author_0102のSS・WEB小説まとめ一覧

「喧々囂々、全てを呑み込むこの街で」

2019年06月12日
「喧々囂々、全てを呑み込むこの街で」

1: ◆XkFHc6ejAk 2016/08/11(木) 22:16:53.71 ID:Pkizwuk+0

2: ◆XkFHc6ejAk 2016/08/11(木) 22:22:37.57 ID:Pkizwuk+0
「……オラアァアアァアァ!!」

豪快な音を立てて、小さな赤い壺が砕け散りました。

中から出てきたのは、例の男です。相変わらず不機嫌そうな顔で、ぺっと唾を吐きました。

男は盗まれた酒を取り立てに老人を追い掛けていたのですが、老人の魔道具によって逆に封印されていたのです。

「クッソが……あのジジイ……見つけたらぶん殴ってやる……」

男は辺りを見渡し、老人を追う前の最後の記憶を辿ります。

(確か、ヒュドラの雑魚は取り逃がしちまったっけな……まぁウィルオウィスプの呪いを掛けてやったから、まともに戦えねえだろうが)

「……?」

そう考え事をしているうちに、男は異変に気付きました。

(……静かすぎる。血の満月はこの前終わったよな? 今はまだ三日月の月だったはずだが……)

男は眉間にしわを寄せながら、大通りに出ます。

次の瞬間、男の目には凄まじい光景が映し出されました。

「なっ……!?」

圧倒的破壊の跡。パイプで削り取られたような跡が縦横無尽に広がり、何かが一直線に進んだ跡が残っています。

早い話、大通りは壊滅状態になっていました。

「……どいつの仕業だ?」

男は笑っていませんでした。破壊痕から、なにか異質な気を感じるのです。

「ジジイを探すか」

夜の街「イサクラ」に、不穏な空気が漂っていました。

「黒山羊怪奇譚」

2019年03月20日
「黒山羊怪奇譚」

1: ◆XkFHc6ejAk 2018/07/31(火) 20:38:44.68 ID:ssvcM0xZ0
少年「うーん……」

少年(僕は今、古い図書館で本を探している)

少年(生き物図鑑って何処にあるんだ?)

少年(聞こうにも誰も居ないし……入り口まで戻って聞こうかな)

「探し物は、これかな」

少年「!」

少年(……何だこの人)

少年(夏なのに真っ黒なローブを纏っている)

少年(身長は高く、脚がモデルのように長い)

少年(顔は目以外を包帯で覆ってしまっている)

少年(爛々と輝く満月のような両目に長い黒髪が合わさって、夜を連想させられる)

少年(瞳がおかしい……まるで、蛸や、山羊みたいな……)

少年(こいつ……人間じゃない!?)

「そう怯える必要は無い。少し話したいだけなんだ」

少年「……別に、怯えてなんか無いけど」

「くくく、威勢は良いな。気に入った」

「少し場所を変えよう」ゴポ

少年(そう言って、ヤツはすっと左手を伸ばした)

少年(これは……空間に黒い水? が発生して広がっていく)

少年(渦巻きながら丸い円の形になった……奥は何処かに続いているように見える)

「さあ、行くぞ」グイ

少年「ちょ、ちょっと待っ――」


青年「蛍月夜の猩々参り」

2019年03月19日
青年「蛍月夜の猩々参り」

1: ◆XkFHc6ejAk 2018/07/22(日) 21:05:07.20 ID:uP4TAhH40
ゴトン ゴトン

青年(僕はバスに揺られている。乗客は僕以外誰も居ない)

青年(二十歳になったら、家に来なさい――そう祖父に言われ、僕は遠くの祖父の家に向かっている)

青年(祖父の田舎は初めてだ。小さな頃一度だけ行った事があるらしいが、もう覚えてない)

青年(しかし、大切な話がある……とは、何の事だろうか。やけに真剣な声色だったな)

青年(まあ、考えても仕方ないか)



少年「薄氷の僕ら、無人駅」

2019年03月18日
少年「薄氷の僕ら、無人駅」

1: ◆XkFHc6ejAk 2018/02/01(木) 20:04:24.28 ID:3pcH/mqD0
少年(僕の住む村は、人里から離れた、集落のように小さな村だ)

少年(気候は常に寒い。夏冬関係なく、ほぼ一年中雪が降っている)

少年(人口はそんなに多くない。むしろ村の面積に対して少ないくらいだ)

少年(そして)

少年(この村には掟がある)

少年(それは、村の外に出てはいけないと言う事)


青年「風鈴屋敷の盲目金魚」

2019年03月17日
青年「風鈴屋敷の盲目金魚」

1: ◆XkFHc6ejAk 2017/07/05(水) 21:58:41.08 ID:ZRvV3OZF0
青年(しとしとと小雨が降っている。僕は傘を差さずに歩いている)

青年(これくらいの雨は好きだ。柔らかい雨粒の感覚が心地良い)

青年(こんな日の散歩は風情があって良い。僕は上機嫌で鼻歌を歌う)

青年(雨の日の景色は、いつもとは全然違う。だから好きなんだ)

青年「……そろそろ戻ろうかな」

青年(進んでいくうちに町を抜けていた。僕は裏山で、通常のコースを外れて歩いている)

青年(知らない場所を探索するのは楽しいけれど……)

青年(さすがにこれ以上は帰りが疲れるな。もう戻ろう)クル

……チリーン

青年「?」

青年(雨の音に紛れて、今変な音が……風鈴?)

青年(……?)

青年「気のせいか」

……チリーン

青年「!」

青年(いや、気のせいじゃない! こっちだ!)ザッ

青年「……!」

青年(壁と思ったら、四角い抜け穴が蔦に隠れている!)

