盲目男「俺は盲目の仕事人」

2019年07月18日
盲目男「俺は盲目の仕事人」

1: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 19:51:03 ID:aJW30QpA
― 場末の酒場 ―

青年「なんだとぉっ!」ガシッ

格闘家「おっ、つかみかかってきやがったな!」

格闘家「これで正当防衛成立だ……!」ニヤ…

バキッ! ドカッ! ガスッ!

青年「ぐはっ……!」ドサッ…

格闘家「まだ終わりじゃねえぞ! オラ、立てや!」

ドゴッ!

2: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 19:54:29 ID:aJW30QpA
……

……

……



― 事務所 ―

女「コーヒーです」コトッ

依頼人「あっ、どうもありがとうございます」

盲目男「……なるほど、それで息子さんは病院送りに」

依頼人「はい……」

3: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 19:57:59 ID:aJW30QpA
依頼人「あの格闘家は人の殺気とでも申しましょうか、そういうのを読むのに長けており」

依頼人「息子はまんまと挑発に乗せられてしまったようなのです」

盲目男「で、格闘家はどうなったんだ?」

盲目男「素人に手を出したんだ。ただじゃ済まないはずだが……」

依頼人「相手はスター選手です……息子が先につかみかかっていったという事実もあり」

依頼人「結局、事件はもみ消され、彼の罪はうやむやにされてしまいました……」

4: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:01:26 ID:aJW30QpA
依頼人「息子にも非はあったとはいえ、このままではやりきれません!」

依頼人「裏社会では“盲目の仕事人”といわれるあなたの手で、奴に罰を与えて下さい!」

依頼人「どうか……お願いします!」

盲目男「オーケー、分かった」

盲目男「あの格闘家は表向きはスター選手で通ってるが、実はかなりのワルでな」

盲目男「素人を挑発して先に手を出させてからボコボコにする……なんてのを」

盲目男「ちょくちょくやってるってのはウワサでは聞いてた」

盲目男「そういう奴には一度、キツイ灸をすえてやった方がいいだろう」

依頼人「……ありがとうございます!」

5: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:04:16 ID:aJW30QpA
依頼人「ところで……」

盲目男「ん?」

依頼人「いったい、どのような方法で……?」

盲目男「決まってるだろ。俺が格闘家と直接対決する」

依頼人「ええっ!? 無茶ですよ!」

依頼人「相手はプロの格闘家ですよ!? なによりあなたは目が――」

盲目男「心配しなさんな」

盲目男「目が見えない分、相手の気配を読むことについては俺も得意分野だ」

盲目男「必ずあの格闘家に息子さんと同じぐらい、いやもっとひどい目にあわせてみせる」

依頼人(本当にそんなことができるのか……!?)

依頼人(だけど、この人のこの頼もしさ……たしかにできそうな雰囲気ではある)

6: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:08:09 ID:aJW30QpA
盲目男「それじゃさっそく出かけるとするか。それなりに準備もいるしな」スクッ

女「杖は?」

盲目男「いらんいらん」スタスタ…



依頼人「おおっ、さすが“盲目の仕事人”ですな」

依頼人「杖もつかずに歩き回れるなんて。まるで目が見えているようですよ」

女「…………」

7: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:12:34 ID:aJW30QpA
盲目男「あいつに電話しとくか……」ピッピッ

盲目男「もしもし……ああ、俺だ」

盲目男「ちょいと頼みがあるんだが……」



……

……

……

8: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:17:01 ID:aJW30QpA
― 繁華街 ―

格闘家(あの時はスカッとしたぜ! ありゃしばらく入院だろうな、へっへっへ)

格闘家(だけど、もう少しで警察沙汰になっちまうところだった)

格闘家(しばらくはケンカを控えねえとな……)

格闘家(なにせ、今のオレは大勢のファンを抱えるヒーローだからな)



ドンッ!

9: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:22:31 ID:aJW30QpA
格闘家「てめえ、なにフラフラ歩いてやが……!」

盲目男「…………」

格闘家「!」ギョッ

格闘家(なんだこいつ! 真っ白な目ぇしてやがる! 盲目なのか!)

格闘家「チッ……目が見えてねえのかよ。気をつけやがれ!」



盲目男「――待てよ」

10: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:25:30 ID:aJW30QpA
格闘家「あ?」

盲目男「人にぶつかっといて、謝りもしないのか?」

格闘家「なにいってやがる。てめえからぶつかってきたんだろうが!」

盲目男「謝るつもりはないか……だったら勝負しないか、俺と」

格闘家「はぁ?」

11: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:29:33 ID:aJW30QpA
格闘家「勝負だと? 笑わせんなボケ!」

格闘家「いっとくがオレはプロの格闘家だぜ?」

格闘家「ましてや目が見えてないてめえなんかと勝負になるわけねえだろ!」

格闘家「じゃあな――」クルッ

盲目男「俺が怖いのか?」

格闘家「!」ピクッ

盲目男「そりゃそうだ。俺みたいな目が見えない奴に勝負で負けたとあっちゃ……」

盲目男「大恥だもんな……下手するとプロとしてやってけなくなるかも……」

12: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:33:41 ID:aJW30QpA
格闘家「てめえ……!」

盲目男「…………」ギロッ

格闘家「!」ビクッ

格闘家(なんだこいつの殺気は!?)

格闘家(数々の修羅場をくぐってるって感じの殺気だ……!)

格闘家(もしかして、こいつ“目が見えない達人”ってやつなのか!?)

格闘家(そんなもん、テレビだとかマンガにしかいないと思ってたのに……!)

