサッ

部下「こ、これは……!? 成金様があなたに払った――」

闇医者「ご祝儀です」ニコッ

闇医者「あんな明るい二人から、闇医者が金をもらうわけにはいきませんからね」







―おわり―

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