青年(おお、こんな隠し通路があるのか! 散歩も悪くないな。探検している気分だ)ザッ

青年(奥が見えてきた……あれは)

青年「おお……」


少年「色とりどりの傘の町」

2019年03月16日
少年「色とりどりの傘の町」

1: ◆XkFHc6ejAk 2017/04/10(月) 09:23:09.84 ID:43HseE500
ザアアァアアァアアァァ……

少年「大丈夫? 疲れない?」

少女「ううん。全然辛くないよ」

少年(この小さな町では、一日に何度も信じられない勢いの雨が降る)

少年(空に突如大きな「波紋」が広がると、雲も無いのに雨が降り出す)

少年(道を歩く人達は、当然のように傘を「作り出す」事が出来るんだ)

少年(彼らの傘は鮮やかな色をしていて、雨を防ぐ以外にも、何かの能力がある)

少年(例えば少女の傘は、「花を降らす」事が出来る)

少年(そんな傘の町の中で、唯一僕だけが傘を作れない)

少年(いつも少女の傘に入れてもらう事で雨をしのいでいる)

少年(他者が握ると消えてしまうから、それを支える事すら出来ない)バチャ

少年(ふと下を向くと、水たまりに映った自分の暗い顔と目が合う)

少年(ああ、情けないなぁ)


男「路地裏、三日月の負け犬」

2019年03月15日
男「路地裏、三日月の負け犬」

1: ◆XkFHc6ejAk 2017/02/16(木) 21:34:07.12 ID:iaEzW9dR0
男「慚愧の雨と山椒魚」 の続編です。

2: ◆XkFHc6ejAk 2017/02/16(木) 21:44:39.18 ID:iaEzW9dR0
ザアアァアアァアアァァ――

男(雨がざあざあ降っている。生憎傘は持っていない)

男(走って帰ろうと思ったが、どうせずぶ濡れになるんだ)

男(不毛な事は何よりも嫌いだ。俺は開き直ってゆっくりとした足取りで進む)

男(どうせ心配する人間なんて誰も居やしないさ。そうやって自分をあざ笑う)

男(心も身体も氷になったようだ。震えているのは寝不足のせいだと信じたい)

男「……」

男(俺は簡単に言うと天才だ)

男(その才能は大切な親友を殺し、俺の生きる活力すら奪った)

男(死ぬ勇気は無いくせに、与えられたものには不満ばかり)

男(そんな自分が心底不愉快で、許せないまま今日も生きる)

男(……街の看板の光は苦手だ。俺は追われる脱走者のようにそれを避けていく)

男(いや、脱走者と例えるにはいささか相応しくないか。なにせ彼らには生きる目的があるものな)

男(夜の路地裏は好きだ。暗くて良い。クソみたいな自分が闇に紛れる気がする)

男(紛れた所で、俺の罪が消える訳もないが)

男(……おや)

男「……あれは……人? 何故……」

男(妙だな……何故こんな路地裏で、傘も差さずに一人突っ立っている?)

男(女か……やけに肌が白い。白粉でも塗っているかのようだ)

男(まるで幽霊――)

男「なっ……消えた!?」

男(馬鹿な! 目を離していなかったと言うのに……)

男「……!?」

男(俺は暫くの間、何も言えず雨に打たれ続けていた)

男「リビングデッド・ジェントルマン」

2019年03月13日
男「リビングデッド・ジェントルマン」

1: ◆XkFHc6ejAk 2016/06/30(木) 22:22:02.42 ID:GmQOJf570
管理人「はい、これがスペアの鍵ね」チャリン

青年「ありがとうございます」

青年(ひっそりとした、町から隔離されたと言っていいこの場所。此処が例のアパートか)

青年(噂では、幽霊が出るらしいけど……格安だし仕方ないな)

青年(僕の部屋は、201号室……)

青年「ふうん、思ってたより嫌な感じはしないなぁ、明るいからかな」

青年(……うん。荷物も大丈夫だし、その辺を歩いてみよう)



青年(なるほどね、ざっくりと道を覚えたぞ)

青年(……ん? アパートの裏のこの小道……続いてる? 行ってみよう)


男「浮き彫り」

2019年03月12日
男「浮き彫り」

1: ◆XkFHc6ejAk 2016/06/09(木) 16:11:04.58 ID:LfybRj+M0
女「やあ」

男「……また来たのか」シュッシュッ

女「まあね。しばらく雨宿りさせてもらうよ」

男「勝手にどうぞ。じめじめしてるな」

女「ああ」

ザアアアァアアアァ……

女「よく毎日、物ばかり作れるね。疲れないのかい?」

男「ああ、疲れるさ。楽に生きたいよ」

女「その割には、随分丁寧な仕事をするね」

男「手は抜くなと教えられたからな。親父の口癖だった」

女「ふーん。仕事を継いでから、何年目かな?」

男「……さあな。覚えちゃいねえさ」

女「でも、私は好きだよ、君の作る物」

男「そうかい、そりゃ良かった」

女「少し休憩しないかい?」

男「……ああ」


少年「魚が揺れるは灰の町」

2019年03月11日
少年「魚が揺れるは灰の町」

1: ◆XkFHc6ejAk 2016/05/21(土) 22:10:15.90 ID:MICLRs0L0
雨が降っている。

鈍色の魚が、とぷりと波紋を立てて、コンクリートの町の中を、縦横無尽に泳いでいる。

彼らは何処から来て、何処へ行くのか。

町の人達は誰も知らない。そもそも、彼らに触る事が出来ないので、確かめようが無い。

あれは一体何なのか。

誰もそんな事は考えない。泳いでいく魚達には目もくれず、大人達は足早に歩いていく。

此処は冷たい無関心の町。



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