格闘家(やらなきゃ……やられる!)グッ…

格闘家「うっ、うおおおおおおおおおおおっ!!!」ダッ

13: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:36:13 ID:aJW30QpA
バキィッ!

盲目男「ぐべぇっ!」

格闘家(よし入った! 立て続けに打撃をブチ込んでやる!)

ガッ! ドガッ! バキッ!

盲目男「ぐはぁぁぁ……っ!」ドザァッ…

格闘家「……あれ?」

14: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:39:53 ID:aJW30QpA
盲目男「ぐえっ、あがっ……い、いだい……」

格闘家「あの……もしかして、お前って弱いの?」

盲目男「当たり前だろ! 目が見えないのにケンカなんかできるわけないだろぉ!」

格闘家「だって、勝負しようって……」

盲目男「そんなの、もっと平和的な勝負に決まってるだろぉ……!」ゲホッ…

格闘家「えええ……!?」

盲目男「ううっ……誰か、た、助けてぇ……!」

盲目男「この人、目が見えない俺に乱暴してくるよぉぉぉ……!」



パシャッ! パシャシャッ!



格闘家「!」

15: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:44:34 ID:aJW30QpA
カメラマン「スター格闘家、夜の繁華街で盲人を一方的に暴行!」パシャッパシャッ

カメラマン「こりゃあいい絵が撮れたぞ!」パシャシャッ

カメラマン「大スクープだぁぁぁっ!!!」パシャシャシャッ



ザワザワ…… ガヤガヤ……



警官「なんだね、この騒ぎは?」

盲目男「おまわりさん……助けてください……。この人、何もしてない俺に暴力を……」





格闘家「あ……あああ、ああ……」

16: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:47:29 ID:aJW30QpA
……

……

……



― 事務所 ―

依頼人「ありがとうございました!」

依頼人「暴行事件が大々的に報道され、ファンからはそっぽを向かれ……」

依頼人「あの格闘家はこれでもう再起はできないでしょう!」

依頼人「息子も回復してきましたし、だいぶ胸が晴れましたよ!」

盲目男「事前に連絡しといた知り合いのカメラマンが、うまくやってくれたおかげさ」

17: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:50:35 ID:aJW30QpA
依頼人「しかし、あの格闘家を陥れるためとはいえ」

依頼人「わざと相手に殴られるなんて……お体は大丈夫なんですか?」

盲目男「打撃には“ダメージを受けずに済む受け方”ってのがあってね」

盲目男「それを使ってたから、ほとんどダメージはないよ。ま、多少は痛かったけど」

依頼人「さすがですなぁ……」

依頼人「杖に頼らないところといい、まるで目が見えてるとしか思えませんよ」

盲目男「……もし、そうだとしたら?」ニヤッ

依頼人「え?」

18: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:54:21 ID:aJW30QpA
依頼人「ま、まさか……!」

盲目男「察しのとおり、俺は盲目じゃないんだよ」

盲目男「この目も特殊なカラーコンタクトを入れてるだけだしな」

依頼人「そうだったんですか……!」

依頼人「しかし……どうして盲目のフリを?」

盲目男「そんなもん決まってるだろう。この方が色々と便利だからな」

盲目男「どこぞの作曲家と同じ理由だよ」

盲目男「現に今回だって、俺が盲目って設定じゃなきゃ」

盲目男「格闘家の社会的ダメージはもっと小さいものになってただろうしな」

依頼人「なるほど……」

盲目男「あ、これナイショにしといて。あくまで俺は“盲目の仕事人”でいたいからさ」

19: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 20:57:44 ID:aJW30QpA
依頼人「それでは、ありがとうございました」

盲目男「こっちこそ。成功報酬はたしかに頂戴したよ」



依頼人(よく考えてみれば、そりゃそうだ)

依頼人(盲目なのに、杖もなしに歩けるわけがないもんなぁ)

依頼人(ガッカリしたけど……ホッとしたって気持ちの方が大きいかな)



……

……

……

20: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 21:02:12 ID:aJW30QpA
女「お疲れさま。それにしても、今回はずいぶん回りくどい方法を取ったわね」

女「アンタなら、まともに戦ってもあの格闘家に勝てたんじゃないの?」

盲目男「う~ん……どうだろ。もしかしたら勝てたかもな」

盲目男「だけどそれだと、格闘家はむしろ同情される存在になっちゃうかもしれないし」

盲目男「こういう結末の方が、あの依頼人もスッとすると思ってな」

女「ところでさ」

盲目男「ん?」

女「なんでさっきの人に、本当は目が見えてるだなんてウソついたの?」

21: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 21:05:41 ID:aJW30QpA
盲目男「ん、ああ……だってそうした方があの依頼人の罪悪感が薄れるだろ?」

女「罪悪感?」

盲目男「“目が見えない奴に危険なことをさせてしまった”って罪悪感さ」

盲目男「あの人、少なからず俺に負い目を感じてるようだったからな」

女「ふうん」

女「じゃあ、杖がある方が楽なのに“いらんいらん”っていったのも、そのため?」

盲目男「……それはその方がかっこいいと思ったからだ」

22: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 21:10:57 ID:aJW30QpA
女「くっだらない! そんな見栄張ってどうすんのよ?」

盲目男「なにせ俺は見えないからな……見栄ぐらい張りたくなっちまうもんなのさ」

女「全然上手いこといえてないっての」

女「あたしもなんでアンタみたいなのに惚れちゃって、一緒になっちゃったんだろ」

女「“恋は盲目”ってやつなのかしらねえ……」

盲目男「お、上手いな」

女「うるさい」







― おわり ―

23: 深夜にお送りします 2016/02/28(日) 21:12:20 ID:aJW30QpA
以上で完結となります

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